
元RYTHEMのヴォーカル・ギター、加藤有加利。彼女の心の中には、もうひとつの現実世界=パラレルワールドが存在している。その世界に住み、悲しみや苦悩を全部背負ってくれている存在こそが、その作品、そして本稿の主人公、yucatである。なぜyucatが生まれたのか? そして2人の関係性とは? 作品のテーマとなっているパラレルワールドについて本人によって語られたストーリーを、以前の特集ページで公開した。そして今回、そのパラレルワールドの続編をうたった2ndアルバム『PARALLEL WORLDⅡ~第3ノ道~』を配信スタート。それとともに、yucatへの直接取材を決行した。yucat誕生の話、そしてyucatを描くことになった理由、彼女が影響を受けている世界など、じっくりと伺った1時間。どうやら、yucatの住んでいるパラレルワールドは、現実の世界とリンクしているらしい。つまり、このリリースを経て、パラレルワールドは新たな変化をみせていくわけである。多くの人たちに開かれはじめたyucatのパラレルワールド。そこから目を離さないでほしい。
インタヴュー& 文 : 西澤裕郎
ライヴ写真 : 雨宮透貴
イラスト : 藤木ゆう
待望の2ndアルバムを配信スタート
yucat / PARALLEL WORLDⅡ〜第3ノ道〜
【配信価格】
wav : 単曲 200円 / まとめ 700円
mp3 : 単曲 150円 / まとめ 500円
【収録曲】
1. 第3ノ道
2. Tick Tack
3. steamroid
4. D2
5. 言霊
INTERVIEW : yucat
ーーyucatは、有加利さんのなかで11歳ころに生まれた存在ということですが、どういうきっかけで生まれたんでしょう。
わたしが生きていくために、いなくてはならない存在として生まれてきてしまったんです。家庭環境とかが複雑で、どうやったらそこから抜け出せるのかもわからなかったし、自分の力じゃなにも変えることができなかった。言ってしまえば、現実逃避なのかもしれないですけど、「これはいま私がされていることじゃない」とか「いま負っている苦しみや傷じゃない」ってことを、全部yucatが負ってくれていたんです。

ーーyucatがいたからこそ、正気を保って生きてこれたと。
そうですね。ずっと二人三脚でバランスをとって生きてきた人生だったので、表に出すつもりはなくて、実像化していたわけでも、パラレルワールドに名前があったわけでもないんですよ。RYTHEMが解散して、これからも歌い続けていくって決めたときに自問自答して、彼女を表に出すことによって自分がどう変化していくのか、同じように悩んでいる人が変わってくれるんじゃないかと思い、世界に名前をつけて、ひとつずつお披露目していくことに決めました。
ーー2ndのイラストを見る限り、飛行船が飛んでいたり、僕たちが生活している世界とは違う世界のようですね。
といっても、現実とリンクしていて、現実でこういうことがあったから、こっちではこうなっているという世界なんです。だから、どこかしら現実感はあるんだけど、こうなりたいっていう空想話妄想話みたいなものがこの世界では叶うし、叶うから生きていけるんです。その境界線を表現していけたらなって思っています。
ーー2ndはカラフルな世界が描かれていますが、1stはモノクロでゴシック調の世界が描かれていましたよね。
以前、アトリエ教室に通っていたことがあって、そのときに光を表現するためには影を描くことが本質だってことを知ったんです。影を書くことによって光を表現する。yucatで表現できるものはそれだなって。
ーーそれはおもしろい考え方ですね。光と影とおっしゃいましたが、yucatさんの世界観って、両極端なものを対にして表現することが多いですよね。生と死もそうですし。
そうですね。生きてるときには死を感じていますし、言ってしまえば幸せを感じるときに常に切ないっていう感情も持ってしまう。常にそういう考えがあるから、逆にあるものを感じて生きていれるんだと思います。
ーーいまはyucatとして表舞台に出ているわけですが、それってyucatを演じている感覚なのでしょうか。
演じるとかではなく、逆にそのままっていう感覚に近くなりましたね。それまでは、みんなが求める自分だったり完璧な人間でいるために、オンとオフの顔だったり、表と裏の顔を使い分けることもあって。いまはもっと素のわたしでいこうと思って、そのままでやっています。だから、演じてるっていう感覚ではなくて、持っていた仮面を取ったっていう感じに近いのかもしれないですね。
ーーyucatとして表舞台に出ることで、本来の自分が出せるようになってきたと。
だから、楽になったのかもしれない。受け入れてくれるひとを見つけることができたからだと思うんです。側にいてくれるファンのひとたちがいるので、すごく救われたんだと思います。
ーー受け入れてくれる人たちがいたからこそ、2ndでその世界を見せていこうという気持ちになれたんですね。
1stは、yucatの住んでいる世界の扉の前までだったんですよ。でも、みなさんから「連れて行ってほしい」「もっともっと知りたい」と、たくさん声をいただいて。だったらみんなを迎えてあげたい、同じように苦しんでいるひとたちと、いまいる世界を生き抜くためにパワーをあげたいと思って、ちょっと世界を開きました。
映画やアニメを自分の世界とリンクさせて出していく作業が好き
ーー先ほど対の話をしましたが、RYTHEMがあったからこそ、いまのyucatがあるとも思うんですね。RYTHEMのなかでの、有加利さんと(新津)由衣さんも対のような存在だったんでしょうか。
いや、そこは対じゃなくて、共鳴する部分がすごく多かったんです。似ている部分も多かったし、双子かってみんなに思われるぐらいで。でも人って絶対変わっていくもので、最初はふたりともそれが恐かったんです。年を重ねるうちに、やりたいことがそれぞれに見えてきて、それで対になってしまうのであれば、やりたいことをやったほうがいいと思ったんですよね。個と個のRYTHEMになるのであれば、別々に表現をしないと、逆にふたりが持ってる表現力、表現物を削り落としちゃうんじゃないかと思って。ふたりいるから倍のものができるって信じているので、お互いのをやりたい世界を生み出していくほうが素敵なものが生まれるんじゃないかって。それは表現者として感覚ですね。
ーー実際、由衣さんはNeat'sとして活動しているわけで、それぞれがお互いの表現を突き詰めてやっていらっしゃるのはすごいですよね。
おもしろいなって思います。
ーーちなみに、yucatさんはどういうものに刺激を受けることが多いんですか。
小さいころ、マンガやテレビを見ちゃいけない環境だったんですよ。RYTHEMをはじめて、お家を出たんですけど、そのとき自由だと思って。観る世界、観る世界が、それまでと違くて。特に感銘を受けたのが、アニメだったりマンガの世界だったんですよね。その背景に流れている音楽や主題歌にすごく影響を受けて、楽曲を生み出すようになっていきました。
ーーブログを拝見しましたが、すごくマンガを買ってらっしゃるんですよね。そのなかでも特に影響を受けたものとかはありましたか。
エヴァンゲリオンですね。
ーーエヴァンゲリオン展にも足を運ばれていましたもんね。どういう部分が好きなんですか。
わたし、すごく哲学書が好きで、倫理の授業も一番好きだったんです。それが詰まってるって言われて。それで観たらもう意味不明で、哲学だーと思ってはまりました(笑)。
ーー(笑)。yucatさんとシンクロする部分もあったんですか。
シンジくんの性格がyucatと被ってたんですよね。自分の弱い部分、闇の部分を担っている部分に共鳴して、これは形にしなくちゃいけない!! と思って。「steamroid」っていう曲があるんですけど、それは完全にエヴァンゲリオンの曲です。そう思って聴くと完全にそうなのでおもしろかったりします。

ーー他のひとが作った作品を積極的に観たり吸収されてるんですね。
映画だったりアニメだったりもそうですけど、そういうものを自分のなかに取り入れて、自分の世界とリンクさせて出していく作業が好きなんですよね。ぜんぜん違うものになっていくんですけど、作品を自分なりに解釈して伝えるっていうのがわたしが作り出す音楽なんだって思ってます。
ーーその解釈を音にするために、周りの人に伝えていくのは大変じゃないですか。
だから難産なんです。いちばん近いひとに伝わらなかったら、きっとみなさんにも伝わらないと思うので、伝えられらなかったものは熟成させるために取っておきます。これは伝えられる、というものは、レポート用紙に書いて、分厚い資料をお渡しして読んでもらうんですけど、そうすると、みなさんにわかってもらえますね。1stアルバムはTHE野党の篤志さんにアレンジしてもらったんですけど、今回はボカロPのゆよゆっぺさん、Powerlessさんを加えた3名の方にやっていただいて。それを3人に読んでいただいたら、あらま不思議って感じで、それぞれみんな違うものになると思ったんですけど、世界観が伝わっていて素晴らしいと思いました。
ーー前回の「D2」の無料配信のときに、1stのときに書いていただいた文章を掲載させていただいたじゃないですか。ああいう風景の描写とかも含めたものをお渡ししたんですか。
そうです。「D2」もそうなんですけど、「Tick Tack」「steamroid」とか登場人物が増えたんですよね。だからその楽曲たちをよりよくわかってもらうために自己紹介、プロフィ―ルなんかも合わせてお渡しして。例えば、パラレルワールドに、暴走マシーンで入ってきたら「Tick Tack」の時計の部屋に行かなくてはいけません、っていう感じで、みなさんにストーリーをお渡ししていて、そういうストーリーがあっての楽曲たちでもあるんです。
ーーyucatの扉が、かなり開けてきたんですね。
広がりましたね。
戦って生きていく爽快感を伝えていけたらいいなって

ーー前作を出したことによって刺激を受けて、この世界が変わったみたいなところもあるんですか。
そうですね、前作は本当に自己紹介だったので、今作はその世界を描いています。ただ、yucatで音楽を伝えようってなったときに、不幸自慢をしたいってわけじゃなくて、わたしにしか伝えられない応援歌や歌があるんだってことをわかってもらうために前作を作りました。2ndはパラレルワールドで、わたしがどうやって戦いながら日々を生きているか、同じようにパラレルワールドに行きたいひと、同じように辛い思いをしているひとたちと「一緒に戦いにいかない?」って扉を開いています。きっと3rdはより勇ましく戦いに満ちてると思います。
ーーRPGのようにレベルアップしてる感じがしますね。RPGって絶対に敵がいるじゃないですか? yucatにはそういう敵みたいな存在はいるんですか。
います。学校生活だったり家庭、社会もそうで、何かのストレスを抱えながら戦ってると思うんですよ。目に見えないものと戦っている。それがパラレルワールドでは形になって出てきてしまう。それと戦って生きていく爽快感を伝えていけたらいいなって思います。みんなのパワーになって現実でもがんばれるような存在がyucatなんで。それを音楽で伝えられないかなっていうのが大きなテーマです。
ーー自分の中だけの存在だったyucatが、いろんなひとのyucatになっていく感じがしますね。
それは望んでいたことかと言われると違うんだけど、出してみたら、みんなに必要な存在になってきて。そういう存在になれるなら、いくらでも出しますって気持ちにはなってますね。
ーーあと、ブログにyucatさんが聴いているCDが載っていて、コーンとかエヴアエッセンスが載っていたのが意外だなと思って。エモーショナルさや攻撃性みたいなのにも、惹かれているのかなって。
求められるものを作るっていう作家的なことはできちゃうんですよ。J-POPでいきましょうって言ったらぜんぜん作れますし、アニソンも作れます。でもyucatとしてどうしたらいいんだろうってなったときに、こういう世界観から出来上がったから、ほとばしる感というか、そういう音楽が一番しっくりきたんですよね。そういう感情をぶつけるにふさわしい曲だなと思ってやってみました。
ーーいろんなことができる中で、本当にやりたいこと、わき上がってくるものを表現しないと、いまの道を選んだ存在意義みたいなものも失ってしまうかもしれませんもんね。
そうですね。自分でいいと思うものだったり、これをやりたいと思うものをやらないといけない気がしてます。それこそ、大切なものを終らせてまで始めてることなのでいまの精一杯の作品だって、これがやりたいことなんだっていうことを伝えていくことがいまは大事なのかなって思ってます。

ーー3rdがさらに楽しみですね。もっと世界が広がって、yucatとその仲間たちが自由に動き出すような作品になりそうですね。
まだまだ登場人物がいるので、新しい登場人物もでてくると思います。あと、今回スチームパンクにしましたよね、ってすごく言われるんですけど、これもひとつの世界を切り取っただけなので、いろいろとこれからも変わっていくと思うんです。もちろん、私自身も変わっていくし。最近は変わることを怖がらなくなってきたので、変わっていくことも楽しんでもらえたらいいなって。どんなふうに世界が変わっていくのか、わたしも楽しみだし、みんなも楽しみにしてもらえたらいいなって思います。
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LIVE SCHEDULE
yucat『PARALLEL WORLDⅡ 第3ノ道』発売記念イベント決定
2013年9月21日(土)@タワーレコード池袋店 6F
14:00スタート
2013年9月22日(日)@タワーレコード梅田NU茶屋町店 6Fイベントスペース
14:00スタート(13:30集合)
2013年9月23日(月・祝)@HMV栄
15:00スタート
yucatワンマン・ライヴ
PARALLEL LIVE Vol.3 ~ハロウィン生誕祭~
2013年10月18日(金)@渋谷 WWW
料金 : 前売り ¥3,800- / 当日 ¥4,300- ※別途ドリンク代
時間 : OPEN 18:30 / START 19:30
PROFILE
yucat

加藤有加利のもう一人の自分
歌うことしか知らない
歌で心の闇を浄化しようとしている
読み方 : ユキャット
誕生日 : 2011.10.31 身長 : 155cm 体重:CP4匹 性格 : 気ままでわがままで甘えん坊
一人の時間は好きだけど寂しがりやで一人ぼっちは嫌
Twitterの中で夜な夜な徘徊をしては本当の心を見せ、甘える
好きなモノ : 歌うこと 歌で出会った人達
嫌いなモノ : 大きな音 静寂 叩かれる 他人の涙 一人
欲しいモノ : 息の吸える場所、あったかいモノ
好きな食べ物 : アイス、氷
嫌いな食べ物 : 肉

CP
常にyucatのそばにいる存在
勝手に現実界を放浪する癖がある
PARALLEL WORLDの案内人
読み方 : CP (シーピー)
名前の由来 : yucatの心のパートナー、心を映し出すコピー、Closed Pain(閉ざされた心痛)
誕生日 : 不明
身長 : 現実界と同じ。基本子猫サイズだが、自由自在に変える力を持っている
長所 : 誰とでもすぐ仲良くなる
短所 : 睡眠時間を妨害されるとイライラする
趣味 : 現実界を放浪しては友達を探しこっちの世界(PARALLEL WORLD)に連れてくる
好きな食べ物 : 鮭フレーク
特技 : 鮭フレーク作り
嫌いな食べ物 : キャットフード
集めているモノ : 人間の影、闇の部分
好きな場所 : yucatの隣
好きな時間 : yucatの歌声を聴いてる時
好きなこと : 歌うこと、おしゃべり、食べる、寝る