いま必要なのは、無名な君と僕のささやかな抵抗──THE COLLECTORSの眼差し
THE COLLECTORSの加藤ひさしは、いつの時代も世の中の不条理に疑問を投げかける。長年向け続けられたその眼差しは、ついに隠されていたこの世の裏のパワーバランスを徐々に暴き出すことになる。今作の26枚目となるフル・アルバム『ハートのキングは口髭がない』には、変わらない悲惨な状況や進歩しない人類を嘆きながらも、目を逸らさずにじっと見据えるTHE COLLECTORSの姿がある。決して諦めてはいないのだ。この世の命運を誰かに託すのではなく、いま私たちに必要なのは、“無名な”君と僕、ひとりひとりが自覚的に問題意識を持つこと──話はそこからだ。
ロックンロールの本質的な意義を体現した26作目
INTERVIEW : 加藤ひさし(THE COLLECTORS)
最初に書いておこう。THE COLLECTORSのニュー・アルバム『ハートのキングは口髭がない』は、少し重い1枚だ。これは、以下のインタビューを読んでもらえばわかるように、ヴォーカリストでソングライターの加藤ひさし自身が認めていることでもある。何が重くさせているのか……についても加藤の熱い発言に触れてもらいたいが、しかしながら、だからといって暗いアルバムかと言えば全くそうではない。加藤はデビュー当時から一貫して社会と対峙したところでロックンロールを鳴らしてきた。ある時はストレートに戦争反対を唱え、ある時は社会の歪みを嘆いた。だが、今の加藤は、そしてTHE COLLECTORSは少し違う。むしろ、「世界を止めて」の頃よりも、あるいは「NICK! NICK! NICK!」の頃よりも、ずっと行動的でポジティヴで思慮に溢れていて、我々聴く者に考えさせる力を持っている。そのエネルギーが現在のTHE COLLECTORSのロックンロールの原動力になっていると言っていい。あくまでライヴで再現することを前提としたような曲が揃っているのは近年の彼らの一つの徹底したスタンスの現れだろう。それは加藤が影響を受けてきたビートルズ、ザ・フーらが残してきたものを、60代に入った今こそ再検証する作業なのかもしれない。けれど、それはノスタルジーでは全くなく、地球自体が斜陽の時期に入ってしまったかのような現代社会の中でどう正しく、慎ましく生きていくのかの回答に他ならない。それこそが、THE COLLECTORSというバンドが40年近くも休みなく動いてきたことの証なのではないだろうか。
取材・文 : 岡村詩野
写真 : 後藤倫人