芸術家アイドル・ユニットによる現代社会への心の叫びーーナマコプリが描くアートと音楽の最先端

特撮からテン年代のネット・レーベルまでを回遊する、ナマコラブとマコ・プリンシパルによる芸術家アイドル・ユニット、ナマコプリが待望のデビュー・アルバムをリリース。トラックメイカーにタイチマスターを迎え、リミキサーにLUVRAW、KENSHU、TREKKIE TRAXからMasayoshi Iimori、AMUNOA、更には寺田創一、COLDFEETまで手練れの音楽クリエーターたちが多数参加。OTOTOYでは、謎の多い彼女たちに迫るべくプロデューサーのカワムラユキとタイチマスターの対談を行った。なんとアルバムをまとめ購入すると、ナマコプリによる書き下ろし漫画付きWebブックレットが手に入る!! これは音楽なのか? 現代アートなのか? ぜひ確かめてみてほしい。
ピンクと紫のポップな憂鬱。ほぼ芸術です。(会田誠)
ナマコプリ / アートの神様 (Album Remaster Ver.)
【形式】ALAC、FLAC、WAV(24bit/48kHz)
【料金】単曲 200円(税込) / まとめ価格 2,000円(税込)
【収録曲】
1. あったらいいな JAPAN
2. ナマコプリのトラップ
3. ナマコプリのシャンパンコール
4. 50/50
5. SUSHI PARTY Feat. Masayoshi Iimori
6. Welcome To Tokyo Feat. Sakiko Osawa -Shibuya OIRAN Re-Edit
7. どうでもインド
8. アートの神様
9. やっぱりタイランド
10. Fallen Angel
11. ナマコプリのトラップ (LUVRAW Mix)
12. あったらいいな JAPAN (Masayoshi Iimori Mix)
13. ナマコプリのトラップ (Voia Mix)
14. やっぱりタイランド (AMUNOA Mix)
15. ナマコプリのシャンパンコール (KENSHU Mix)
16. SUSHI PARTY (Soichi Terada Mix)
17. アートの神様 (COLDFEET Mix)
18. ナマコプリのトラップ (TAICHI MASTER Feat. DJチワワ Mix)
※アルバムまとめ購入で、OTOTOY限定の書き下ろし漫画付きWebブックレットがつきます。
ナマコプリ(namakopuri) / どうでもインド(Do Demo India)ナマコプリ(namakopuri) / どうでもインド(Do Demo India)
INTERVIEW : カワムラユキ、タイチマスター
森美術館で行われた展覧会〈会田誠天才でごめんなさい〉がきっかけで出会ったナマコラブとマコ・プリンシパルの2人による芸術家アイドル・ユニット、ナマコプリ。これまで配信限定でリリースをしてきた彼女たちだが、その派手派手しいジャケット画像と、それに反したTRAPを中心としたベース・ミュージック、そしてアイドルとしての活動と、正体をつかみきれない部分も多かったという人も少なくなかったのではないだろうか。訊けば結成のきっかけは、ナマコプリのプロデューサーであるカワムラユキがプロデュースする渋谷道玄坂にあるウォームアップ・バー「しぶや花魁」でカワムラと2人が出会ったことだという。そこから、カワムラの友人でもあるタイチマスターが楽曲制作として参加しはじまったこのプロジェクト。初アルバムのリリースタイミングで、カワムラユキとタイチマスターへの対談を「しぶや花魁」で行った。
インタヴュー&文 : 西澤裕郎
全部が誰か特定個人へのメッセージとか恨みだったり愛だったりする
ーーナマコプリには、カワムラさんが総合プロデュース、タイチさんが楽曲制作として携わっていらっしゃいます。そもそもナマコプリの2人とはどのようにして出会ったのでしょう?
カワムラユキ(以下、カワムラ) : 「しぶや花魁」の3周年パーティーを渋谷WWWで開催したときに、キャバクラみたいに「女性美術家と500円10分間しゃべれるプロジェクト」をやっていた集団「シャバクラ実行委員会」の主要メンバーとしてマコ・プリンシパルが来ていたんです。その翌週に、スペースシャワーTVの映像ディレクターをやっているケントくんがナマコプリの2人を連れて「しぶや花魁」に遊びにきてくれたので話しをしてみたら、ナマコラブちゃんが作っている「ナマコさん」っていうキャラクターが気になったのと、彼女の声が面白いと思ったんですよ。その時は私自身お店も仕事もDJも忙しかったので、他の人にお膳立てしてもらったプロジェクトしかやっていなかったんですけど、この子たちのこと全部をプロデュースしたいと思ったんです。それでFacebookに「こんな2人がいて、とりあえずヴォーカルのレコーディングがしたい」って書いたらすぐ5分後に2人のミュージシャンから連絡がきて。そのうちの1人がタイチマスターだったんです。

タイチマスター : ヴィーナス(※カワムラユキの愛称)とは「しぶや花魁」最初期の頃から仲が良くて、僕は全面的に彼女のセンスを信頼しているんです。そのヴィーナスが「最近こんな子たちがいて面白そうだから」なんて書いていたからすぐに連絡して。僕は自分のマンションの一室を作業部屋にしているから簡単なプリプロならできるよって書き込んだら、じゃあやりましょうってことになったんです。最初はt.A.T.u.のカヴァーから始めたんだよね?
カワムラ : そうそう。2人を見ていたらt.A.T.u.を思い出しちゃって。2人と話していたら、女性の美術家はオヤジのプロデューサーによく搾取されるってことを聞いたんですよ。
ーーなんだかキナ臭い話ですけど具体的にどんな搾取が(笑)?
カワムラ : 打ち合わせと称してセクハラまがいのことをさんざん言われて、おまけに割り勘だったみたいな(笑)。これは危険だと思って、そういうやつらに復讐する曲を作ろうと思ったんです。t.A.T.u.の「All The Things She Said」って鬼気迫る感じがするじゃないですか? そこで〈オヤジたち オヤジたち おもいしれ おもいしれ〉っていう歌詞にして(笑)。
ーーあはは。空耳的な感じですね(笑)。
カワムラ : そうそう(笑)。
タイチマスター : それを僕の家でレコーディングしたんですよ。僕は元々ヒップ・ホップをルーツにしているから、こういう萌系でアイドル的なヴォーカルは初めてで、本当に体験したことのないレコーディングになりましたね。
カワムラ : それから1年経った花魁の4周年のときにウルトラ・ヴァイヴさんからアルバムを出しましょうって話をいただいたので、「しぶや花魁コンピ」を作ろうと七尾旅人とかSystem 7とか色々なミュージシャンに声をかけたんです。その中でオリジナルの曲も入れようと考えたのですが、ナマコプリはまだオリジナル楽曲を作っていないからどうしようかと思っていたら、この1年の間に更なる恐ろしい体験談が溜まっていたわけで…。
ーーそんなに恐ろしいことばかりあるんですね(笑)。
タイチマスター : そう。ナマコプリの歌詞は全部そうした実体験なんですよ。
カワムラ : 実体験だし全部が誰か特定個人へのメッセージとか恨みだったり愛だったりする。当時付き合ってた彼氏に宛てた別れの呪文なども書いてたりします。
ーーカワムラさんの体験も入ってるんですね(笑)!!
カワムラ : 3人の愛と叫びが入っています(笑)。
ーーあはは。前に僕と話したとき「純度100%の呪い」と言っていたのはそういうことなんですね(笑)。あと、「オジモン」というキャラクターの存在も面白かったので、詳しく説明して欲しいのですが。
カワムラ : 「オジモン」だけじゃなく、「オバモン」、「クリモン」の3種類がいるんですよ。オジモンっていうのは、オヤジで偉そうに説教する感じで近づいてきてスケベ心を出す存在。オバモンっていうのは、若さへのコンプレックスと性欲がすごく強くて彼女たちへの嫉妬を出してくる存在。クリモンは、クリエイティブなものを搾取する存在。その中でもクリモンが私たちの1番の敵です。だから、私たちは3つの標的に向かって復讐をしているんです(笑)。
ーー復讐をアートに昇華していると。
カワムラ : はい、とっても悔しかったので。
ーークリモンは業界にいる大人たちってことですか?
カワムラ : 自分をクリエイターに見せたいけど実際は何も作れない人。例えば「コラボしてください」って言われて打ち合わせに行ったら、その人が何も喋らないってことがあったんです。私がいろいろ出したアイディアをずっと聴いていて、最後に「それらを揉んで連絡を差し上げます。コラボが好きなんで」って言うんですよ(笑)。それコラボじゃないじゃん!! みたいな。そういうクリモンがすごく多い。
タイチマスター : ナマコプリは本当にその対極にあって、子供が初めてクレヨンを持って好きなように絵を描くのと同じ衝動で作っています。純度100%で。「こうやったら売れんじゃねえか?」とか、そういったことは全然考えていない。好きなように復讐を込めてやっている(笑)。
カワムラ : ついでに「オバモン」の話をすると、とあるおばさまプロデューサーが夢物語ばかり言うんですよ。いつもほぼ100%実現しない(笑)。自分(オバモン)の写りだけ良くてナマコプリの2人と私が変な顔をしている写真をネットにアップしたり、そういう現代社会の闇があるわけですよ。私たちはそういったものに拒否反応を示しているんです。そういった諸々を総括して「ナマコプリのトラップ」という曲が出来上がったんです。
タイチマスター : ナマコプリがいろんな罠(トラップ)にひっかかったから、音もTrap(トラップ)にしようっていう、ダジャレでTrap Musicを作ったんです。
カワムラ : そういう時にタイチマスターのラップやヒップ・ホップ・フィールドの感覚がすごく生きてくるんですよね。
アイドルがベース・ミュージックをやったらかっこいいんじゃない?
ーーナマコプリは「芸術家アイドル・ユニット」を名乗っていますが、アイドルという要素は重要なんでしょうか? そこにこだわらなくてもおもしろいと思いますが。
カワムラ : 「アイドルという手法を使って、どれだけアイドルとかけ離れたものを表現できるか」をやってみたかったんです。私の中で、アイドルは工藤静香さんとかCoCoとかdeepsとか、そういう90年代のものしか知らなくて、現在のアイドルは全く知らなかったんです。でもナマコプリのおかげで地下アイドル・シーンに出入りするようになると発見も多くて。
ーー今作にはナマコプリの2人の音楽的ルーツが生かされている部分もあるんでしょうか?
カワムラ : ナマコラブは渋谷系と言われる音楽のなかでもダークサイドな曲が好きで。ブレイク前のピチカート・ファイヴだったり、渋谷系の初期にあったバブル崩壊直前直後みたいな陰鬱としたものが好きみたい。マコプリちゃんは、お祖父様(渡辺宙明)もお父様(渡辺俊幸)も音楽家なので、芸術の中でも特に、音楽の素養に溢れた環境で育っております。ましてやお祖父様は日本の特撮やアニメにシンセサイザーを大胆に取り入れたエポックな方なので、やっぱり彼女自身の素養は高いと感じることが多いですね。
ーーそうしたナマコプリ2人の音楽的嗜好がありつつも、Trapを取り入れたり、いわゆるベース・ミュージックが1つの指針になっていますよね。
タイチマスター : そうですね。裏テーマみたいな感じというか、最初の共通項としてM.I.A.を挙げていたんです。ただ、そのままやるんじゃなくて、KAWAIIカルチャーのアイドルがベース・ミュージックをやったらかっこいいんじゃないか? それこそ日本のM.I.A.なんじゃないか? と考えたんです。
カワムラ : M.I.A.はアートですよね。社会派で女性の様々な権利問題とかを内包している。それを日本という設定でやろうと思っているので直接的ではないけど社会派な曲にはなっているんです。ソフィア・コッポラが監督を務めた「The Bling Ring」という映画の劇中で、M.I.A.の「Bad Girs」が流れるんですけど、その映画に登場するパリス・ヒルトンとかを含めて、私はアメリカン・トラッシュが好きなんですよ。そういったガールズの復讐劇ともつながっている。
タイチマスター : パンク精神みたいなものもあるよね。
カワムラ : Chim↑Pomのエリイちゃんがマコプリと仲が良くて。彼女も世の中に対して自分だけの手段をもってメッセージを伝えているから、その辺もイメージしながらナマコプリを作っています。サウンドに関しても、私は「最高にかっこいいアートには最先端の音楽」がセオリーだと思っているんです。キース・ヘリングやバスキアがニューヨークのミュージシャンとつながっていたように、東京のガールズ・アートとダンス・ミュージックというのは切り離せないなと思っていて。
ーー最先端なものを取り入れるということは、ナマコプリのプロジェクトにおいて命題的なものだと。
カワムラ : そうですね。そこはまったく媚びていないので「どこの誰に向けて作っているの?」という意味のことは色んな人から言われました。私たちみたいな作家業は発注に応えるのが仕事ですけど、このプロジェクトは対極ですね。
タイチマスター : ナマコプリについては仕事だと思っていないですから(笑)。アート活動というか、表現活動として好き勝手ヴィーナスと一緒に作っているから一切の妥協もしないし、言われて仕方なく変えるとかそういうこともない。本当に好きなように作っている。だから楽しいですよね。そういう意味でも「純度100%」です(笑)。
カワムラ : 「純度100%」の私的メッセージ集だよね(笑)。ただ、アイドルが好きな人からすると、ジャケットで2人の顔を伸ばしているのとか、露出度が高くないのってアイドル・カルチャーから反していると思うかもしれないですよね。CDの形をしたアート作品として買ってくださる方はいるんですけど、今後は既存の音楽ファンやアイドル・ファンがフォローしてくれるかどうかが課題ですね。
タイチマスター : 既存のフォーマットに乗った方が分かり易いし広がり易いとは思うんですけど、そこはあまり考えてないからね。
「これは新宿歌舞伎町の民族音楽だ」と思って出来た結晶です
ーー最初の頃のレコーディングと比べて、ナマコプリの2人に変化を感じたりしますか?
タイチマスター : 2人ともすごく努力家なんですよ。レコーディング前もすごく練習してくるから、テンションとか感情表現をこうしたほうがいいんじゃない? とかは言うんですけど、基本的に僕から何かを言うことはあまりないし、すごくスムーズに進んでいます。もちろん、回を重ねて歌もリズム感も上がってきている。色んな意味でプロっぽくなってきたと思いますね。
カワムラ : だけど営業っぽくならないんですよ(笑)。
タイチマスター : そうそう。そこがあの子たちのすごいところで。もっと歌が上手くなりたいとかそういうことじゃないんですよ。存在感をあげていったり、声のキャラの強さ、強度を上げたりといったディレクション、技術的なこともちゃんと出来る子たちなので。
ーー独自の尺度を持っている中で、ナマコプリの強化していきたい部分はどういうところでしょう。
カワムラ : 私はよりレイビーにしていきたい(笑)。私たちはライヴのことを「お遊戯会」と言っていて。あたたかい気持ちになって帰ってくれる、そういうツッコミどころがあるようなパフォーマンスをしていけたらなと思っています。歌の間に活弁が入ったり、紙芝居をやったり、ミュージカルをやるときもあるんです。

ーー今作はタイチさんがサウンド・プロデュースをされているわけですが、ヴィーナスさんとはどういったやりとりを、方向性を決めたりとか、すり合わせなどをしたのでしょうか?
タイチマスター : 曲のタイトルやコンセプトは最初に決めるんですけど、早いときには歌詞も最初から決まっています。なので、ほぼヴィーナスがプロデューサーとして全部決めて、僕はそれを曲として形にするだけ。ある意味僕もコンポーザーとしてプロデュースされているような感じですね。
カワムラ : 私、90年代後半に1度歌手デビューをしているんですよ。だけど歌が下手なのがコンプレックスで歌うことが怖かったというか。メロディに触れることに抵抗があったんですけど、タイチマスターがド下手なメロディを譜割りしてくれたり、ラップをこう入れましょうっていうのをラフで送れる関係を作ってくれて。これがきっかけで再び目覚めたことが多かったんです。花魁5周年にOTOTOYでフリー・ダウンロードさせてもらった曲(水曜日のカンパネラ×カワムラユキ / 金曜日の花魁)も、コムアイちゃんに〈なーめーられたらかんぜよー♪〉ってメロディを直接に歌って伝えたりしたし、そういう恥ずかしさがとれたので私としても成長の記録になっていますね。みんなで話し合って、食事をしたり、「しぶや花魁」で飲んでたり、カレーを食べたり、いろんなところに行ったり、フェスのあとホテルで話しあったりして、みんなで泣き笑いして、それが詰まったアルバムですね。「あったらいいな JAPAN」とかは、日本っていうものがどんどんなくなっていっちゃうんじゃないかなってことを歌っている曲だったりするし。
ーーそれは、「日本らしさ」みたいなものが失われていくってことですか?
カワムラ : 日本人の持っている神秘性とかスピリチュアルなもの、勘みたいなものが、スマートフォンや様々なテクノロジーに奪い取られている気がするんです。私は「あ、あの人くる」とか「あ、あの人の足音だ」とかわかるんですよ。それって恐ろしいんですけどそういう縁や導きを大事にしていて。「ナマコプリのシャンパンコール」という曲も、ホストのみなさんがシャンパンコールをやっているのを見ていたら、「これは新宿歌舞伎町の民族音楽だ」と思って出来た結晶です(笑)。このアルバムには個人的な歴史の数々が詰まっている。
これは私の遺書だなと思います
ーーその背景に、「しぶや花魁」という場所が重要になってくると思っていて。渋谷のクラブとライヴハウスとラヴホテルが集まる場所で、ある意味ではすごく良い場所にある。不特定多数の人がたくさん集まるわけですけど、「しぶや花魁」はどのようにして作られたのでしょか?
カワムラ : 話すと長くなるので掻い摘んで言うと、私は2000年初頭からイビザに行っていたんですけど、クラブへ遊びに行く前に「DOME」というお店によく行っていたんですが、それが「しぶや花魁」みたいな業態のウォームアップ・バーだったんです。これから踊るダンサーさんもいたし、出演者もみんな仕事前や遊び前に1杯飲みに来るんです。こういう需要ってあるよなと思いつつも自分で店をやるつもりはなかったんですけど、リーマン・ショックのときに昔遊んでた友だちが「こういう不動産があるんだけど、なんかやらない?」と話を持ってきてくれて。最初はお店をやる気はないしと思っていたんですけど、内見に来たら「ここは?!」と思って。ここは道玄坂の入り口! まさに地獄! ラブホテルがいっぱいあって、クラブもいろいろあって、親不孝通りと言われていて。私も家出娘だったし、渋谷に来ていろいろ変わったので、愛と文化の街でウォームアップ・バーをできたらなと思って始めました。慣れないことだらけですけど一生懸命やっています。その時期にタイチマスターと知り合ったんだよね。
タイチマスター : ここがオープンする直前、まだ工事も完全に終わっていないくらいの時、共通の友だちでDJのSINSENから「友だちが今度お店はじめるらしいから顔出してみようよ」って連れてきてもらってヴィーナスを紹介されたんです。そこからの付き合い。僕も20歳くらいからClub AsiaとかHARLEMとかのクラブに行っていて、クラブに行く前にちょっと景気付けで飲んでから行きたいなと思っていたんですけど当時は居酒屋しか選択肢がなかった。でも居酒屋で飲んでからクラブに行くというのも気分が盛り上がらないと思っていたから、こういうウォームアップ・バーという存在がバッチリだなと思いました。別にクラブに行かなくても「しぶや花魁」だけ行って飲んでも雰囲気がいいからね。
カワムラ : 実際にお客さんも20代から70代まで来てくださるんですよ。いろんな職業の方が。だから、「しぶや花魁」は参加型のアート作品だと思っています。
ーーその象徴的存在のひとつが、ナマコプリなんですね。お2人の話を聞いていて、アートを信じていることが伝わるプロジェクトだと思いました。純度100%の。
カワムラ : ただ、純度の高いものが受け入れられるっていうわけでもないので。どうなるかはわからないけど、続けられる限りは続いていきたいなと思っています。
タイチマスター : 「アートの神様」という曲の歌詞に〈君の心を救うものはアートしかないよ〉という一節があるんですけど、実際にアートによって救われるところがいっぱいあるし、本当にアートじゃないと埋まらない心の隙間ってあると思うんですよ。それがアートの存在価値だと思う。音楽ももちろんアートのひとつなんだけど、商業音楽の仕事はクライアントの意見を反映させないといけないし。でもこのプロジェクトは全然違うベクトルでやっているので。
カワムラ : 「アートの神様」には、〈生きているうちに売れたら 時代に愛せされた証拠ね〉という歌詞があって、女性美術家の仲間が共感したと言ってくれたんです。それってあんまり歌にはされないテーマじゃないですか。アーティストや作家としてステータスを確立させるのはすごく苦しいことだし、ただ同然のギャラなんてざらにあるし、事件性が高いから展示できないとかいろいろある。そういった価値観ってみんな歌にしないと思うんですよ。でも誰かがしないといけないと思っていて。これは私の遺書だなと思います(笑)。
ーー毎回歌詞は、遺書のつもりで書いてるって言ってましたよね。
カワムラ : そうなんです。カレン・フィンリーとかSTUDIO 54周りにパフォーマーやペインターがたくさんいて、そういった方々へのリスペクトやオマージュみたいな意味もありますね。彼女たちも音はマーク・カミンスがプロデュースでジュニア・バスケスがリミックスしているレコードが出てるんですけど、今作の収録曲「SUSHI PARTY」にはそのオマージュも入っています。
ーー今作のアルバム・ジャケットのナマコプリ2人の目の中には「愛」と「猫」って書いてありますよね。あれはどういう意図があるのでしょうか。
カワムラ : 彼女たちの1番好きなものを目の中に入れようっていう私のアイディアで、周りには「特撮」とか「芸術」とか彼女たちの現在を取り巻く様々な要素を埋め込んでいます。目の中に自分の好きなものが入っている、ってありません? あ、この人は「女」って書いてある! とか。
タイチマスター : 「金」とかね(笑)。
カワムラ : ね(笑)。私もあとどれくらい生きられるかわからないし、奇人として先鋭化されちゃうかもしれないですけど、薄くは生きれないなと思いました(笑)。しょうがないとは思いつつ、理解してもらえたらいいけど、不安です(笑)。時代に愛されたいですね。
過去作も好評配信中!!
PROFILE
ナマコプリ
世知辛い世の中で「愛と癒し」をテーマに活動中のナマコラブと、マコ・プリンシパルによる芸術家アイドル・ユニット。
2011年の結成後は個別のアート活動と並行して、逗子メディアアートフェスティバル、yamashiroアートマーケット、シブカル祭、会田誠天才でごめんなさい(森美術館)、代々木カリー(代々木VILLAGE)、新宿眼科画廊での展示やCM動画の制作など、多方面にて活動中。
展覧会のオープニング・パーティなどで「お遊戯会」と題したライヴ・ペインティング、活弁、歌をミックスした独自のステージを披露する機会が主な活動の場だったが、最近は音楽シーンにも活動の幅を広げ、2014年5月に初のオリジナル音源『ナマコプリのトラップ』(OIRAN MUSIC)で配信デビュー。
その後はDOMMUNE、block.fm、2.5D、りんご音楽祭、加賀温泉郷フェス2014(feat. HELクライム)など多くのフェスやネット・メディアに出演。TREKKIE TRAXやAttack The Musicなど、国内外の人気ネットレーベル・クルーがリミックスを提供した「あったらいいな JAPAN」に続き、チルウェイブな最新曲『やっぱりタイランド』をリリース。2016年8月には待望のデビュー・アルバム『アートの神様』を発売する。OIRAN MUSIC所属。