まめッこ名義で活動していた時期を経て、本名の藤井洋平として初のアルバム『この惑星の幾星霜の喧騒も、も少したったら終わるそう』を発表したのが2年前。ジャケットも含めて前野健太が撮影した写真をブックレットにあしらったそのアルバムは、彼が異端児であることを伝えるに十分だった。自分をとりまくあらゆる事象へのルサンチマンがユーモラスで自嘲的な言葉となって紡がれる様子は時に聴いていて痛々しくもあったが、一方でフィジカルなブラック・ミュージック指向を孕んだソングライティングからは、音楽家としての彼自身の純潔さを感じとることもできたのだ。

そして届いたニュー・アルバム『Banana Games』は、全ての演奏などを一人でこなしていたファーストとはうってかわり、ライヴ・メンバーでもある仲間と共にレコーディングしたもの(キーボードでceroの荒内佑も参加)。フィジカルな音楽を追い求める作家としての側面が自然と強調された曲からは、コンプレックス剥き出しだった歌詞のインパクトに引っ張られがちだった前作にはない大らかさと包容力を受け取ることができる。例えばファーストに収録されていた曲で、今回改めて録り直しした「ママのおっぱいちゅーちゅーすって、パパのスネをかじっていたい」を聴き比べてみるといい。アイロニカルな攻撃性を伴った歌詞も、その肉感的な演奏の前に、エンターテインメントとして見事成立しているではないか。

未来の桑田佳祐か井上陽水、いや、他の追随を許さない圧倒的な存在としての藤井洋平。照れながらも、謙虚さを見せながらも、言葉に力を込めて語る横顔には、自分こそが新たな時代を牽引していこうとするアーティストであるという自負も感じられた。『Banana Games』は間違いなく今年を代表する1枚であると宣言する。

取材 & 文 : 岡村詩野


藤井洋平 / Banana Games

【配信形態】
wav / mp3

【価格】
単曲 300円 / まとめ購入 2,500円

【Track List】
1. The VERY Sensitive TOKYO Lullaby / 2. 藤井洋平 / 3. 永遠回帰? / 4. Scum-Ping Boy / 5. ママのおっぱいちゅーちゅーすって、パパのスネをかじっていたい / 6. 理由なんて… / 7. We are the MUSIC / 8. ノー、やめて。なんてリアリティ / 9. どうせおまえはわかっちゃくれない


INTERVIEW : 藤井洋平

――藤井洋平名義での最初のアルバム『この惑星の幾星霜の喧騒も、も少したったら終わるそう』(2011年)は一人で作られたものでしたが、今回はバンドで録音されていますね? これはどういう理由からなのでしょう?

いや、当時から本当はバンドで録音してみたかったんです。元々はライヴでもバンドでやっていたこともあって… ただ、自分が想像しているような演奏、音がなかなか実現できないといジレンマがあったのも事実でして。それなら一人で録音しよう、と…。それが前のアルバムだったんです。

――初期プリンスのように、一人で作り上げることに醍醐味を感じていたといわけではなく?

あ、もちろんプリンスは好きですし、そういうところに魅力を感じていたのも間違いではないんですけど… ただ、気持ちとしては今回のアルバムみたいにバンドでレコーディングしてみたかったんです。

――ソウル~ブラック・ミュージック指向は昔からなのですか?

いやいやいやいや、若い頃は普通にいろんなものを聴いてましたよ。中学くらいはメタルとかも聴いてました。その後、自然といろんな音楽に出会うようになって… そもそも歌い始めたのは28歳の時だったんでね。サックスはそれ以前からやっていましたけど… 実は音楽に絶望していた時期があったんです。

――絶望? どういう点でですか?

キッチリとハマった音楽はイヤだなというか。今、35歳なんですけど20代とかはフリー・ジャズとか即興をやっていたんです。でも、それもうまくいかず、何をどうやっていいかわからなくなっていたんですね。

――藤井さんの音楽から感じられる特有のアウトサイダー感はそういう絶望の境地を体験したことによるところもあるのでしょうか。ソウル、ファンク指向ではあっても、そこからでさえも外れていこうとするようなところが感じられるんですよ。

ああ、そうですね。でも、外れていこう、というか、自然と外れていっちゃうというかね(笑)。ソウルならソウル、ファンクならファンクに完全にハマっちゃうとダサいというか。しょせん日本人だしね。

――黒人音楽に対して日本人としてのコンプレックスがある?

そこまで考えたことはあまりないですけど、黒人音楽にはそもそもアウトサイダー感がありますよね。望んでないのに外れてしまった、みたいなところを感じるんですよ。そこにシンパシーを感じているのかもしれないです。僕もバンドをやり始めて、“あ、やっと仲間がいたな”と思いましたけど、やっぱり居場所がない感覚というのは10代の頃からずっと感じていましたね。“文化祭、体育祭なんてf××k off!”みたいな(笑)。まあ、今のようなスタイルで音楽をやるようになってからも、“こんちくしょう!”って思いはありますからね(笑)。どこかでギア・チェンジして今は満足している、ということはないですね。そもそもフィジカルな音楽… というか、リズムがハッキリしている躍動的な音楽が好きなんですよ。フリー・ジャズ的な音楽をやっていたのも、あれも僕の中ではフィジカルな音楽だからなんですよね。踊れる音楽というか、自然と体が動くような、でも、どこか本道から外れてしまうような音楽が好きなんで。

――ただ、その一方で前作ではテープ・コラージュを試してみるような、スタジオ作業への固執も感じられました。

そういうのは、ザッパとかの影響ですね。ザッパも、まあ、ブラック・ミュージックの影響を受けているんで… バック・メンバーには黒人がいたりしますからね。そういう点で、自分にとって大きな隔たりや違いはないですね。今回のアルバムではそういう作業はやっていないですけど、それはなぜかと言うと、そういうマニアックな作業をいったん置いておいて、まずはバンドで録音することを試してみたかったからなんです。逆に言えば、今回のアルバムはある程度手伝ってくれたメンバーに任せる部分を多く持たせたかったからなんですね。誰か自分以外の人とやるというのは、どこかしら自分が“違うな~”と思うところを受け入れつつやっていくことなんで、それはそれで面白いんですよ。キレイに見せるようなライヴはつまらないし、どうなっていくのかわからないような演奏って、自分一人ではできないことなんでね。それに、特にライヴでは一度入り込んだら没入しちゃって、すごい多幸感みたいなものを感じることがあるんですよ。あまり否定的な感情によって突き動かされているわけではないんですよね。そのあたりは、まあ、ライヴ・パフォーマーとしてはアルバート・アイラーやジョン・コルトレーンなどの影響を受けていますね。

――否定的な感情ではないけれど、どこかアンビバレントだったり、演奏者同士がぶつかったりとか…。

最終的にはそれが理想ですね。ライヴをやってる時って、あまり音楽をやっているという自覚がないんですよ(笑)。お客さんをエンターテインさせたいという気持ちはあるんですけど、何て言うんでしょうね、いかにも音楽をやってます的な意識は希薄なんですよ。そういう意味でも、レコーディングとライヴはかなり分けているところがあります。ただ、今回のアルバムはメンバーみんなでの一発録りじゃなく、バラ録りだったんです。それは敢えてそうしたんですね。池袋の『ミュージック・オルグ』で録音したんですけど、各パートごとに音が重なったりかぶらないよう調整するためにバラ録りしたんです。それで、各パートごとに録ったものをミックスで合わせて。それは、やっぱりスタジオ録音のものはちゃんと長く聴いてもらえるようにしたかったからなんですけれども。

――そういう録音をする上で、参考にした作品などはありましたか?

まあ、アース、ウィンド&ファイアとかですかね。あとマイケル・ジャクソンも。やっぱり、家で聴く分にはそのあたりの作品がいいというか。インディー作品の、こう、音がモコモコしたようなのって、正直、自分自身が聴けないなって。本来はハイ・ファイでしっかり録音したいんですよね。

普通のどこにでもある言葉で面白く聴かせるかというところに気持ちがいってる

――ライヴではアイラーやコルトレーン、録音ではアースやマイケル… そういう点で、日本人のアクトに対してシンパシーを感じる人と言えば誰になりますか?

う~~~ん… まあ、リズムの他に言葉が面白いというのも大きな要素なんですけど、例えば桑田佳祐さんとかね、やっぱりスゴいですよね。

――ライヴはパッション溢れていて、録音物はしっかり作られているソウルフルなアーティストだと岡村靖幸、スガシカオのような人もあがってきますが…。

う~~~ん… そうですねえ。まあ、でも僕にはやっぱり桑田さんですかねえ。華やかさもあるじゃないですか。僕の今回のアルバムも、まあ、いいんですけど、まだ自分には少し地味なんですよね。アレンジもそうですし、曲そのものももっと派手な方が本来は好きなんですよね。その点でも桑田さんはすごいと思いますね。

――では、華やかで主張が強いといえば、ヒップホップからの影響はどの程度あると自覚しています?

あー、たしなみ程度しか聴いていないんでねえ。やっぱりメロディがある方が好きなんですよ。そういう意味では現代の音楽だとヒップホップよりR&Bなんです。

――藤井さんの歌詞はエロティックでもありますが、自嘲的なユーモアもありますよね。こうしたアプローチはどういう感覚から生まれるものなのですか?

歌詞に関しては音楽作品からの影響ばかりではないんです。意外かもしれないですが、ドストエフスキーや夏目漱石みたいな古典が好きで今でも読みむんですよ。音楽家では井上陽水さんの歌詞は好きです。僕は自分でも文章を書いたりするのが好きなので、もっと普通な感じで歌詞も書いていきたいと思っています。やっぱり歌詞も華やかであってほしいし、言葉が良くても曲が良くないとダメだし… そのあたりのバランスが難しいです。両方の要素が合致していないと聴いていて面白くないですからね。

――これまでは周囲への懐疑心や女性への強いコンプレックスを感じさせる歌詞が多かったですが、今作を聴いていると徐々に変化している兆しも伺えます。これは見方が変わってきたということなのでしょうか?

そうですね。やっぱりこれまではなかなか自分の存在が伝わらないという実感があったんですけど、ライヴをやってお客さんも増えたりすると単純に嬉しいですし、“おまえらどっか行け!”なんて言えないですしね(笑)。それと、ことさらに変な言葉や表現で伝えようとする感覚がなくなってきたというのもあります。普通のどこにでもある言葉で面白く聴かせるかというところに気持ちがいってるというのはありますね。演奏や曲と歌詞が一つになっていてバランスがとれてるようでありたいですから。

――なるほど。そういう意味でもニュー・アルバムに収録されている「We are the MUSIC」という曲のタイトルは象徴的ですね。

ああ、そうですね。でも、なんか、あまり、こう、狙ったりはしていなくて。自分たちこそが音楽だというような深い意味を持たせるより、ジス・イズ・ア・ペン的なわかりやすさを伝えたかったんですよ。そういう意味でも普通にカッコいい曲をやるアーティストという存在になりたいですね。

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PROFILE

藤井洋平

'78年生まれ、北九州市育ち。

サックス奏者として活動を経て、'06年頃より詞作曲歌手活動をはじめる。'11年、すべてのパートを自ら手がけた1stアルバム『この惑星の幾星霜の喧騒も、も少したったら終わるそう』リリース。'12年よりThe VERY Sensitive Citizens of TOKYO(佐藤和生、厚海義朗、光永渉)率いてのライヴ活動をはじめる。5月、朝日新聞に「桑田佳裕を思わせるボーカリストとしての資質に恵まれた天性の歌の力 / 新世代のアーバンソウル」などとライヴ評が掲載され話題となる。噂がウワサを呼び、今回が待望のフルアルバム発売となる。

藤井洋平 HP

 
 

インタヴュー

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