世界へ広がる表現、めぐり続ける愛──茉ひる、メジャー・ファーストEP『Cinema』に映る現在地

2020年にコロナ禍により陸上選手としての道が閉ざされたひとりの若者が、2026年にアーティストとしてメジャー・デビューを果たす。そんなドラマのようなストーリーを現実のものにしているのが、シンガー・ソングライターの茉ひるである。
路上ライブや動画投稿から創作活動の縁がつながり、2023年には“ダブルベッド”が車の走行動画で頻繁に使用されるようになり、その後彼女自身が“フレグランス”を歌唱しながら運転する動画が香港と台湾で注目を集め、付随して楽曲もヒットを飛ばす。2025年から年またぎで開催されたアジア・ツアーでは、日本はもちろん台北、ソウル、香港、バンコク、マカオなどアジア各都市を回った。メジャー・ファーストEP『Cinema』は、そんな彼女の軌跡と挑戦、理想と本音が凝縮されている。国境を越えて活動する彼女が大切にしたい思いとはどんなものなのか。EPの話題を通して探っていった。
“自由に心を映し出す”ことをテーマに制作
茉ひるのメジャー・ファーストEP
再生回数1200万回超え!
世界中のリスナーを魅了する茉ひるの代表曲
【MV】茉ひる−フレグランス(Fragrance/香味)【MV】茉ひる−フレグランス(Fragrance/香味)
INTERVIEW : 茉ひる

取材・文 : 沖さやこ
撮影 : 大橋祐希
内なる思いと外へ向けた思いが交差する『Cinema』
――メジャー・デビューから半年ほど経ちまして、心境の変化などはありますか?
茉ひる:インディーズの頃にやりたくてもできなかったことをはじめ、本当にさまざまな経験をさせていただいていて、これがメジャーでの活動なんだと実感がどんどん湧いてきました。一緒に向き合ってくれるチームの皆さんがいるからこそ楽しめていますし、だからこそ一つひとつの活動をもっと突き詰めていきたいですね。これまで自分が積み重ねてきたものと、メジャー・デビューしたからこそ得られた強みをさらにブラッシュアップして、より良い作品を生み出していきたい!と燃えています。
――今作『Cinema』はバラードからバンド・サウンド、シティ・ポップなど多彩な楽曲が揃い、海外アーティストとのコラボレーションや多言語での歌唱が取り入れられるなど、茉ひるさんのアーティストとしての可能性と広がりを感じる作品だと思いました。どのような作品を目指して制作をなさったのでしょうか?
茉ひる:まずは「自分自身の心を自由に映し出すこと」をテーマに、1曲ずつ制作していきました。作り進めるなかで、「今の自分の感情がそのままタイトルになるだろうな」という予感があって、最終的にたどり着いたのが『Cinema』だったんです。
映画って、物語のすべてを映し出すわけではなくて、作り手が見せたい場面を選んで映し出しますよね。それは自分自身にも言えることだと思ったんです。
――と言いますと?
茉ひる:作品を通して見せている自分も、普段心の奥で秘めている自分も、両方とも自分自身だなと思うんです。それらを自分で選び取って映し出した楽曲たちという意味で、『Cinema』というタイトルにしました。だからこの作品には、内側の思いと外側の思いの両方が混じっているんです。

――確かに6曲それぞれに、茉ひるさんの内面と外側が表れていると思います。今作には大きなポイントがいくつかありますが、まず目を引くのは海外のアーティストが参加している点です。香港のアーティスト・Billy Choiをフィーチャリングした“ロストライン”は、茉ひるさんの代表曲“ダブルベッド”、“フレグランス”に続く、<カタカナ6文字失恋ソングシリーズ>と言っていいのではないでしょうか。
茉ひる:そうなんです。カタカナは日本の皆さんに馴染みがあるだけでなく、海外の方にもすごく喜んでもらえるんですよ。海外の方々はカタカナが好きみたいで。
――確かに「日本人だけが読めないフォント」として話題になったエレクトロハーモニクスもカタカナがモチーフでしたね。海外の人の琴線に触れる形状なのかもしれない。
茉ひる:海外へ行くとネームボードなどにもカタカナがよく使われていて、魅力的に映っているのかなと思って。だからせっかく海外のアーティストさんとコラボさせていただくなら、カタカナのタイトルにしたかったんです。

――茉ひるさんとBillyさんは、以前コラボレーション動画で共演なさっているなど、親交があるんですよね。
茉ひる:そうなんです。普段DMで連絡を取る時は、Billyくんが気を遣って日本語を挟んでくれたり、英語でやり取りしたり。この前直接会って話したときは通訳さんにも入っていただきつつ、わたしも簡単な広東語を使ったりして、お互いの母国語を交えながら話すとすごく盛り上がるんです(笑)。
以前のコラボ動画でBillyくんとも「一緒に歌うの楽しかったね」と話していたのと、わたしが広東語でラップをしたときのSNSでの反応も良かったので、「Billyくんと一緒に曲を作ったら面白いんじゃないかな」という感情が芽生えてきました。
――そういう背景からBillyさんにオファーをして。
茉ひる:そしたら快諾してくれたので、すぐにデモを作りました。Billyくんに担当してほしいパートを空けておいて、わたしが歌う部分の歌詞とメロディを先に完成させて、デュエットやコーラスのイメージもわたしの地声で仮歌を入れていたんです。
「こんな感じでどうかな?」と送ったら、Billyくんもすぐにデモを返してくれて。その熱量がすごくうれしかったですね。この低い声も役に立ちました(笑)。
――これまでの失恋ソングとは異なる、凛々しさのある歌詞も印象的でした。様々なステージに立ってきた茉ひるさんならではのスタンスも反映されているような気がして。
茉ひる:うまく言語化できない感情も曖昧なままにするのではなく、ちゃんと意味を持った比喩表現に落とし込もうと考えるようになったのは、ここ数年の大きな変化だと思います。
“ロストライン”では正直な気持ちも、相手に対して少しでもカッコつけたい気持ちも映し出していて。《でもどうして変わってしまったの?/こんな運命信じられない》という歌詞は、わたしが当時どうしても相手に言えなかった、本音そのものなんです。そのとき胸の中に残り続けていた感情が、そのまま歌詞になりました。














































































































