気楽に軽やかに、DOGADOGAは人生を駆け抜ける──“敢えて決めない”精神的な強さとは?

トニセン(20th Century)のバック・バンドを原型に、江沼郁弥(Vo./Gt.、元plenty)を中心として2023年に結成されたDOGADOGA。藤原寛(Ba.、元andymori)、渡邊恭一(Sax/Cl./Fl.)、古市健太(Dr.)というユニークなメンバーが揃い、身も心も開放させるようなラテンのリズムでリスナーを踊らせている。そんな彼らが〈DAIZAWA RECORDS〉から最新EP『あっ!』を発表した。刹那的な高揚を抱えたまま一定の速度で最後まで駆け抜けていく、夏の夜をいっそう彩ってくれる一作だ。 今回のメンバー全員参加のインタビューで印象的に語られていたのは、「気楽に、軽やかに、健やかに」ということ。また、「『どうでもいい』じゃなくて『なんでもいい』のスタンスでいたい」とも江沼は語る。物事を断定せず、あるがままを捉えること。それができるという感覚が、今の彼を自由にしているように思えた。
〈DAIZAWA RECORDS〉移籍第1弾! うねるリズムで心も体も揺らし続ける、全6曲入りのEP
INTERVIEW : DOGADOGA

思えば、江沼郁弥という人はいつだって大胆な音楽家である。彼はplentyの時も人間の悲しさや虚しさや、それゆえの愛おしさを大胆に歌っていた。そして今、彼は大胆にパンクで踊っている。同じ時代を生きてきたバンドマンの藤原寛や、ジャズマンの渡邊恭一、そして、この取材の日はザ・ローリング・ストーンズのTシャツを着ていた古市健太という仲間たちと一緒に。僕がDOGADOGA(こう書いて「ドガ」と読む)を初めてライブで観た時、彼らと一緒に真心ブラザーズのYO-KINGも1曲歌っていたが、DOGADOGAはYO-KINGの「深い楽観性(矛盾しているようだが、そうとしか言いようがない)」を受け継ぎながら、それをファンキーでフリーキーで、尚且つポップなポストパンクに乗せて歌っている。最高としか言いようがない。DOGADOGAの音楽には、意味があるのかないのかわからない。それは諦めるための態度ではなく、むしろ無限の可能性に開かれるための態度である。さぁ、DOGADOGAと一緒にどんっと構えて踊ろう。
取材・文 : 天野史彬
撮影 : 斎藤大嗣
それぞれにキャリアが異なる、個性豊かなメンバーが集結
――DOGADOGAの活動が始まって約1年半が立つと思いますが、今の皆さんにとってこのバンドはどのような場になっていると言えますか?
江沼郁弥(Vo./Gt.)(以下、江沼):気楽にできていると思います。
――その気楽さこそ、江沼さんが求めていたものなんですね。
江沼:そうですね。
――DOGADOGAでもソロでも、最近の江沼さんはフットワーク軽くライブをされている印象もあるんですけど、それも今のモードと言えますか?
江沼:そうですね。
――どんな時にライブの手応えを感じます?
江沼:ああー、でもライブの評価って難しいですよね。
渡邊恭一(Sax/Cl./Fl.)(以下、渡邊):多少ミスっていても「よかったな」という時もあるしね。
江沼:DOGADOGAは特にそうじゃない?
渡邊:そもそもあのギターってそういうギターじゃないもんね。
江沼:そうそう。僕が使っているギターがビザールギター(変わった形のギター、主に1960年代〜70年代のヴィンテージギターの事を指す)で、ダメダメなギターなんですよ。でも、それがよくて。綺麗な音を丁寧に録ったとしても、どんどん音を重ねたくなって、当たり前な音像になって終わりになっちゃうから。

――DAOGADOGAの場合、お客さんがどんなふうに反応してくれていたら嬉しい、というのはあるんですか?
江沼:踊ってくれていたら嬉しいですけどね。一応ダンスミュージックに片足を突っ込んで置きたいというのは、バンドのコンセプトとしてあって。
渡邊:この間、〈CLUB Que〉でやった時に外国人のお客さんが好きに体を動かしてくれていたのはよかったよね。ただ、ダンスミュージックと言っている割に曲の長さは短めなんだよな(笑)。
――渡邊さんにとってDOGADOGAはどんな場になっていますか?
渡邊:僕は来た球をひたすら打ち返している状態なんですけど(笑)、かなり自由にやらせてもらっていると思います。歌ものの中でこれだけホーンが暴れていいって滅多にないんですよ。しかも、全曲(笑)。僕は普段はワンホーンでジャズをやっているんですけど、それを別にすると、歌があるバンドでこれだけずっと吹きまくっているのは、体力的な面も含め、いろいろな意味でチャレンジって感じがします。
――そもそも、DOGADOGAのようなロック・バンド、パンク・バンドに加入してメンバーとして活動するのって、渡邊さんにとってどのようなことだったのでしょうか。普段ジャズで活動されている方としては珍しいことでもあると思うんですけど。
渡邊:僕の趣味としてはジャズの中でもビバップよりも前の、ニューオーリンズとかディキシーランド、スウィングくらいの時代のものが好きなんですけど、そういうスタイルの人で、こうやってパンクっぽいバンドに関わる人は……確かに、今はあまりいないのかもしれないです(笑)。

――DOGADOGAに加入することについては、すぐに決断されたんですか?
渡邊:1回寝かせて、嫁さんに相談しました。「なんでやんないの?」と言われて。じゃあ、やっていいのかって。そういう夫婦間のコンセンサスを元に加入を決めました(笑)。
――藤原さんにとってDOGADOGAはどんな場ですか?
藤原寛(Ba.)(以下、藤原):僕も気楽にやれていますね。若い時から突き詰めて、「遮二無二やらなきゃ」という感じでずっとバンドをやってきたんですけど、このバンドはどちらかと言うと、いち音楽好きとして好きなことをやるのが楽しい、という感じです。そういうところが僕としても新鮮です。
――藤原さんと江沼さんは、付き合いは長いですよね。
藤原:初めて会ってからもう15年くらいですね。前にやっていたバンドの事務所が一緒だったので。
江沼:僕は「andymoriがいたから前の事務所に決めた」っていうくらい、当時andymoriが好きで。
――藤原さんにとって江沼さんはどんなミュージシャンであり、どんな人ですか?
藤原:「大変そうな男だなぁ」と、ぼんやりとは思っていましたよ(笑)。
一同:(笑)
藤原:人となりのイメージとしては、「またやってんのか」みたいな感じで。
江沼:俺、そんな大暴れしてない(笑)。
渡邊:実際に暴れてたの? 伝説があるとか。
江沼:ないないない(笑)。イメージが先行して独り歩きしてるだけ。
――藤原さんと江沼さんの間で、DOGADOGAで一緒に活動を始めてからのお互いに対しての発見ってありますか?
藤原:江沼は、plenty時代は「歌うたい」のイメージだったんですけど、「音像にビジョンがあるんだな」というのは、最近になって知ったことですね。それは驚きました。

江沼:andymoriもplentyも解散した後に、僕が作った曲を寛くんが弾くっていう仕事現場がちょいちょいあって。その上で、DOGADOGAを組む前にトニセン(20th Century)のバックバンドをこのメンバーで務めたんですけど、その時に改めて「めちゃめちゃうまいな」と思いました。超人的だなって。andymoriは直線的なロックンロールのイメージがあったけど、トニセンはダンスもあるし、ファンクもあるし、フォークもあるし、打ち込みがあるものもある。いろいろあるんです。でも、寛くんは全部こなしていくんですよ。「この人、こんなに隠してたんだ!」というのは、トニセンの時に思いましたね。
渡邊:全曲、暗譜してくるのもヤバいよね。サポートの現場であんな人初めて見た(笑)。
江沼:そうそう。みんな一生懸命譜面を見ているのに、全曲覚えてきて。
藤原:いやぁ、譜面が苦手で。バンド脳しかないからさ(笑)。
江沼:DOGADOGAって、デモは僕が作るんですけど、フレーズはみんなにお任せなんですよ。僕はサウンドのムードだけ気にしていて。それで寛くんが付けてきたベースを聴くと、すごい難しいのを付けてくる(笑)。レコーディングの時はさらっとやっているけど、「よくこれで行こうと思ったね?」と思うようなフレーズを。
藤原:浮かんだやつをやろうとするから、弾けるかどうかはあんまり考えてないんだよ(笑)。
江沼:弾けるかどうかは後回しなんだ(笑)。むしろ、思いついたものに自分で追いつこうとする感じなんだね。
――古市さんにとってDOGADOGAはどんな場になっていますか?
古市健太(Dr.)(以下、古市):個人的に普段はいろいろなアーティストのサポートをやらせてもらっているんですけど、DOGADOGAはバンドだし、自分のすべての基盤というか、基準ですよね。活動の中心にある感じ……赤道のように。
江沼:おお(笑)。
古市:常に沸騰しているものというか。
――DOGADOGAは直線的なビートだけじゃない、ドラムにいろいろな要素を求められるバンドだと思うんですけど、そういう音楽性もしっくり来ていますか?
古市:今思うと「なに、このフレーズ?」と思うようなものを初期から叩いているんですけど(笑)、その時その時でそれを受け入れている感じなので、合っているのかなって思います。
――古市さんは、お父さんはTHE COLLECTORSの古市コータローさんですけど、楽器としては最初からドラムを選ばれたんですか?
古市:ギターもちょっとやったんですけど、ドラムの方がしっくりきたんです。最初から技術的な面での挫折もなくて。
江沼:おお~(笑)。
古市:もちろん、できないフレーズを練習することはありましたけど(笑)、最初から「これは絶対にできないわ」と思ったことはなくて。始めた頃からすんなりドラムが体に入ってきたので、自然と続けちゃった感じですね。

――ドラムという楽器のどんなところが好きですか?
古市:ドラムっていい意味でも悪い意味でも、シビアさがいらないんですよ。他の楽器の人は「そんなことない」と思うかもしれないけど、キーの問題とか、フレーズでぶつかったりとか……厳密に言えばあるけど、ドラムはパッションで行けちゃうんですよね。でも、その割にドラムが中心にいないと成立しないっていう、その矛盾が面白いなって思います。暴れなきゃいけないけど、ちゃんとしていなきゃいけないっていう、そのバランス感が面白い。
――矛盾を楽しんでいるんですね。
古市:そうですね、矛盾を楽しんでます。