OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.186
OTOTOY編集者の週替わりプレイリスト&コラム(毎週金曜日更新)
UKレゲエの貴重映像、映画『Babylon』
『Peter Barakan's Music Film Festival』で日本初上映となったUKレゲエのサウンドシステム・シーンを描いた1980年の映画『Babylon』を先日観てきました。レゲエ、特にジャー・シャカを中心としたニュールーツと呼ばれるUKのサウンドシステム・カルチャー由来のレゲエのサブ・ジャンルが好き人々の間ではたびたび話題にあがる映画でした。というのも、そのジャー・シャカが本人役で出ていたり、なによりアンダーグラウドなシーンを描いた当時の映像がとても貴重で。さらに、これまで日本での上映、ソフト化はありませんでした。自分も粗い海賊版VHSで一度観たきりという。一時期は権利関係も不明で……という話もあり、まさか日本語字幕付きをスクリーンで見れるとは。
内容は若きサウンドシステムマンたちの、音楽青春物語……ではあるのですが、そこに幾度も大小の壁としてたちはだかるのは、当時のロンドンにおける人種差別(とそれに起因する暴力)。時代と場所は違えど、アメリカでBLM運動の引き金ともなったジョージ・フロイド事件をある意味で彷彿とさせる、警察による差別的な暴力の場面もあります。
カルチャーという意味では、主人公のクルーとブリクストンのレコード店とのダブプレートを巡るやりとりとか、そしてもちろんサウンドシステムでのクラッシュ・シーン。また教会の結婚式のシーンでは、サウンドシステムが会場に設置され、老若男女が集まり、一世代上のオールディーズとなるスカで踊り、またはラバーズ・ロック・レゲエでチーク・ダンスと、当時のカリビアン・コミニティにおけるサウンドシステムと生活との結び付きも垣間観ることもできます。
しかし、こうしたカルチャーとレイシズムの緊張関係を描き出している映画で、そのリアリティには観終わったあとかなり重い気持ちになるのも事実です。その大元にはイギリスの帝国主義・植民地主義があり、戦中までの植民地主義を考えればこの国においても、いまそこにあるさまざまな差別について考えることもできる映画ではないかとも思います。
この映画、音楽はデニス・ボーヴェルによるものですばらしいサウンドトラックも出ています。また主演はアスワドのブリンズリー・フォードで、ちょうど本作が日本で公開されたタイミングと同じくして訃報が届いた、アスワドのドラミー・ゼブもチョイ役で出ています。ということで、今回のプレイリストはサウンドトラックでも本映画のテーマとも言えるアスワドの「Warrior Charge」を中心に、UKの1980年代前後のルーツ・レゲエ、ダブ、ラバーズ・ロック・レゲエを(ジャー・シャカのみ音源が無かったので1990年代のアルバムより)。
ちなみに『Babylon』は、10月7日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷やアップリンク吉祥寺を皮切りに、全国順次ロードショーが決定した模様です。