変化しながらも、大切なものはなくさない──GLIM SPANKYの美学と挑戦を反映したアルバム

ブルージーなメロディーとハスキーヴォイスで、情熱的かつスタイリッシュな楽曲を届けているユニット、GLIM SPANKY。6枚目のアルバムとなる『Into The Time Hole』は、松尾レミ(Vo&Gt)のヴォーカルと亀本寛貴(Gt)のギターという生音を改めて尊重した作品だという。と同時に、前作『Walking On Fire』よりも亀本の打ち込みを増やしたことで、新しいサウンドを楽しめるアルバムになった。また、DISH//や野宮真貴(PIZZICATO FIVE)、バーチャル・シンガーの花譜への楽曲提供をきっかけに言葉の幅が広がったという、松尾のソング・ライティングにも注目したい。GLIM SPANKYがこれまで貫いてきた美学と新たな挑戦がつまった新作アルバム『Into The Time Hole』を存分に堪能してもらいたい。
GLIM SPANKYの美学が反映された新作
INTERVIEW : GLIM SPANKY
GLIM SPANKYが、アルバム作品としては約2年振りとなる6枚目のアルバム『Into The Time Hole』をリリース。今作は、楽曲毎のサウンドメイクや歌い方、歌詞における幅を広げつつ、「短編映画集」をキーワードに制作されたとのこと。前作から楽曲制作に起用している打ち込みの精度も更に高めた上で、様々な挑戦を盛り込んでいる渾身作だ。作品ごとにアップデートしながらも、自分たちが大事にしているものをしっかりと楽曲に落とし込むGLIM SPANKYのふたりに、今作について話を訊いた。
インタヴュー・文 :峯岸利恵
ふたりのなかで完結する楽曲制作を
──2年振りのアルバムリリースとのことですが、その間を振り返るといかがでしたか?
亀本寛貴(Gt) (以下、亀本) : 色々なイベントに出演しつつ、Zeppツアーや日比谷野外大音楽堂でのライヴもあって、結構ライヴをしていましたね。去年は〈FUJI ROCK FESTIVAL’21〉にも出演しましたし、コロナ禍だけどやっていくしかない、という気持ちはありました。前作の『Walking On Fire』を制作していた頃は、恐らく多くの人が、この状況も長くは続かないだろうし、生活や時代性含めて大きな変化が伴うことはないと考えていたと思うんですよ。でもいまは、世の中が次のフェーズに向かっているんだという実感がありますし、その認識の上で、今作の制作にあたりました。
松尾レミ(Vo&Gt)(以下、松尾) : 時代の変化は、物凄く感じましたね。人と直接会えなかったり、スタジオに入ることすら難しかったりといった状況のなかで、GLIM SPANKYはこれからどういうアプローチをしていけばいいのか?ということは、物凄く考えました。なので、そうした時代性を反映しつつも、自分たちの美学を崩さない音楽を作る為に、ギターと歌のみを生音にして、あとの音は全て亀本の作った打ち込みにしてみるといった、ふたりのなかで完結する楽曲制作を行いました。大きな挑戦ではありましたが、自分たちの新しい引き出しが増えた感覚ですね。打ち込みが増えたからこその生の良さも改めて知ることができたので、今作は特に、その双方の良さを感じてもらえるような作品になったと思っています。
──『Walking On Fire』も打ち込みを起用した楽曲はあったと思いますが、打ち込みという手法に対する手応えとしてはどうでした?
亀本 : 打ち込みだと、濁りのないクリアな音質が出せるので、ちゃんと“求めている音像”になってくれるんですよ。なので、構築できる能力さえあれば、音楽制作における自由度という面では、打ち込みの方が高いと思います。むしろいまでは、生で録音した時に良い結果を生み出す為にどうしたらいいのか?という方に難しさを感じるようになっていますね。特にドラムに関してはそうなんですけど。みんなで鳴らしたことに対する満足感や、生身の人間が叩くからエネルギーを感じるというだけでOKにしてはいけないと思いますし、そこの追求に苦戦しているところはあります。でも、だからといって、GLIM SPANKYの音楽において重要な要素でもある温度感をなくしたい訳ではもちろんないので、そこのバランスは楽曲ごとに調整しています。
松尾 : 生でやることに美学を持ち続けてきたからこその悩みだよね。時代の変化のなかで、それでも変わらずに、自分たちが格好いいと思う音を求めるが故の挑戦がそう思わせているように思います。でも、打ち込みを起用したことに対する違和感はあまり抱きませんでしたし、単純に技が増えた感覚で楽しく取り組めました。生音に乗せるには渋すぎるようなブルージーな歌い方でも、打ち込みのサウンドに乗せたらいい感じにキャッチーに聴こえるようになったなど、良い発見もたくさんありましたしね。