「音楽を生む、それを放つ、それで生きてく」──3年ぶりの新作『KAGERO Ⅵ』
パワフルかつアグレシッヴなインスト楽曲でジャズ、パンク、ハードコアシーンを股にかける異端児、KAGERO。リーダー、白水悠のアザー・プロジェクト、 I love you Orchestraなどのリリースを挟んで、約3年ぶりのリリースとなる新作『KAGERO Ⅵ』を発表する。OTOTOYでは本作をハイレゾ配信するとともにメンバー全員インタビューをお届けしよう!
待望の新作アルバムをハイレゾ配信開始
【短期連載】白水悠のバンド・サヴァイヴ術~MY LIFE AS MUSIC~
ライター、岡本貴之が3回に渡ってお送りする白水悠(KAGERO / I love you Orchestra)へのインタヴュー短期連載『白水悠のバンド・サヴァイヴ術~MY LIFE AS MUSIC~』。バンドの運営について赤裸々に語った3回の短期連載。こちらもぜひご覧ください!
第1回「バンド運営とリーダーの役割」編はコチラ
第2回「音源制作とリリース」編はコチラ
第3回「ライヴ活動について~バンド運営の未来」編はコチラ
INTERVIEW : KAGERO
デビュー以来、毎年コンスタントにアルバムを発表してきたKAGERO。その新作『KAGERO Ⅵ』は、約3年ぶりのリリースとなる。ここにあるのは、4人が音をぶつけ合い、互いを抱きしめすぎて骨折させてしまうように破壊してはまた構築して、ただただ無垢な音楽愛をひたすら奏で続ける、濃密な空間。今作が誕生した背景を知るため、OTOTOYでは2012年の『KAGERO ZERO』以来、じつに6年ぶりとなるメンバー全員インタビューを行った。この3年あまり、ライヴ活動はもとより会場限定CDと配信での新曲発表もあったにも関わらず、アルバムをリリースしなかったのは一体何故だったのか? 大きなお世話とは思いつつ、今作に至るまでの月日を振り返ってもらった。アルバムを聴いてから読んで、またアルバムを聴いてみて欲しい。
インタビュー・文 : 岡本貴之
写真 : Kana Tarumi
最悪KAGEROは解散するかも
──『KAGERO Ⅵ』は2015年リリースの 『KAGERO V』以来、約3年ぶりのアルバム・リリースとなります。その間、ライヴ活動もしてましたし、それぞれのユニット、バンド活動もあったわけですが、何故これだけの間隔が空いたんでしょう?
白水悠(Ba) : 『KAGERO V』を出したのが2015年12月か…… そういやいままでなんでか知らんけど、だいたいKAGEROのリリースは冬だったな。
佐々木"RUPPA"瑠(Sax) : 冬のリリースをやめたいっていう話はしたね(笑)。
菊池智恵子(Pf) : うん、した。
萩原朋学(Dr) : 冬にリリースするとそのままツアーに出ることになるから、季節的に北の方とか行くのは移動がつらいなぁって話はよくしたね(笑)。
──絶対それだけが理由じゃないと思いますけど(笑)。
白水 : まぁそれは別にどうでもいいんだけど(笑)。そう、2015年12月に『KAGERO V』をリリースして。んで国内のツアーを何本かやって。年が明けて2月にファイナルのワンマンを渋谷クアトロでやって。お客さんもしっかり入ったし、内容的にもあの時点ではベストなライヴができて。でも、あれが終わった時に「この先KAGEROでやりたいことってなんなんだろ?」ってのを個人的に強く感じて。それまでは当たり前にさ、バンドをやって、作品創ってツアーして、大きいところでライヴして、っていうことしか思考回路になかったんだけど、クアトロのワンマンが終わって、じゃあ次はリキッドルーム、赤坂BLITZ、新木場コースト、Zepp Tokyoって感じでバンドを動かしていくのかーって考えたときに……多分だけどこのままその道に進んだら、最悪KAGEROは解散するかもなぁって強く感じてさ。
萩原 : うん、うん。
白水 : 別にそのことについて3人ともレーベルとも特に話し合いとかはしなかったんだけどね。まぁ僕個人の感覚半分、あと僕から見た3人の音楽観とか人生観も加味した感覚が半分。まぁこの人たちも、もちろん僕も、「有名になりたい」ってのをファーストに置いて音楽やってるわけじゃないんだろなーって。そう感じた時、じゃあKAGEROでどういう音楽を書けばいいのかっていうのがよくわからなくなっちゃって。少し休ませてくれよって思ったのが本音かな。
萩原 : 俺は、もっと直接的にみんな疲れてると思った。俺も含めて。
白水 : 別にそのとき特段KAGERO内で何かがあったってわけじゃないんだけどさ。
萩原 : それまでは、いい意味でルーティンが回ってたんですよ。ここでリリースして、ここでライヴをして、ここでファイナルをやって、次に向かうっていう。
RUPPA : そのままやっていけば毎年続いて行く感じだったよね。
萩原 : うん、別にそこに疑問は感じていなかったし。でも、ずっと滝のように曲ができるわけではないんだ、この人(白水)も、って。あの頃から「これがいつまで続くんだろう?」とは思ってた。
──そういうときに、多くのバンドはさっき言った「次はリキッドで、その次はBLITZでライヴをやろう」というのを目標設定にするのでは?
白水 : それまではずっとそうだったよ。その道しかないもんだと思ってた(笑)。
RUPPA : ただあの時期、割と「BLITZでワンマン!」ってバーンとぶち上げて、その後音沙汰がない、みたいな人たちを結構見てたんだよね。
白水 : うん。そういうのをめちゃくちゃ見てきちゃった。「前進あるのみ」みたいな活動の結果さ、バンドが潰れるか、もしくは音楽そのものが潰れていくって有様をね、めちゃめちゃ見てきちゃってて。
RUPPA : どこに行ってもチラシを配ってたあいつらがいなくなった、みたいな(笑)。
白水 : だから、あのときヘタに動かしたらKAGEROが壊れちゃうかもって感じて。別に仲が悪いとかって頃でもなかったんだけどね。アメリカツアーを2回やって帰ってきて、クアトロワンマンの頃なんてむしろすごく仲が良くて何の問題もなかった。でもたぶん、ここでもう一歩踏み込んだら疲れ切るんだろうなって。恋愛みたいなもんだよ(笑)。
──その時期は、それぞれの活動もやってた時期ですよね。
白水・萩原 : (同時に)いやそれは別に……。
萩原 : それぞれの活動で他の彩りはつくから楽しいけど、それでKAGEROへの「気持ちのピース」が埋まるわけじゃないし、それをKAGEROの代わりに当てはめるっていうのは、誰もしてないと思う。
白水 : どうしたって代わりになんてならないよ。KAGEROの曲が創れないって言ってる間もI love you Orchestra(以下・ilyo)では曲を書きまくってて、でもそれは完全に別の話だから。そもそもilyoの動かし方についてとかも、わざわざ3人とは話すらしてないもん。そんな必要がないくらい別物だから。
──ilyoはあんなにリリースしているのに、KAGEROの曲はどうして書かないのかっていう気持ちはなかった?
RUPPA : う〜ん。
萩原 : ないでしょ。
菊池 : うん。
白水 : そこで「ないでしょ」って言えるのは普通じゃないけどね(笑)。
萩原 : みんな、これまでも1つのバンドしかないって状態だったことがないから、そうなったら(KAGEROが止まったら)ああなるってのは必然といえば必然で。ilyoが活発な時は、物理的に俺らにも時間もできるし、じゃあ俺らもサイドの方をバリバリやっておくよーってだけ。それがもし「なんで今ilyo動かしてるんだよ」って思っちゃったら噛み合わなくなるけど。「それだったら俺らは俺らでやっとくよ」ってなれるから。
スタジオに毎週入っていた3年間から生まれた作品
──じゃあKAGEROはいつ動かさなきゃいけない、みたいなこともなく?
白水 : うん。なかったね。完全に僕次第だった。
RUPPA : ていうか、別に何もやってなかったわけじゃないしね(笑)。ライヴもやってたし。
菊池 : スタジオも毎週入ってたから。
白水 : ちゃんとスタジオに毎週入ってたのがデカかったんだろうね。コミュニケーションって点で特に。
萩原 : クアトロが終わってからの1年、よくまあ飽きもせずに入ってたよね。ハッキリ言って何の目標もなくスタジオに入ってたから。
菊池 : カレンダーを買ったら、毎週水曜日に全部スタジオの予定を書いてた(笑)。
萩原 : ライヴの前にやるゲネはあるけど、それ以外は曲を創るわけでもなく目標にするライヴがあるわけでもなく。呼ばれたら出るスタイルで。でも、呼ばれたいからスタジオに入って牙を研いでたとかでもなくて(笑)。
RUPPA : でも、あたしは2週空くと不安になった。
菊池 : ああ、わかる。不思議な感じはあるよね。
RUPPA : 2、3週空くと、白水は曲に関してすごく考えてくるんですよ。それって、あたしがこっちで考えてるものと合致しないものだから、(スタジオで)一緒にやらないとわからない感じがあって。新曲ができても、2週会わないと変えてくるから。
白水 : 昔の曲もライヴのセットリストに入る曲は常に新しいカタチを考えちゃうから、確かにちょっと会わない期間があるとラグができちゃうんだよね。
RUPPA : 曲もむずかしくなっていってるし。この2、3年の間に白水はデモをかなり完成された部分まで自分で打ち込むようになって。白水がそういうことをできるようになって行くにしたがって、知らないうちにどんどん曲が進化することが多くなったっていうのもあったし。2週空くと、何を考えて何を変えてきたのか、そこを探って行く断層が増えて行くというか。もう3週なんて空くと随分変わってるから(笑)。
白水 : KAGEROでのRUPPAさんのサックスっていうのは、技術的なことよりも特にイメージの部分がすごく大事だからね。普段から色んなこと、例えばもうプライベートの出来事とかさ、そんなものから共有してないと、フィーリングがひとつ違っただけで全体で鳴ってくるサウンドが思ってるのと違ってくるから。そういうことも全部含めて、毎週毎週な〜んの目標もなく律儀にスタジオに入っててよかったなーって思うよ。別に全然そんな狙いじゃなかったんだけどね(笑)。でも会ってなかったら、もしかしたら持たなかった。
──バンドがなくなっていたかも?
白水 : うん。ヒトって会ってなかったら意識のズレが出るでしょう? KAGEROの曲も一向に上げてこないわ、マネージメント自体もそこまで考えてこないわ、ilyoはバリバリ動かしてるわ、だったし。毎週会って4人ともこういう感じでいるからお互いやってられるっていうか。
RUPPA : そうね。今は無理だからとりあえず何か曲をやろうかって。結局、あたしも今回のアルバムで自分の曲は1曲しか入れてないけど、「こういう感じの曲はどうなんだろう」って考えるのも、会ってればできるし。なかなか自分から発信するのは難しいというか。あたしが創るときは、メロを創ってみんなでスタジオでドーンってやる方が好きというか、それくらいの簡単さでやりたいから。
白水 : RUPPAさんの創り方は1stの頃から変わらないよね。
萩原 : 去年の春に白水さんが体調を崩したときに、俺とRUPPAさんの2人だけでスタジオに入ったときがあって。そのときに今回入れた「Wind Me Up」をRUPPAさんが出してきたんですよ。でもたぶん、RUPPAさんが創った曲を原型のまま4人でガチャガチャやったら、ちょっと時間がかかるかもなって俺は思って。たまたまちょうど2人だったからそのときに創ったんです。
RUPPA : あたしは、見開きのページに3、4曲載ってるようなジャズの本を持ってきて「じゃあこれをやろう」みたいな感じでやるのが理想というか、それくらいでやってた方が色んな人に演奏してもらえるんじゃないかっていうのもあるから。「A-B-A」くらいの構成で曲として完成していて、それだけやっても楽しいくらいの感じというか。
白水 : ジャズのスタンダードみたいな感じだよね。
RUPPA : そうそう。ああいうものをKAGEROのアルバムにもねじ込みたくて書いているようなところがあるので。
これが創りたいんだもん。これしか創りたくないって思った
──毎週目的なくスタジオに入っているうちに、RUPPAさんが曲を創ってきたりして徐々にKAGEROとしてアルバムを創ろうっていう流れになってきたわけですか。
白水 : そうだね。KAGEROは2009年にファースト出した時から、常にアルバムを出すことが許されてる環境で。今までも、例えば『Ⅳ』を創り終わったら、すぐに『V』の制作に取り掛かってて。6年間、それがずっとKAGEROだったんだけど。
RUPPA : そうだよね。もう次の締め切りが見えてる状態でツアーが終わってたからね。
白水 : だから今回は初めてだったんじゃないかな。「締め切りのない創作」っていうのが。『V』を創り終わって、ハッキリ言っちゃえば僕がKAGEROの曲を書けなくなって。『Ⅳ』で自分の音楽を、まぁ当時の段階では表現しきってたし、『V』でサウンドエンジニアリングとか楽曲の深みや幅を創ることができて。『V』をリリースする前にはもうクアトロワンマンも決まってたし、対外的なことも当たり前に考えてたし。でも『V』が終わって、その先、いったい何を書いたらいいのかわからなくなっちゃったまま、その後10月に〈FUZZ’ EM ALL FEST.2016〉(ファズエム)があって。あの日観に来てくれた人には悪いけど、そのときの〈ファズエム〉でやったKAGEROのライヴが個人的には最悪の気分だったんだよね。ひと言でいうと、ステージ上がる前まで余裕ぶっこいてたんだよ。うち主催のフェスだし、まあ絶対盛り上がるだろうって。いや、イベントはよかったよ。でもKAGEROのライヴが全然良くなくて。僕らが呼んだ14アーティスト(ilyoを含む)が、それぞれ「絶対誰にも負けない」ってものを持ってて。それを1日中見せつけられて、最後にKAGEROがドーンって出たときに「KAGEROの武器って何なんだ?」っていうのを突き付けられた気がしたんだよ。
RUPPA : うん。本当に、1、2曲目で「まずったな!」っていう感じになって。でもそこで仕切りなおす勇気もなかったし。でもたぶん、始まった時点でまずいことは気付いていて。
──でも、観ているお客さんはそういうことを感じてなかったんじゃないですか?
白水 : あの日のライヴを観て「今日のKAGEROは最悪だった」って思ったお客さんはそんなにいないのかもしれない。でもたぶん、そのズレなんだよね、「ヤバい」って思ったのは。KAGEROってどういう音楽なんだ?ってことに筋を入れないと、もうこっちが昇天しないんだなって。あの日は幸か不幸か、ilyoが超わかりやすいカタチでフロアを沸かせててさ。ああいうスタイルでお客さんをノらせることに関しては、もうKAGEROはilyoに勝てないって覚悟したの。だってあのバンドはメンバーの半分くらい常に手が空いてるしさ(笑)、クラップだとか振り付けだとか、ハタから見てわかりやすい感じで盛り上げるのは、もう絶対に勝てないって思った。でも、KAGEROはそれがしたかったわけじゃねーなって事に改めて気づいたんだよね。それまでは、特にアメリカツアー終わってからかな、KAGEROにもそういう部分は必要だって思ってたから。
RUPPA : そこでも負けないって思ってたからね。
白水 : そう。そこでだって負けてたまるかって思ってた。でもそうじゃなくて、もう日本ではニーズ狭くてもいいから、深いこと、圧倒的な表現をやりきるのがKAGEROだろって。逆に言えばKAGEROならそれができるだろって。それがわかったのが2017年の年明けくらいかな。そこからやっとKAGEROの創作が少しずつできるようになって。それで最初に創ったのが「SILENT KILL」の原型。でもまだそれを試行錯誤しているときに2ヶ月くらい体調を崩して、その間にRUPPAさんが「Wind Me Up」を創ってくれてて。「ああなるほど、こういうのいいね」って。中東的な音階というか。
RUPPA : あたしの中で、ここ2年くらいアラビア・ブームが去ってなくて。
白水 : 僕も前作の「THE TRICKSTER」の流れで民族的な音階っていうのは頭にあって、でも「Wind Me Up」をRUPPAさんが書いてくれたから今回はそこは任せようと思って。そこから「SILENT KILL」が出来上がったのが去年の夏かな。そこからどういうアルバムになるのかっていうのが少しだけ見えてきて「MY EVIL」と「under」が生まれて。それで「chemicadrive」を書き上げたときに、正直「あ、これ売れないかも」って思った(笑)。でも売れなくてもいいや、って。
一同 : (笑)。
白水 : このアルバムが刺さる人は、たぶん日本では少ないだろうなって覚悟したんだよね。でもしょうがない、これが創りたいんだもん。これしか創りたくないって思った。でも、もしこの作品をわかってくれる人がいたとしたら、そしたらその人とはものすごく仲良くなれるかもしれないって。それくらいのターゲットの狭さでいいって思った。
──それが、2016年に〈ファズエム〉で気付いたことの答えになったということかな。
白水 : いや〈ファズエム〉のときにすぐ気付いたわけじゃないんだよ。そこからめちゃくちゃ考えたの。それまで強固にあったKAGEROへの自信が、あのときの〈ファズエム〉で完全に崩れただけで。そこに回答を出せたのは「SILENT KILL」が出来てから。
──「SILENT KILL」って暗い曲ですよね。
白水 : そうかな(笑)? まぁどうみても明るくはないけど(笑)。
萩原 : でも変な重さはないよね。『IV』の曲なんて暗いどころの騒ぎじゃなかったから(笑)。
白水 : 「sister」「ill」(『Ⅳ』収録)みたいな「怨念がやべぇ!」みたいなのとは違う。
萩原 : そうそう。あれはなんかもう、扉を開けちゃう感じ。
RUPPA : 「SILENT KILL」は作品としてそういう設定なだけで。恐らくそれまでの暗い曲って白水自身がそうとか、我々の内面が出てそうだっていうものを自分も背負っちゃってて。それで演奏するのが大変だったんだよね。すごく感情移入しなきゃいけないっていうか。
白水 : オーバーリアクション?
RUPPA : そうそう。完全に「自分からこの曲が生まれてきた」っていう感じでやってたんだけど、今作に入れている暗い曲って、たぶんそういう話じゃないんだよね。暗い話を書いてる人間が根暗かっていうとそうじゃないし。殺人事件の台本を書いているやつが人を殺したことがあるのかって言ったらそんなわけないしね。
萩原 : うん、もっと俯瞰な感じがする。自分が暗いんじゃなくて、暗い人を見て書いている感じ。だって「DESERTED」とか、完全に自分自身じゃないでしょ? 自分がどう思うかとかじゃなくて、見ている映像っていうか。
白水 : ああ、それは今言われて気付いた。たしかに今回の創作は、描写なんだわ。
RUPPA : 自分の内面がグラグラしているっていう感じはそんなにないよ。今回は「これ、どういう曲なの?」って普通に訊ける。前は訊いたら内面を掘り下げることになって、こっちもメンタルをやられてたから(笑)。
──なんでそういう風になれたんですか?
白水 : う〜ん、KAGEROっていう表現を、前提の段階から「振り切れた」っていうのはあるのかなぁ。コントロールできるようになったっていうか。だから今回ってメンバーに曲を提示するときに、最初から「これで大丈夫」っていう相当な自信と余裕があったんだよね。『Ⅳ』のときとかは、KAGEROとしてのアレンジの完成がまだよく見えてないまま構築してたから、あんまメンバーにグチャグチャ言われたくなかった(笑)。原曲には自信あったんだけどね。「KAGEROのアレンジ」ってのは僕もまだ固まってたわけじゃないから。でも今回は創るアルバムの像がしっかり固まっていたから、曲に自信を持って提示できたんだよね。
RUPPA : 前は、言われるとブレちゃうから突っぱねるっていうのがあったからね。
白水 : 面倒くせえなー、白水(笑)。
一同 : (爆笑)。
RUPPA : 今回は、「これはこうなんじゃないの?」って言いやすかったし、そこからビルドアップできる状態で曲を創っていけたからね。
白水 : そうだね。今回は3人が意見くれても「ああ、それいいじゃん」って素直に受け入れられるくらい、完成像に自信と余裕があったんだよね。「あのとき全然曲を書けなかったけど、おかげさまでこんな作品書けました」って、メンバーに対しても、お客さんに対しても言える自信。去年の〈ファズエム〉のときには「SILENT KILL」を初めてやって、音源も物販でリリースできて。「カマしたった!」って感覚で溢れてた。もうさ、楽曲の力しかないなって。僕には楽曲の力しかないんだってはっきりわかった。破天荒さとか、容姿とか、言葉の強さとか、そんな刀は持ってない。僕は「創作」っていう刀しか持ってない。クアトロのワンマンが終わったときに「自分は『音楽』がしたいだけなんだよなぁ」ってすごく思ったの。たぶんあの頃当たり前に思ってた道の先を進むってことは「芸能力」が必要になってくるんだろうなって。「あれ?タレントになりたかったんだっけ?」ってさ、なんかすげえ思ったの。
RUPPA : そこから先の売り方というか、これをどうマスに落とし込んでいくかって考え始めるとそうなるよね。
白水 : それをやってらっしゃる方々をどうこう言うわけじゃないよ。ただ、僕はそれが嫌だったの。残りの30代とか40代をそれに注ぎ込むのは、自分の人生として嫌だな、って。これ言うと語弊があるからアレなんだけど、僕、あんまり有名になりたくないんですよ。
萩原 : そうだね(笑)。
白水 : 結構マジな話、平穏に暮らしたくて。「ただ音楽を創って死んでいきたいだけ」なの。今の時代、少しでも有名になるとひたすらにめんどくさいじゃん。自分がこの道に入ったのって、音楽的にも違うけど、例えば奥田民生さんみたいな「こんな音楽できましたよー」みたいなスタンスで生きていきたかっただけなの。「音楽を生む、それを放つ、それで生きてく」っていう、今やってることをしたかっただけなんだよ。
ピアノの世界から膨らんだイメージが僕の中の基盤にあった
──奥田民生さんだったら今はソロだからそういうスタンスで出来るのかもしれないけど、バンドだと他のメンバーもいるわけだから、また違うのでは?
白水 : ああ〜、そうかもね。みんながそれをどう思ってるのかはよく知らない(笑)。
菊池 : 私は、ピアノを演奏するのが好きでずっとやってるから。だから、恥ずかしいけど3人は私の中で最高のメンバーで。
白水 : うわ(笑)!!
萩原 : いや、俺は逆に、この人はバンドの方が良いと思ってますよ。音楽が生まれても結局まわりに誰かいないとその作品は世に出て行かないわけで。だって、ただただ音楽を創りたいっていう人は、言ってしまえば出すことすら余計なことなんですよ。だから1人でやっていればそれを出すためのスタッフが必要だろうし。それはバンドっていうのも同じで。俺は昔からバンドマンになりたかっただけだから、曲を創る以外のことも全然苦にならないんですよ。たぶんRUPPAさんはその両方があると思うし、ちょうどここ(白水)との間にいるんですよ。だから、自分はずっと神輿を担いでいて、その上に登ろうとは思わないんです。俺は別にそこに下だとか上だとかっていうヒエラルキーを感じてなくて。でも、誰かが下にいなきゃ上がれないから。その棲み分けができたらバンドは上手く回ると思うんですよね。
白水 : たぶん、KAGEROってちょっと関係性が変わってるんだよね。大学の先輩(RUPPA)・後輩(萩原)で、僕がちょうどその真ん中にいて、そこに外部の智恵子が入っているのがいいスパイスで。これで僕が一番年上だったらまた違うような気がする。ハギは、僕のすべてのコミュニティの中で一番仲の良い友達。RUPPAさんっていうのは、今僕のまわりの人間で唯一、僕に圧倒的な「NO」を突き付けられる人で(笑)。でもそれって本当に貴重な話で。智恵子は、まぁ本人の前でこんなこと言うのもアレだけど、多分僕の音楽を、僕以上にわかってくれてる唯一の人なんじゃないかな。今回の作品は、僕の中では智恵子の作品でもあって。智恵子がもともと持ってるピアノの世界から膨らんだイメージが僕の中の基盤にあったから。
菊池 : あ、それは私も思ったよ。めっちゃそういう風に創ってくれてるなって思った。
白水 : 今回の曲が、イントロからピアノが雰囲気を創ってそこに全体が乗って行くって構成が多いのもそういう理由なのかもしれない。智恵子どうこうを無視したのは「harsh days, dust your noise」くらいかな。
RUPPA : この曲、録った後出来あがったら拍子の感覚が変わってんだもん。途中で鳴ってるクリックを外して録ってるんだよね。そうしたら拍の取り方が変わってた。それでサックスを録り直して。
白水 : そう考えると、前は、っていうか普通はレコーディングが終わったら後はもうミックスでなんとかするしかないじゃん。今回は全部録り終わってから「納得いかない」っつってサックスを録り直したりができて。「DESERTED」の間奏のピアノ独奏なんて2週間くらい録ってた。これまでとはそういう時間的な制約が全然違ったっていう事が、作品のクオリティに大きく影響したと思うよ。
RUPPA : あたしはサックスを吹いてる子に聴いてもらいたいっていうのがあったから、あたしのお客さんにも聴いてもらいやすい曲になったと思う。レコーディングするまではそんなことも思ってなかったんだけど、この曲はそういう落としどころに行けるかもしれないと思って、面白かった。
──変拍子で実験的だけど、サックスのリフレインのせいかこのアルバムの中で一番ポップに聴こえました。
RUPPA : 拍子は変だけど、コロコロ変わるわけじゃないからね。
萩原 : でも、狙って「拍子を変にした」っていうことはKAGEROでは一度もないんですよ。メロディがその拍子だったからっていうだけで。
──「Wind Me Up」も変拍子ですね。
RUPPA : これはあたしのアラビア・ブームの影響ですね(笑)。
萩原 : 珍しくコンセプチュアルな曲ですね。RUPPAさんに「こういうのをやってみよう」っていうものがあって、それをやってみた感じです。
──videobrotherでもこういうサックスを吹いている印象です。
RUPPA : 人数が増えても全然大丈夫っていう感じはある。
萩原 : RUPPAさんは曲を創るときにそれを言うよね。管楽器が複数いる状態をイメージしているというか。
白水 : 管楽器に限らなくて、RUPPAさんの曲って「吹奏楽的」だなって思ってる。
萩原 : そう。ここはサックスじゃなくて、別の楽器が吹いても良いんじゃないか?とか。
白水 : RUPPAさんの曲って、楽曲のスタンダードな部分が決まってて、それをこういう楽器構成だからこういうアレンジにする、って捉え方をしてるんじゃないかなって。だから新鮮で面白いよね。だから僕はこんなメンバーがいる環境なのにさ、こういうクオリティの作品が創れないなら「もう音楽家廃業した方がいいんじゃね?」ってプレッシャーはずっとあって。アルバムの制作に着手し始めたときさ、これから創る一曲一曲を「SILENT KILL」以上のクオリティのもの書かなきゃいけないのかぁって怖さがあった(笑)。「chemicadrive」が出来て、もう腹をくくれたっていうか。「ゲロ吐くまでやり切ろう」って。「これならずっと待っててくれた人も納得してくれるでしょ?」って。「これならもうこの先何年もずっとこのアルバムを聴いていられるでしょ?」って(笑)。そういうアルバムになったと思います。
KAGERO、配信中の近作
LIVE INFORMATION
KAGERO presents “FUZZ’ EM ALL FEST.2018”
2018年9月29日(土)新宿LOFT
OPEN 12:00 / START 12:30
出演:KAGERO, SAWAGI, 絶叫する60度, アラウンドザ天竺, memento森, about tess, Palitextdestroy, ▲'s, I love you Orchestra, conti, Manhole New World, mahol-hul, 銀幕一楼とTIMECAFE, Last Planet Opera, killie
FUZZ’ EM ALL FEST.2018のチケット詳細、タイムテーブルなどはKAGERO公式ページへ http://www.kagero.jp/
PROFILE
KAGERO
白水悠 / YU SHIROMIZU : Bass
佐々木瑠 / RYU "RUPPA" SASAKI : Sax
菊池智恵子 / CHIEKO KIKUCHI : Piano
萩原朋学 / TOMOMICHI HAGIWARA : Drums
ジャズ・カルテット編成の想像を覆す攻撃的な轟音とパンクスピリット溢れるライヴ・パフォーマンスを武器に、国内の数多のフェスやサーキットで話題沸騰。 ジャズ、パンク、ハードコアシーンを股にかける異端児として全国、そして海外より注目が集まる。 これまでに5枚のオリジナルアルバムを発表。ベスト盤のリード曲「Pyro Hippo Ride」はiTunesジャズチャート1位を獲得。2013年9月に初のアメリカ東海岸ツアー「STANDING EGG TOUR」を成功に収める。