BILL WELLS INTERVIEW
良質なコラボレーションというのはどういうことか。グラスゴー出身のジャズ・ミュージシャン、BILL WELLSの『Lemondale』は、それを教えてくれる。インタビューでも話しているように、彼にとってのコラボレーションとは、学びの場であり、社交の場であり、予想外の結果をもたらすための場でもある。テニスコーツ、二階堂和美、青柳拓次、ジム・オルーク、マヘル・シャラル・ハシュ・バズの工藤冬里、藤井郷子、梅田哲也など、日本在住のアーティストとのコラボレーションである今作は、BILLが何回も来日をして共演してきたからこそ出来上がった必然的な作品と言えるだろう。アーティスト同士として学び合い、交流を深めたからこそ、予想外の結果が導かれた。そうしたジャンルレスで穏やかな音源を聴いていると、それぞれのアーティストの親密な関係性も伝わってくる。そんなコラボレーションの本質をついた作品を完成させたBILL自身に、メールで取材を行った。
インタビュー&文 : 西澤裕郎
スコットランドの奇才、コラボレーション作品完成
BILL WELLS / Lemondale
70年代後期より活動するスコットランドの奇才ビル・ウェルズと、彼と親交の深いミュージシャンによるコラボレーション・アルバム。ポップな歌ものから多様な楽器を用いた実験的な楽曲まで、余すこと無く録音された本作は、一貫して穏やかな時間が流れている。
1. Toon City / 2. Harvest Bag / 3. Courtin' Love / 4. Mizu Tori Kudo / 5. Invade The Pit / 6. Piano Rolls / 7. Hack / 8. Effective Demand / 9. Mizu Tori / 10. Different Pans / 11. Lemondale
参加アーティスト : テニスコーツ、二階堂和美、青柳拓次、ジム・オルーク、工藤冬里(マヘル・シャラル・ハシュ・バズ)、藤井郷子、梅田哲也
サウンドとミュージシャン達、そしてその「場」の統一性
――今回のプロジェクトは、どのようにして始まったのでしょう。
このアルバムは、ドミノ/ジオグラフィック(THE PASTELSのStephen Pastelが主催するジオグラフィック・レーベル)とのレコード契約の一部だったんだ。僕にとって、生まれて初めてアルバム制作の予算が付いたもので、さらにスコティッシュ・アーツ・カウンシル(政府から独立した立場の芸術援助組織)からの助成金も付いたんだよ。日本にいるミュージシャンたちは僕の大好きな友人でもあったし、ジム・オルークとも一緒にやりたいと思っていたから、自然な選択として彼らに参加してもらったんだ。
――レコーディングは東京と大阪で行われたんですよね。
そうだね。大阪でのレコーディングは、ほとんどおまけのデモ・セッションみたいな感じで、アルバムで使うつもりはなかったんだ。だけど、Nika(二階堂和美)と一緒に書いた曲を初めて2人でプレイしてみたら、彼女のパフォーマンスが2度と再現できないような特別で素晴らしいものだったんだよ。それで、東京でやった曲の代わりにアルバムに使うことにしたんだ。
――そうだったんですね。東京でのレコーディングはどうでしたか。
東京でのセッションはすごく混乱したもので、どこがうまくいっていて、どこがうまくいっていないのかも、よく分からないくらいだったよ。スタジオにはブースがあって、しっかり音が分けられていたから、あとで気に入らない部分はカットするつもりで、とりあえず時間中ほとんどずっと演奏してもらったよ。曲ごとに幾つかのテイクを録音して、どんどん次に進んでいったんだ。
――レコーディングまでに、何かしらの打ち合わせやディレクションは行っていたのでしょうか。
特に打ち合わせはしなかったよ。僕自身、レコードの仕上がりがどんな風になるか分からなかったというのもあるけど、参加しているミュージシャン達のスタイルは分かっていたからね。即興で演奏するのが得意なプレイヤー達だったから、特に僕の指示はいらないと思ったんだ。先にも言ったとおり、もし誰かの演奏がうまくはまらなかったとしても、ミックスの段階でそのパートだけをミュートすることもできたしね。
――アルバムを作るにあたってのコンセプトはありましたか。
コンセプトっていうのも特になかったね。ただ、ミュージシャンの組み合わせによって生まれる「サウンド」というものがあって、それがアルバムに一貫性を持たせるとは思っていたよ。スコットランドでミックスをしていた時、いくつか新しいパートを追加することも考えたけど、このアルバムの「サウンド」とミュージシャン達、そしてその「場」の統一性を保つために、新しいパートを加えることはしないと決めたんだ。
――『Lemondale』というタイトルにはどのような意味があるのでしょう。
「Lemondale」っていうのは、僕の夢に出てきたものなんだ。夢の中では日本のメロドラマのタイトルだったんだよ。たぶん、頭の中で色んなことを結びつけていたんじゃないかな。イギリスでは「Emmerdale」というメロドラマがあるし、Steve Cooganのコメディ・シリーズは「Saxondale」だし、Neil Youngのアルバムで「Greendale」もある。それと同じコード進行になっているProcol Harumの「A Whiter Shade Of Pale」の「Pale」とも韻を踏んでるしね。
――あなたはこれまで、THE PASTELSやIsobel Campbell(元Belle & Sebastian)など、様々なアーティストとコラボレートされていますよね。コラボレートすることの魅力を教えてください。
ひとつには自分自身が学ぶ機会として、もうひとつは社交の機会としてだね。一番大きな理由は、予想外の驚くような結果を得るためさ。
――コラボレートする相手が日本人であることは、アルバムにどのような特色をもたらしたと思いますか?
曲によって違うと思うけど、全体的な構造にはあまり影響はしていないと思う。でも、「Piano Rolls」とか、(ラフで)未完成だったトラックには影響が多少表れていると思うよ。でもそれが実際、音楽にどんな影響を与えたのかは正直よく分からないな。また同じ方法で、同じアルバムを別な場所で作ってみたりすれば、結果を比較できるけどね。
――アルバム・ジャケットに描かれているキャラクターは何を示唆しているのでしょう。
ジャケットは素晴らしいアーティスト、Jad Fairの「Winner And Loser」という作品だよ。僕のジャケットは、殆どどれもがAnnabel WrightかJadによるものなんだ。この絵は僕のお気に入りで、いつかジャケットに使いたいと思っていたんだ。このアルバムの制作時は、かなり悪戦苦闘したし、今まで作ったレコードの中でも一番苦労した経験だった。まるで、この絵の中の地面に倒れてる人になったみたいな気持ちだったんだよ。今はそれほどではなくなったけどね。
――日本ではグラスゴー・ミュージックのガイド本が出るくらい、スコットランドの音楽を愛している人たちが多くいます。現在のスコットランドの音楽、もしくはあなたの周りのアーティストで、どのようなものがおもしろいか教えていただけますか。
その質問に答えるのに僕が適役かはわからないけど、僕の友人でFrancois and the Atlas MountainsっていうバンドをやっているGerard Blackが、Babeっていうバンドもやっていて、聴く価値があるよ。あとはAdam Stearns and the Glass AnimalsとRandolph's Leapもね。
――音楽以外にあなたが興味を持っていることを教えていただけますか。
僕は音楽のことで頭がいっぱいなんだ。とはいっても、音楽で食べていくためには、やるとも思っていなかったようなことも、色々とやらなきゃいけないよね。
――今回のメンバーで、ぜひ日本でツアーをしていただけたら嬉しいです!
もちろん、出来たら素晴らしいね! そういう話は出ているけど、まだ具体的な計画は立っていないんだ。できることを願ってるよ!
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BILL WELLS PROFILE
スコットランドが誇る奇才ビル・ウェルズ。70年代後期より音楽活動を開始。ジャズ界で長年活動する傍ら、これまでにザ・パステルズ、イザベル・キャンベル(元ベル・アンド・セバスチャン)、エイダン・モファット(アラブ・ストラップ)等数多くのアーティストとコラボレート。日本のアーティストとも親交が深く、日本でも根強い人気を誇っている。