自分が聴きたい音楽を追求し続けていく──ロック・バンド、続きはらいせの美学を表現したファースト・EP

2021年7月に配信限定でリリースされた、続きはらいせのファースト・EPが2022年2月にCDとしてリリース。その記念すべきファースト・EPの制作過程に迫るべく、インタビューを行った。70年代のハードロック、ASIAN KUNG-FU GENERATIONやMr.Children、YOASOBIなど幅広い年代の音楽の要素がパッケージされた本作。そんなカラフルなサウンドをひとつにまとめる役割を担う、中性的なヴォーカルは、バンドの最大の特徴だろう。その声質を生かすための楽曲制作や、今作で多用されているギター・エフェクター、ファズに対する考え方などを語ってもらった。
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INTERVIEW : 続きはらいせ
土着的なドラムとゴリゴリなベース、エキゾチックなギターリフに始まり唐突な展開に困惑させられる“Ultra Aventure”、ソリッドなサウンドとアジテーションするヴォーカルが興奮を掻き立てる“ユビキタスクリーチャーズ“、妄想と現実の狭間で叫ぶ “夜は友だち、悪魔のかかと” 等々。3ピースバンド、続きはらいせのファースト・EP『続きはらいせⅠ』は、曲ごとに趣向を凝らしたバンドのアンサンブルに心躍ると共に、抽象的な歌詞には想像力を掻き立てられる。そしてなにより、ギター・ヴォーカルを務めるニシカタアキナリの誰にも似ていない歌声が強烈に耳にこびりついて離れない。ところで、バンド名の「続きはらいせ」ってどういう意味? と思っていたら、どうやら「ツヅキ ハライセ」ではなくて、「ツヅキワ ライセ」と読むらしい。つまり、「続きは、来世」ということだろうか。だとしたら、いまこの時に彼らを衝き動かしている音楽へのパッションとはいったいなんだろう。作風から孤高な存在感を漂わせているニシカタと、それを支えるドラマーのイコマ、ベーシストのマサキ。彼ら3人でなければ成し得ないという表現の美学に迫った。
インタヴュー・文 : 岡本貴之
自分の知的好奇心とか聴きたい音楽に対して正直にやる
──続きはらいせは2019年から活動しているそうですが、どうやってできたバンドなんですか?
イコマ(Dr.Cho): もともとは、大学の軽音サークルで同じだった3人で、同学年に僕とニシカタ、ひとつ下の後輩にマサキがいまして。サークルでMO’SOME TONEBENDERとかのコピーをやったり、音楽以外でも飲みに行ったりして仲が良かったんです。その後、何年か経ってから、ニシカタとサークルにいたベースの女の子と僕でバンドをやろうと思ったんですけど、それは頓挫してしまいまして。でもニシカタも僕も音楽はやりたかったので、大阪で働いていたマサキを誘って、東京で働いていたニシカタ、札幌で働いていた僕の3人で、月1で東京なり大阪に集まってスタジオに入って、曲作りをしたり練習したりして、次の日からまた仕事に戻るという生活を1年ぐらい続けていました。そこから各々の仕事の都合がつくタイミングがきたので、みんな東京に集まって本腰を入れて活動をスタートしたのが、2019年なんです。
──リリースの資料に「好きな音楽の好きな要素を全てブチ込み、ベスト盤的な濃度のファーストEPが出来上がりました」と書いてあるのですが、3人が共通して好きなアーティストっているんですか?
イコマ : 3人が好きな音楽を辿っていくと結構バラバラだと思うんですけど、そのなかでもエッセンスが似ているというか、共通で好きな音楽の感覚は似ていると思います。
ニシカタ アキナリ(Gt.Vo以下・ニシカタ): 僕は70年代のハードロック、プログレッシブ・ロックから、森高千里さんとか90年代のJ-POP、いまのYOASOBIさんとか、雑多に音楽は好きなんですけど、その広いところからこの3人で出せるものを選んで出した感じです。自分が作曲したものを、好みがバラバラな3人で、再構築するというか。なので、各々が生きてきた環境とかの僅かな違いが、音楽のアレンジとかいろんなものに繋がると思っています。そういう意味で「好きな音楽の好きな要素を全てブチ込んだ」というパッケージングにしています。
マサキぬん(Ba.Cho以下・マサキ) : 僕が好きで聴くのは、Mr.Childrenとかなんですけど、ベースを弾くきっかけは、ELLEGARDEN、ストレイテナーとかです。なので、自分のプレイに出ているのは、2000年始めぐらいのASIAN KUNG-FU GENERATIONとか、僕の世代でフェスとかに出まくってたようなバンドの影響ですね。それぞれ好きな音楽は違うと思うんですけど、最初にお互いをプレイヤーとして良いなと思って組んでいるので、その人が出すものはカッコいいし、それを全部放り込んじゃえみたいな感覚です。
イコマ : 僕は家で父親が聴いていたサザンオールスターズとか、JUDY AND MARYみたいな、当時の日本のヒットチャートみたいなところが原体験として強く残っています。なので、所謂ポップでキャッチーなものが僕のなかで大きいと思うんですけど、楽器を触るようになったのは、東京事変のドラムの刄田綴色さんがやけに楽しそうに叩く姿を見て、「こういう風に楽器が演奏できたら楽しいんじゃないかな」って興味を持ちはじめたのが最初です。
──曲は全部ニシカタさんが書いていますが、このバンドをやる上でどんな曲を書こうと思って現在に至るのでしょうか。
ニシカタ : もともとひとりで作曲はしていたんですけど、バンドをやるつもりはなかったんです。なので、「こういうバンド、音楽をやろう」というよりは、自分の知的好奇心とか聴きたい音楽に対して正直にやる、というコンセプトだけがあったかもしれないですね。だから、メッセージ的なものもないです。
──“自分が聴きたい音楽はこうだ“っていう曲を作っている?
ニシカタ : そうですね。もちろん、好きな音楽の要素は自分のなかでくっついて自分たちの音楽になっているとは思うんです。なんなら、パッチワークみたいな感じで。好きなものを全部繋ぎ合わせてひとつのものを作っている感じで自分は捉えています。そういうものって自分が作らないと聴けないというか、この世に現出しないと思うんです。誰かが作ってくれるのを待っていたら、永久に「これだ!」みたいなものって出てこないと思うんですよね。それで、自分が作ったものをメンバーのふたりが喜んでくれて、音楽になって、「100点!」という感じです。彼らふたりがいちばん最初のリスナーだと思って作ってます。
マサキ : (ニシカタが作る曲は)歌詞だけとっても、「ラヴソングだな」とか、「社会批判だな」とか、聴いて一発でそういうことがわかるような歌詞でもないので。どちらかというと、風景とか感情、感性優先の歌詞なので、そこはおもしろいと思ってます。
イコマ : はじめて聴いたのは、ギター1本に歌を乗せている状態の曲だったんですけど、それを聴いたときに「私だったらこういうドラムを乗せるな」というイメージが湧いてきて。この曲をちゃんとバンドとして昇華させていくのが楽しいんじゃないかって思ったんです。「この曲はもっとみんなに聴いてもらうべきだ」って。
──「続きはらいせ」というバンド名になったのはどうしてなんですか?
イコマ : 諸説あるんですけど(笑)、マサキが入る前のベーシストと3人で集まってバンド名を決めるときに、それぞれ3、4つぐらいバンド名を持ち寄ったんですけど、どれもピンとこないものばかりで、その場では決まらなかったんです。その帰りにメンバーの家で、みんな虚ろになりながら思いつく言葉を天井に向かってぶつけていたんですよ。そのなかで「続き」というワードと「来世」か「はらいせ」だったと思うんですけど、そのふたつを合わせて「続きはらいせ」がなんとなく3人のなかでしっくりしたんです。「来世」をひらがなにすると、「はらいせ」とのダブルミーニングにもなるし、あとは「続」という字の中に「売れる」という字が入っているし、縁起が良いっていうのが、僕のなかの決め手でした。