「dipはすべてが面倒くさい」──ヤマジカズヒデが尊ぶ、たったひとつの感情とは
このインタヴューで最も多い発言は「面倒くさい」である。dipのフロントマン、ヤマジカズヒデにいまの心境を尋ねれば「面倒くさいよね」、過去の出来事を掘り返せば「面倒くさかったよねぇ」。とにかく、dipに関係する大体は、彼にとって面倒くさいことらしい。しかし、これは決してネガティヴな発言ではない。現に1991年に結成されたバンド、dipはいまも続いている。なぜ彼は“面倒”なバンド活動を続けるのか? そしてなぜ9年ぶりにニュー・アルバム『HOLLOWGALLOW』を制作したのか? それは、シンプルで、クールで、実にプリミティブな理由だった。
dip、約9年ぶりの新作をリリース
INTERVIEW : ヤマジカズヒデ(dip)
dipの9年ぶり14枚目のアルバム『HOLLOWGALLOW』がリリースされる。マネージメントを自分たちでやるようになり、アルバムの制作費も自前で調達しての完全インディペンデント態勢に移行してからのdipの活動はかつてなく順調なように見える。サイケデリックでミニマルでクラウトロックでプログレッシヴなアルバムも最高の出来だ。ЯECK 、田渕ひさ子、細海魚と珍しくゲストを3人も迎えての一作だが、dipらしさはこれっぽちも薄れておらず、さらに濃厚に、ディープになっている。
インタヴュー&文:小野島大
写真:佐藤哲郎
高校の時の文化祭の失敗がトラウマになっている
──今回はヤマジさんがご自分でお金(制作費)も調達して。マネジメントもなにもかも全部自分で仕切って作ったアルバムなんですよね。
そうそうそう。まぁ自分のお金じゃなくdipのお金をね。
──なぜそういうことになったんでしょうか。あれだけ「人がお膳立てしたものに乗っかった方がラクだ」とか、公言して憚らなかったヤマジさんが。
そんなこと言ったっけ(笑)。
──よく言ってましたよ(笑)。そこら辺の心境の変化はなにかきっかけがあったんですか。
やっぱりラクなのと、こだわるのは別なんだと気づいたんだね。両立しない。結局、面倒くさいか面倒くさくないかというだけのことで。面倒くさいからみんな(マネージャーなど)にお願いしてたっていうだけでね。
──いまはバンドの運営はもちろんスケジュールの管理とか、そういうのも全部ひとりでやるようになって。なにがいちばん変わりましたか。
早くなった。返事が早くなったし、話も進みやすいし。色んなディレクションというか、一緒に仕事をする人を選ぶのも、オレが考えてオレがお願いして。あとは多分、マネージャーみたいな人からお願いされるより、ミュージシャンに直接言われると「しょうがねぇな」っていう感じで (笑)、みんな無茶を引き受けてくれる。
──あぁ。直でやった方が話が早い。
そうそう、(間に人が入ると)仕事っぽくなるでしょ。直だと、こいつに言ってもしょうがないな、みたいになる(笑)。仕方がない、わかった、みたいな感じで。だから逆に話が進みやすくなったかもしれない(笑)。
──なるほど。今回9年ぶりのアルバムなんですね。これだけ長い間出さなかった理由ってなにかあるんですか。
ひとりでやるようになって、ちょっとしたライヴハウスでライヴをやるくらいのことは自分でマネジメントできるけど、(音源を)リリースするとか、そこまで自分ひとりではできないな、ちょっとしたくないな、面倒くさいなと思って。
──でもひとりでやるようになってからはまだ2,3年ぐらいでしょ。その前の7年間はなにをやっていたのかと。
そうね、その間はなにをやっていたんだろう。ほんと、なにをやっていたんだろうね(笑)。でもリリースしたいとか、全然思っていなかったんですよ。
──あ、思っていなかった?
あとは、前に出したアルバム『neue welt』(2014)というのは、その前のアルバム『HOWL』『OWL』(2013)もそうだけど、曲を作ったら、すぐ録る、みたいな感じで。そうするとそのあとにどんどん曲が育っていくわけで。原型みたいなのがそのまま作品として残るのがあまり好きじゃなかったのかもね。
──あぁ、作った最初の形をレコードにするけど、その後ライヴでどんどん変わって曲が完成していく。その最初の形がレコードになって残るのがイヤだったと。
うん。
──レコードはそういうものだと割り切っている人もいますよね。
いるよね。
──でもレコードとして完成度の高いものを作りたいという気持ちがあった。
あとで自分で聴く気になるかどうか。全部それにかかっているかな。
──完成度が低いなぁと思うと、自分の音源は聴けなくなる?
楽しくないよね。全然楽しくない。
──曲を練り上げていって、完成度の高いものにしていくのに時間が少しかかったという。
それも言い訳のひとつではあるというか(笑)。あとはほら、いろんなバンドをやるようになったじゃん。そっちがけっこう楽しくなったのもあるよね。
──dip以外ではいろんなレコーディングをやっていましたよね。
うんうん。他のバンドは本当に気楽で楽しい。レコ―ディングしないまでも。例えば戸川純(ヤプーズ)ちゃんもそうだし、大江慎也さん(Shinya Oe & Super Birds)もそうだし、ああいう、フロントにすごいヴォーカリストがいて、その横でギターを弾くのはすごく楽しい。
※この2作にヤマジカズヒデは参加していない。
──それは前から言っていますよね。
うんうん。歌はなるべく歌いたくない(笑)。
──もとからそうなんですか? 歌を歌いたくないというのは。
そうかも。もしかしたら高校の文化祭の時に。
──フォークっぽいことをやっていたって言っていましたよね。
そうそう、文化祭の時に弾き語りのライヴをやったの。家では歌えたんだけどライヴでは全然歌えなくて(笑)、それで、途中でやめてすぐに帰ったみたいな時があって。あれが頭に残っているんじゃないかな。
──それがトラウマになっている。高校の時の文化祭の失敗が(笑)。
そうそう。あれが未だに(笑)。
──でもdipでも、前身バンドのDIP THE FLAGでも自分で歌うことになったわけですよね。
そうなんだよね、しょうがなくね。DIP THE FLAGはヴォーカルがいたんだけど辞めちゃったから、しょうがなく。オレが仮でリハの時に歌って。もうこれで良いじゃん、ってなって。それが今でもずっと続いている感じ。
──「とりあえず歌っている」という感覚が抜けない?
まぁ、楽しい時はあるけどね。
──どういう時が楽しいですか?
なんか良い感じで歌えているなっていう時。自分なりに。
──でも歌いたいと思ったことはない?
たぶん、歌うのはわりと好きなんだと思う。
──自分のソロとかだと、カヴァーも含めてめちゃくちゃいっぱいやってますよね。小泉今日子とか。
うんうん。なんだろうね。
──dipになると構えちゃうということがある?
あ、それはあるかもね。ソロも気楽でいいのよ。
──あぁ、ソロだと気楽なんだ。ソロは全部自分にかかってくるから、かえって大変なんじゃないの?
いまはほら、パソコンと一緒にやっているから。それに乗っかる形だから。けっこう気楽というか(笑)。
──dipは、また別の大変さがある。
もう本当に面倒くさい。
──それはメンバー同士の関係とか、調整とかが面倒くさいということ?
なんだろうね。もうすべてが面倒くさいよね(笑)。
──そんなに面倒くさいのになんでやっているんですかっていう質問が、当然次に来ますよ(笑)。
(笑)。だからやっぱり、快楽度が他のバンドと違うんだろうね。自分で作った曲を自分の出したい音で弾いて。それがほかのメンバーとガッチリ噛み合って。そういう時の快楽がいちばん大きいんだろうね。
──それはやっぱり、ライヴの時にいちばん感じられる?
うんうん。
──ステージに上がった1時間半なり、2時間なりのためだけに、超面倒くさいいろいろなことをやらなきゃいけないということですね。
そうそうそうそう。そういうこと(笑)。