
アーティストの作品は、作者自身の軌跡である。(ことマイク・キンセラ)の5作目のアルバム『NEW LEAVES』には、彼が今いる場所が艶やかに示されている。シカゴ・パンク〜インディペンデント・シーンの伝説的バンド、Cap'n Jazzのメンバーであり、ティム・キンセラの弟でもあるマイクは、Joan of Arcのドラマーでもある。並行して自身のバンド、アメリカン・フットボールでギターを持ち、自作の曲を歌い始める。アメリカン・フットボールはアルバム1枚を出して解散してしまうが、その活動はに繋がっていく。活動当初の曲は孤独者でありひとりの世界を生きる青年の心情が込められていた。だが、父親との死別と結婚という大きな出来事を経験し、プライヴェートでの大きな変化を伴いながら発表された前作『AT HOME WITH OWEN』には、叙情的で美しくも果敢なげな楽曲が収められていた。
それから3年。タイトルは『NEW LEAVES』と、10枚の新しい葉が並んでいる。それは、新たな生命の誕生を比喩するものでもある。彼は父親になったのだ。アーティスト写真には、マイク夫妻と1人の子ども、そして犬が草原に会している。兄の背中を見てバンドを始め、様々なプロジェクトを経て、として自分の心情を歌にしてきたマイク。その足跡は、作品毎に色を変えながら美しい音を奏でている。人生の経験がサウンドの奥行きを深くし、聴き手にダイレクトに訴えかけてくる。一人のミュージシャンとして、父親として、人間として、歩みを刻み続ける彼に話を聞いた。
インタビュー & 文 : 西澤裕郎
翻訳 : 川野栄里子

過去と全く違う考え方になっている自分に気付いたんだ
—前作『AT HOME WITH OWEN』から約3年振りのリリースとなります。3年という時間をかけて作られた理由を教えてください。
色々なことがあっての結果なんだけど、どうも僕は予定よりリリースが遅くなるみたいだね。まぁ、それに加えてここ2・3年、僕自身の中で音楽以外に色々なことがあったからね。奥さんのこととか、子供のこと、家のことなどね。実際『NEW LEAVES』のギター録りを始めたのは2007年の秋だったんだ。結構早く終わるんじゃないかな、なんて思いながら始めたんだけど、結局2009年の春までは腰を落ち着けて曲を完成させる時間もモチベーションもなかったんだよ。
—『NEW LEAVES』というタイトルからは、新しい命の誕生や瑞々しさを感じます。父親になられたこともタイトルに反映されているのでしょうか?
うん。アルバムのタイトルは主に、親になってみて初めて実感した新しいものの見え方とか、そういうものに対して新しい自分になっていくこと、そんな意味合いが込められているんだ。これまでと同じ環境の中にいても、いつも一緒にいた友人たちの中にいても、過去と全く違う考え方になっている自分に気付いたんだ。
—日本では、Cap'n JazzやJoan of Arcの名前と共にが紹介されておりますが、もはやはそうした前置きのいらない唯一無二のアーティストであると思います。
僕の音楽を人がどう分類して位置づけるかは、僕にとっては結構どうでもいいところだよ。君があげたバンドと僕の音楽が似ても似つかないにしても、彼らと一緒に演奏したり、彼らの音楽の一部でも共有し合える部分があったりすることによって、今日の僕ができているんだよ。ミュージシャンとしてももちろんだけど、人としてもね。だから僕自身と彼らの間に距離をはかる必要もないと思うんだ。
—あなたの作る楽曲はメロディのよさもさることながら、音作りに関しても秀逸だと思います。暖かみのあるギター・サウンド等は、どのようにして作られているのでしょう?
これについては、試しては失敗してばっかりだね。音の鳴りがすごく良いオープン・チューニングを使うことはよくあるよ。だからレコーディングの時はその鳴っている音をできるだけ最大限に拾えるようにマイクを置くのに時間をかけるんだ。マイクの(あるいはマイクの前にいる僕の) 位置を変えなければいけないことはよくあるよ。僕の音を気に入ってくれて、うれしいよ!

曲というものは自分自身の人生の中にすでに存在しているものだと思う
—近年のアメリカでは、をはじめとした一国民のリアルな本音が綴られた曲が受け入れられているように感じられます。昨年のリーマン・ショックやオバマ大統領誕生など、国民の声は今まで以上に重要な意味を持っていると思います。あなたの楽曲もそうした一国民としての日常や声を代弁していると思いますか?
うーん、僕の曲は政治的な意味あいのものではないよ。でもそれによって人々が何らかの形で影響をうけていてくれたら、そう考えると嬉しいことだよね。
—今作を作るにあたって影響を受けた本や映画などがあれば教えてください。
僕は自分が体験してきた人生の中での出来事や、身近な人たちとのかかわり合いに影響をうけていると思うんだ。自分が素敵だなと思ったことや、本や映画の言葉や登場人物たちにインスピレーションを受けて曲にすることもあるけど、僕は曲というものは自分自身の人生の中にすでに存在しているものだと思うから。
—父親になられたことで、音楽に対する考え方や歌詞などに変化はあったと思いますか?
うん。年を重ねて、自分が責任を持たなければならない状況や沢山の人たちに出会うにつれて、僕の中での優先順位やものに対する考え方は変わってきていると思うよ。それは僕の音楽の中にも確実に反映されている。物事を社会的な目線で書いた曲よりも、道徳だとか死に対する考えについてだったり、そういったパーソナルな曲も多いよ。

—シカゴでは、現在どのような音楽シーンが形成されているのでしょう?
正直言って、最近の音楽については僕はあまりよくわからないんだ。バンドをやっている友達がいて、その中でもすごくかっこいいバンドもいるから、それを見に行ったり、可能であればサポートで加わったりすることは好きだよ。でも、現代の音楽を知って、それを取り入れて、みたいなことに関して僕は全く興味がないんだ。宣伝することによって宣伝効果しか生み出さないバンドが近年はたくさんいる気がするよ。それが結局人をがっかりさせてしまうことも多いんんじゃないかな。だから僕は『ミュージック・シーンの中にもう一度火をつけて元気にしよう! 』というよりも、そこから一歩外れてそこにいるような感じかもね。
—今後の活動計画があれば教えてください。心から来日を期待しています!
『NEW LEAVES』のリリースに伴っていくつかライブのライン・アップは決まっているよ。10月に短いけどイースト・コーストでツアーもあるよ。それから少しの間は曲を書いたり、マイ・ホーム・パパを楽しむ時間があるんだ。その後でようやく1月に日本にまた行けると思う。本当に僕も待ち遠しいよ!
& records 作品から良質のポップ・アルバムを紹介
Yoi Toy / YOMOYA
日本語ロックのニュー・スタンダードとも言うべき、ゼロ年代型シティ・ポップの名盤。前作『YOURS OURS』より約一年ぶりの新作。 2008年末、プロデューサー/エンジニアに、OGRE YOU ASSHOLEの出世作『アルファ ベータ vs, ラムダ』やmooolsの名盤『モチーフ返し』を手がけた7e.p.の斉藤耕治と多田聖樹を迎え制作された2ndアルバムは、 常にライヴのクライマックスを演出してきた11分強の大曲「雨あがりあと少し」をはじめ、フィッシュマンズにも通じる 浮遊感を漂わす「サイレン、再度オンサイド」、そしてJ-POPチャートに登場してもおかしくないほどの訴求力を持った名曲「フィルムとシャッター」、「世界中」などといった充実。
The Past Presents The Future / Her Space Holiday
サンフランシスコのマーク・ビアンキによる宅録ソロ・ユニット。元々、確かなソングライティングでインディー・ポップ・ファンには知られた存在だったが、エレクトロニカやヒップホップの要素を獲得した『THE YOUNG MACHINES』で、その音楽はジャンルを超えて幅広い層にアピールできることが証明された。本作は、これまで以上に洗練されたポップなメロディーが、これまで以上にグルーヴ感の増したビートに乗り、唄、リズム、サウンドが一体となってインティメイトな世界を生み出すキャリア最高傑作。
It could be done if it could be imagined / folk squat
2002年より活動する平松泰二と田原克幸による宅録ユニット。これまでHer Space Holiday、Nobody & Mystic Chords Of Memory、Tracer AMCなどのオープニングを務める。本作ではゲストの参加は最低限にとどめ、あくまで2人で、しかし発達したテクノロジーとセンスによって、彼らの思い描く世界観を獲得することに成功。いわば、各地で賞賛された初期衝動の詰まった1stの頃のマインドのまま、やりたいことをやりきれた、1stの進化版、完成形と言える。彼らのエッセンスが、混じり気なしに凝縮された濃厚な傑作。
Uphill City / I am robot and proud
トロント王立音楽院で10年間クラシック・ピアノを学んだ後、コンピューター・サイエンス科の学位を取得しながら、2000年よりIARAP名義で活動を開始する。06年にDarla Recordsより3rdをリリース。その独自の温かみのあるポップなエレクトロニクス・サウンドが世界中から高く評価される。日本でも大きな評判を呼び、輸入盤店および配信にて爆発的な売上を記録する。数々のサウンドトラックやCM音楽を制作しするなか発表された4thアルバム。
alive at the wall / nhhmbase
2004年の結成以来、変拍子や転調を多用しながらも、不思議なほどシンプルでポップな印象を与える楽曲と、ときに出血し救急車で運ばれるほどテンションの高いライヴを武器に、group_inou、トクマルシューゴ、OGRE YOU ASSHOLEらとともに、新たなシーンを作り上げる。本作は、彼らの本領であるライヴを、それも旧メンバーによる最後の演奏となった2008年11月2 日台北公演を完全収録した初のライヴ・アルバム。nhhmbaseは、現在新メンバーを迎えて、マモルのソロ・プロジェクト的色彩を強めた新たなバンドとして再始動しているが、長らくライヴ・バンドとして高い評価を得てきた第一期nhhmbaseの最高の瞬間を永遠に封じ込めた貴重な作品として輝き続けるだろう。
PROFILE

そしてザ・プロミス・リングという90年代半ばから現在にまで通じるEMO〜ポストロック・シーンの代表的2大バンドを産み落としたことでいまや伝説的な存在となっているCap'n Jazz。中心となっていたのは、現在もの中核であるティムとマイクのキンセラ兄弟。そこでは一貫してドラマーとしてリズムを支えていた弟マイクが、兄に勝るとも劣らない唄心の持ち主であったことは、1999年にリリースされたアメリカン・フットボールの傑作アルバム『American Football』で広く知られることとなった。アメリカン・フットボールとしては1作で終わってしまったが、その後も様々なバンドでプレイしつつ、自らの唄心を育み続け、それは新たなプロジェクトとして結実する。