アイナ・ジ・エンドが語る最新アルバム『THE ZOMBIE』──歌うたいとしての自分への想い
BiSHの活動と並行して、ソロ活動としても精力的に活動を行うアイナ・ジ・エンド。さまざまなアーティストとともに作り上げたセカンド・アルバム『THE ZOMBIE』はファースト・アルバム『THE END』とは、違う魅力を感じさせる作品に仕上がっている。今回オトトイでは、今回のアルバムについてインタヴューを実施。今作をどのようにして作り上げたのか。そして、歌うたいとしての自分に対する想いを赤裸々に語ってもらいました。
渾身のソロ・アルバム『THE ZOMBIE』ハイレゾ配信中
INTERVIEW : アイナ・ジ・エンド
アイナ・ジ・エンドに取材をしていつも思う。初めて取材をした6年前から変わらず、想っていることを楽しそうに、そして開けっ広げになんでも話してくれるなぁって。その言葉の中から、彼女の繊細な部分や葛藤も多分に感じ、それがまためちゃくちゃにライター心をくすぐるのだ。なんにせよ、こんな才能豊かなアルバム『THE ZOMBIE』を創って、もう毎日彼女やBiSHのニュースが飛び込んでくるにも関わらず、相変わらずフランクに想っていることを話してくれた彼女。願わくば、このまま日本を代表する歌うたいになってくれたら、なんか最高だなって思うんだ。あっ! BiSH、紅白歌合戦出演おめでとう!
インタヴュー : 飯田 仁一郎
文&構成 : 西田 健
写真 :鳥居洋介
ゾンビになったことは悪いとは思っていない
──アルバムのタイトルは『THE ZOMBIE』ですが、このタイトルにはどんな想いをこめたんですか。
アイナ : ゾンビはゾンビでも、ポップなゾンビにしたかったんですよ。曲の雰囲気もファーストと比べると、ちょっとポップになったし。だから、花房真也(YAR)さんが作ってくださったジャケットも色味は割とポップなんですよね。ゾンビってダークで怖い印象があると思うんですけど、蓋を開けてみるとポップだったり、可愛らしいイメージがある。そういうものを曲で表現できたらおもろいかなと思いました。アイナ・ジ・エンドが思うゾンビってこういう感じなんだみたいな。
──なるほど。
アイナ : あと、このタイトルになったもうひとつの理由は、死んでるまま生きてる感じで「いまの自分はゾンビっぽいな」と思う時期があって。「生きることが偉いみたいな言い方あるけど、死にながら生きてても偉い」と思って、そこから「ゾンビ」っていいなと思ったんですよ。
──死んだように生きていたのは、ファースト・アルバムを作り終わったとき?
アイナ : そうかも。夜に家のなかで黙々と曲を作ったり、BiSHの振り付け考えたりしていると、あっという間に朝がきて、寝れずに仕事に行って。でも、終わらないからまた夜中に作業して、みたいな日々を過ごしていたんです。
──そのときの自分の状態をゾンビだと思ったんだ。
アイナ : でも、その状態は私にとって結構良いんですよ。暇すぎると自分はなんにも浮かばないですし、曲も振り付けも作れない。少し追い込まれているときの方が振り付けも楽しく考えられたりしますし、曲も言葉も出てきたりするから、ゾンビになったことは悪いとは思っていないですね。
──ゾンビ映画が多く公開されていたことが関係しているのかなと思ってしまいましたよ。
アイナ : そうではなかったです(笑)。でも、ゾンビ映画はママが昔から見てたんですよ。ママはそんなに有名ではないゾンビ映画から『バイオハザード』みたいな、ザ・王道のゾンビまでいろいろ好きで。それを見て育ったので、ゾンビは自分にとっても親しみのあるものだったのかもしれない(笑)。
──曲についても聞いていきますが、アルバム1曲目の“ZB1”。このインスト曲はイントロ的な?
アイナ : いまやっているツアーのオープニングと全く一緒ですね。BGMのバッハが終わったら“ZB1”がSEとして流れて、“ロマンスの血”がはじまるんです。ライヴに来たことある人がこのアルバムを聴いたときに、「この曲ってツアーのやつじゃない?」ってわかればいいかなという遊び心で入れました。
──この曲は誰が作ったんですか?
アイナ : これは、元々私が作った素材をつなぎ合わせたやつです。Riki Hidakaさんが弾いてくれたギターの素材が何個かあって、そこをちょっといじって、そのうえに田中義人さんと名越由貴夫さんが弾いてくれたものが重なっている感じです。
──なるほど。
アイナ : 名越さんは、本当にエンターテインメントな弾き方をする人なんですよね。足元にいっぱいエフェクターがあって、それをいじりながらゴジラの鳴き声みたいな音を出したり、弓を使ってギターを弾いたり、名越さんのそういう自由な瞬間を音源に入れたいなって思ったんです。これは結構お気に入りですね。
──アルバムのはじまりとして、ツアーを一緒に回っているバンドメンバーと作った曲を入れたかった?
アイナ : そうですね。いま、ツアーを回っていることが自分にとって、とても大切で大きなものになっていて。だから、いまのメンバーとのツアーで生まれたものをどこかに落とし込みたくて、アルバムの最初の曲にしました。
──BiSHのバンドメンバーと、ソロのときのバンドメンバーでは、感覚は違いますか。
アイナ : 全然違うかも。どっちも最高なんですけど、BiSHのバンドメンバーは世代が近い分、感覚のような部分が少しだけ似ていて。音を出している瞬間もエネルギッシュでパワーがすごい。ソロのほうは、お父さんと同い年みたいな方もいるし、みんな圧倒的な大木みたいなイメージがありますね。自然と私もどっしり構えられる。自分の音楽性と、田中義人さんのギターに対する熱量や、河野圭さんの音楽の向き合い方とか、根底にあるものがひとりひとり繋がっている気がします。
愛を振りまける相手がいることにまず感謝したほうがいい
──アルバムのリード・トラックの“神様”。これはどういうタイミングで書かれたものですか。
アイナ : これは2019年のドラマ『死にたい夜にかぎって』のときに書き下ろした曲なんですけど、採用されなかった曲です。実はファースト・アルバム『THE END』に入っている“日々”っていう曲もそうですね。ドラマには“死にたい夜にかぎって”という曲がタイアップに付いたんですけど、落ちたほうの2曲を自分的にどこかで昇華したいっていう気持ちが強くあったんです。ただ“神様”に関しては、あんまり好きじゃなかったんです。
──それは、どうしてですか?
アイナ : 当時、明後日までにデモを出さなきゃいけないのと、BiSHの振り付けも6曲しなきゃいけないっていう時期だったんですよ。このときが人生初書下ろしだったので焦ってしまって。「書き下ろしってなんだ?」と思って「書き下ろし やり方」って検索して、「いや、書いてるわけないやろ!」ってひとりで突っ込んでて。そんなことをやりながらBiSHの振り付けのことも考えて。そんななか「でも、やるしかない!」と思って無理やり絞り出したメロディだったんですよ。もう極限でしたね。
──(笑)。そんな状態で作ったんだ。でも、一発で覚えられるし、メロが際立っている曲だなと思いましたよ。
アイナ : ありがとうございます。本当に追い込まれたときのほうがいいメロディができるんだと思います。スタッフの方が“神様”のデモを聴いたときに「めちゃくちゃいい曲あるじゃないですか!」って言ってくれたんです。私も極限状態で作った曲だし、そんなに自信があるわけではないから乗り気じゃなくて。でも、そういう風にめちゃくちゃ良いって言ってくれる人がいることがすごく幸せで、その感覚を信じたいと思って全部委ねた感じです。
──これは、ラヴソングと思っていいんですかね?
アイナ : そうですね。『死にたい夜にかぎって』が爪切男さんのリアルなお別れの恋の話で、そこから書き下ろしたものだったので、そのテーマをもとに自分のいま思うことを書きました。
──関口シンゴさんのアレンジもシンプルでかっこいいですね。
アイナ : 元々デモはピアノだけだったんですよ。そんな拙いデモや頭にあった音を具現化してくれて、こんなにも素晴らしい曲に仕上げていただきました。
──本当に素晴らしいですよ。
アイナ : すごく好きになりました。自分の感性だけでやっていたら絶対出さない曲だったんですけど、こうやって人に向き合っていただいた上で「良い」って言ってくれる人がいる。それをこの曲で実感できた。もっと人を信じようと思いましたね。
──6曲目“はっぴーばーすでー”も、今回はじめて収録される新曲ですね。この曲はどういうシチュエーションで作ったんですか?
アイナ : これは、コロナになってひとりでずっと家にいた時期に、人間って本当はひとりで存在していて、結局みんな他人だなってじわじわ思ってきて。ってことは、生きていくなかで、人に出会って仲良くなることは奇跡に近いし、さらに親密な関係になるってことは、本当にすごく素晴らしいことだと思ったんですよ。人に求めて傷つけて傷つけられて悩んだりすることもあるけど、もっと人に感謝しなきゃいけないなって感じて。それで毎日新しく生まれ変わっている自分として、人に出会うたびに、「出会ってくれてありがとう。生まれてきてくれてありがとう」って気持ちで接していけたら、もっと世界は優しくなるかなと思って書きました。
──歌詞を書いていたときは、どんなモードだったんですか?
アイナ : 自分のなかでは気づきのモードでしたね。いままで人に散々求め散らかして、愛を振りまくことが自分にとって生きがいだったんですけど、愛を振りまける相手がいることにまず感謝したほうがいいし、その人がいついなくなるかなんてわからないから、本当に感謝しないとなって思いました。
──AxSxEさんの、まさに彼ならではのポップなアレンジがあるから、この曲はパーっと明るい感じがするんですよね。
アイナ : アレンジ次第では、歌詞は全部変えようと思ってたんです。でも、AxSxEさんのポップなアレンジが来たので、完全にそっちの世界観に振り切ろうって決めました。自分のなかの気づきを入れても暗い曲にならないというのが確信に変わりましたね。
──ひらがなで歌詞を書いたのはなにか意味があるんですか?
アイナ : AxSxEさんの「あせ」っていう名前が珍しいと思って、歌詞にどうしても「あせ」って入れたかったんですよ。それで「あせるな あせるな」って書いてるんですけど、ひらがなってかわいいし、みんなわかりやすいのかなって思ったりして。それがきっかけで、全部ひらがなにしました。
──……なるほど(笑)。今回、どういう流れでAxSxEさんにお願いしたんですか?
アイナ : 渡辺(淳之介)さんがアイナの曲でAxSxEさんにアレンジをお願いしたいって言ってくれたんですよ。実は、渡辺さんのJxSxKっていう表記はAxSxEさんをマネしてるみたいなんです。
──あれ、AxSxEさんからとったんだ!
アイナ : 渡辺さんが薦めてくれたので、そこからAxSxEさんの曲を調べたり、自分もいろんなサウンドを勉強して、案を出しながら作っていきました。
ソロの活動は自分の居場所探し、人と繋がる方法
──9曲目に収録されている「Amazon Music presents Music4Cinema」のなかの短編映画「余りある」の主題歌、“残して”。こちらもラヴソングのように感じました。
アイナ : ファースト・アルバム『THE END』は、自分のなかの劣等感や、もどかしさを音に乗せて伝えたアルバムだったんですけど、そういうものを表現するのは私のなかでそこで終わっていたんです。でも、今回病むのに飽きてポップな方向にシフトチェンジしようとしたなかで、1曲ぐらいはファーストのときのマインドを心に保ったまま曲を作ってみようと思って。映画の脚本にも「残して」っていう言葉がすごいマッチしていて、これは運命みたいに、「これはこのマインドで書け!」って誰かに言われてるのかなって感覚があったんですよね。やっぱり、いくらポップに振り切ったって自分には、どうしてもよどみのようなものが隠し切れないときがあって、それを受け止めるしかないんだって思うようになりました。
──“残して”というタイトルや歌詞を読むと、未練が残ってるような感じがあったんですよね。
アイナ : 歌詞の世界観は、短編映画の脚本とそのときの自分のマインドを照らし合わせて作ったんです。映画のなかでお別れするときに、少しお互いもどかしさを感じつつお別れする描写があったので、吹っ切れなさがキーかなと思って。未練があるようでないような、どっちかわからないみたいな歌にしたかったんです。
──最後のヴォーカルのみのアレンジは、思い切ったアレンジだなと思いました。
アイナ : これは、デモを作っているときに、ギターを弾いてくれている人に「合図だすからちょっとここ弾かないで待ってて」って言って「パンッ(手を叩く)ここで弾いて」みたいな感じで作ったんです。言葉が強いときに、たくさん音があったら埋もれるかなと思ったので、デモの段階からここは声だけが良くて。
──ボーナス・トラックとして収録されている“残って”は“残して”のギターのみのアレンジですね。
アイナ : 私は、自分がいちばん作りたいことや訴えたいことを口で説明するのが苦手なんですよね。だから、「1回歌うから聴いて!」ってフル尺歌いきったものをMassive Wさんに聴いてもらって。そのメロを聴きながら、コードを付けてもらう作業をしてもらいました。そのボイスメモのデータをスタッフの人に送ったら、「ギターのバージョンがすごくいい」って言ってくれて。ピアノバージョンは、関口シンゴさんにアレンジしていただいたんですけど、ギターバージョンはMassive Wさんとの初期衝動がすごい詰まっていて。「この感じも別バージョンで出せたらいいね」って言ってくださる人がいたので、今回ボーナストラックとして収録しました。
──ファースト・アルバムを作ったときに、ちょっとやり切った感はあったと思うんですけど、いま『BORN SICK』『DEAD HAPPY』『THE ZOMBIE』の3作を作り切って、アイナはいまどういうモードになっているんですか?
アイナ : とにかく、このアルバムを1回聴いてくれっていう気持ちでいっぱいです。とりあえず、1回聴いてみてもらって。そのうえで、どう感じるのか、それを知りたいです。
──いま、「アイドルやBiSHは全然詳しくないけど、アイナ・ジ・エンドのソロは聴いています」みたいな人も増えてきたと思うんですよね。アイナ・ジ・エンドはソロのアーティストとして認められつつあるという流れをすごく感じていて。そのあたりで、自分で感じることはありますか?
アイナ : アイドルっていうのは、クラスでプリントを後ろに回すときに、もらう人が今日もかわいいなって思ったり、クラスのマドンナ的な存在が私にとってはアイドルだと思っていて。私は逆にプリントが配られるときに、お前今日も個性的な顔してんなって言われる立場だったんですよね。こんな自分でも馬糞かけられたりスク水でダイブしつつ、クソアイドルとしてデヴューできて。アイドルって言われることは全然嫌じゃないし、BiSHだってことに誇りを持ってる。アーティストっていう見られ方をしているっていうのも別に全然いいし、どちらでもいい。だから、そんなに意識したことがなくて、聴いてくれる人や見てくれる人の受け取り方でいいかな。
──歌うたいとしてのアイナ・ジ・エンドの評価が上がってきている気がするんですが、そういうことにおいては自分が進みたかった道だったりしたりするんでしょうか。
アイナ : いまわかんなくなってきましたね。歌うたいとか言われても、いまだに歌がめちゃくちゃ得意っていう気持ちはないし、自信満々なわけじゃないし。ただ、歌を歌って誰かと繋がるのは嬉しいし、歌を歌って椎名林檎さんに会えたことも嬉しい。こうやってアルバムを出せることも生きがいだから辞めることはないと思いますけど、ひとりで東京ドームに立ちたいとかはあんまり思わないです。やっぱり、そういうのはBiSHで行きたい。ソロの活動は自分の居場所探し、人と繋がる方法ですね。
編集 : 西田 健
渾身のソロ・アルバム『THE ZOMBIE』ハイレゾ配信中
アイナ・ジ・エンド総力特集、クロス・レヴューはこちら
アイナ・ジ・エンド総力特集、「10のキーワード」はこちら
前回の特集記事はこちら
LIVE INFORMATION
AiNA THE END "帰巣本能"
会場:大阪城ホール
日程:2022年3月17日(木)
open/start 17:30/18:30
【通常チケット】 指定席 ¥8,000(税込)
※全て電子チケットとなります。
年齢制限/ 未就学児童入場不可
詳細はこちら↓ https://ainatheend.jp/news/detail.php?id=1095936
アイナ・ジ・エンド ディスコグラフィー
BiSHの個別インタヴュー連載 最新記事はこちら
BiSH ディスコグラフィー
PROFILE : アイナ・ジ・エンド
“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバー。 全曲作詞作曲の1st AL"THE END"を2021年2月3日にリリースし、ソロ活動も本格始動。
PROFILE : BiSH
アイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、モモコグミカンパニー、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・D からなる“楽器を持たないパンクバンド” BiSH。
2015年3月に結成。5月にインディーズデビュー。2016年5月avex traxよりメジャーデビュー。
以降、「オーケストラ」「プロミスザスター」「My landscape」「stereo future」等リリースを重ね、横浜アリーナや幕張メッセ展示場等でワンマンを開催し、ロックフェスにも多数出演。