REVIEWS : 093 ダブ、テクノ(2025年3月)──河村祐介

"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜からエッセンシャルな9枚を選びレヴューするコーナー。今回はOTOTOY編集長でもあり、昨年、監修本『DUB入門』刊行した河村祐介が「『DUB入門』その後」的な新作+α、そしてリイシューを紹介。
OTOTOY REVIEWS 093
『ダブ』(2025年3月)』
文・選 : 河村祐介
Conrad Pack 『Commandments』
Label : lost domain
ここ数年ロンドンの地下から聞こえてきている、リージスあたりのUKハード・ミニマル・テクノのサウンドと、ジャー・シャカ由来のデジタル・ニュールーツ・ステッパーを融合させたような、ダークかつインダストリアルなハード・ミニマル・テクノの流れ。その中心にいるのが、まさにこの人と相棒のDJゴンズ。ミニマル・ダブのあの音ではなく、最初期ベーシック・チャンネルのハード・ミニマル路線や、いやむしろ前述のUKハード・ミニマル、バンドゥールあたりがやろうとしてステッパー・ダブ+テクノを今様にインダストリアル感をのせてアップデートしたというか。BPM150前後の高速テクノながらバンギンな感じもダブで見事に減退させてという。このあたり、先日の来日ライヴもすばらしかったジョン・T・ガストあたりの影響という話も。詳しくはコチラで長文レヴューを書いております。
Holy Tongue 『Ambulance』
Label : Trule
ここ最近のアル・ウートンは沼モードといいますか、スローなサイケデリック・テクノの気分のようで、2024年冬にデジタルのみでリリースした、ピョートル・クロポトキンの写真を配したコミッテェ名義のスロー・アシッド・ダブで、そして今年頭のアル名義の最新作「Calvinist Hospitality」もBPM100前後のスローでダビーなサイケ・テクノでしたね。そんでもってパーカッショニスト、ヴァレンティーナ・マガレッティとベーシスト、ムカイススムとのダブ・バンド、ホーリー・タンの新作7インチA面もそんなモードでして。これまたジョン・カーペンターのサントラも引き合いに出される、スローかつダークでトリッピーなエレクトロ・ダブ。B面は本バンドらしい、ポストパンク~インダストリアル風味で、初期〈ON-U〉も感じるステッパー・ダブ。
Jay Duncan 『Infinite Mass』
Label : Trule
と、さらに上記のアルのレーベル〈Trule〉から、〈Baroque Sunburst〉からのリリースもかっこよかったジェイ・ダンカンのニュー・シングル。とにかくリズム・デリヴァー&ベースライン、そしてエコーだけで延々と聴かせてしまう中毒性がある。洞窟のなかで水滴のようなリズムをキープする“Mondariz”が後半、ブロークン・テクノから正調のイーブン・キックにふと乗っかってくるくるところは鳥肌がたってしまった。そして正調ハード・テクノな“Dissolution”と“Quantum”は、ヒプノティックなリフ、硬質かつ走ったハード・ミニマル・テクノのグルーヴが小気味良くダブで飛ばされていく、なんというかカリ・レケブッシュを少し思い出しました。レーベル主宰のアルの“Quantum”リミックスは原曲よりも、やはりここでもより低空飛行のハメの方向にフォーカスしていて、深めデレイに沈むダブ・テクノ。
Brassfoot 『Search History』
Label : The Trilogy Tapes
スティーヴン・ジュリアン率いるロンドンの〈Apron〉から、2014年にロード・タスクと共作でデビューということは、ジョン・T・ガスト周辺といっていいのではないかという、ロンドンの謎多き才人。自身の日英拠点の〈NCA〉からのファーストLPから少々間が空いての〈The Trilogy Tapes〉からニューEP。アブストラクトでダーク、不穏な“Kinda Vicarious”と往年のC2感もちょっと感じさせる“Cat Riddles & Ginnels Juice”のテクノ2曲。ノリそうでノらないジャングル・イントロだけループさせたような“Earthiopia”を経て、やはりここでもテクノ・ダブ・ステッパー“A Nation, No Flag”が抜群。