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ティム・キンセラがスティーヴ・アルビニとタッグを組んだ意欲作
キャップン・ジャズの再結成ツアーを経て、10年ぶりにヴィクターを迎え、スティーヴ・アルビニとタッグを組んだ意欲的な11th。
96年に結成以来、ティム・キンセラを中心とした不定形グループであり、シカゴのポスト・ロック~EMOシーンの最重要バンドの最新作。キャップン・ジャズの再結成ツアーにより、オウルズ以来、10年ぶりに再会したヴィクターをギターに迎えたエッセンシャルな4人で、USとヨーロッパにてツアーを敢行。強靭に鍛え抜かれた楽曲をもって、ツアー終了直後からエレクトリカル・オーディオ・スタジオに入り、スティーヴ・アルビニによって、バンドの最良の状態を捉えた9曲。Joan of Arcとしては初のタッグとなるアルビニだが、当然のごとく相性は最高。最低限のバンド・フォーマットでありつつ、ここまで刺激的なサウンドを生み出せる彼らの才能に驚愕するのみである。
Joan of Arc / LIFE LIKE
シカゴの最重要人物の一人、ティム・キンセラの不定形バンドJoan of Arcの11作目。盟友ヴィクターを10年ぶりに迎え、スティーヴ・アルビニとタッグを組む事で強調されたJoan of Arcのストレンジ・ワールドを体感してください。
日本先行リリース&ボーナス・トラック2曲(*)収録
【Track List】
1. I Saw the Messed Binds of My Generation / 2. Love Life / 3. Like Minded
4. Life Force / 5. Night Life Style / 6. Howdy Pardoner / 7. Still Life
8. Deep State / 9. After Life / 10. Meaningful Work(*) / 11. The Thing in Things(*)
SPECIAL CROSS REVIEW
生々しくネイキッドな音で真実を打ち鳴らす (text by 岡村 詩野)
無骨だ。こんなに無骨な音を奏でるバンドだったのかと驚く人も多いことだろう。否、というよりも、これが恐らく彼らの元々の資質だったのではないか、とさえ思う。だから…そう、通算11作目という数字にリスペクトしつつ、今こそ堂々と宣言しよう、Joan of Arcは現代最高のロック・バンドの一つであると。
そもそもJoan of Arcを単なるポスト・ロック系グループとして捉えることには無理があった。確かに96年に活動を開始した彼らは、地元がシカゴということもありトータスらの仲間のように見られていたところがあるし、実際に周辺人脈との直接交流もある。だが、だからと言って、今なお依然としてその流れの“後輩”かと言えばどうだろうか? と。実際、この通算11作目から感じ取ることが出来るのは、しっかりと地に足をつけ、フィジカルに音を鳴らしている逞しい4人の姿だ。
ボトムがしっかりと底辺を支え、その上でラフで目の粗い、だが繊細な響きを讃えるギター・サウンドが時に優雅に、時にダイナミックに泳ぐ。それは、ある意味で正攻法なロック・バンドのアンサンブルであり、奇を衒うことから距離を置こうとしている彼らの潔さを証明するものでもある。中心人物のティム・キンセラという人は一見器用に様々な音作りに着手できるイメージもあるが、実際はストレートにギターをかき鳴らし、アンプからダイレクトに音を抽出させることを何よりの醍醐味と感じるようなミュージシャンだ。そして、ティムは自身の中に潜むそうした言わば本能に、今作においてかなり意識的にフォーカスしようとしている印象もある。筆者はその思い切った舵取りに最初の第一音から惹き付けられた一人だ。
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約15年ものキャリア(それ以前の活動を含めると既に20年ほどになる)を持つティムは、バンドとしてのアンサンブルをストレートに打ち出すことで、ロックンロールのコアを今こそ射抜きたかったのではないかと思う。何が宝石なのか、何がイミテーションなのかが判然としない混沌とした現在のインディー・シーンに本質という一石を投じることができるのは、中途半端な目配せなどせず一切のブレなしに地盤を築きポリシーを貫いてきたティムのようなアーティストだけだ。ティムはきっとそのミッションをどこかで自覚しているのだろう。だから、そのための作業に何十年に渡りシカゴでロックンロールというノイズを鳴らしてきたスティーヴ・アルビニを、このタイミングでプロデューサーとして迎えた。あまりにも生々しくネイキッドな音で真実を打ち鳴らす必要があったのだ。
だから黙って聴くがいい。一切の躊躇は要らない。この『Life Like』は、つまりはそういうアルバムである。
ひよっこは、引っ込んでろ (text by 金子 厚武)
「そう、これを待ってたんだよ! 」と、多くの人がギュッとこぶしを握り締めること間違いなしの会心作である。Joan of Arcの代名詞といえば「ポスト・ロックの先駆者」であり、実際に活動の初期はそういったスタイルの作品を残してきているわけだが、最近ではティム・キンセラの個人プロジェクトの色合いが強まり、彼の心理状態が強く反映された個人的な内容の作品が増えていた。よって、例えば、先の代名詞を耳にした若きtoeのファンが、彼らの影響源であるGhost and Vodkaを聴くイメージで、最近のJoan of Arcの作品を手にしても、「ん? 」という違和感が生まれていたはずだ。
しかし、本作は違う。ここにはいかにもポスト・ロックらしい、流麗なアルペジオがあり、ボトムを支えるロウなベースがあり、柏倉隆史にもはっきりと通じる手数の多いドラミングがあり、なおかつ、どの楽曲のアレンジも実に独創的だ。アルバムのオープニングに10分以上に及ぶプログレッシヴな「I Saw the Messed Binds of My Generation」を持ってくるあたり、バンドとしても相当にアグレッシヴな、いい状態にあることも伝わってくる。これなら、確実にtoeのファンも射止めることだろう。
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本作が生まれた背景としては、Joan of Arcの前身であるキャップン・ジャズの再結成ツアーがあったこと、それに伴い、ティムの盟友にして名ギタリスト、ヴィクター・ヴィラリールと合流したことが挙げられるが、ただの原点回帰に留まらないクオリティを手にしたのは、エンジニアを務めたスティーヴ・アルビニの助力が大きいはず。アルビニらしい、ギターの弦が軋む音まで聴こえてきそうな生々しい録音の素晴らしさはもちろん、ミックスによるさりげなくも奇妙な配置のドラムによって、しっかりと現代的なエッジを感じさせる仕上がりになっているのだ。この演奏に、PIXIESのフランク・ブラックやMODEST MOUSEのアイザック・ブロックにも通じる、やさぐれていながらもポップに響くティムのヴォーカルが加わるのだから、まさに鬼に金棒というものだ。
そう、この作品を前にしてなら、堂々と言える。彼らこそが、1995年から活動する「ポスト・ロックの先駆者」、Joan of Arcである。ひよっこは、引っこんでろ。
RECOMMEND
Owen / I Do Perceive.
EPに続いてリリースされたこの3rdアルバムは、シンプルながら、その一音一音があまりにも多くのものを物語る、芳醇の極みともいえる作品に。ポスト・ロック、音響、エレクトロニカ、スロウ・コア… その全てにリンクしつつも、どれとも異なる唯一無二な唄の力を感じられる、間違いなく彼のキャリア最高作。録り下ろしの新曲、『(the ep)』収録曲のラジオ・ライヴ・ヴァージョン、そしてあのExtremeno名曲のカヴァーという、ファン必聴の超レア・トラックスを追加収録。
L'Altra / TELEPATHIC
シカゴ音響派出身ならではの丁寧かつ繊細な音作りで、聴くものをL'Altraワールドへ誘い、ピアノやストリングスを用い、男女混声の透き通った音世界に感動さえ覚える。シカゴ音響派、スロウ・コア、サッド・コア近辺の音が好きな方にはおすすめの作品。
YOMOYA / YOURS OURS
2003年より活動する4人組。エレクトロニカ、ポスト・ロック、オルタナ、USインディー、フォークなどを消化した、高次元の音楽性と人懐っこさが同居したサウンド、電飾を施したステージで繰り広げる激しさと繊細さが交錯するライヴ・パフォーマンス、そしてなにより文学性や叙情性を感じさせるメロディー、日本人の心の琴線に触れる声を武器に、アラブ・ストラップの前座を務める傍ら、ドン・マツオのバック・バンドを務めるなど、邦楽洋楽の垣根を軽々と飛び越える稀有なバンドとして、存在感を示し続ける彼らの、待望の初公式音源にして、日本語ロックの新たなる金字塔。大名曲「イメージダメージ」「I Know, Why Not?」を含む全8曲、堂々完成。
PROFILE
Joan of Arc
シカゴのポスト・ロック〜EMOシーンにおける先駆的な存在としていまや伝説の域にあるキャップン・ジャズ。そこから果てしない数の素晴らしいバンドが産み落とされた。プロミス・リング、アメリカン・フットボール、owen、Make Believe、マリタイム、アウルズ、フレンド/エネミー、エヴリワンド、ヴァーモント…まだまだある。そんな広大なファミリー・トゥリーの、限りなく中心に近い場所に君臨するバンド、それがティム・キンセラ率いるJoan of Arcだ。オリジナル・アルバムとしては8枚、他にもEPや、企画盤、ライヴ盤などをリリースしている。さらに、別ユニットやソロ・アルバムなども含めると、優に50枚以上のアルバムを生み出し続けている。
Joan of Arc web site
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