2021/03/04 18:00

REVIEWS : 016 国内インディ・ロック(2021年2月)──綿引佑太

毎回それぞれのジャンルに特化したライターが、この数ヶ月で「コレ」と思った9作品+αを紹介するコーナー。今回はOTOTOY注目の若手ライター、綿引佑太に国内のインディ・ロックを中心に9作品選んでもらいました。それではどうぞ!

OTOTOY REVIEWS 016
『国内インディ・ロック(2021年2月)』
文 : 綿引佑太

LIGHTERS 『bitter peanut butter』

“blue”という曲でLIGHTERSをはじめて知ったときには、もっとシンプルでコンパクトなロックンロールという印象を受けていたが、今作は彼女たちの敬愛する1990年代のUK 、USロックに重心を定めたジューシーな仕上がりに。一瞬、海外のバンドかと思ってしまうようなRumi Nagasawa(Vo / Gt)によるヴォーカルの、細かいヴィブラートと、かすれる吐息が耳元を撫でる臨場感。乾いた音作りが徹底された一方で、心地よい倦怠感を情緒たっぷりに表現したM2“Smoke”の、亜熱帯的な湿度に酔いしれる不思議なトリップ感覚。CDやサブスクで聴くのはもちろん最高だけれど、これはラジオで聴きたくなる曲ばかり。  目標とする音楽象をはっきり提示しながらも、興味のつま先が向く方へ迷わず進む奔放さが結晶した初の全国流通盤。フワッとした印象とは裏腹に、1枚目にしてサウンドの方向性や、今後の進み方まで見据えているかのような頼もしさに溢れる、地に足のついた作品だ。これから、どのような紆余曲折を経てどんな音楽を届けてくれるのか、既に次回作を心待ちにしている。

OTOTOYでの配信購入はコチラへ(ロスレス配信)

Hi,how are you? 『High School, how are you?』

リリース日が元旦という、なんとも縁起のよいこちらのアルバムは、収録された全12曲それぞれに1年の12ヶ月を割り当てた、カレンダーのような仕掛けがコンセプト。1~6曲目までのタイトル(半年間)を、「恋の〇〇」に統一した思い切りのいい滑稽さや、お正月や節分、花火大会など、時候の行事をきっちり抑えてくれる演出だったりと、ストーリー展開に絶対乗り遅れないラブコメ漫画的な安心感が耳に優しく、なにより、日常をイレギュラーに切り取る彼らのソングライティングにぴたりとハマった構成だ。 プロデュースには、所属レーベル〈TETRA RECORDS〉の夏目知幸が参加。鍵盤とギターのみという演奏スタイルにビートが合わさることで、疾走感が爆増。パラパラ漫画のようなシンプルさと、鬼気迫るテンポ感が病みつきのグルーヴを生み出した。さらには、馬渕モモ(Vo / Key)の声にベスト・マッチしたM3“恋の三色団子”の、夏目らしい昭和チックなアレンジほか、各月の日数や生活の体感速度に合わせた(かも知れない?!)楽曲の分数等々、様々な仕掛けがギュッと満載。結成10年を迎えてもなお、まだまだ掘り起こされる新たな可能性にドキドキしてしまう。

OTOTOYでの配信購入はコチラへ(ロスレス配信)

YMB 「潮風にのせて [feat.ちーかま(from Easycome)]」

昨年末より始動したYMBのコラボ楽曲シリーズの第1弾作品。コラボと言っても共作というより、いわゆる楽曲提供の形式で制作された今作は、同じ大阪を拠点に活動するEasycomeの ちーかま(Vo)を完全にフィーチャーした、爽やかなミディアム・バラード。 ユーミンの“潮風にちぎれて”を思わせる、いとっち(Vo / Ba)の実姉まなっちが奏でるヴァイオリンと、アコースティクギターの緩やかなストロークが波打つ音世界。最新作『ラララ』の勢いあるバンド・サウンドとはうって変わった歌謡曲的な音の運び方は、作曲者yoshinao miyamoto(Vo / Gt)によるさすがの手腕。また、実話をもとに書かれたという歌詞と、その言葉を撫でるように歌い上げるちーかま の歌声は、鮮やかな紅を点じた水彩画のように美しく、鼻の奥を不意につついてくる。 「こんな風に曲を書いて、こんな風に歌ってみたい」と、聴いた誰もがそう思うこの曲のエバーグリーンなポップ・センス。次々迫り来る流行と情報の波で忘れかけていた、音楽のストレートな魅力と楽しみ方を、聴くほどに抱きしめたくなる1曲だ。

OTOTOYでの配信購入はコチラへ(ロスレス配信)

浮 『三度見る』

2018年より米山ミサのソロ・プロジェクトとして始まった“浮”の1stアルバム。「ふぅ」と吐いた息が丘を滑って空へ流れていくような歌声は、耳によく馴染んだフォークやポップスの旋律にでさえ、歴史を跨いだ伝承歌のように大きな存在感をもたらす。さらに、カントリーや童謡、チルや民族音楽の要素など、一聴シンプルなようで様々なジャンルのアイデアを想像させるアンサンブルが、彼女の声をひと回りもふた回りも大きく強く響かせる。 また、全9曲中の4曲には現代日本インディー・ロック・シーンの立役者である田中ヤコブがリアレンジで参加。浮が持つ無添加の音楽性をしっかりと保ちながら、見事な手腕で彩りの絵筆を落とした。(特に、M8“渚”に仕込まれた和風フレーズの展開には圧巻の一言。)巧みなコーラス・ワークやフレージングに引き出された楽曲の温度感と、旋律の存在感。華やいだり、ゾッとさせられたり、彼女の歌声に心は逐一掻き立てられるが、脳は不思議と凪いでいく。1度聴きでは済まされない、高い中毒性に注意の1枚だ。

OTOTOYでの配信購入はコチラへ(ロスレス配信)

この記事の筆者
TOP