REVIEWS : 038 コリアン・インディ〜レフトフィールド(2021年12月)──内畑美里
“REVIEWS”は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手が新譜(基本2〜3ヶ月ターム)を中心に9枚(+α)の作品を厳選し、レヴューするコーナーです(ときには旧譜も)。今回は内畑美里による9枚。彼女はイベント「めちゃくちゃナイト」を主催するなど、コロナ禍以前では、日韓両国にて相互にアーティスト / DJを招聘しイベントを開催。双方の音楽交流をまさに現場レベルで行ってきました。今回は“モダン・コリアン・ミュージック”と題して、韓国の音楽シーンから、主にインディ・シーン〜アンダーグラウンドなクラブ・シーンで活躍するSSWやエレクトロニック・ミュージックのアーティストたちのなかから、さまざまなスタイルの9作品を紹介してもらいました。
OTOTOY REVIEWS 038
『モダン・コリアン・ミュージック(2021年12月)』
文 : 内畑美里
250 「Bang Bus」
DJ / プロデューサーとして活動する250が、待望の新曲を〈BANA〉よりリリース! こちらは、来年に控えているフル・アルバムからのリード曲。韓国でも「年配の人の音楽」となっているポンチャックのイメージをアップデートするため、長年に渡りポンチャックに向き合い、再解釈を行った意欲作。 トロット(日本でいうところの演歌)に、ダンス・ミュージック要素が加わった音楽がポンチャック。イ・パクサがポンチャックの第一人者と言われていますが、アーティストみんなが、イ・パクサの存在の大きさと、ポンチャックという音楽の複雑性から避けて通っていたところを、250は長期にわたり熟考したとのこと。アシッド強めのバキバキ感と、ポンチャック特融の良い意味でのドン臭さを残しつつも、隙があるようで無いパリッとしたサウンド。250のクオリティの高い仕事っぷりに圧巻されます。 MVでは、近年俳優とし大活躍中のベク・ヒョンジンが出演。思わず笑っちゃうほど、終始情けなさ過ぎる男を見事に演じ切っていて最高です。こちらも楽曲に劣らず大傑作なので是非!
Evenif 『It's always in my mind and we'll be all right』
個人的に、待ってました!と大きな声で叫びたいほど、本当に待ち続けていたアーティストのアルバムです。というもの、彼らはソウル・弘大(ホンデ)を中心に活動する3ピース・バンドですが、今までリリース作品がなく、試聴はsoundcloudのみ。しかもデモ音源が多く(でも割とライヴ活動はする。観たい……)なんとも海外在住ファンとしては苦しい状況でした。そのデモ音源だけでも、洗練されたインディー・ロックの空気感はバシバシに伝わっていて、フェニックスやヴァンパイア・ウィークエンドなどのロック・サウンドに韓国のモダン・ロックの憂いさが融合した、美しい佇まいの音楽です。 突き抜けたポップス感よりも、内省的で静かな、映画のサントラのようなダークトーンな楽曲が多く、テンションが平坦で落ち着いているこのバランス感覚が、韓国のインディー・ロックぽくてとても良いなと思いました。
Lee Suho 『Monika』
Balming tigerのプロデューサー、イ・スホがとんでもないアルバムをリリースしました。 ブレイクコア、インダストリアル、エクスペリメンタルなど、エレクトロニック・ミュージックをより鋭く、ヒリヒリするような質感で仕上げた目が覚める一作。 2018年にリリースされた「Entertain」から続く“電子音楽の再構築”みたいな部分が、今回はよりマッシヴな感じのアプローチです。 参加アーティストはSe So Neonのハン・ソユン、Silica gelのキム・ハンジュ、Balming TigerのメンバーOmega Sapienやsogummなど。ラインナップの豪華さもさる事ながら、各アーティストと楽曲がキワキワの部分でマッチングしているところが凄いです。イ・スホのセンスが爆発しているというか………ソユンとブレイクコアの組み合わせなんて他じゃ聴けないだろうなと思いました。