ネクストモードなEmeraldが伝える制作の秘訣──10年間で培ったバンドサウンドの楽しみ方
シングル4作の連続リリースという精力的な活動を行うEmerald。その第2弾としてリリースされた「Sunrise Love」は、サビに向かって徐々に盛り上がっていく構成が印象的な楽曲となった。彼ら本人の言葉にして「完全にネクストモード」の楽曲だという。また本作にはサポート・メンバーとして、えつこ(DADARAY)やゲスト・ギタリストに木暮晋也(ヒックスヴィル)、 ホーン・アレンジに井上惇志(showmore)などが参加している。サウンドにしても、彼ら自身の言葉にしても、ひとつその転換期と言えそうな楽曲ではないだろうか。そんな結成10周年を迎える彼らの「ネクストモード」とは? 中野(Vo)、藤井(Ba)、磯野(Gt)の3名にインタヴュー行った。またOTOTOYでは、9月1日にFRIENDSHIP.のスタジオ『FS.』より生配信されたEmeraldのライヴ音源も限定で配信中。その日の空気を完全パッケージした臨場感も含めて「10周年」の「ネクストモード」にある彼らのライヴ演奏を体験してみてはどうだろうか。
OTOTOY独占配信中「Emerald Live At FS.」
最新シングル「Sunrise Love」配信中
INTERVIEW : Emerald
Emeraldのインタビュー... わかってたけど、こんなにドキドキするものになると思わなかった。この取材、彼らの完成度の高い楽曲を表現するためのキラーワードがめちゃくちゃ詰め込まれている。音楽とかアートってとても感覚的で、評価軸が最も難しいもの。でも良し悪しってやっぱりあって、その1つがこのインタビューで彼らがこだわって必死に生み出している部分だったりする。 「バンドの音になりそうだねっていうデモがあったら、まず最初に解体」 「結局フローがしっかり乗らないというか、メロいいんだけどなんかしっくりこないんだよな」 「語尾の1音の着地を変えるだけで楽曲全体に影響が出る」 「見えてきた景色と別れを告げて、別のイメージに塗り替えながら歌詞を書く」 すごいバンドは、このレベルまで突き詰めて音楽を創っている。Emeraldだけではなく、世の中に生まれる人の心を動かす楽曲が、こんなに拘って作られていることを知ってもらえれば幸いだ。
インタヴュー : 飯田仁一郎
文 : 梶野有希
バンドの音になりそうだねっていうデモがあったら、まず最初に解体される
──9月1日にFRIENDSHIP.の配信スタジオFS.からお届けした生配信ライヴはいかがでしたか?
中野 : 前日から俺と藤井は一緒にいたんですけど、めちゃくちゃ緊張してたんですよ。ふわふわしていて、練習しているのに練習してないような感じになってました。これまでも配信ライヴは3月ぐらいまではやっていたんですけどね。
──今日来ていただいた3名(中野 / 藤井 / 磯野)がEmeraldのキーパーソン?
中野 : メンバーそれぞれで役割があって、みんながそれぞれ機能していると思います。前に立って喋るのは僕が多いですし、やっぱり藤井と磯野はバンドの哲学みたいなところをすごく創っている印象があります。
──色々なミュージシャンにとって2020年は大きなターニングポイントになったと思います。Emeraldにとって2020年はどんな年でした?
中野 : いままで僕らはDIYでやってきたんですけど、2018年に『On Your Mind』を出した後ぐらいから、ちょくちょく「一緒にやりたい」という話を方々からいただいていたんです。でも結局、本格的に決まってない状況でコロナ禍になってしまい…。結果ちょっと放り出されたような形に一時期なってしまったんですよね。そこからどうしようかっていうことをすごく話し合っていました。このままどうなっていくか予想がつかないなか、常に時代の波を読みながら音楽をやってきてる僕らとしては、狙えば狙うほど正解が見えなくなってきて、バンドとしては苦しい時期でしたね。そこで主に磯野が、「とにかくバンドを進める。進めながら考えよう」って言ってくれて。既存曲を録音し直したり、そうやって構築しながら進めていこうと。
磯野 : 一緒にやりたいと声をかけてくださった全員が「Emeraldって音源のクオリティーはすごく高いし、いい音楽をやっている」って言ってくれたんです。と同時に、「それを人に広げるってところにもう少し改善の余地があるよね」とも言われていて。そこを自分なりに消化したいと2019年末あたりからずっと考えてましたね。
──なるほど。磯野さんはコロナ禍になり、どういう気持ちで「バンドを前に進めていこう」とメンバーにおっしゃったんですか?
磯野 : 僕らをまだ知らない人に届くような曲を作るモチベーションはもちろんあったんですけど、コロナ禍になってからライヴとかの活動を積極的に進めていくのか、それとも僕らも世間と等しく自粛すべきなのかっていう話し合いを最初の緊急事態宣言が出るちょっと前くらいからしていて。自分たちでも「音楽活動が果たして必要なのかどうか」と問われているなかで、「意味あることやってるんだよ」という姿勢をバンド的に打ち出さないとやばいなと思ったので、必死にメンバーに訴え続けて、みんなで曲を作っていこうってなっていきましたね。
──なるほど。Emeraldのバンマス的な人はいるんですか?
中野 : 僕は藤井智之かなと思ってます。明言はしていないんですけど。
藤井 : 明確なバンマスはあえて作らないようにしていて。僕自身、中野と磯野には大きな選択をする際に重要な意見をしっかりもらいたいと思っています。パワーバランスは均等化したいですし。最終的な判断は僕がすることが多いですけど、でも自分ではなるべく自分自身がバンマスだとは思わないようにしてますね。
磯野 : 最終決定をするときに藤井さんは好みで判断せずに、バンドをどうみせるかってところで意思決定をしてくれるんです。バンマスというより、世間との繋ぎ目が見えている藤井さんに最終決定を仰ぐ感じですね。みんなわりと主観が強いんですけど、藤井さんは客観的視点を持ち続けようとしてくれているので信頼しています。
──では、Emeraldのコンポーザーは?
中野 : 全員デモみたいなものは作っています。僕の場合弾き語りみたいなものが多かったりするんですけど、みんなそれぞれDTMをやっています。イメージをDTMに長けてる人に伝えて、骨組みを作っていくこともあります。
──全員ができるんだ! どうやってそれを楽曲に仕上げていくんですか?
中野 : これはバンドの音になりそうだねっていうデモがあったら、まず最初に解体されるんです(笑)。そこから磯野がグルーヴをスタジオで時間をかけて作って、全員が乗れる音楽になりそうかどうかを検討してから、藤井が楽曲の方向性のジャッジをしていくっていう感じですね。僕はそのやりとりを見ながら、そのときの議題とか世の中のことを色々考えながら言葉をじわじわメモに書いていって、歌を入れるときにそのメモから引き出して歌っています。
──なんと、まず一回デモを解体するんですね!
磯野 : 解体の程度は物によりけりですけどね。2020年以降にできた曲はある程度みんなの意識に統一感があるというか、完全に解体をしないとっていうものは結構減りました。それは多分みんなそれぞれいい曲を作ろうっていう目線が揃ってきたからだと思います。
磯野 : 2020年以前と以降では、ちょっと作り方が変わったんですよ。2018年の『On Your Mind』は、藤井さんがプロデューサー的な立ち位置になってほぼはじめて作った作品なんですけど、それ以降はより人に伝わりやすい作品が増えてきたっていう印象があります。その前のセカンドアルバムは僕と藤井さん、ファーストは僕がプロデュースしている感じで。例えば構成もポップスではないものをどうやってポップスに聴かせていくかっていう部分に藤井さんがずっと苦心してきた感じだったと思うんです。でも『On Your Mind』以降はそういったポップス感をもっと強めに出していこうっていうバンドとしての転換がありました。どうやってより上質なものにしていくかっていうアプローチに結構切り替わったというか。これからリリースされていく楽曲はどちらかというと、骨組み自体がポップソングとしてのフォーマットになっていると思います。
──プロデューサーが磯野さんから藤井さんに変わった理由は?
磯野 : 売れるか売れないかのラインが違うと思いましたね。藤井さんがアウトプットしていこうと判断したものの方が、色々なお客さんに伝わった感覚があります。僕が作っていたのはコア層が喜ぶアプローチだったのかなって。ファースト・アルバムを出したときに、とりあえずやりたいことは一旦やり切ったなって満足しましたし。だからセカンド・アルバム以降は、「もっと多くの人に聴いてもらいたい」っていうところが僕のなかでは優先度が高くて。僕もやりたいことはやれているし、なおかつお客さんに届けやすくなる方がいいよなと思っています。