誰かではなく、自分たちの歩幅で──新体制ヒトリエの現在を映したフル・アルバム『REAMP』

2019年4月にwowaka(Vo.Gt)が他界してから、3人体制となったロック・バンド ヒトリエが初のフルアルバム『REAMP』をリリース。今作はシノダ(Vo.Gt)が全曲の作詞を務め、3人それぞれが作曲を担当した意欲作だ。初挑戦ならではの葛藤や苦悩があったと語る楽曲制作について、またアルバムを完成させるにあたり、抱えていた彼らの思いも伺った。wowakaを模倣するのではなく、3人から“自然”に鳴る音で構成された新体制ヒトリエの初作をお見逃しなく。
ヒトリエ - イメージ(Official Video)ヒトリエ - イメージ(Official Video)
INTERVIEW : ヒトリエ
ヒトリエはOTOTOYインタヴューに初登場、音源配信も今回がはじめてとなる。wowaka他界後にヒトリエを知って聴き出したというリスナーは結構いると思う。筆者自身、これまでイベントでのライヴを何度か観ていたがフルアルバムをガッツリ聴くのは今回がはじめてで、ヒトリエを語れるようなリスナー歴もない。はじめてインタヴューを担当するにあたり、新参リスナーとしてこれまでの作品とニュー・アルバム『REAMP』の間にあるものを、どう感じ取ればよいのかわからなかった。だから、取材日までの短い期間、六本木EXシアターでライヴを観て、アルバムを繰り返し聴いて、ひたすらこの作品に思いを馳せた。取材当日、その答えをゆっくり紐解いて行くと、3人は明確に作品への思いを語ってくれた。
インタヴュー&文 : 岡本貴之
写真 : 宇佐美亮
改めて「ああ、俺ヴォーカルなんだ」って思いますね(笑)。
──先日の無観客ライヴ、お客さんがいないせいか六本木EXシアターのステージはすごくデカいなと感じました。3人はどんな思いでステージに立っていたのでしょうか。
シノダ(Vo.Gt):デカいですし、これまでの無観客ライヴで最大規模だったので、巨大な“無”が目の前にありました(笑)。2日目とかは特に、序盤に戸惑ったりもしたんですけど、やってるうちに次第に自家発電していくというか、自分の中で勝手にボルテージが上がっていって、「これは伝わってるものがあるんだろうな」みたいに思いながらやってました。なんだかんだ、3人で音を出せばテンションが上がっていく部分もありますし、ステージの照明とか色んなものが相まって良いライヴにできたなって思います。
イガラシ(Ba):もともとお客さんが来れるはずのライヴだったので、そこはやっぱり悔しいですし、それとは別物なんですけど、配信ライヴそのもの自体は別に嫌いじゃなくて、カメラチームを含めみんなでその場を作る作業に没頭した2日間でした。
ゆーまお(Dr):7周年イベントということもあって、いつもみたいに勢いよく空気に身を任せてグワ~ッと行くというよりは、丁寧にやったなという印象があります。1日目は特に、「このイベントじゃないと聴けない」というセトリにしていて、久しぶりにやった曲、それこそ3人でまだやったことがない古い曲とかもあったりしたので。2日間とも、お客さんへの感謝の気持ちを込めようと思って丁寧にやった印象ですね。
――7周年記念ライヴを経て、いよいよ3人体制初のアルバム『REAMP』が発売されますね。3人の気持ちがアルバム作りに向かって行ったのは、どんなタイミングだったのでしょう。
シノダ:2020年の上旬、緊急事態宣言が出てみんな外に出られなくなって、ベスト・アルバムの発売も延期してツアーもできなくなってというタイミングで、じゃあ何をやるかっていったら曲でも書きますかっていう感じで。4月5月ぐらいは、「月に10曲1コーラスのデモを上げる」っていうのをスローガンに3人でやってました。割合で言うと、「8(シノダ):1(イガラシ):1(ゆーまお)」ぐらいですけど。
――アルバムでは、作詞がすべてシノダさん、作曲はシノダさんが6曲、イガラシさん、ゆーまおさんが2曲ずつ担当していますが、イガラシさん、ゆーまおさんも曲を書くというのは大きなことだったんじゃないですか。
イガラシ:大きなことでした。結果的に全部シノダの曲になってもいいとは思ってましたけど、そこは頑張る姿勢を見せようと(笑)。
ゆーまお:頑張って書いてますけど、20数曲デモが並んだときに、2、3曲しか出せていないので、あんまり採用されると思っていなくて。選ばれたらラッキーぐらいの感じでバンドのためにストックされるなら、それはそれで健康的なことだなって思っていて。結果的に「6:2:2」っていう割合で曲が入って良かったなって思います。
――シノダさんにとっては、これだけ曲を書くというのも初めてですか?
シノダ:1枚につきに6曲か……書きましたね。これ以外にも使われてないのがいっぱいあるから(笑)。作曲量でいったらたぶん、人生でいちばん書きましたね。

――曲を書く時点で意識していたことってどんなことですか? 例えば昨年先行リリースされた1曲目の “curved edge”はいかがでしょうか。
シノダ:“curved edge”は、デモ提出期間でいちばん最後に出来た曲なんですよ。色んな曲をとりあえず遮二無二に作っていたわけなんですけど、ヒトリエというバンドの延長線上にあるなっていう手応えがある曲がなかなか生まれなかったんです。前回作ったアルバム『HOWLS』の次のステージに立てるような曲が欲しいし、その地続きに感じさせるようなアルバムが作れたらいいなと思っていたので。その手応えと解答がようやくこの“curved edge”で出た感じです。
――たくさん曲を書いて行ったその先に出てきた曲なわけですね。
シノダ:最終的に出てきたというか。曲を書いてLINEグループに投げていくんですけど、どんどんみんなの反応が薄くなっていくんですよ。「ああ、はい」みたいな(笑)。
イガラシ・ゆーまお:(笑)。
シノダ:最初は「ああ、これいいね」みたいな感じだったのが、どんどん決め手に欠けてきたような。曲も搾りカスみたいになって、なんのレスポンスもない曲もあったりして(笑)。でもレスポンスがないことがすべてだなと思ったので。そのときに自分が停滞してることがわかったし。「これだ!」という曲が出てきてないのは確かだったので。
――満を持して“curved edge”が完成したのは何が決め手でしたか。
シノダ:たぶん、ビートが良かったんじゃないかなって。それまでヒトリエのビート感って、速かったり四つ打ちだったりとかを売りにしてきた時期とかがありましたし、それがサウンドのアイコンみたいになってたんですけど、もうそういう時代でもねえだろうと思って。とにかく「かっこいいビート」ありきだなって色々模索した結果、トラップ・ビートでオルタナティヴみたいなことをやってみようかなって。これをゆーまおに人力で叩いてもらおうと思いました。
ゆーまお:そういうことがしたいんだろうなっていうのは、デモが来た瞬間にわかりました。本当だったら打ち込みで表現されているようなタイプのものを、実際に演奏したいんだなっていうのは伝わりましたね。
――アルバムの1曲目としては、かなりハードな曲調ですよね。
イガラシ:まず最初に発表する曲としてこれが良いなと思いました。リズム的にはそういう新しい試みはあったんですけど、ギター・リフの強さ、どんどん高まっていく強さというのを、今まで応援してくれていた人たちに改めて提示したいなという思いで。この曲のデモが届いたときは、ずっとこういう曲が欲しかったので良かったです。
――オリエンタルな旋律も印象的です。シノダさんはヴォーカリストとしてどう思って曲作りに臨みましたか。
シノダ:「ヴォーカリストとして」って問われると、改めて「ああ、俺ヴォーカルなんだ」って思いますね(笑)。まだ意識できるほど自分にスキルもないですし、やれることといったら、ちゃんとビートにハマることと、なるべくピッチを良く歌うということの2つぐらいしか意識してなくて。あとは為せば成るじゃないけど、なすがままというか、なんだろう(笑)。
――とにかく、やるしかない?
シノダ:そうそう。やってればなんとかノッてくるだろうっていう、行き当たりばったりな感じです。
イガラシ:今こうやって、「行き当たりばったり」とは言ってますけど、レコーディング・ブースに入ると、結構歌いまわしとか主張がわりと強くて。「こう歌いたい」というのが最初からハッキリしてるなという印象です。表現として、やりたいことがちゃんとあるんだなって。
ゆーまお:自分も同じ印象を受けました。
――お2人が作曲するときには、シノダさんが歌うことを想像して書いていたんですか。
ゆーまお:正直、技術的にはそこまで想像できてなくて。やってみたら、彼の声の高さとか、ちょうどハマるところで作っていたというのがラッキーでした。何も変えないで、そのまま素でパッと出せたから、「良かった~!」って(笑)。
イガラシ:ゆーまおの曲はめっちゃハマってるなと思いました。これまでヒトリエで活動してきた中で、メイン・ヴォーカルに対して主にシノダがコーラスを付けていて、そのときの声がめっちゃいいなと思っていたんです。シノダがメイン・ヴォーカルとして前に立つにあたって、新たな要素というか、そういう良さも出してほしいなって。なので、自分が作った曲に関しては、コーラスしているときのイメージで歌ってほしいと伝えて、そういう仕上がりになっています。
ヒトリエ - curved edge(Official Video)ヒトリエ - curved edge(Official Video)