2024/11/26 18:00

対談連載『見汐麻衣の日めくりカレンダー』

「監督」になった瞬間が大人になったときなのかな──ゲスト : 山下敦弘(映画監督)

見汐麻衣、山下敦弘 (L→R)

シンガー・ソングライターの見汐麻衣が、いまお会いしたい方をゲストにお迎えする対談連載、『見汐麻衣の日めくりカレンダー』。「大人になったと感じた時のこと」をテーマに据え、逆戻りの「日めくりカレンダー」をめくるように、当時のあれこれを振り返ります。

記念すべき第1回目のゲストには、映画監督の山下敦弘さんをお招きしました。『どんてん生活』(1999年)、『ばかのハコ船』(2003年)、『リアリズムの宿』(2004年)の通称「ダメ男三部作」や、『リンダ リンダ リンダ』(2005年)をはじめとしたヒット作で知られ、2024年に入ってからは『カラオケ行こ!』『水深ゼロメートルから』『告白 コンフェッション』などコンスタントに作品を発表している山下監督。若くして世間の評価を得た山下青年は、当時どのように社会との距離を測っていたのでしょうか。そして、山下監督にとっての「大人」とは。終盤には、「◯◯◯を脱げ! 」という思わぬ着地点へ……。

【第1回】ゲスト:山下敦弘

文 : 石川幸穂
写真 : 安仁

恥をかきたくないのに作品は作りたいという矛盾を抱えた20代

見汐麻衣(以下、見汐):20歳になると、成人式があって、年金の支払いも始まるし、飲酒、喫煙が可能になったり、私達の世代は選挙権が与えられたりと、社会から「今日から大人としての自覚を持ち、社会に貢献してください」と言われるわけじゃないですか。ただ私は20歳のときに大人になったんだなという自覚が一切なくて。自分が大人になったと思う瞬間は人それぞれだと思うんですが……そういった話も交えながら今日はのべつまくなし話せたらなと思っています。

山下敦弘(以下、山下):自分がいつ大人になったかなんて、なかなかわからないですよね。

見汐:今日お会いするにあたって、山下さんのことを改めて調べていたんですよ。山下さんが20歳を迎えられた1996年は大阪芸術大学在籍中で、その後1999年にデビュー作『どんてん生活』(*1)を発表されるんですよね。自分が好きな方の略歴を調べて簡易年表みたいなものを作るのは個人的な趣味としてやっているんですけど……そういう風に山下さんの年表を書いていくうちに……興味深い発見があったりしまして。

山下:何か見えてきましたか?

見汐:20代で撮られた作品の多さにまず驚きました。1年ごとに上映作品があって。毎年撮影していたってことですよね。『リンダ リンダ リンダ』(2005年)(*2)が29歳のときなんですね、私は29歳辺りで当時の自分のバンド埋火(うずみび)(*3)でやりたいことを具現化する為にどうするべきかがやっと具体的になり始めた時期だったなと思い返していて、既に多忙だった20代の山下さんはどういうことを考えていたんだろうと思って。

山下:その頃の俺は大阪芸大の汚い寮に4年間住むんだけど、そこの価値観しかなかったんだよね。今みたいにインターネットもないし。時間の流れも違った。彼女もいなかったし、とにかく1日が長かったのよ(笑)。

見汐:1年生のときに向井康介さん(脚本家、山下とタッグを組み制作)(*4)とは出会っていたんですか?

山下:うん。向井は最初の最初に出会ってる。で、寮の先輩の熊切(和嘉)(*5)さんが当時『鬼畜大宴会』(1997年)(*6)を作っていて、それの手伝いをしてたの。シャバに出て映画を観にいくこともあったけど、VHSで貸し借りもしてた。でもそれ以外の課外活動は、音楽好きな奴らとつるんでバンドに入れてもらったり、映画以外のことにも影響を受けてたね。

見汐:いろんなことに興味をもっていたと。

山下:大学入ってすぐに、向井と一緒に映画を観て語り合うサークルに入りかけたんだよね。でも行ってみると金持ちのサークル長の家にVHSがバーって並んでるし、可愛い子も横にいるし。「来週までに『タクシードライバー』(1976年,米)観てきて」とか言われる感じだったからすぐ辞めたね。でもかと言って映画を作る方のサークルにも入らずに、熊切さんの手伝いを楽しんでた。あれがある種のサークル活動というか。熊切さんの背中をみて、映画作りはこういうもんだと思った。その頃から向井と「映画作らないとね」という話をしてった感じ。

見汐:2000年代の前半、福岡の映画館で映写をやっていたんですけど、山下さんの作品があると編集や上映前のプリント・チェックをお願いしてやらせてもらっていて『どんてん生活』、『ばかのハコ船』(*7)、『リアリズムの宿』(*8)が「ダメ男三部作」と言われていたのを覚えています。毎回向井さんとタッグを組んで作品を作っているのも相棒じゃないですけどコーエン兄弟みたいというか、当時は、クールだな……と偉そうに思っていました。当時の映画雑誌のコラムに、山下さんが「日本のアキ・カウリスマキ」と書かれていたのを憶えているんですけど、本人的にはそういったキャッチ・コピーをつけられたりすることや周りの評価についてどう感じていたんですか?

山下:当時は、自然と溢れ出るものを作品にした、みたいなことはなくて。恥をかきたくないっていう思いがあったのかもしれない。要はカッコつけたかったのかな。『天然コケッコー』(2007年)(*9)くらいまではそうだったと思う。

見汐:恥をかきたくない、わかります……! 超共感。私は基本適当な人間なんですけど、自分がやりたいものをやると決めたことに対して、適当なことはできないじゃないですか。恥をかきたくないからこそ、熟考するし真摯に向き合うしかない。

山下:そう、だから矛盾してるんだよね。恥をかきたくないなら作品なんか作らなければいいのに、作品を作りたい衝動はあって、自分から恥をかきにいってる。でも恥をかきたくない(笑)。それが20代の頃はずっとあった気がして。

見汐:そうだったんですね。

この記事の筆者
石川 幸穂

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“二刀流”を掲げるDortmund Moon Slidersが示す、自然な営みとしてのバンド活動──「好きなことをするのに、年齢制限はない」

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突然現れた異才、野口文──ストラヴィンスキーとコルトレーンを線でつなぎ咀嚼する若き音楽家

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対談連載『見汐麻衣の日めくりカレンダー』【第3回】ゲスト : 横山雄(画家、デザイナー)

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ロードオブメジャーとしての過去を誇り、さらなる未来を照らす──けんいち9年ぶりのアルバム『いちご』リリース

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Tyrkouazは激しく、ポップに、そして自由に突き進む──無垢な自分を取り戻すための「MEKAKUSHI-ONI」

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NEK!が鳴らす、SNS世代における「リアル」とは──2nd EP「TR!CK TAK!NG」クロス・レヴュー

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Laura day romanceは、両極の“なかみち”を進む──サード・アルバム前編『合歓る - walls』リリース

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Giraffe Johnが鳴らす“ニュー・エモーショナル・ミュージック”とは? ──予測不能なバンドのおもしろさを語る

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対談連載『見汐麻衣の日めくりカレンダー』【第2回】ゲスト : 北山ゆう子(ドラマー)

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より広く伝えるために辿り着いたR&Bのグルーヴ──Nolzyデビュー作は新感覚のミクスチャー・ポップ

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純度100のその人の音を聴きたいから、まず自分がそれをやりたい──ミズノリョウト(GeGeGe)インタヴュー

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FUNKIST、16年分の感謝と葛藤の結晶“47climax”をリリース──結成25周年に向けてのシングル第一弾

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ボーダーレスに混ざりあうHelsinki Lambda Club──現実と幻想の“エスケープ”の先にあるもの

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これは、the dadadadysのブッ飛んだ“憂さ晴らし”──こんがらがったところに趣を見出す

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対談連載『見汐麻衣の日めくりカレンダー』【第1回】ゲスト : 山下敦弘(映画監督)

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YAJICO GIRLが求める、ダンス・ミュージックの多幸感──“僕のまま”で“自分”から解放される

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いま必要なのは、無名な君と僕のささやかな抵抗──THE COLLECTORSの眼差し

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20年の経年変化による、いましか表現できない音を──tacica『AFTER GOLD』先行試聴会&公開インタヴュー

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Guiba、歌ものポップス拡張中──スケール・アップを目指したセカンド・アルバム『こわれもの』完成

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滲んでいく人間と機械の境界線──OGRE YOU ASSHOLE『自然とコンピューター』クロス・レヴュー

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浪漫革命、音楽やバンドへの想いが『溢れ出す』──京都を抜け出し、この1枚で人生を変える

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一度葬り、新たに生まれ変わるフリージアン──覚悟と美学が込められたEP『歌葬』

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圧倒的な“アゲ”で影をも照らすビバラッシュ! ──“信じる”ことがテーマの「エンペラータイム」

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優河が奏でる、さまざまな“愛”のかたち──わからなさに魅了されて

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THE SPELLBOUNDと果てなき旅に出よう──セカンド・アルバム『Voyager』に込められた生命の喜び

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ナリタジュンヤがはじめて語った、自身の「原点」──「Hometown」で描いた、生まれ育った街の情景

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必要なものは海と人間のあいだにある──踊ってばかりの国が渚にて見つけた“ライフハック”

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孤独と痛みを共有した先でなにを歌うか──リアクション ザ ブッタがつかんだ希望の指針

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いつも全身全霊で楽しんだら、それでうまくいく──結成10周年のTENDOUJIは次のフェーズへ

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あらかじめ決められた恋人たちへが放つ、もっともタフで、もっともダブな最新アルバム『響鳴』

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猫田ねたこ、共生の尊さをしなやかに描いたセカンド・アルバム

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Atomic Skipperの“軌道”を記録したデビュー・アルバム完成

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[連載] 見汐麻衣

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