THE SPELLBOUNDと果てなき旅に出よう──セカンド・アルバム『Voyager』に込められた生命の喜び
BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之とThe Novembersの小林祐介からなるロック・バンド、THE SPELLBOUND。そのセカンド・アルバム『Voyager』がリリースされた。TVアニメ『ゴールデンカムイ』のエンディング・テーマ曲、「すべてがそこにありますように。」をはじめ、JESSE(RIZE / The BONEZ)を客演として迎えた「2Colors」、アイドル・グループBiSや、AIソフト、夢ノ結唱 POPYに提供した曲のセルフ・カバーなど全14曲を収録。まさに長編SF映画のような音楽体験だ。いま、THE SPELLBOUNDは過去のヒーローたちから受け継いだバトンを手にしていることを自覚し、次の走者によりよい形で手渡すことを意識している。そして、音を鳴らす喜び、生命の喜びを胸に、ものすごい速さで時空を超え飛び回っている。彼らについていけば、見たこともないまばゆい景色を目にするだろう。(編集部)
アンドロイドと肉体の高度なバランスで鳴らす、最新アルバム
INTERVIEW : THE SPELLBOUND
BOOM BOOM SATELLITESにはなかったTHE SPELLBOUNDの武器。それはThe Novembersでダークな悪夢や美しい白昼夢をたっぷり歌いあげてきた小林のロマンティックな感性なのだと思っていた。ただ、ファースト・アルバムが出た2022年以来、その予測はどんどん外れていく。バンドはBOOM BOOM SATELLITESデビュー25周年イヤーを記念し過去曲再現スタイルのツアーに踏み切り、THE SPELLBOUNDとしての新曲も、小林の歌はあえて感情を薄めたものになっていく。二人はどこに向かっているのだろうと考えていた後だから、セカンド・アルバム『Voyager』の圧倒的な美しさ、永遠に生まれ変わるようなイメージの眩しさに圧倒されてしまった。この音楽の中には何人の希望、祈り、願いが宿っているのだろう。少なくとも二人きりじゃないことは確かである。
取材・文 : 石井恵梨子
世の中にあるメッセージ、実は手紙だらけ
一一素晴らしいアルバムでした。今の手応えはいかがですか?
小林祐介(以下、小林):やっぱりファースト・アルバム・リリース以降の、ライヴ・バンドとしての充実だったり、今の世相に対する自分たちの思い。そこを含めて、この時代に出す意味と価値があるアルバムだなっていう自負はありますね。あと何より、すごく格好いいもの、聴いてて楽しいもの、ファンのみんながきっと喜んでくれるものができた実感もありますね。
中野雅之(以下、中野):そうですね。ライヴでのコミュニケーションから派生して生まれてきたものも多いのかな。ファースト・アルバムはコロナ禍真っ只中で、ライヴ活動もほぼない中、手探りで作っていったもので。そこから数年間でもさまざまな世界の変化があって。音楽って、僕と小林くんとの間のコミュニケーション、あとは僕らが見る世界、社会に対してのリアクションでもあると思うので。
一一「世相」とか「世界の変化」って主に何を指しています? たとえば止まらない円安も、ウクライナやガザのことも、どちらもこの世界の話ですよね。
中野:それらも含めたすべて、ですね。テクノロジーとか資本主義の行き着いた先が見せてくれる世界。そのツールとしての戦争の話ももちろんありますし。あとは人類がこの先どこに向かっていくのか、何が見直されるべきなのか、やっぱり小林くんと話す時も大事なトピックになりますね。「人類に向けて」って言うと大きな話になってしまうけど、一人ひとりの人生に何かしらよい作用を起こしたい、人生を美しく彩ってあげたいっていうのが根本にありますから。今の世界に対して、どんなライフ・スタイル、哲学を提案してあげられるのか、それは常日頃から考えていることで。それがこういった……自分で言うのも恥ずかしいけど、豊かな音楽表現に繋がるところはあると思います。
一一わかります。強烈な喜びが宿っているし、もっと言うと命の誕生、巡り巡って続く輪廻、みたいなものがテーマになっている。
中野:はい。輪廻は大事なテーマです。何のために生まれてきて、何のために死んで、それが次の何に結実していくのか、僕にとってすごくワクワクするテーマなんですね。今をよりよく生きることが何に繋がっていくんだろうっていう期待感。僕らが作った音楽はどこで鳴って、それによってどんなことが起きて、どんなことに寄与しているのか。
一一音楽自体が輪廻でもある、と?
中野:作品は時間を超えると思うので。そうですね、いい音楽さえ作れば本当に世代も超えて受け継がれていくんじゃないかなって思います。
一一小林くんは、輪廻というテーマをどう解釈しています?
小林:もともとTHE SPELLBOUNDって、始まった頃から運命とか輪廻転生、あとは旅とか物語が大事なモチーフだったんです。それはごく自然に出てきた言葉で。中野さんはBOOM BOOM SATELLITESをやっていて、川島さん(川島道行)が亡くなってからのセカンドキャリアがTHE SPELLBOUNDってこともあるし。僕は僕で、言葉を書いたりメロディを作る時、頭の片隅にいつも川島さんのことがあるんですね。現在過去未来、川島さんの魂が、あのエネルギーが今どんなところを飛び回っているんだろうって。ちょっとSF的ですけど、でもあの時川島さんが歌ったことを、僕は時空を超えてこの現代で受け取ってる。言葉やメロディが手紙のように僕に回ってきて、それが今日の僕のリアクションに繋がることもある。だから時空を超えていろんなものが繋がってるっていうのはよくわかるし、世の中にあるメッセージ、実は手紙だらけ、みたいな感覚もあるんですね。