2人はなぜアイドル運営の道を選んだのか──ダブルハピネス、現体制ラストEP『創造姉妹』
シンガー・ソング・ライターのヨネコ(ex.MIGMA SHELTER)と、ぽわんのメイビーモエによる2人組セルフ・プロデュース・アイドル・ユニット、ダブルハピネス。先日、彼女たちから編集部に届いたニュースは「3月9日の新メンバーお披露目ライヴをもって、メイビーモエとヨネコは卒業して今後は運営にまわる」というものだった。いったいなぜ2人はアイドルを卒業して、運営に回ることを選んだのか。現体制のダブルハピネス、最初で最後のインタヴューをお届けします。後日、新メンバーのインタヴューも公開予定なので、そちらもお楽しみに。
ダブルハピネス現体制では最初で最後のEP!
INTERVIEW : ダブルハピネス
2010年代はアイドルのあり方が大きく変わっていった10年間だった。インディー音楽をはじめとした様々なジャンルを取り入れたアイドルが生まれたり、NegiccoのNao☆やでんぱ組.incの古川未鈴が結婚後もアイドルを続けることを宣言するなど、連続的に少しずつ変化を見せていった。その変化は今も起こっている。その1つが、アイドルを行なっていた女性がプロデュース側に回ってグループを運営するという流れだ。2018年には劇場版ゴキゲン帝国Ωの白幡いちほがプレイング・マネージャー的な立場で活動を始め、2020年には初期BiS/BILLIE IDLEのメンバーであったプー・ルイも会社を立ち上げアイドル・グループを始動させようとしている。
そうした時代の変化の中で、同じくプレイヤーであった2人がプロデュースするアイドル・グループがダブルハピネスである。もともとはヨネコ(ex. MIGMA SHELTER)とメイビーモエ(ぽわん)が期間限定ではじめたアイドルグループだったが、3月9日の東京・下北沢SHELTERでの自主企画イベントをもって2人はプロデュースに専念して運営に回ることを表明している。このグループがおもしろいのは、アイドルではなくバンド活動をしていたメイビーモエが作曲を行い、アイドルだったヨネコが作詞を行うなど、クリエイティヴ面も自分たちで完結できることだ。なぜ、2人は裏方に回ることを選んだのか。そして、最初で最後となる2人によるミニ・アルバム『創造姉妹』とは? 2人に話を訊いた。
インタヴュー&文 : 西澤裕郎
写真 : 宇佐美亮
何かを作りたいという欲しかなかった
──モエさんとヨネコさん、ともに以前やっていた活動時から存じ上げているんですけど、2人の接点を知らなかったので、ダブルハピネスを始めることを知ったときは、かなり意外でした。2人にはどのような接点があったんでしょう。
モエ:私は元々ぽわんというバンドを、ヨネコはBELLRING少女ハート(以下、ベルハー)というアイドルをやっていたんですけど、ぽわんが渋谷WWWで企画をやったときに、ベルハーと対バンしたのが初対面でした。その後、ぽわんが解散して、私はソロで楽曲提供の仕事とかをしていたんですけど、ずっとアイドルグループ作りたくて。どうせやるならメンバーとしてやろうかなと思っていた最中、ヨネコの「フリーになりました。なんか一緒にやりたい人声かけてください」というツイートを見つけて、これは早いモノ勝ちだと思ってすぐにリプを返しました。
ヨネコ:秒できましたね(笑)。
モエ:その後、新橋の居酒屋で「いっしょにやらない?」って誘いました。私はヨネコが書いている歌詞やツイートの内容とか、独特の言い回しがすごく好きだったので、この子の言葉に曲をつけたいと思っていて。最初は期間限定で1年くらいやれたらいいねって。とにかくクリエイティヴなことをしてみたくて誘いました。
──ヨネコさんさん自身もセンスの部分には結構こだわりあると思うんですけど、モエさんにシンパシーを感じたから一緒にやろうと思ったんですか?
ヨネコ:最初は一緒にモノを作ったりもしてなかったから、そんなにシンパシーは感じてはいなくて。単純にモエちゃんはめっちゃ優しかったんですね。ソロの曲提供してもらってからお世話になっていて、信頼している人と一緒に物づくりが出来たらいいなと思って快諾しました。それと、当時ソロで活動していくのがきつくて。ソロじゃない活動に目移りしていたところがあったんです。だから、誰かとやるのが楽しいんじゃないかと思ってやりました。
──ソロの時は何がきつかったんでしょう。
ヨネコ:人数が5人とかいれば箱推しとかになったりすると思うんですけど、ソロだと1人での活動になるからそういうわけにもいかなくて。フリーだから事務所推しみたいなこともないし。まあ、自分が決めた道なんですけど。そこで考えが狭くなってしまって、詰んでいましたね。自分以外の人間が欲しかったのかもしれません。
──ダブルハピネスを始めるにあたって、どんなコンセプトを考えたんでしょう。
モエ:コンセプトを先に決めて「こういうアイドルを作りたい」とかでなくて、なんでもいいから一緒に曲を作りたいというところからはじめたんです。最初はLINEでヨネちゃんに歌詞を送ってもらって、その歌詞に合わせてちょっと尖った方向性というか攻撃的なライヴにしていこうかなと話しました。なのでコンセプトは後付ですね(笑)。
──ダブルハピネスという名前はどうやってつけたんですか。
モエ:二人っぽさが欲しかったのでダブルっていうのをまずつけて、後からハピネスというのをつけました。ビジネス姉妹って設定とかもあったんですけど、最初はとりあえずコンセプトをつけなきゃみたいな感じで迷走していましたね。まあ、やってみないとわかんないことってあるじゃないですか? ちょっとずつ変わっていくグループもたくさんいるし、メンバーに合うものにしれっと変えていくのがいいかなと思って。最終的にはエモさというか激情っぽさで「エモ&チルをフロアに届ける」をコンセプトにしました。
──アイドルであることに対するこだわりはあったんですか?
モエ:私は1度アイドルを名乗ってみたかったんです。最初はちゃんと自己紹介とかもやってました。まあ3回くらいで辞めちゃったんですけど(笑)。
──ヨネコさんがベルハーや MIGMA SHELTER(以下、ミシェル)で活動していた時はスタッフもいたと思うんですけど、自分たちだけで運営も行なってみて、どのようなことを感じますか。
ヨネコ:本来の自分に近いというか、自分はこれが合っているという感覚はあります。元々いたグループには感謝しているし、あの時を過ごしていたからこそ、いまあるべき姿になっているなと思います。
──モエさんもバンドメンバーやスタッフたちとの経験を経てこの活動を行なっているわけですが、自分たちで運営するのは合っていると思いますか。
モエ:合っていると思います。でも、最近は得意な人がいればその人に任せた方が、大きな仕事ができるというのも分かってきました。ここから先は会社の力も借りたいし、いろんな人と一緒にこのグループを作っていきたいと思います。
──3月9日の東京・下北沢SHELTERでの自主企画イベントをもって2人はプロデュースに専念して運営に回るということですが、そうしようと思った理由は?
モエ:活動を初めて3ヶ月くらい経ったとき、業界の偉い人が(ライヴを)観に来てくださったんです。そのときに「ダブルハピネスは何を目指してるのかわからないから応援しづらい」という感想を言われて。アイドルって大体「目標があって、そこをクリアしたいから応援してください」という気持ちで活動して、その熱意を見てお客さんが応援してくれる仕組みだと思うんですけど、私たちには何かを作りたいという欲しかなかった。ヨネちゃんが作った歌詞に曲を作って、それにエネルギーを感じてほしいとは思っていたんですけど、応援してほしいとは1ミリも思ってなかった。そこで指摘を受けてハッと気がついたんです。自分でも応援してほしい気持ちがないなら続けても意味がないなと。それならば、きっぱり自分は卒業しようと思ったんです。でも、作っている作品は良いからもったいないので、新しいメンバーを入れてこのグループを続けたいなと思いました。
──ヨネコさん的には運営じゃなくてそのままメンバーとして続けてもよかったわけじゃないですか。今回どうして運営に回ろうと思ったんですか。
ヨネコ:新メンバーを募集した段階では自分もメンバーとして在籍している予定だったんですけど、自分の中での活動がシンガー・ソングライター的な感じになってきたんです。ダブルハピネスではアイドル、それ以外はそうじゃないとなると、作るものがぐちゃぐちゃになってしまう。それだったら、いっそモエちゃんと一緒にやめたほうがいいんじゃないかっていうことを話し合って、裏方としてやっていこうかなと。
ふたりの時代の作品として残したかった
──そんな2人にとっての最初で最後の全国流通盤となるミニアルバム『創造姉妹』がリリースされます。リード曲が”PINK HOKE”なんですよね。
モエ:これははじめてふたりで作った曲です。歌詞のカケラみたいなものをまず送ってもらっていて。1番わかりやすく尖った曲だったので、リードっぽくアレンジしたりとか、アイドルの曲としても盛り上がるように意識してこの曲は作りました。でも割と2、3曲目の方がヨネコの歌詞に忠実に曲を作っています。
──2曲目の”感性が死んでんじゃねーの?”は、南波一海さんのアイドル三十六房の年間ランキングランクインするなど、ダブルハピネスにとっての代表曲でもあります。
モエ:”感性が死んでんじゃねーの?”は私とヨネコの「ふたりのダブルハピネス」を象徴する曲です。これは新しい体制では一切やらないと思います。歌詞もエッチだし(笑)。今回リリースすることになったのも、我々ふたりの時代のダブルハピネスとして、ちゃんと作品として残したいと思って急いで出させてもらったんです。
──歌詞はヨネコさんが書かれていますが、もともと書き溜めてたものなんですか? それともダブルハピネスをやるようになってから書き下ろしたものなんでしょうか。
ヨネコ:いや覚えてないですね、記憶力があまりないので(笑)。ずっと歌詞は書いていたので、その中で拾い上げられたものです。
──逆に歌詞を書いたことを覚えている曲はありますか?
ヨネコ:3曲目に入っている”オタさんへ”という曲は、ミシェルにいた時に書いた曲なんですけど、最後の生誕の時の曲なんですよ。あの人にもらったプレゼントとか、あの人に言われたあのひと言とか。それが個人的になり過ぎると作品にならないから、いろいろ手を加えて作りました。
──最後に収録されている”さよならアイドル”はかなり象徴的なタイトルですね。
モエ:これ、実はぽわんをやっていた時期に書いた曲で、初期BiSの解散ライヴに行ったあとに作った曲なんですよ。彼女たちの解散はモー娘。以来、自分の中でリスペクトしていたアイドルがひとつ終わったというか。これを入れたのは自分の中のアイドルへの憧れみたいなものを終わらせるみたいな気持ちもあって、アレンジし直しました。私たちふたりもこのタイミングでアイドルを辞めますという意味も含めて最後にこれを入れました。
ある程度売れても、チームでまとまらないと終わってしまう
──3月9日からは新メンバーがダブルハピネスとして活動をスタートさせます。新メンバーのオーディションはおふたりでやられたんですよね。オーディションをする側にまわってみてどうでした?
モエ:自分も大人になったからアイドルのオーディションって、誰が優れているというより、コンセプトに合うか合わないかを基準に決めているんだなと分かるようになりました。落としちゃった子もいいところはいろいろあるけど、ダブルハピネスには合わなかったから落としただけなんですよね。落としてしまったことに良心が痛むというか、彼女たちが傷つかないかなというのは思いました。
ヨネコ:私は自分を見て欲しい欲が強いので、オーディションとか面接が大好きなんですよ。自分が審査される側だったときに、パソコンをいじっていて(オーディションの様子を)全然見てない人とかがいたのは嫌だった。今回オーディションする側に回ってからは、しっかり全員を見るようにしました。お顔がすばらしかったり、この子がいたらバズるかなという要素があったりしても、最終的には真面目さを重視しました。ある程度売れて中堅ぐらいのクラスになったときに、そこから一歩出るためにはどうしてもチームでまとまらないとそこで終了してしまう、というのをこれまでの活動ですごく感じてきたので。活動を長く続けるためにも、長期間でハッピーに活動できそうな方を選びました。
──最後に訊きたいのが、プー・ルイさん(ex.BiS / BILLIE IDLE)や、劇場版ゴキゲン帝国Ωの白幡いちほさんみたいに、実際にグループやってきた人がプロデュースに回るという流れがきていると思うんですけど、そういう状況に対してはどう思いますか。
モエ:私はあまり意識していなかったです。いまはセルフ・プロデュースというスタイルが昔よりもいっぱいいるし、「女の子の気持ちがわかる」というのは入ってくれたメンバーとしても、話しやすいのかもしれないですね。ただ、我々ダブルハピネスの強いところは作詞、作曲、振り付け、ダンスレッスンやボーカルレッスンまでを、全部自分たちでできるっていうところだと思います。私はアイドルとして表現し続けるところのプロフェッショナルさみたいのは知らないから、そこはアイドルをずっとやってきた方の方が強いと思うんですけど、音楽に対してメンバーと直結してやれるというのは強みかなと思っています。
RELEASE INFORMATION
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LIVE INFORMATION
2020年3月9日(月)@下北沢SHELTER
時間 : OPEN 19:00 / START 19:30
チケット : 前売3000円/当日3500円(+1Drink)
出演 : ダブルハピネス(メイビーモエ&ヨネコ) / ダブルハピネス(新体制) / 他2組
PROFILE
ヨネコ(ex. MIGMA SHELTER)とメイビーモエ(ぽわん)によって結成されたアイドル・ユニット「ダブルハピネス」。期間限定で活動するつもりであったが、あまりにも楽曲が良すぎるため解散が惜しくなった2人は、現在新メンバー・オーディションを開催し新体制での活動準備に入っている。そんなダブルハピネス現体制の集大成として、代表曲の"PINKHOLE"をはじめ、『南波一海のアイドル三十六房』で17位に選ばれた"感性が死んでんじゃねーの?"や新曲"オタさんへ"を含む4曲入りEPの発売を決定した。