2024/11/26 18:00

レーベル〈造園計画〉が提示する、デジタルと身体の間にある音楽──【In search of lost night】

In search of lost night vol.08


In search of lost night vol.08
第8回 : レーベル〈造園計画〉Interview

音はどこからやってきてどこへ消え去ってしまうのだろう。ベッドルームで、クラブの片隅で、何気なく交わしたフロアの会話で、遣る瀬無く始めた散歩で…ふと浮かび上がったイメージ、あるいは手持ち無沙汰にいじったつまみによって導かれて? その真相をでっち上げるべく、この連載では、人に話を聞いたり記録を残したりすることにした。アーティスト、DJ、オーガナイザー、クラブ・スタッフ、レーベル・オーナーへのインタビューや、ある一夜の出来事のレポートなどを随時更新していく予定。ちなみに、2年ほど前にゆるゆると更新して止まっていた連載の復刻版です。

初回となる今回は、インディペンデント・レーベル〈造園計画〉のレーベル・オーナーでバンド・帯化の島崎森哉が登場。〈造園計画〉はなぜモノを作ることにこだわるのか?そして共通点がないようで、とあるムードを共有する作品陣の審美について話を聞いた。

INTERVIEW : 〈造園計画〉


2019年に始動したバンド、帯化が主宰する国内インディペンデント・レーベル〈造園計画〉。本レーベルは当初、自主音源を販売するためのものだったが、2022年以降はコンスタントに他アーティストの音源のカセット・リリースを行っている。

これまでリリースされた作品にジャンルの縛りはなく、即興演奏集団の野流や電子音楽家の大山田大山脈、室内ダブ音楽の揚、サイケデリック歌謡のようなfyyy、ハープ奏者織川一を取り上げてきた。一見バラバラなようで、オリエンタルな感覚や細やかな逸脱が共通項として浮かび上がってくるラインナップ。聞くと、レーベル・アーティストはみんな同年代だそう。1980年代後半~1990年代半ば生まれのアーティストたちが共有しているインターネット的な逸脱と身体性の狭間にある葛藤。それがこのレーベルのえもいわれぬ雰囲気を運んできているのかもしれない。そして、そうした葛藤が生む、個人の出自と嗜好によってジャンルを歪めていく行為に、〈造園計画〉及び帯化は希望を感じているようだった。

〈造園計画〉最新リリース作品

取材&文 : TUDA

〈造園計画〉のはじまり

──〈造園計画〉はどのように始まったレーベルなのでしょうか

島崎:もともとは僕が高校の同級生と二人で組んだバンド、帯化のリリースをするためのレーベルでした。初めて出したのは2019年の「末梢変異体/群島理論」というシングルです。ぼくらはとにかくKlan Aileen(現在はZamboaに改名)が大好きで、このシングルは澁谷さん(Vo,Gt)に録音をお願いしたものなんです。バンドとレーベルを始めた2019年までは音楽活動をしておらず、ローカルシーンとも無縁だったんですけど、このリリースを通して、ANISAKISというポスト・パンク・バンドやツバメスタジオの君島結さんと知り合ったり、少しずつ人間関係に広がりが出てきました。

──長く活動をしていく中でできたローカルの繋がりからリリースしているものだと思っていました。

島崎:音楽は聴いていただけなので、初めはつながりなんて何もなかったですね。聴くにしても、国内ローカルのバンドよりも海外のインディ・ロック、特に〈4AD〉とか〈Sacred Bones Records〉、〈Captured Tracks〉、〈Dead Oceans〉あたりのインディペンデント・レーベルの作家が好きでした。Klan Aileenは、ここら辺のレーベルの国内盤リリースをしていた〈Hostess〉からセカンド・アルバム『Klan Aileen』を出しているんです。彼らが英詩から日本語詩に変化したタイミングの作品で、クラウト・ロックや西海岸サイケの要素が強いのに歌に日本のフォーク感があって、歌詞もその時の社会的な不安が反映されたようなものになっていて、本当に夢中になって聴いていました。海外の音楽が好きだからこそ、「海外のバンドっぽい国内の音楽」に興味がなかったんですけど、『Klan Aileen』をきっかけに少しずつ国内のバンド、特にWBSBFK、世界的なバンド、DEVIATIØNなど、ポスト・パンク・バンドなどを好んで聴くようになりました。

「思考が溢れすぎていた」レーベル初期

──初期には河原の石とダウンロードコードをパッケージングして売っていたのが印象的でした

島崎:帯化の『河原結社』ですね。レコードが好きなので、バンドをやるならレコードを出したいと思ってたんですけど、費用が高いじゃないですか? でもサブスク主流の時代に、普通にカセットとかCDを売るのは違うなと考えている時に、働いていたレコ屋でZoviet Franceっていうアーティストのレコードと出会いました。彼らはレコードのジャケットを麻袋にしてみたりアルミや木の板でレコードを挟んでみたり、色々な工夫をしていて。そこから影響を受けて、石にDLコードをつけて売ったり、カセットをブルーシートと麻紐で梱包したり、試行錯誤しながらリリースを進めていきました。ただ変形ジャケットって小売店での扱いが難しいし、もう少しバランスを取りつつ面白いことをしたいっていう気持ちが出てきて。最近のカセットテープのリリースにはレコードのように帯をつけたり、水引をつけたり、あるいは8cmCDと小瓶をセットにして販売したり、そういう既製品と一点物のあいだを狙うイメージでプロダクトを作っています。


──デザインもご自分でやってるんですよね? 参考にしているレーベルなどありますか

島崎:7、8割くらいは自分でやっています。10年代のエクスペリメンタル・レーベル〈PAN〉、〈L.I.E.S. RECORDS〉、〈Music From Memory〉なども自分の根底にあるくらい好きなんですけど、そこら辺のレーベルのデザインっていい意味で手抜きというか、節制の美学をもってデザインを作っているんですよね。〈Music From Memory〉のロゴが象徴的ですけど、Mを線で囲むだけでロゴになるわけだから。

──そして初期はZINEもたくさん出してましたよね

島崎:最初の二年くらいは思考が溢れすぎて、ZINEばかり作っていました。哲学や思想が好きというのもあって、そういうことや、本やゲームや音楽など、いろいろなことについて。でも自分のバンドのリリースが本格化したり、他の作家のリリースを始めてから、自分が想定していないような反応が増えてきて。「自分が何を考えているのか知ってもらいたい」という気持ちよりも、「自分の考えを超えるような経験をしたい」という気持ちが強くなってきました。だから今は、自分の中の思想やこだわりが、デザインや音響に溶け去るところまでもっていくよう努めているつもりです。思想は音楽を作ったりモノを作ったりするためのエンジンではあるけど、途中で切り離さないと「自分と似た人」にしか作品が届かなくなってしまう。ロケットってエンジンを切り離さないと飛ばないじゃないですか、それと同じです。

この記事の筆者
TUDA

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