メンバー脱退とバンド継続の“破壊と創造”ーー歌うアホウドリは、なにを想う?
2011年結成、2016年には5年越しで12曲入り初の全国流通盤『無我夢中』をリリースした歌うアホウドリ。ラップ、ポエトリー・リーディング、歌と叫びを織り交ぜ、徹底的に喜怒哀楽を表現する楽曲の作成と演奏を志す4人組バンドの次なる作品は、ゲストボーカルにKIM(from UHNELLYS)、Miya-Z(from memento森)を迎えたEP『Scrap & Build』。前作から短いスパンで作られた理由は、ギターのMitsuyoshiが脱退することがきっかけで作られたから。今回は、バンドを続けていくヴォーカルのSatoshiと、抜けるMitsuyoshiの2人にインタヴューを敢行。彼らの想いを訊いた。
歌うアホウドリ / Scrap&Build
【Track List】
01. Scrap&Build
02. The World is Mine(feat. KIM fromUHNELLYS)
03. 泡沫(w/piano ver.)
04. ソラノワ(feat.Miya-Z from memento森)
【配信形態 / 価格】
WAV / ALAC / FLAC / AAC
アルバム購入 1,080円(税込)
INTERVIEW : 歌うアホウドリ
前作『無我夢中』をリリースしたことにより、全国のライヴ・ハウスのブッカーやイベンター等、音楽業界からの反響が大きかったという歌うアホウドリ。毎日山のように様々なアーティストの音源を聴いているであろう人たちの耳に止まるとは、過剰なほど突き刺さる言葉たちを全面に押し出した癖の強い楽曲を持つ彼ららしいエピソードだ。同時に、その癖の強さはこれまで聴く者を選んできたのかもしれないが、今回リリースされる1stEP『Scrap & Build』のリード曲「Scrap & Build」は突き抜けたアッパーなサウンドで間違いなくどんなリスナーも一発で心を揺さぶられるはずだ。ゲスト・ヴォーカルにKIM(from UHNELLYS)、Miya-Z(from memento森)を迎えた今作は、なぜ“破壊と創造”をテーマとして作られたのか? SatoshiとMitsuyoshiに話を訊いた。
インタヴュー&文 : 岡本貴之
写真 : 東玄太
完全にゴジラに助けられました(笑)
ーー昨日、ライヴを観させてもらったんですけど(2016年12月28日下北沢MOSAIC)、Mitsuyoshiさんが1月12日のライヴを最後に脱退することをMCで知って驚きました。EPを出そうという構想自体、Mitsuyoshiさんが抜けることがきっかけだったということですか。
Satoshi : そうです。6月にアルバムを出したばかりで、そんなにポンポン作品をリリースするバンドでもないので。じっくり時間をかけて次の作品をと思っていたところで、色々事情もあってMitsuyoshiが脱退することが決まって。その時点で大阪のライヴとか、スケジュールがいくつか決まっていたので、じゃあ年内で、という話になったのが9月か10月くらいで。でもそこからしばらく一緒にやらなければいけないので、ちょっと喧嘩状態にもなったんです。でもそんな状態で一緒に大阪に行っても何になるんだっていうことで、2人で話し合ったりして。そこで、うちのリリースを手伝って頂いているかたに、「じゃあそれを逆にいいほうに使える形にして、最後に一緒に良いものを作れればいいんじゃないかって」っていうお話を頂いて。それで、いちばんお世話になっているのがmemento森とUHNELLYSなので、彼らを迎えてやれたら自分たちとしてもいいんじゃないかっていう話になったんです。でも正直memento森もUHNELLYSも、僕はもともとリスナーでしたし、最近はライヴに呼んでもらったり出てもらったりという関係ではありますけど、さすがに一緒に作品を作ってくれというのもおこがましいかなと(笑)。でも話をしたら快諾して頂いて、参加してもらえました。
ーーバンドの状態が悪くなっていたのを上手い具合に作品作りの方向に転化できたんですね。
Mitsuyoshi : その前は、1週間くらい連絡を取っていなかったんですけど、先輩(Satoshi)が僕の家の前にある公園に来て「最後にちゃんと作品を作って終わらせようよ」って言ってくれて。だったら僕も最後は美しくじゃないですけど、ポジティブに脱退することを捉えたいなと思ったので、すごく良い機会を与えてくれて感謝しています。
Satoshi : たいがい、公園で話すんですよね。
Mitsuyoshi : エモくて良い公園があるんですよ(笑)。あと、先輩の家の近くにある川とか。そこで曲も何曲か生まれてますね。
Satoshi : 良い川があるんですよ。ただ、川で喋るとエモ過ぎると思って公園にしました。
一同 : (爆笑)。
ーーリード曲「Scrap & Build」は理屈抜きにめちゃくちゃカッコイイですね。イントロはギターとベースが合わさって1つのリフになっているような印象です。
Mitsuyoshi : ありがとうございます。その辺はベースのJuriさんが上手くやってくれたのかなって思います。イントロのギターのフレーズ自体は家で弾いていてできたんですけど、コードの感じが、ジャケットにもあるような終わりなのか始まりなのか、暗いのか明るいのかわからないみたいな、色んな感情が混ざったコードで。カッティングしちゃえば、ちょっとダサめのフレーズかなとも思ったんですけど、逆にそれが良いかなと思って。そのフレーズからメンバーがそれぞれ肉付けしていった感じです。
ーータイトルの『Scrap & Build』はバンドの状況からつけられたということですよね。
Satoshi : 彼が抜けるって決まったタイミングで、仲が良かった他のバンドが改名して新しくスタートしたんですけど、そのライヴが全然良くなかったという話があってそこのヴォーカルも落ち込んでいて一緒に飲んだんです。そしたらなぜか「シン・ゴジラ観に行こうぜ」って話になって観に行って(笑)。そしたら終盤で、「この国もScrap & Buildで成り立ってるんだ」っていうセリフが出てきて。そこで、自分もバンドをやってきて今のメンバーになってから2年くらいだけど、それまでも紆余曲折あってメンバーが抜けたりしてその度に壊して創造してっていうのを繰り返してきたんだし、今、Mitsuyoshiが抜けたからといってここで終わらなくてももう1回Build出来るなと思って。今度作るものはそういうものをテーマに据えたらいいなって、完全にゴジラに助けられました(笑)。本当に、「シン・ゴジラ」を観なかったらこの作品はなかったかもしれないですね。活動休止や解散も一度は視野に入れたので。奇しくもゴジラにアホウドリが救われるという(笑)。
Mitsuyoshi : (笑)。
Satoshi : Miya-Zさんのmemento森も昔は6人だったのがある日4人に変わったというのもあったし、KIMさんのUHNELLYSも20年やってきた中で昔は3人とか4人だった時代もあったと聞きますし、そんな中で「Scrap & Build」というテーマを据えてKIMさんとMiya-Zさんを迎えてやるというのは、必然的というか、この2人が見てきた音楽の世界での「Scrap & Build」を歌ってもらえたら最高だろうなって。そういう流れからタイトルも主題曲も「Scrap & Build」にしました。
ーーその思いをそれぞれがマイク・リレーでラップしているわけですね。
Satoshi : 2人ともさすがだなって言わざるを得ないアプローチで、KIMさんなんて、その歌詞は20年やってないと出ないだろうなって。〈どうせいなくなるパッタリ〉とか。すごく身につまされるというか、「お前頑張れよ、いなくなるんじゃねえよ」みたいな意味でも捉えてますね。〈そんなアートとやらを全部ぶっ壊してからが勝負〉とか。自分自身への応援歌だと勝手に思っているんですけどね。Miya-Zさんは東京にいらっしゃったタイミングで僕と同じ日にレコーディングしたんですけど、ほとんどその場で書き上げたフリー・スタイルです。僕はMiya-Zさんからロドリゲスって呼ばれているんですけど(笑)、「ロドの出方を見ようと思てんねん」って言われて。僕は、「明日こいつ(Mitsuyoshi)と最後のレコ―ディングだな」と思って、色々総括したくて前日に歌詞を書いたんですけど、そこに対してMiya-Zさんがどうアプローチしてくるかというのを感じつつ。
ーーそれぞれがそれぞれの歌詞を感じながら書いているんですね。
Satoshi : そうです。それもあって僕が〈一番手歌うアホウドリ〉って言っているんですけど、それに対して諸先輩方がどう乗っかってくるか、どう返してくるかっていう面白みも感じながらやりました。僕が歌入れしているのを聴きながらMiya-Zさんは書いているし、僕とMiya-Zさんが完成した音源を聴いてKIMさんは書いているので。
みんな1つの場所にとどまっていることはないので
ーー「The World Is Mine」にもKIMさんが参加していますが、この曲ではKIMさんにどんな役割を求めたんでしょうか。
Satoshi : 『無我夢中』の曲を先輩方の力を借りてScrap & Buildするというのもコンセプトの1つだったので、KIMさんにいざ何に参加してもらうか考えたときに、あの人の声質にはこの曲だろうなと思って。いちばん最初は僕のラップは全部消してKIMさんに歌ってもらおうかと思っていたんですけど、上がってきた音源が合間合間に歌を入れてくるというもので。驚きと同時に、KIMさんが入れている場所の空白って、自分たちもアレンジとして若干持て余していた部分だったので、そこにバチコーンって入れてきて。「お前らアレンジってこうやるんだよ」って教えてもらったような感じでした。
Mitsuyoshi : 確かにここはもっと何かあるって話していたところだったんですよ。ラップが終わってギターが前に来るんですけど、何かちょっと薄いんですよね。その薄かった部分にKIMさんがディレイの聴いた声で空間を作ってくれたことで、曲自体に広がりが生まれたというか。たぶん、曲を聴いたときに「ここはもっと入れた方が面白いぞ」って思ってやってくれたと思うので、嬉しかったです。
ーー「ソラノワ feat. Miya-Z(from memento森)」はMiya-Zさんとお2人の3人だけで録ったんですか?
Satoshi : これはもともと、「音の街に眠る猫」(『無我夢中』収録曲)に僕のラップを全部消してMiya-Zさんに入れてもらうという構想があったんですけど、入れる前になんかありきたりだなと思って。それより新曲を今作った方が面白いんじゃないかって、Mitsuyoshiにアコースティック・ギターを弾いてもらってMiya-Zさんと僕で歌詞を書いて、歌ったんですけど、3テイク目で僕の歌詞がMiya-Zさんに負けてるなと思い出して、フリー・スタイルでエア・マイク1本立てて、ラップしてたんですよ。そしたらMiya-Zさんもフリー・スタイルでやるって言って、完全に2人でフリー・スタイルでやったんです。Miya-Zさんの歌い出しが〈夕暮れ迫る街角〉っていう節なんですけど、これはmemento森がまだ6人だった頃のアルバムに入っている「day」という曲で、僕が人生の中でもトップ・クラスで感銘を受けた曲なんです。4人になってからはフリー・スタイルでやっていてその歌詞が出てくることはないんですけど、今回我々の新曲をフリー・スタイルで作ろうってやった1発目でその歌詞を出してきたので、まさかそんな曲が出てくるなんてってもうビビり倒して。Miya-Zさんが歌い出した瞬間に「ヤバい、「day」きた!」って思ったんですけど、エアー・マイク一発録りなので切れないから僕のフリー・スタイルがショボかったらもう1回同じことをやらせることになるわけです。それはMiya-Zさんに失礼だなと思って、下手なラップはできないっていうプレッシャーが半端なくて。
ーーサビの英語の歌詞は、Mitsuyoshiさん自らが歌っているそうですが、自分は違う道を進んで行く、という気持ちを歌っているわけですね。
Mitsuyoshi : はい、そうですね。
Satoshi : Mitsuyoshiもそうだし、アホウドリもそうだし、memento森もそうだし、UHNELLYSもそうだし。みんな1つの場所にとどまっていることはないので。常にそういう風に進んで行くっていう意味合いも込めてますね。
人に時間を割いてもらっていることに対して答えなきゃという気持ちが強い
ーーMitsuyoshiさん脱退後の歌うアホウドリは、どういう体制で活動していくんですか?
Satoshi : サポート・ギタリストがもう決まっているので、4人で活動します。そのギタリストも、1月12日のライヴに出ます。表題曲「Scrap & Build」を作るにあたってギターを重ね過ぎて、Mitsuyoshiのギター1本だと表現しきれないということで、レア・ケースなんですけど、抜けるギタリストと新サポート・ギタリストが同時にステージ上がるという。
Mitsuyoshi : 本当にレアですよ、これは(笑)。
ーー昨日のライヴで「灯台」を歌う前にSatoshiさんが「与えられた時間は短い、人生も短い」って言っていたのがとても印象的だったんですが、そういう焦燥感みたいなものっていつもSatoshiさんの中にあるんですか。
Satoshi : 普段の生活ではそんなに思わないですけど、ステージに立ってそこにお金を払ってお客さんがいるという状況になったときに、2000円とか2500円のチケット代を高校生のお客さんとかが買うには、バイトで3、4時間かかっちゃうわけじゃないですか? さらにライヴ・ハウスまでの移動時間があってずっと会場にいて丸1日くらい時間をこっちに割いているって考えると、自分が思っている自分の時間というよりも、人からもらっている時間に対して、「ああ、時間って短いな」って思うんですよ。人に時間を割いてもらっていることに対して答えなきゃという気持ちが強いです。
Mitsuyoshi : 結構真面目に捉えているというか、いつだったかSatoshi先輩が急に「歌う理由がわからなくなった」って言ったことがあったんですよ。それだけ心血を注いでというか、この人は自分が表現しているものに賭けているんだなって。
Satoshi : この前、歌詞の内容のことでドラムの渥美さん(Hidehito)に言われたんですけど、「自分の想いを昇華している感じがあって良いと思う」って言われて。そこに対してのジレンマはすごくあるんですよ。確かに書いた時点では昇華されているんです。でも、昇華したものを歌い続けることで呪われていくんですよ(笑)。
ーー呪われていく、というのは?
Satoshi : 結局その思いは吐き出して終わったはずなのに、それを毎日歌わないといけないとなると、その思いを自分の中にずっと留めないといけなくなるというか。それに呪われてるなと最近思っていて。
ーーでも作品を残す以上は、逃れられないですよね。
Satoshi : しょうがないですよね(笑)。そこの呪いとの戦いは割り切らないといけないし、背負っていくのも1つの手だし。でも最近はやっとステージに立っても自分の言うべきこと、やるべきことがやっとわかってきた気がしますね。やっと、自分のやりたいことと呪いとの間を取れるようになってきてるのかなって気がしてるのが、ここ1ヶ月くらいですね。「Scrap & Build」はバンドの歴史とこれからの決意表明と自分自身の人生を全部重ねて書いた作品なので是非聴いてみてほしいです。
DISCOGRAPHY
歌うアホウドリ / 無我夢中
【配信形態 / 価格】
[左]24bit/48kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC
単曲 200円(税込) / アルバム 1,800円(税込)
【トラック・リスト】
1. 終わりと始まり
2. The World Is Mine
3. 曼珠沙華
4. Skit
5. 灯台
6. 音の街に眠る猫
7. Early Night
8. 独り言
9. 折れた翼
10. 泡沫
11. 灯す物語
12. Bonus Track
インタヴューはこちら
LIVE INFORMATION
歌うアホウドリ presents 『助走 vol.4』
2017年1月12日(木)@渋谷LUSH
時間 : 開場19:00 / 開演 19:30
料金 : 前売2000円 / 当日2500円+1ドリンク
出演 : 歌うアホウドリ / memento森 / UHNELLYS
PROFILE
歌うアホウドリ
2011年、Vo.SatoshiとDr.Hidehitoを中心に結成。後にGt.門脇充芳、Ba.佐久間珠理が加入し現行体制へ。メンバーのほぼ全員にアメリカ渡航経験があり日本語ひいては言葉そのものに深いこだわりを強く持つ。ラップとポエトリー・リーディングに歌と叫び。喜怒哀楽を徹底的に表現する楽曲群の作成と演奏を志す。言葉の壁を音と言葉その物でぶち破ることを目標に現在まで活動を続ける。 これでまでに自主制作版ミニ・アルバムと100円シングルを1枚ずつ作成。2016年6月15日に自身初の全国流通盤1st Full Album『無我夢中』(11曲+ボーナストラック1曲の計12曲)をリリース。