よりピュアに鳴らされた“Daijiro Nakagawa”の音色──初のギター・ソロ・アルバム『in my opinion』
プログレッシヴ・ロックからマスロック、さらにはポップスなど、様々なジャンルを落とし込み、その完成され尽くした独自の音楽で音楽シーンを驚かすJYOCHO。その中心人物、中川だいじろーが“Daijiro Nakagawa”として、初のギター・ソロ・アルバム『in my opinion』をリリース。超絶テクニックを誇るギタリストとして名を馳せてきた彼のギター。温かく、そして素朴な音色が鳴るこのアルバムを完成させた中川にインタヴューを敢行。今作のこだわりはもちろん、彼とギターの出会いまでじっくりと語ってもらった。
初のギター・ソロ・アルバムが完成!!
INTERVIEW : Daijiro Nakagawa
宇宙コンビニやJYOCHOを通して生み出された作品を聴くと、非常に職人的で真面目なアーティストと思いがちだけど、話してみるとユーモアがあって予想外なことも大好きな男、Daijiro Nakagawa。そんな彼にとってはじめてのソロ・アルバム『in my opinion』は、だいじろーらしさがむき出しになったアコースティック・ソロ・アルバムとなっている。ピエール・ベンスーザンに大きな影響を受けたと語るように、ギター・テクニックだけでなく、人間の味も滲み出ている本作を通して、だいじろーとギターの関係について、はじめてじっくりと訊いてみた。
インタヴュー&文 : 西澤裕郎
写真 : 作永裕範
シンプルにアコギのソロ・ギターが昔から好きだから
──だいじろーさんは、普段からTwitterなどのSNSで超絶テクのギター動画を上げているので、正直アコースティック・ソロ・アルバムをリリースすることに対して驚きはないんですけど、なぜいまのタイミングだったのかは、すごく気になっていて。
時期的にいまじゃないとダメだったということはなくて。本当はもっと前にリリースをするつもりだったんです。それがダラダラ延びてしまっていまになっただけの話で。あと、自分のソロ・ギターの感性がいまと昔で結構違うと感じていることもあって、いまだったらその部分をフレッシュな形でリリースできるんじゃないかと思って発表することにしたんです。
──最近ヴァンパイア・ウィークエンドがリリースした『Father of the Bride』はあえてギターを多めに取り入れて作られたということが、インタヴューで語られていました。たしかにギターが主流ではない時代なのかなと思うんですけど、だいじろーさん的にそのあたりはどのように考えているんでしょうか。
自分の中で、打ち込みやデジタルのトラックとフィジカルの演奏で垣根を明確にはつけてはいなくて。JYOCHOの場合は全部打ち込みでデモを作るんですけど、打ち込みを人力に変える良さもあれば、同期する良さもある。だから、いまのシーンに対してどうこうみたいな意識はあまりしていないかもしれないです。使いたい音であれば使うし、使いたくない音であれば使わない。そのあたりは自分の感覚でジャッジしています。
──JYOCHOの最新アルバム(『美しい終末サイクル』)はバンド感が増して、肉体的な印象が強くなった作品でした。だいじろーさんの“個”ではなく、他メンバーのアイデアや感覚が交わることが大切になってきているのかなと思ったんです。JYOCHOの音楽がそうなっているからこそ、個としてのソロ・アルバムをリリースしたみたいな動機もあったのかなと思って。
そこもあまり意識していなくて。客観的に見たらたしかにそういう位置付けはできるかもしれないですけど、JYOCHOがあるからDaijiro Nakagawaとしての音楽を作っているという意識はあまりないです。シンプルにアコギのソロ・ギターが昔から好きだから、その作品をリリースできたらいいなというピュアな思いで作っています。
──今回はだいじろーさんに焦点を当ててお話を伺えるすごくいい機会なので、少し詳しく訊かせてほしいんですけど、ギターとの出会いって覚えてますか?
兄がギタリストで、日常的に家でエレキ・ギターが鳴っていたんです。僕は中学生のときテニスをしていたんですけど、あるときオレンジレンジの「以心電信」をエレキ・ギターで弾いてみたいと思って。やってみたら意外と簡単に弾けて「楽しいな」と思ったので、中学2年生のときにゆずの楽曲を弾いてみたらFが押さえられなくて。それで一旦ギターをやめたんです。高校もテニスを中心に学校に入ったんですけど、部活が厳しすぎてストレス発散のために再びギターを触りはじめたら「意外とゆず弾ける!」ってなっていて(笑)。あと、お父さんの影響でかぐや姫や南こうせつさんを聴いているうちにアコギの音の良さに気づいたのも大きいです。兄の影響でファンクも教えてもらいながら弾いているうちに押尾コータローさんにも出会ったりもしていって。
──身の回りの人の影響から、いろいろな音楽に触れていったわけですね。
歌がなくても、アコギの音だけでこんなに弾くことができるんだと思って。「この人すごい! これは弾いてみたい」と思って、すぐに楽譜を買うみたいなサイクルでコピーしはじめて。そしたら楽しくて、知らない間に毎日8〜10時間くらいギターを弾くような毎日になっていきました(笑)。そこから、岸部眞明さんやピエール・ベンスーザンもコピーしはじめて。そのあと、エレキ・ギターの音が格好いいなと思って、当時流行っていたSUM 41やオフスプリング、レッド・ホット・チリ・ペッパーズなどもコピーしていくんです。しばらくギターを触らない日々もあったんですけど、大学に入ってバンドをやりたいと思っていろいろなバンドのサポートをしていくうちに、えみちょこに出会って、「一緒にバンドをやろう」と宇宙コンビニを組んで4年くらい活動し解散をして。1年間空いてJYOCHOをはじめて…… という流れですね。
──自分でオリジナル曲を作りはじめたのはいつぐらいの話なんでしょう。
はじめにオリジナル楽曲を作ったのは、岸部眞明さんとかをコピーしていたときだったので、中学3年生くらいだったと思います。その時に作ったのは、曲と言えるかわからないようなものでしたけどね。だけど、その曲はアレンジし直して今作にも収録しているんですよ。
──なんと! どの曲ですか?
「diploma」、「fall asleep」、「sampo」の3曲はその頃に作っていた曲です。
──「sampo」はアルバムの中でも雰囲気が違う曲というか。これは中高生の頃に作ったからこその名残なんですね。
そうですね。「sampo」は飼っていたペットの曲なんですけど、遊びで作った曲で。
アコギが生で耳元で鳴っているイメージで
──ちなみに使っているアコギは、時代を経て変わってきているんでしょうか?
めっちゃ変わっていますね。アコギは7本くらい持っています。はじめはお父さんからもらったギターを使っていて、そのあともたくさん使ってきたんですけど、いまは2本に落ち着いていますね。1本がお父さんにもらったキャッツ・アイという昔のギターなんですけど、結構いい音が鳴るんですよ。もう1本は、僕が持っている中で1番新しいローデンというギターで、値段が値段なのでやっぱりいい音がしますね。アー写で持っているギターです。
──その2本に落ち着いた理由ってなんだったんでしょうね。
ほかのギターの音が悪いとかではなくて、全部好きなギターしかない。そんな中で、ローデンはレコーディングに強いから使っているんですよね。
──レコーディングしたギターの音がよく聞こえるということ?
帯域的な問題で、ミッドがしっかりしているので音が太いというか。前に出てくるけど、しっかりアコギの枯れ感もあるし、音が細くないんです。エフェクトやコンプレッサーとかでバシバシにしていくとアコギも音が太くなるんですけど、それをしなくてもアコギとして完成されている。マイクに乗せてもしっかり生感が表現されるし。そういう意図もあってこのギターを使いました。
──宇宙コンビニやJYOCHOはミックスでの音色やバランスの調整も作品作りの肝だと思うんですけど、今作のミックスに関しては、どの程度したんですか?
意図的に、ほぼほぼしていないですね。この作品を作る上でそこは明確にしておかなあかんという考えが自分の中にあって。国内のソロ・ギター作品って、ミックスして調整をして…… というものが多いんですけど、そこに僕は違和感があって。むしろ全部その逆をやってみるのがおもしろいなと思ったんです。それがいいとか悪いとかではなくて、コンプとかリバーブを必要以上かけずに、横でアコギを弾いているような音質にしたかった。なので、エフェクトもミックスもほぼしていないです。他の音源と比べるとかなり弱々しいけど、ずっと聞ける音源なんじゃないかなって思います。
──アルバムを聴いていて、オーガニックさみたいなものは感じましたけど、弱々しさは感じなかったです。
素朴さというか、そっちの狙いです。本当にアコギが生で耳元で鳴っているイメージで作っています。
──たとえば音と音の境目が曖昧な感じなどは、だいじろーさんぽいギターだなと思いました。そこら辺、だいじろーらしさみたいなところは意図しているんでしょうか?
自分がやっていることって無意識ですけど絶対的に一貫していると思っているんです。使うコード感とかも自分の中でコレというものがあって、このコード感が来たらこう行くみたいな流れがある。それを生かして今作も作っているので、JYOCHOのコード感とかぶるところはあります。そういう部分でJYOCHOと近い雰囲気を感じる人はめちゃくちゃ多いかなって。
──先ほど話に出た、ピエール・ベンスーザンは変則チューニングだったり、いろんな技法だったりを使ってギターを演奏していますよね。質感として近いものをすごく感じました。
ピエール・ベンスーザンにはバリバリ影響を受けているんです。彼は「DADGAD」というチューニングをしているんですけど、それは今作だけじゃなくて、JYOCHOの楽曲にも使っていますね。正確に言うとコード感は違うんですけど、そういった面でもとても影響を受けています。
──どういうところで影響を受けているんでしょうね。
なんでしょうね……? ピエール・ベンスーザンに関しては、弾いている本人の感じに味があっていいんですよね。音の揺らぎとか佇まいが、めっちゃいい。僕の自分の中で、それも音楽の良さの確信につながる部分だと思っていて。そういうものに惹かれている。さらに言うと、視覚的に渋くてかっこいいんですけど、音源でも普通にミスタッチをするし、弾きそびれた音もそのまま入っているんですよ。それもまたいいんですよね。ミスではない感じがするし、本人もその感覚でやっているんだろうなって。聴いていても、そうなんだろうなって確信はあります。無意識かもしれないけど、意図している感じがする。
──揺らぎだったりミスタッチだったりというのは、時間とともにだいじろーさんのなかに芽生えてきた大切なポイントなんですかね。
もちろんそれはありますね。でも割と活動初期からあったかも。間違いなく磨けてきているとは思っています。
最終的にオーケストラにしたいんですよ
──いわゆる右手の使い方で特色だと思っているところはありますか?
右手のタッチに関しては何周も考えて来たんですけど、出したい音が出ていればいいやっていう結論が出て。一時期クラシック・ギターも勉強したんですけど、クラシック・ギターの弾き方だと思いっきりジャーンって弾くことができない。ただ、究極的に粒立ちが良くていい音を出すことができる。自分の出したい音の方向性が違ったなって。結局、右手の使い方は意識していなくて脳でやっている感じですね。それが後付けで右手の動きに出ているんだと思います。
──ざっくりした言い方ですけど、左手が理論的で、右手が感覚的みたいな感じですか?
いや、僕は全部感覚的かもしれないですね。あまりコードを把握して作っているわけではないし、「このコードが来たから次にこのコードを使う」みたいなこともなくて。全部脳みそでやりたいことを決めて音を出している。そこを理論だったり既出の流れだったりを使ってやってしまうと、音の未来が確定しちゃうじゃないですか? あまりそういう作り方は好きではないんです。「この音が出たから次はこの音を出したい!」「この音が出たから次はこの音を外してみたい!」と考えた方がおもしろいじゃないですか。そういう感じでやっていますね。
──今作はインスト作品なので、楽曲のタイトルをつけるのは結構大変だったんじゃないかと思うんですけど、どうやってつけていったのかも気になります。
どれも仮タイトルはあったんですけど、結構酷くて(笑)。たとえば「new ethics」は「俺はハンバーグより強くならねばならない」という曲名で(笑)。
──えっ(笑)。
「voyager」は「自分のかかとにかかと落としをする男の生き様」で、「hotaru」は「ホタルイカを洗う夫婦」だったり……それをそのままタイトルにしちゃったらみんな買ってくれへんやろうと思って(笑)。アレンジしていくうちにタイトルを補正していき決めたって感じですね。
──だいじろーさんは職人肌っぽい部分もありつつ、自分の音楽を「広めたい」という気持ちもある人だと思うんですけど、そういう気持ちはどれほど強いですか?
めちゃくちゃ強いと思います。職人って言われるかもしれないんですけど、意外と職人気質ではなくて。いまだにギターをぜんぜん弾かないときもあるし、どちらかというとPCに向かって曲を作っているときのほうが多かったりする。
──自分の楽曲を知ってほしいという想いの裏には、どんな気持ちが込められているんでしょう。
自分が作ったものがいいものだって自分が1番知っているので、みんなに聴いてもらわないと嫌だなって。もし聴いてもらわなくていいのであればリリースしなくてもいいし、「売れなくてもいい」と言うのであれば、家でひとりで弾いておけばいいじゃないですか? 自分の音楽がもっと広がれば、特定の人の生活が良くなると思っているんです。勘違いかもしれないけど、それくらい思っているので聴いてくれる人を増やしていきたい。「JYOCHOの音楽で人生が変わりました」と言ってくれる人もいるし、その機会を逃すのはもったいないなって。いい音楽を作るのは当たり前で、その次の段階も考えたいんですよね。
──ちなみに、ソロ活動の目標みたいなものはあるんでしょうか。
最終的にオーケストラにしたいんですよ。だからアコギ1本でスタートするのがおもしろいかなと思って。さすがにもっとミニマムな声だけとか、手拍子のリズムだけの作品だと、みんな買わないじゃないですか(笑)。だから、みんなが好きと思ってくれる範囲内で自分の好きなことをやったのがこの作品です。
──だいじろーさんとしては、これがスタートで、最終的にオーケストラを構想しているんですね。
はい、構想しています。それが100thアルバムとかになっているかもしれないですけど(笑)。叶うのであれば、地球の全人口でいっせーので「わー!」って声をあげて、それを録りたいですね。全世界にコンデンサーマイクを置いて、オーディオ・データをひとつにギュっとまとめて、宇宙に電波で届けたい(笑)。もしかしたら他の星から返答が返ってくるかもしれないですからね。
──あははは。
もっと大きな目標はあるのかもしれないですけど、いまの実力でイメージできるのはそこまでです(笑)。
──すでに相当なレベルまで行っていますけどね(笑)。
今作は幅広く聴いてもらえる音楽性になったと思っていて。自分の出したい音を出し切ることができたので、幅広く届いてほしいし、聴かれてほしいです。Daijiro Nakagawaがついにソロ作を出したんだぞっていうことを知ってほしいです!
『in my opinion』のご購入はこちらから
ロスレス版(16bit/44.1kHz)のご購入はこちらから
https://ototoy.jp/_/default/p/387055
編集 : 鈴木雄希
JYOCHOの作品も配信中!
新→古
【過去の特集ページ】
・中川大二朗(ex.宇宙コンビニ)による新プロジェクト、JYOCHO始動! 期待の新作と始動経緯に迫る
https://ototoy.jp/feature/201611301
・今作がJYOCHOとしての始まり──テクニックと情緒が共存する、日本初世界レベルの2ndミニALに迫る
https://ototoy.jp/feature/2017091308
宇宙コンビニの配信作品はこちらから
【過去の特集ページ】
・宇宙コンビニ『染まる音を確認したら』配信開始 & インタヴュー
https://ototoy.jp/feature/2013103100
LIVE SCHEDULE
〈Daijiro Nakagawa『in my opinion』リリース記念インストア・イベント〉
2019年6月1日(土)
場所 : タワーレコード名古屋パルコ 西館1Fイベントスペース ※SAKAE SP-RING 2019×TOWER RECORDS名古屋パルコ店 サテライトステージ
時間 : 17:00〜
2019年6月8日(土)
場所 : 川崎LA CITTADELLA 噴水広場
時間 : 16:30〜
2019年6月9日(日)
場所 : HMV & BOOKS SHIBUYA 6F店内イベントスペース
時間 : 15:00〜
2019年6月15日(土)
場所 : ヴィレッジヴァンガードアメリカ村店 イベントスペース
時間 : 16:00〜
2019年6月16日(日)
場所 : タワーレコード京都店 イベントスペース
時間 : 16:00〜
2019年6月29日(土)
場所 : タワーレコード福岡パルコ店 イベントスペース
時間 : 19:00〜
2019年6月30日(日)
場所 : タワーレコード広島店 イベントスペース
時間 : 16:00〜
【イベント詳細こちら】
http://daijironakagawa.com/schedule
PROFILE
Daijiro Nakagawa
中川だいじろー( JYOCHO / ex. 宇宙コンビニ )。プログレッシブかつポップスな音楽性でシーンを驚かせる“JYOCHO”にてメイン・コンポーズ、プロデュースを行う、 超絶テクニックを誇るギタリスト。
【公式HP】
http://daijironakagawa.com
【公式ツイッター】
https://twitter.com/DaijiroNakagawa
【中川だいじろー ツイッター】
https://twitter.com/daijirooo7