「感じる数学」で音楽を産み出し続けた33週間ーー33週連続リリース企画「Biff Sound」最終章インタヴュー・セッション
33週間にわたり、浦安にある倉庫を改造したスタジオ・Ice Cream Studioでレコーディング・セッションを行い、その音源を毎週リリースしていく企画「Biff Sound」も無事33週を走り抜けた。思えば、この企画がはじまったのは大雪が降る冬のことだった。そこから、桜の季節、スタジオ内に蚊取り線香の匂いが充満する季節、涼しく過ごしやすい季節を経て、また寒い季節を迎えようとしている。寝静まった工場地帯にある秘密基地のようなスタジオに毎週末10人以上が集まり、夜な夜なレコーディング・セッションをするという小説のような物語が本当に実在したのか? 夢のような気持ちにもなるが、それは33週間しっかりレコーディングされ、すべてが配信されている。この軌跡は、決して失われない。そして新たな萌芽につながっていくことを確信している。
毎月のようにお送りしてきたインタヴュー・セッションも、おそらくこれが最後となる。今回のメンバーは4人。Ice Cream Studioを設計したバンド、hydrant house purport rife on sleepyのsleepy it、この企画の初期からほとんどの週をIce Cream Studioで過ごしたインストゥルメンタル・ロック・バンド、sundelayのギタリスト・弘瀬淳、同じく企画初期に参画しフリー・コンピュレーション・アルバム『Biff Sound Selection 01』のジャケット・デザインをしたデザイナーのスズキシンゴ、「Biff Sound」のラストスパート時にはじめてIce Cream Studioに足を運んだという、カンマレーベル主宰で三村しゅうの創作活動を行う山座寸知。キャリアもセッション回数もバラバラな4人によるリラックスしたセッションをお楽しみいただけたら幸いだ。33週は終われど、ここから産まれる創作物は止まることはない。それは絶対に間違いないことは確かだ。(text by スカムライター西澤くん)
33RECORDのセレクション作品第7弾「Biff Sound Selection 07」全15曲を無料配信中!
33RECORD / Biff Sound Selection 07
ALAC、FLAC、WAV(24bit/48kHz) / mp3 : 0円
【収録曲】
1. tomorrow's happenings(sleepy it)
2. rhymes(Panacea)
3. re-title(placebo sound)
4. tribal feat. DJ CLAMP5 a.k.a. wa5hei(Tessei Tojo)
5. points for tens feat.Hiro Ugaya & VENOM(dull over pull)
6. shy(Sone)
7. acrobat(山座寸知)
8. out of control(DJ R-MASTARD & DJ CLAMP5 a.k.a. wa5hei)
9. familiar(Mike Hannah)
10. balloon(sundelay)
11. i1(Yawn of sleepy & Ryo Takezawa)
12. i was on the ground with harmonies(hydrant house purport rife on sleepy)
13. 鳴らない星(junko minato)
14. rem(Constructions)
15. gh(harmonious)
Artwork by yukino
Mastering by sleepy it
Mix by Yawn of sleepy
倉庫を改造したスタジオ「Ice Cream Studio」でセッション&レコーディングした音源を33週間ノンストップでリリースする、33RECORDによる企画『Biff Sound』。同企画から、第7弾となるセレクション作品が登場。第1弾から変わらず、今回も勿論フリー・ダウンロード作品となる。毎週の配信を「週刊少年ジャンプ」に例えるならば、単行本の様な本作品であるが、いよいよクライマックス、最終回となる。33週間にわたり偶然と必然により産まれてきた33RECORDの記録と記憶。フリー・ダウンロードという形で届けられるこの「招待状」をこの機会にそっと共有していただきたい。
※Biff Sound Selection第1弾〜第6弾は、現在もototoy内で無料配信中!
Biff Sound Selection 01
Biff Sound Selection 02
Biff Sound Selection 03
Biff Sound Selection 04
Biff Sound Selection 05
Biff Sound Selection 06
西澤裕郎によるライナーノート
33週間かけて生み出された『Biff Sound』#001〜#033という33個のパッケージが、時代を変えるような作品なのか、はたまた箸にも棒にも引っかからないような駄作なのか、残念ながらいまの僕には判断することができない。
33週間にわたり、浦安にある倉庫を改造したスタジオ・Ice Cream Studioでレコーディング・セッションを行い、その音源を毎週リリースしていく企画「Biff Sound」。約8ヶ月にわたって行なわれた本企画に、筆者は月1回足を運んで取材を重ねてきた。週末のひっそりした倉庫街に、何食わぬ顔をしながらひっそりと佇む改造された倉庫スタジオ。基本的にこの場所は、ここを知っている人から紹介されない限り入れない。そうした特殊な条件下で、いつでも自由に入ることを許された筆者は、ある意味で特別な役割を担っていたと自覚している。ここで見聞きしたことを、文章というツールを使って外部に発信する役割である。そう書くと、まるでスパイのようだけれど、実際は毎月ここでレコーディング・セッションするメンバーにインタヴューをさせてもらうなど、非常に友好的な関係を結んできた。ただ、突然、筆者もレコーディング・セッションに参加させられることもあり、そうした緊張感は常につきまとうものだった。そして、インタヴューもセッションのように、当日その場で相手を知らされることが常であり、なにも知らない、質問文も考える間もなく行なわれることがほとんどだった。この8ヶ月を通して、いわば、セッション仲間として、筆者も取込まれていたというのが自己認識があるため、33週が終わったばかりのいま、この期間に生まれた作品を傑作であるかどうか客観的に判断するのは難しい。冒頭の発言はそれゆえのものであることをお許しいただきたい。
では、主観的にこれらの作品群をどう感じるのかといえば、これらの作品の評価軸はけっして新しい / 古いという軸で計るべきではないものということだ。むしろ、これまでに先人たちが練りにねって作り上げてきた手法だったり演奏スタイルが使われていることが多い。ギター、ベース、ドラム、打ち込み、ダブ処理、ラップ、スキャット、サンプリング音のループなど、別にここじゃないと絶対できないということはそれほど多くない。また、機材にしたって、都内のスタジオにあるような高価なものに比べれば、個人たちで揃えられるものと編集用Macを精一杯使ってやっている。だから、ここに来たら誰でも変わったものができるかと言ったらそんなことはない。じゃあ、僕がなにを一番魅力に思ったかというと、毎週10名以上の異なったアーティストたちが、金銭的など見返りを求めず予定をあけて、この場所に集まりレコーディング・セッションを行なっていたことだ。そして、そこに生じていた見えない結束力のようなものだ。誤解しないでほしいのは、仲良しクラブという意味合いではないこと。言ってしまえば、一般の社会と同様、ちょっとした人間関係のぶつかりあいが垣間見えたし、それによって疲弊しているアーティストも見えた。それでも月に一回スタジオを尋ねると、それぞれのアーティストたちの顔を見ることができたし、レコーディングになると、一点集中し、そこに自分の魂を吹き込んでいた。それが僕には不思議に思えたけれど、レコーディング後の顔は強い自信のようなものを感じるものだった。
先も述べたように、ここでは商業的な成功を目指す必要もなく、設計図を書いてそこに向かってサウンドを作っていくわけでもない。身ひとつで、そのアーティストが試される場所である。それゆえに恐い。言い訳ができない。「これは売れるためにやったからさ」とか「ああいう要素をとりいれてさ」なんて、余計なことを考える時間はない。突然自分の番がやってきたと思ったら、10数人のアーティストたちに見られた中で、自分なりの音を奏でるしかない。瞬間、瞬間で、自分のできることが出てくるだけなのだ。だから、ここで過ごした数の多いアーティストほど、最終的に出てきているものは、本来のその人固有の音と言えると思っている。そういう意味では、「無」から生まれる音楽。禅のような音楽が潜んでいる。そこに初めてきたアーティストも呼応し、音が重なっていくことで、新しい色が生まれていく。そうした「無」と「偶然」による変化から完成した音楽。それこそが、8ヶ月かよって見いだした、筆者なりの『Biff Sound』の本質だと思っている。
無事33週を終え、フリー配信される『Biff Sound Selection 07』は、『Biff Sound』の終盤にレコーディングされた楽曲から選抜された15曲で構成された作品だ。おそらく、一回聴いただけじゃ、その魅力はわからないと思う。聴き手が「無」とは縁のない生活を送っているだろうから、それは仕方のないことだ。そんななかで筆者がオススメするのは、なにも考えず聞き流すこと。余計なことは考えず、電車での移動時や寝る前にかけっぱなしにしてみてほしい。きっと、思いもよらぬポイントでひっかかる瞬間があるに違いない。そしたらしめたものだ。それは、あなたにとってもIce Cream Studioへの招待状といえる。そこからは、Web上にアップロードされている過去33週の音源を掘り起こしてみてほしい。その作業をへることで、あなた自身を知ることになるだろう。33RECORDのメンバーが33週間かけてやってきたことと同じように。これが、あなたにとってのきっかけになることを強く願って、僕も33週間のセッションをひとまず終えたいと思う。(text by 西澤裕郎)
西澤裕郎
1982年生まれ。長野県出身。書店、製本所、出版社勤務を経てフリーのライター / 編集者に。音楽ファンジン『StoryWriter』編集長を務め、2012年より音楽配信サイトOTOTOYにディレクターとして所属。オルタナ・ロックからアイドル、スカムまで幅広く執筆&編集、ディレクション中。スカムライター西澤くんとして、33RECORDよりポエムコア・アーティストでデビューを果たす。
INTERVIEW : 弘瀬淳、sleepy it、山座寸知、スズキシンゴ
ーー先日ついに『Biff Sound』が最終回を迎えましたが、実際に33週間レコーディング・セッションをやってみた率直な感想を教えてもらえますか?
sleepy it : もともと考えてた通りにはならないと思っていましたけど、考えていた以上に得たものは大きかったと思います。予想外のことも起きたし。
ーーたとえば、どんなことが起こったんですか?
sleepy it : 最初は、知っている人や予想している人が来るイメージだったんですけど、山座寸知さんのような面識がない方だったり、アート活動をする人、映画監督など様々な方が来て、大きく動き出している感じがしました。
ーー山座さんは淳さんが誘ってつれてこられたそうですが、いろいろな知り合いのミュージシャンがいる中で、なぜ山座さんを連れてこられたんですか?
弘瀬淳(以下、淳) : しゅうさん(山座寸知)は、90年代にカンマレーベルでいろいろな音楽のイベントをやったり、CDを出していらっしゃって。当時、自分の知らない音楽に出会うと衝動的に身体が動いてしまうというか、そのイベントがめちゃくちゃ楽しくて、僕自身しゅうさんのギター・プレイを真似してみたい、そしてもっと仲良くなりたいと思っていたので連れてきました(笑)。
ーー(笑)。プロフィールを拝見すると、山座さんは一度音楽を離れた時期もあったそうですね。
山座寸知(以下、山座) : 最初は自分でも音を出していたんですが、その後はレーベルを運営するようになりました。レーベルをやっていたのは記録するということに興味があったためで。その他にいろんなスタンスで音楽には関わっていました。いまおっしゃったように、しばらく音楽から離れてる時期もあって、いまは各地を旅しながら写真を撮って作品を作っているんですけど、それも記録するという意味では音楽と同じ意識なんです。
ーーしばらくプレイはしなかったんですよね? それを再開したのはいつぐらいのことなんですか?
山座 : ここに来てからです。
ーー本当に最近のことなんですね。
淳 : それを吉田監督が撮ったんですよ。
山座 : 音を出すって楽しいなって思いました(笑)。
淳 : 原点ですね(笑)!
ーー自身が記録される対象になって、音にも映像にも記録されたわけじゃないですか? 記録されたものをご覧になっていかがでしたか?
山座 : なにかを捉える側にいたのが逆になって、「あー俺こんな顔してるんだ」とか「こんなふうに身体が傾いてるのか」とか発見がありました。違うところから自分を見るっていうのは、おもしろいですよね。
ーーシンゴさんは『Biff Sound』がはじまる前から企画会議に参加されていたそうですが、33週の間はIce Cream Studioに来る機会がなかったようですね。その期間にリリースされたものは聴かれていたんですか?
シンゴ : はい、オンラインで観たり聴いたりしてました。僕はプレイヤーじゃないのでなかなか参加できないですけど、単純に人がなにかを作っているのを見るのが好きだし、33週間のなかでできた物語が観られるから、全然会ってなかったけど近い感じがしています。すごくリアルな雰囲気とか、空気感が伝わりやすい。演者が変わればその人のバックグラウンドが違ったりするのも、聴いていておもしろかったですね。
ーー音楽であれ、アートワークであれ、なにかを作っていくということは一緒だと。
シンゴ : 基本的に一緒だと思っています。目の前に粘土を与えられたら、人それぞれ違うものを作ると思うんですけど、そんな発想あるんだ!! みたいなものを見せられると刺激になりますよね。
ーーほとんどの週、Ice Cream Studioでレコーディング・セッションをしてきた、sleepy itさんと淳さんに訊きたいんですけど、33週絶え間なく、多くのアーティストたちと集まってセッションすることは、新たな発想を生み出すのに役に立つというか、インスピレーションを得たりするのに大きな影響がありましたか?
sleepy it : それは、もうインスピレーションしかなかったです。さっきの粘土の話じゃないですけど、なんなら隣の人の粘土も取って作るっていう感じ(笑)。いままでの考えと大きく違うのは、そこですね。だいたい、物を作るときは一人じゃないですか? でも、ここに来ると何十人という人がいるので、かっこいいなと思う方法や考え方を最終的には自分のものにして、でかい城を作って、王様になれる(笑)。だから本当に得たものしかないというか。
淳 : でも、粘土を取られた人もいるんじゃない(笑)?
sleepy it : 俺のために粘土をくれて、ありがとう(笑)!!
一同 : (笑)。
淳 : 確かに、それが一番大きいと思う。知らないことをいっぱい知れるから、すごいなって思いましたね。
sleepy it : あと自分を知れますね。
ーーどういうことですか?
sleepy it : 「自分はこういうことできるんだ」とか「こんなのいけるんだ」とかってことを知れる。客観的に見て、sundelayはインスト・バンドじゃないですか? だけど、Ice Cream Studioに来るとアツシさんが唄ってるとか、そういうなかで自分のできることがわかっていくこととかもあると思うんですよ。
淳 : 唄ったきっかけが、ヨウヘイくん(Yawn of sleepy / hydrant house purport rife on sleepy)にプロデュースされたからですしね(笑)。だから、自分の変化というか、新しい発見をすることが多かったですね。
ーー言い方があれですけど、悪ノリみたいな感じから始まることもありました?
sleepy it : 悪ノリというか、最初の考えは純粋なことで始まってるし、それがかたちになっているから、逆なのかもしれない。悪ノリというより、めちゃくちゃ真面目。アホほど真面目だから、逆におもしろくなっちゃうのかもしれない。
淳 : 悪ノリに見せてるだけですからね。
sleepy it : そんなノリでやらないと、できないようなこともあるから。
ーー外から見てると、そんなことまで言っちゃって大丈夫? みたいに突っ込んだ内容もあったりしたので。例えば、僕がはじめてきてレコーディングをお願いされるみたいなことも、けっこうあったんじゃないですか(笑)。
sleepy it : でも、多分ダメなことはやってないと思うんですよ(笑)。それをお願いしたらダメでしょ! ってわかりきったことは言わないから。
ーーなるほど、ちゃんとクリエイティブの範囲内でやっていたわけですね。
sleepy it : … まあ、たまにはみ出るけど(笑)。でもギリギリのところを保つっていうのは大事なことだから。攻めていかないとダメだと思うんですよ。 自分が考えたステージじゃなくて、他人から「ここに乗れ」って言われたなかでやっている部分もあるから、羽目は外さないと思うんですよ。自分の枠は決まってるんだけど、やることは全然違っている。それは傍から見たら悪ノリに見えちゃうけど、そうじゃない。可能性を模索して、背中を押してるだけなんですよ。
「やりたいし、やりたくない」「やりたくないし、やりたい」
ーーそういうところでいうと、山座さんの何年かぶりのプレイは、試されてるじゃないですけど、見られている緊張感が人一倍あったんじゃないですか?
山座 : 家で弾いてるのとは全然違いますよね。でも、試されてるとかはあまり思わなかったです。なんかやってみようかなって思ってやりました。
ーー実際どういうふうに、レコーディングされたんですか?
山座 : 最初はとりあえず音を出すって感じだったんだけど、やっぱり観ているなかで、みんなから提案があるんですよね。レコーディングしたものを仮編集みたいな感じで返してくれるから、レスポンスしやすいんですよ。「俺たちはこういうふうに解釈してるけど、どう?」って行き来があるのが、それがここで作っていくプロセスのいいところじゃないかなと思います。
ーーMV収録の曲は、なにかしらの提案があったんですか?
山座 : あれはねえ、もうすぐ寝そうなときに、まだ力ありますか? って言われて録ったんだよね(笑)。
ーーそうなんですか!! 明け方くらい?
山座 : そうですね。だからあれは気持ち的には最後の締めみたいな感じで録ったんです。
sleepy it : あれは吉田監督のもっとくれ!! っていう気持ちと、山座さんの本来の熱量のやりとりなんですね。
ーー吉田監督にカメラを向けられてるときって、言って見れば自分が記録されている瞬間じゃないですか。そこで、監督とのやりとりみたいなものは感じましたか?
山座 : あんまり意識はしないんですけどね。でもなんか、この辺からこういうふうなのがきてるとかは感じてるので、やっぱり影響はしてると思いますよ。
ーーもしも、この33週をもう一回やろうって言われたら、やるって言います?
sleepy it : できなくはないけど、やりたくはないですね(笑)。っていうのも、同じことをやっても意味がないというか。
ーーそれは確かにそうですね。ちなみに、33週の中で一回休みたいということはなかったですか?
sleepy it : そこらへんが難しいところで。休んだら休んだでもうやりたくなくなっちゃうだろうし、やってたら永遠にやり続けるだろうし。そうなると力つきちゃいそうだから。言葉で表すとすごくおかしなことになるけど、「やりたいし、やりたくない」「やりたくないし、やりたい」みたいな感じ(笑)。
ーー淳さんはどうですか?
淳 : 正直、しんどい時もありました。でも収録が終わって家帰って寝るじゃないですか? そうするとまた来たくなるんですよね。やっぱりこの雰囲気のなかでみんなに会いたくなる。いい歳してあれなんですけど、大勢の仲間って言うんですかね? これはなかなか得られないものじゃないかなと思います。
ーー例えば、これが50週だったら、また違ったものになっていたと思います?
sleepy it : 50週やってもいいと思うんだけど、粘土がなくなっちゃうと思うんですよ。あと、それをやると、自分での活動がなにもできなくなるから。今回の33週の中で粘土がなくなっちゃった人もいるし、最後まで走れなかった人もいるし、そういうドラマがたくさんあった。33っていうのも適当に決めた数字なんですけど、先が長いこともあって消耗とかネガティブな要素も増えていっちゃってたかもしれない。それを含めても十分に実はあったんですけど。そう考えるとまあ、この辺でよかったんじゃないかなと思います。
頭で考えない数学、「感じる数学」なんです
ーーちなみに、ミュージシャンとかイラストを描く人以外にどんな人が来たんですか?
sleepy it : 基本はミュージシャンですよね。で、この前来たのが美容師さん。あとは映画監督、映像ディレクター、そして俳優さんも来ました。
ーー大学教授も来てらっしゃいましたよね。
sleepy it : 来てましたね。後はmore recordsの奈良さんとか。
ーー本当にいろんな人が来てますよね。これだけおもしろい場所だと、山座さんも、自分で記録したいっていう気持ちとかもでてきたんじゃないですか?
山座 : でも、もうみんながやってるからね。あと、みんなコンピューターとネット使って、僕よりも全然フットワーク軽く、自由にやってるなと。僕はあんなふうに自由にできないから。そこはさすがだなと思いましたね。俺より若いし、柔軟だわと思って観てました(笑)。
sleepy it : 俺も自分より、もっともっと若いやつが来たらいいなって思います。いま34だけど、18のときにここ来ていたら、30になったときに見える世界もぜんぜん違っただろうし。年齢の話でいうと、山座さんは逆なんですよね。すごく肉体的なんですよ、俺らの世代から見ると。俺らの一撃の弱さがね。バコーンっていうのが自分の世代よりすごい。
山座 : こっちは原始人みたいだけど(笑)。
ーー先月の取材に登場してもらったSoneさん(ATLANTIS AIRPORT)もそうですけど、若い子たちの持っている感覚も全然違ってますし、そこが混ざるとおもしろいですよね。
sleepy it : いま、10代のころに思い描いたものより、はるかに上のものをやっているから、若いときここに来たら、おしっこちびっちゃいますよ(笑)。そもそも音楽やろうと思っていたわけでもないし、先がどうなっていくかなんてわからないし。
ーー確かに、この場所があるっていうのは、なにより大きいですよね。シンゴさんは、Ice Cream Studioという場所に期待することってなにかありますか?
シンゴ : 真面目に大人が遊んだらどうなるかっていうのが究極じゃないですか? そこで僕も一緒に遊びたいし、それこそ小学生とか中学生ができないことをやりたい。10年くらい前から「大人が本気で遊んだらどうなるか」っていうのがテーマとしてあるので、それを具現化できる場所を見せてもらえたなって思います。おもしろそうな素材もいっぱい転がっているから、音楽以外の形で関われたらいいなと思います。最初のセレクションのアートワークも大変だったけどおもしろかったです。
ーー淳さんが期待することってどんなことですか。
淳 : こういう場所でできる音楽を、もっと知ってほしいというか。こんな時代というか、ナンセンスなことが多いんだけど、そういうときにできた音楽を配信できているんじゃないかって僕は感じているんです。心から出るというか。そういう活動をしているっていうのをもっと知ってほしいです。
ーー厳しいようですけど、そこまで能動的に音楽を掘って掘って辿り着くというのは少数だと思うんですよ。そのなかで淳さんの中心にあるモチベーションってどんなものなのかなって訊きたいんですけど。
淳 : うまく言えないんだけど、作られた音楽じゃなくて、作っているっていうんですかね。例えば、数学だと最初に方程式を使って答えを求めるじゃないですか。でも、ここの音楽には答えがない。1+1が2じゃなくていいわけで、どれでも選べるっていうか… 頭で考えない数学。数学なんですけど「感じる数学」なんです。
一同 : (笑)。
淳 : うまく言えないんですけど、そういう音楽をやっているというか。
ーー同じ方向を向いているアーティストたちが集って、スピード感を持ってやっているのが、なによりも素敵ですよね。
sleepy it : 俺、最近思っていて、求める強さが大きいと喜びも大きいんですよ。一人でやっていて、求めているものができないと、その分苦しい。でもここではそこの苦しみをすっとばして作って行けるから、それが嬉しいし、言ってみれば、感じる… 数学ですよね!!
一同 : (笑)。
山座 : 感じる数学っていいね。気に入った。
sleepy it : これ言おうと思って考えてきたんじゃないかってくらい、いいよね(笑)。
シンゴ : たしかに、みんな答えが違うってことですからね。
sleepy it : 淳さん、それ俺が言ったことにしてもらっていいですか?
一同 : (笑)。
『Biff Sound』第1弾〜第33弾ラインナップ
>>吉田光希、Sone、Yawn of sleepyへのインタビューはこちら
>>VENOM、kokko、Kampowへのインタビューはこちら
>>金子泰介、金子祐二、アレックス・ケレハーへのインタビューはこちら
>>アラカキヒロコ、浅田泰生、バロンへのインタビューはこちら
>>長塚大地、mal da kid、DJ CLAMP5 a.k.a. wa5heiへのインタビューはこちら
>>Ryo Takezawa、Alex Martin、Mike Hannahへのインタビューはこちら
>>『Biff Sound』スタート時のインタビューはこちら
PROFILE
スズキシンゴ
デザイナー。小さい頃からモノづくりに触れ、デザイン業界に足を踏み入れる。 眼前の現実的な素材を組み合わせて物語を創り上げるデザインを目指して邁進中。 スペインで美術を学んでいる時に偶然出会ったAlexとの繋がりでsoapや他のミュージシャンのジャケットやフライヤー作成を担う。目の前の(非)日常を切り取った世界観を2次元、3次元を利用して創造する作品をコンセプトに不定期で活動。
山座寸知(soonchee 3the)
カンマレーベル主宰である三村しゅうの創作活動を行う際の名。
90年代前半からヨーロッパ、アメリカのインディペンデント・ミュージック(テクノ、ノイズ、エレクトロ・ポップ、エクスペリメンタル、クラストコア、デスメタル、アザーミュージック等々)の日本国内ディストリビューションに携わりつつ、詩と踊りとポンチ歌謡+ノイズによるパフォーマンスグループ『LOVE LOVE PROJECTION』の公演を山谷の路上、公園でのフリーマーケット会場、都内の公民館など様々な場所で行う。同時に、ギタリストとしてハードコア・パンクドラマーのマル、DUBSONIC中里丈人らと共にライヴ活動を続けた。
97年からは、祝祭的音楽体験を志向するレイブカルチャーを日本独特の雑食ポップ感覚で消化・昇華することをコンセプトとした『カンマレーベル』を開始。DJ光光光、AOA、SOFT、NXS、NUTRON等の作品リリースし、自主パーティー『カンマナイト』を不定期に開催した。00年代後半からはデジタル情報網を基盤とする新しい環境に同調できず、一時身を引き、日本に暮らす外国人に日本語を伝える活動に従事した。
2012年、カンマレーベルのパートナーであり、デコレーショングループ『フニャクラ』の一員であった画家ナガツカモトコが世を去り、以降、ナガツカの遺作となったナマハゲ少女人形と日本を旅し、古代からの記憶を伝える聖なる地と、近現代において列島に刻まれた傷跡を訪れ、象徴的なスポットにて記念撮影を行いながら私たちの国と私たちの生きる時代を見つめ直すプロジェクト『ナマハゲちゃんの巡礼』を開始した。翌年、33RECORDのレコーディングにギタリストとして参加、約15年のブランクを経て自ら音を発する活動を再開している。
弘瀬淳 / ヒロセアツシ(sundelay)
長塚大地(Guitar)、浅田泰生(Bass)、バロン(Drums)、弘瀬淳(Guitar)の4名からなるインストゥルメンタル・ロック・バンド。 2005年晩秋、「“此処ではない何処か”を音楽によって創造する」をコンセプトにsundelayをスタート。都内を中心に精力的にライヴ活動を行い、高い評価を受ける。ダイナミックかつ繊細なサウンドは、体験した者の世界をずらす。
sleepy it / スリーピーイット(hydrant house purport rife on sleepy)
ミュージック・サイエンスを掲げる4人組バンド。オルタナ meets IDM、ローファイド・デジタルといった幅広い楽曲が特徴。所有のIce Cream Studioにて制作されるタイトルは多数。作品ゲストにAdam mowery、BLANKBANSHEE、Sarah Loucks、WoodenWives、青木裕(downy / unkie)、イケダユウスケ、カヒミカリィ、Cuushe、田中光、ハチスノイト、フラグメント、Limited Express (Has Gone?)など。以前在籍していたkilk recordsとも親交が深い。インタヴュー登場のAlex Keleherがオーガナイズした2008年のカナダ・ツアーでは、SLEEPYHEAD / hang out sleep head on sleepyとして5都市12会場17公演を行い高いスコアをあげた。
2011年『wonderlust EP』、『roll over post rockers , so what newgazers』
2012年『reminiscing e.p.』、『many of these memories of the sun, and increasin' gratitude』
2013年『Those Which Desired e.p.』※、『Cutting Beat Instrument Draws Happiness』※
※Cutting Beat Instrument Draws Happiness名義
33RECORD
Ice Cream Studioに集う作品をお届けする不確定的コミュニティ・レーベル。3月3日より33週連続配信企画スタート! 初回の所属アーティストとして発表されたアーティストは、Lee "Scratch" Perry、Adrian Sherwoodとも共演した経歴を持ち、ドイツの老舗DUBレーベル〈ECHO BEACH〉などからも称賛を集める“E.D.O. ECHO SOUNDSYSTEM”のJINYA、 90年代インディー・ミュージック・シーンを牽引したUK PROJECTの雄、〈SECRET GOLD FISH〉の長塚大地擁する“sundelay”、フリー・スタイル・ラップ・バトル〈UMB 2012〉CHIBA CHAMPION “田中光”、昨年待望の復活を果たした〈downy〉のギタリスト青木裕や〈カヒミ・カリィ〉との共作の発表でも話題を集める“hydrant house purport rife on sleepy”など、既にとても多種多様。