REVIEWS : 053 ポップ・ミュージック(2022年12月)──高岡洋詞
"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜から9枚(+α)の作品を厳選し、紹介するコーナーです(ときに旧譜も)。今回は高岡洋詞による“ポップ・ミュージック”。話題のドラマ主題歌集、SSWやラップ・グループ、バンドなどなど、この国で生まれた良質なポップ・ミュージック、2022年の締めくくり、新年明けても未チェックものが必ずありそうな特盛り16枚でお届けします。
OTOTOY REVIEWS 051
『ポップ・ミュージック(2023年12月)』
文 : 高岡洋詞
Mirage Collective 『Mirage』
音楽総監督にSTUTS、作曲にbutaji、ヴォーカルにYONCEを迎えた、TVドラマ『エルピス -希望、あるいは災い-』主題歌の全ヴァージョン集。物語が進むにつれ謎が明らかになるドラマの作りに合わせて、オート・チューンの霧の向こうからシンガーやミュージシャンが徐々に姿を現していく。同じ佐野亜裕美プロデューサーによる『大豆田とわ子と三人の元夫』の “Presence” が客演ラッパーの交替で「変化する主題歌」だったのを踏まえた趣向は見事で、曲も演奏もすばらしい。それにしても、なんといってもYONCEだ。かつてSuchmosを初めて聴いたとき一瞬で魅了された歌声の色気はやはり唯一無二。また歌い続けてもらいたい。
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betcover!! 『卵』
3年ほど前だったか、何かのイヴェントでたまたま見たステージは衝撃的だった。この4作めは前作『時間』と同様、主役のヤナセジロウに日高理樹、吉田隼人、Romantic、岩方ロクローが加わったバンドでの一発録りだそう。クラシック・ロックからネオ・ソウルまで新旧内外の音楽をたっぷりと吸収し、衝動と洗練が同居した卓越した演奏を聴かせてくれる。エンジニア池田洋の貢献も大きい。曲調も構成もアレンジも目を瞠るほど多様だが、共通しているのはどの曲もメロディがいいこと。とりわけ “超人” “卵” “葵” など長尺曲のサイケデリックなジャム感が楽しい。日本のオルタナティヴ・ロックの王道ここにあり、という感じがする。
ましのみ “Fantasy? feat. maco marets”
2021年の独立以降、ましのみの音楽は格段に親しみやすさを増した感がある。Shin Sakiuraによるヒップホップ風のトラックに乗って綴るのは、歌詞にもある通りあっちもこっちも騙し絵だらけの不安な時代を生きるヤング・アダルトの率直な随想。その感触は、独立第1弾の曲名じゃないが、まさに “淡々とメロウ” である。出力抑えめでハスキー要素を強調した歌声と独特のメロディのマッチングが心地よい。同世代のラッパーmaco maretsが客演し、リリックの意味よりも響きのよさとメロディックなフロウで持っていく彼独特のスタイルで本領発揮。ちょっとしたアイデアがたくさん盛り込まれ、楽しみながら制作したことがうかがえる。
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