OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.342 知らない場所を想像する
OTOTOY編集者の週替わりプレイリOAスト&コラム(毎週金曜日更新)
知らない場所を想像する
去年ごろから民族音楽を聴くようになった。ダンスミュージックの中でトライバルや太鼓の音、チャントが入っているものが面白いなと思ったのも大きかった気がするけれど、やはりJon Hassell『Vernal Equinox』の再発がきっかけだろう。第一世界の目線で第三世界の音楽を取り込むという発想は、〈Nyege Nyege〉はじめダンスミュージックにおいては殆ど意味をなさなくなりつつあるとはいえ、いまだに新鮮さを保っていると思う。民族音楽が大きく変化することがないからかもしれない。というのはインドのラーガやインドネシアのガムランは体験しに行って思ったことだった。ラーガは師匠と寝食を共にして何年もかけて習うという厳格なものだから別だけど、民間継承されてきたガムランは比較的簡単な構造でできているみたいだった。だからこそ?メロディやリズムは繰り返しが多く、ミニマルミュージック的に扱われることもあるというか、テリー・ライリーはじめそれらの作家に影響を与えやすいんだろうなと納得もしつつ。そこから派生して今年の夏前には、エキゾチカに興味が出てきた。マーティン・デニーやレス・バクスターはじめ、空想上の南国を描いた、過剰な楽園ぽさとその胡散臭さがその時のテンションにハマった。ちょうど50年代あたりはオーディオ文化の進化によって録音物の再生を楽しもうというムードがあったようで、無駄に車のエンジン音が右から左にパンを振られていたりしてそこも面白い。今更ながら細野晴臣をちゃんと聴いてみるというフェーズにも入った。横尾忠則と共に向かったインド旅行での体験をもとに作られた『COCHIN MOON』は特段に素晴らしい。インドに行く前、細野晴臣は行ってしまったら想像上の場所としてのインドを失ってしまうのではと旅行に行くのを躊躇っていたらしい。けれど、インドで見たUFOから霊感を得て作っているわけなので、土地の磁場が見せた幻みたいな側面が大きくて、これはこれで想像上のインドにちゃんとなっているよなとも思う。笑 風呂場に世界地図を置いて眺めてみる。知らない国がたくさんあるものだな。地中海の民族音楽が自分は好きなんだな、やっぱり行き来しやすいからメロディが継承されたりするのだろうか。とか考えながら。ずっと同じ場所にいる。でもここにいながらも想像することはできますからね。
