誰がこの勢いを止める? 新時代のディープ・ファンク・バンド
在日ファンク / 爆弾こわい
【Track List】
1. イントロの才能 / 2. こまくやぶれる / 3. 爆弾こわい / 4. マルマルファンク / 5. 城 / 6. 夜 / 7. よみがえり / 8. はやりやまい / 9. 毛モーショナル / 10. むくみ / 11. ピラミッド / 12. 才能あるよ
SPECIAL DISC REVIEW
※本頁では、岡村詩野音楽ライター講座の受講生のお二人に寄稿いただきました。
大人になりたくない僕たち
ロックやジャズ、ヒップ・ホップなど近代以降のポピュラー・ミュージック、その最大の原動力となったものは、弱者の反抗心である。反抗の対象は、時には白人や上流階級、時には国家、そして時には大人全体であったりする。ところが大人への反抗というのは、それが奏でられたり歌われたりした瞬間、必然的にどこかメランコリックになってしまう。なぜなら「大人なんか… 」と思いながら音を鳴らしている彼らも、「大人なんか… 」と思いながら聴いている僕らも、いずれ大人になってしまうし、そのことに気づいてもいるのだから。
浜野謙太率いる在日ファンクのセカンド・アルバム『爆弾こわい』。ハマケンは何をこわがっているのか。それはずばり“大人になってしまうこと”だ。童貞を卒業したりあの娘の処女が奪われたり(「こまくやぶれる」「マルマルファンク」)、自尊心あるいはアイデンティティという名の城を築いてしまったり(「城」)、太ってきて(「むくみ」)さらには加齢臭までしてきたり(「毛モーショナル」)、自分には才能がないと気づいてしまったり(「才能あるよ」)。若者はみんなそれぞれの、いくつもの爆弾を抱えていて、そいつらがいつ爆発するのかビクビクしている。よく言えば大人の階段とも呼べるのだろうけど、ピーターパンに憧れる人たちにとってそれらのイベントは導火線に火のついた爆弾に他ならなくて、いざ起こってしまうとそのたびに、忌み嫌うべき大人に近づいたことを自覚し気が滅入るのだ。
陽気な裏打ちリズムと盛り上げるホーンに後押しされて、ハマケンは歌うというより語るというより叫ぶというより、とにかく笑っている。そう、こんな時はもう全部さらけ出して笑うしかないのだ、滅入った気持ちを裏側の見えないところに押しやって。『爆弾こわい』において最も注目しなければいけないのは、ジェイムズ・ブラウンの音楽からどのような影響を受けて、和製ファンクとしてどのように昇華したかではないし(もちろん音楽性は重要なファクターではあるけれど)、ましてや聴衆を楽しませる単なるエンターテインメントとして片付けられるものでもない。すなわち、大人になりたくないという反抗とそれ故の臆病を笑い飛ばす力、これこそが本作の主題であり、もしかしたら在日ファンクあるいはハマケンの本質なのかもしれない。とりあえず、まだまだ大人になりたくない僕たちはこのアルバムを聴いて、笑いながら「爆弾こわい」って言おう。僕だって爆弾がこわい。(Text by 笛田 英臣)
在日ファンクの「在日ファンク」宣言
この笑えないご時世の真っただ中に、最高に笑えるアルバムをリリースする。この行為がもう既にファンクじゃないか。ファンクとは、どんなに苦しい状況の中に響いても、どんなに悲しいことを歌っていようとも、聴き手が体を揺らす誘惑に屈し、強ばった顔をほころばせ、しまいには大笑いしてしまうような音楽だ。バラードのような新機軸も現れ、音楽的振幅を拡大した本作が、前作以上にファンキーである所以はそこにある。『爆弾こわい』は、現在に蔓延する辛気臭いムードもどこ吹く風で笑わせる、真のファンク・アルバムである。浜野謙太の表現はより自由になった。本作には浜野による語り、もしくはメンバーも含めたやりとりが頻出する。4曲目、「マルマルファンク」における語りはこうだ。
黒人が好きならエロい歌を歌ったらいいと言われた
モザイクで隠せばすごくエロくなるんだと言われた
そうかみんな隠すのが好きなのか
だからおれは大事なところをマルで隠してマルマルファンクで
エロい歌を作ろうと思った
でもできなかった それはなぜか
それはおれが在日ファンクだからだ
ウィア 在日ファンク
できなかった。確かに、ここにはジェイムス・ブラウン然としたむせかえるようなエロさはない。ともすれば、単なる下ネタだと捉えられてしまうかもしれない。言葉の面でも黒人による本物のファンクを志向した。しかしそれは、自分たちが黒人にはなれないことを痛感する契機となってしまったのだ。そのうえで浜野は、「在日(ファンク)だから歌ってるんだろ」と、確かめるように歌う。彼らはここで、自分たちの音楽が日本人によるファンクにしかなり得ないことを悟った。その事実が在日ファンクを自由にしたのだろう。この曲は、黒人による本物のファンクを手に入れようとしていた彼らが、本物であることに縛られない、自由な表現に到達したことの証だ。マルマルファンク=○○ファンクという曲名、○を取り去れば、在日ファンクという曲名になるのではないか。
自由を手にした在日ファンクは、本当に楽しそうだ。「才能あるよ」からは、メンバーたちが大笑いする声が聞こえてくる。「才能ありません」の声とともに起きる爆笑からは、今の彼らの余裕が感じられる。日本人だからこそ、なんでもできる。「城」や「夜」のようなバラードも歌うようになった。臆面もなくふざけ、下ネタまがいの歌を歌うこともいとわなくなった。こんなにも自由で、下品な笑いに満ちているアルバムは久しぶりに聴いた。どんな状況にあっても笑うことを止めない、そして止めさせない。このアルバムを聴いている間は、何も難しいことを考える必要はない。ただ笑って、踊ればいい。黒人による本物のファンクでなくとも、日本人による真のファンクがここにはある。(Text by 瀬川知孝)
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INFORMATION
『爆弾こわい』発売記念ツアー
- 2011年10月01日(土)@大阪梅田 シャングリラ
- 2011年10月10日(月)@名古屋新栄 アポロシアター
- 2011年10月16日(日)@東京渋谷 O-WEST
- 2011年10月29日(土)@福岡天神 ブードゥーラウンジ
- 2011年10月30日(日)@広島 ナミキジャンクション
- 2011年11月12日(土)@北海道札幌 ベッシーホール
- 2011年11月19日(土)@鹿児島奄美大島 ROADHOUSE ASIVI
PROFILE
在日ファンク
SAKEROCKのトロンボーン奏者である浜野謙太を中心に2007年に結成。結成当初は、「浜野謙太と在日ファンク」としてライヴ活動を展開していたが、「在日ファンク」と改名し2010年1月6日にデビュー・アルバムをリリースした。2011年1月末日をもってバンド初期より共に活動を行ってきた福島"ピート"幹夫(Sax)が在日ファンクから離れることを表明。それに伴い、新メンバーとして後関好宏の加入が決定。後関は、DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDENの元メンバーであり、自身の所属するバンドstimをはじめ、EGO-WRAPPIN'やSuperflyのサポートも行っている。