タラ・ジェイン・オニールと二階堂和美 / タラとニカ
2人のシンガー・ソングライターの奇跡の共演作品が完成。
「ニカと一緒にレコードがつくりたい」。2008年、4度目の来日を果たしたタラ・ジェイン・オニールの一言から端を発した本作の制作。共作の相手は、彼女の来日公演でも多くのステージを共にしてきた二階堂和美。タラの来日時に、ツアーの合間を縫って、京都、琵琶湖畔、神戸の旧グッゲンハイム邸で録音されていきました。彼女たちの呼吸ぴったりのセッションは愛おしく、穏やかに心に染み渡ります。どこまでも自由な音楽。
会話をするように生み出される
『タラとニカ』というタイトルは、この作品を的確に表したアルバム名である。もし『タラ・ジェイン・オニールと二階堂和美』というタイトルだったら、単純に堅苦しいし、2人のソロ・ワークの先入観がつきまとってくる。個性的アーティストのコラボレーションというのは、時として冗長で退屈になりがちである。セッションというのはアーティスト自身にとって刺激的であっても、聴き手が置き去りにされてしまうことがある。ましてや、どちらも個性的なシンガー・ソングライターということであれば、個性がぶつかりあって大仰なものになってしまうか、探り探りで煮え切らない作品になってしまう可能性もある。ではこの2人はどうかといえば、実にリラックスして自然体なセッションを繰り広げている。例えて言うなら、キャンパスに色を塗るというより、キャンパス自体から作ってしまおうというような自由奔放さがある。だからといって、変に馴れ合いになっているわけでもない。近しい関係ながらも、音楽に関しては適度な緊張を持って共演している。その関係性が、『タラ・ジェイン・オニールと二階堂和美』ではなくて、やっぱり『タラとニカ』なのである。
そもそもこの作品は、マルチ演奏家でもあるタラ・ジェイン・オニールが来日した際に(2008年/2010年)、二階堂和美と2人で録りためた音源を作品にしたものである。フリー・インプロビゼーションで作られたというように、色々な音が入り込んでいて、タラが何の楽器をどう使っているのか、二階堂和美がどんな言葉を歌っているのかは、はっきりとわからない。音自体、ちょっと離れたところから聞こえてくるし、ガツンとした主張があるわけでもない。あくまで2人が呼応するような形で、それぞれの息づかいを感じながら作られている。幅広い聴き手を意識して作られた作品というより、2人が会話をするように音楽を生み出していて、我々リスナーはその光景をこっそり覗き見しているような感覚である。
おもしろいのは、この作品からはとてもプライベートな感じが伝わってくることだ。大きな会場を意識したり、不特定多数に向けて奏でられているのではなく、その時その場所であることを祝福しながら生まれた音楽である。だから、アメリカと日本という国籍の違いはあっても、この作品はとても地域性の高いものになっている。どこかオーガニックで、エスニックな感じさえする。それは、やっぱり大衆に向けられているのではなく、2人の関係を第一に作られたからだろう。そういう意味では、宅録にも近い。ホームメイドで、小さなコミュニティを感じさせる音楽である。
そういえば、2010年にタラが来日して二階堂和美と共演した場所の一つは、普通のライヴ・ハウスではなく、東京都町田市にある築田寺だった。演奏場所一つとっても、こだわりが伝わってくる。そして今作のリリース元が、雑誌『スウィート・ドリームス』の制作元、スウィート・ドリーム・プレスというのも素敵なトピックである。”通りのよいサブ・タイトルやキャッチ・コピーを持たない”という『スウィート・ドリームス』の思いは、この作品と通じ合っている。シンプルなタイトルではあるけれど、『タラとニカ』というアルバムは、リスナーやレーベルとの関係も近しい作品である。(text by 西澤裕郎)
タラとニカのジャパン・ツアー2011
2011年6月22日(水)@広島 ヲルガン座
開場 19:00 / 開演 20:00
料金 : 2,500円(予約) / 3,000円(当日)+1オーダー
2011年6月23日(木)@神戸 旧グッゲンハイム邸
開場 19:30 / 開演 20:00
料金 : 2,500円(予約) / 3,000円(当日)
2011年6月24日(金)@京都 アヴァンギルド
開場 18:30 / 開演 19:30
料金 : 2,500円(前売) / 3,000円(当日)*ドリンク別
2011年6月25日(土)@町田 簗田寺
開場 17:00 / 開演 18:00
フード : なぎ食堂
料金 : 3,000円(予約) / 3,500円(当日)*1ドリンク込
*各公演の前売りチケット予約は、前日まで「info.sweetdreams(at)gmail.com」でも受け付けています。お名前・電話番号・希望公演日・希望枚数をお知らせください。当日、会場受付にて前売料金でのご精算/ご入場とさせていただきます。
共催 / 協力 : 二階堂和美(広島)、塩屋音楽会(神戸)、簗田寺(町田)、saitocno(町田)、カクバリズム、ブリッジ
企画・制作:スウィート・ドリームス・プレス
PROFILE
タラ・ジェイン・オニール | Tara Jane O'Neil
米イリノイ州シカゴ生まれ。その後、ケンタッキー州ルイヴィルで育ち、現在はオレゴン州ポートランド在住。ロダンのベーシストとしてキャリアをスタートし、幾つかのバンドのメンバーとして活動しながら、憂いのあるシンガー・ソングライターとして2000年よりソロ活動を開始。現在までに6枚のオリジナル・アルバムを発表している。また、マルチ・インストゥルメンタリストとしても知られ、アイダ、セバドー、ミラー、ジャッキー・オー・マザーファッカーなど、様々なアーティストの録音作品に客演をしてきたことも知られている。
二階堂和美 | Nikaido Kazumi
広島県大竹市在住。90年代中頃からギターと声を中心とした音楽活動を始める。あらゆる感情の振れ幅を表現してしまう歌声と、全身から音楽を紡ぎ出すようなステージングによって、余人の追随を許さない輝きを放つ歌い手として知られる。その間口の広さとジャンル横断的なスタンスから、他アーティストとのコラボーレションや来日アーティストとの共演の機会も多く、邦楽・洋楽の別を問わず、幅広いファンの支持を得ている。2011年7月には5年ぶりとなる待望の新作ソロ・アルバムがリリースされる予定。
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