ビョークのコラボレーター、マトモスが『マジでヤバい声帯!!』と絶賛! ハチスノイト、新作ハイレゾ配信
夢中夢、Magdalaのヴォーカリスト、ハチスノイトが新作『Illogical Dance』をリリース。今作には、ビョーク『Medúlla』(2004年)の共同制作者として知られる実験的電子音楽デュオ、マトモスの参加もあり話題となっている。一切の楽器を取り入れずに、メロディー・ささやき・吐息・舌音などありとあらゆる「声」を無限に重ね、聴く者に恐ろしいほどの感動を与える、まさに「異端の賛美歌集」と言える前作だったが、今作はより実験的に、さらに自由度を増したエレクトロニクス処理によって唯一無二の歌世界を描ききった作品となっている。
OTOTOYでは今作のハイレゾ配信を行うとともに、インタヴューを行った。前作同様、今作でも彼女が歌うのは「言葉」ではなく「声」。そこに対するこだわりと、彼女が思う「声」の無限性とは。彼女の歌声と、その響きまでもを、ぜひハイレゾでお楽しみいただきたい。
ハチスノイト / Illogical Dance
【Track List】
01. Illogical Lullaby-Furepe edit-
02. anagram c.i.y
03. Illogical Lullaby-Matmos edit-
04. Angelus Novus
【配信形態】
左 : 24bit/44.1kHz(WAV / FLAC / ALAC) / AAC
右 : 16bit/44.1kHz(WAV / FLAC / ALAC) / AAC
※ハイレゾとは?
【配信価格】
左 : 単曲 378円(税込) / アルバム 1,512円(税込)
右 : 単曲 324円(税込) / アルバム 1,296円(税込)
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INTERVIEW : ハチスノイト
2014年にリリースされた『Universal Quiet』で、初のソロ・アルバムにして声のみを使って作られた音楽の完成形とも言える圧巻の世界観を描いてみせたハチスノイト。新たに創り上げた作品『Illogical Dance』は前作同様声のみを使っているものの、どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出していた前作の深淵さは影をひそめ、より音像が近くに感じられる親しみやすい作品だ。マトモスの参加も話題となっているように、楽曲もより自由度と実験性を増し、自らを分解して再構築を楽しんでいるかのような印象さえ受ける。それにしてもなぜ彼女は楽器の演奏や言葉のリズムに頼ることなく、声だけを使い、言葉のない音楽を創るのか? そして『Illogical Dance』の意味するものとは? そのこだわりについて話を訊いた。
インタヴュー&文 : 岡本貴之
写真 : 大橋祐希
それでも残る「生の力」みたいなものが「声」にはあると思う
––早いもので、初ソロ作『Universal Quiet』リリースから丸1年が経ちましたね。
そうですね、本当に。何してたのかな…(笑)。めっちゃ早かったです。
––それだけ精力的に活動していたということだと思うんですけど、この1年を振り返ってみていかがですか?
『Illogical Dance』はもう少し早く、夏ごろに出したいなと思っていたんです。でもいざやってみたらドンドンこだわっちゃったり、マトモスに頼んだトラックも時間がかかったりでこの時期になりました。だから音源に関してはず〜っと1年間この作品に取り組んでいましたね。
––『Universal Quiet』は声だけで作られた作品でしたが、今回はジャケットにも表れているようにエレクトロ要素を増してポップになってますね。
今回も声だけでというのは変わっていなくて、エフェクト処理の幅が広がったという感じですね。前作を作った後から声を素材にどれだけ遊べるかみたいなアイデアは方向性としてありました。前作は森だったり自然が出しているノイズを声で表現したいというのがコンセプトとして自分の中にハッキリあったのと、自分の中のルールとして“声”に聴こえる範囲内でのエフェクト処理しかしないというのがあって。エフェクトもそんなに大胆にかけるというよりリヴァーブの深さとか歪ませるくらいだったんですけど、今回はどこまでできるかいじっていきたい、みたいな(笑)。前は声の音程自体を変えたりはしなかったんですけど、今回はリズムを作るのに極端にピッチを下げて加工してみたり、そういうところが1番大きく違うかもしれないですね。
––「anagram c.i.y」やジャケットから受けた印象が「改造されている途中」みたいな感じだったんですよ。
ああ、そうかもしれないですね。今回はジャケもそうですけど、人間が機械に取り込まれていく過程というか、切り貼りされていくような、少し無機質に遊んでいくみたいなところはあると思います。タイトルの『Illogical Dance』も“ロジカル”の逆の“イロジカル”なんですけど、もともとの声とか、自然の状態がロジカルの方、文脈がきっちりしてて文法的な流れあるものだとすると、それをパズルみたいに切り刻んで切り貼りして遊ぶことによって、どんどん論理性がなくなっていく。でもそれがまるで踊るような楽しさがあったりとか、驚きがあったりとか、もともとあった論理性とは別の意味みたいなものがそこに生まれてくるというか。積み木を積み替えるような感じで、そうやって切り貼りして加工した後にも、それでも残る「生の力」みたいなものが「声」にはあると思うし。
––ライヴではリアルタイムでサンプリングしながら声を重ねていますが、そういう声での遊び、曲の作りというのは日常的にやっているんですか?
エフェクトを使ったりというのはしないんですけど、日常の中の音を声に置き換えて音楽を作ることは良くやりますよ。水滴の“ポトンポトン”とか“バンバン”(机を軽く叩きながら)とか(笑)。自分で声に置き換えて音楽みたいなものを作ったりすることはありますね。
––それを録音して収集したり?
めっちゃします(笑)。良くやるのがお風呂の中でリズムとかメロディの断片とかを、脳内ルーパー、脳内サンプラーみたいな感じで作って、その断片を全部録って行くんです。こう切ってこう貼ったら、みたいな。たぶんトラックを作る人だと、「あのサンプルをこう使おう」みたいに考えると思うんですけど、私の場合はそれを全部声にするんですよ。「これ声にしたらどうなるかな?」とか。“ガタン”っていう実際の物音だけじゃなくて、(机をさすりながら)この触感って声にするとどうなるんだろう? とか。
––おもしろいですね。それを実際に曲として完成させるときは譜面に起こしたりするんですか?
いえ、まったく(笑)。私は譜面は書けないし読めないしで。作るときは普段録音して溜めてるサンプルをもう1回聴いて、そこから家で仮録りしてデモを作ります。それを元に本番の録音をして、晴さん(レーベル「PURRE GOOHN主宰の田中晴久)と一緒にエディットして行く感じですね。それで「こうしてください、ああしてください」という要望をひたすら言い続けるという(笑)。
マトモスは最初「俺らに頼んでもポップにならないから気をつけて!」って心配してくれてて(笑)
––今回はマトモスの参加が大きな話題になっていますけど、7月の来日ツアーから話が始まったわけではなくて、その前からすでに参加することになっていたんですね。
そうなんです、それはすごくタイミングが良くて。今年の春くらいに参加してもらえることが決まったんですけど、その頃に日本に来るらしいみたいなことを噂で聞いて、「参加してもらえる上に会える! やったー!」って(笑)。それで〈東京 BOREDOM@秩父〉(2015年7月20日)で共演した時に初めてお会いして。もう、すごくうれしかったです。
––マトモスが手掛けた「Illogical Lullaby -Matmos edit-」はどのようなやりとりで完成に至ったんでしょうか。
私が粗いデモみたいなものを送って、そこからまた私たちも自分たちのエディットを作って、向こうも同時進行で作っていってという感じでした。好きにやってもらったんですけど、マトモスは最初「俺らに頼んでもポップにならないから気をつけて!」って心配してくれてて(笑)。でも届いたときに聴いたら、実験的だけど彼らのポップさも遊び心だとか実験的なところもすごく出ていて、さすがだと思いましたね。それと最近彼らの新しい音源を聴かせてもらったんですけど、やっぱり同じ音をしているんですよね。私の曲は声を使ってどういじってもらうかというものだったんですけど、向こうの新譜はもはや人間でもなくて、洗濯機の音をサンプリングして音楽を作ってるんですよ(笑)。でも超ポップなんです。でも本当、音が一緒だなと思ってうれしかったです。
––「Illogical Lullaby -Furepe edit-」はどんなテーマで作った曲ですか?
永遠に止まない雪が降り続いているのを見ているようなイメージですね。1stに通じる部分なんですけど、自然が出している音がララバイみたいに安らげるものだったり、永遠に続く音のように感じられたり。人間の会話は話が終わったら終わるじゃないですか? でも自然が出しているノイズは永遠に止むことがない。そんな永遠に続いている音の美しさのイメージがありました。
––「Furepe」というのはハチスさんの出身地である知床の「フレペの滝」のことのようですが、やはり歌の題材として出てくるのは生まれ故郷の景色なんですか。
誰でも、郷愁を感じたり美しいと思うものを思い浮かべるときに、原体験みたいなものが出てくると思うんです。私の場合はそれが知床なんだと思います。その自然をどう描くか。そのまま写真に収めるように描いてもいいし、今回みたいにエフェクトをかけてデフォルメしてもいいし。でも描いている元になるものは同じ風景や感覚な気がします。
––これまでの活動でも原体験をもとに描いてきたものはあると思うんですが、夢中夢ではメロディや歌詞があったり表現方法は違いますよね。そうした変遷を経て今、声だけにこだわった表現になったのはなぜなんでしょう?
例えば夢中夢の場合だと私に曲が届いた段階でコンセプトがハッキリあって、一緒に作っているメンバーがいるので、ヴォーカリストとして曲の1パートを担っているという感覚で。そのぶん自分1人では絶対に作れないものが作れる感動があったり。ソロの場合は本当に1人で自由なので、するととにかく私は歌しかできないから、じゃあ自分の声でできることを突き詰めてみようという。自由で何をやっても良い分、自分との勝負みたいな(笑)。
––ソロ・ヴォーカリストの方が1人でやるとなると、誰かに演奏してもらったり、楽器で弾き語りをすると思うんです。でもハチスさんの場合は声だけで音楽を構築するという発想になるわけですよね。それは自然なことだったんですか?
たぶん、楽器ができる人なら弾き語りをしようとか、トラックを作れるなら自分で作ってその上で歌おうと思うんですけど。私の場合は楽器をやらないので、音楽をやるなら声だけでやるしなかったというか… 選択肢がそれしかなかった(笑)。
––(笑)。最初に人前で音楽をやりだした頃はどうやってたんですか?
最初は普通にバンドの中のヴォーカリストとして歌っていたんですけど。夢中夢が動かなくなったときに何かやりたいな、作りたいなと思ったけど、何も楽器ができないし(笑)。じゃあ声でやろうみたいな。本当に単純にそれがきっかけでした。よくライヴで、1人で歌でルーパーを使ってるのを見て、「どうやってこんな音楽をはじめたんですか?」って訊かれるんですけど、それも1人になったときに出来る方法が欲しかったからなんです。当時周りに1人でギターでルーパーを使うスタイルの人はいたんですけど、それを見て絶対これ声でやったらがおもしろいだろうなって思って。もともと合唱とか聖歌とかの声だけの音楽が好きだったので、「これを使えば1人合唱団になれるのでは?」と思って、ある日楽器屋に行って試してみたら「おぉぉ〜!」みたいな感じで(笑)。早速買って帰って練習して。だからコンセプトを先に作ったというよりも自然にそうやってたんですよね。追い詰められて、窮鼠猫を噛むじゃないけど(笑)、「ルーパーがあった! これだ!」という感じで。
「言葉」という枠にはめさえしなければ、その全部をそのまま届られるんじゃないか
––それに加えて、生まれ育った風景が表現の元にあると思うんですけど、それを言葉にして伝えたいと思うことはないですか?
言葉のない音楽の無限さみたいなものがあると思うんです。言葉で語れることってすごく少ないというか、言葉になるよりも前の感覚、触ったときの感覚とか、今の空気の湿り具合とか。それを言葉にするのってすごくむずかしいし、出来たとしても、言葉にした時点で、元の情報のすごく限られた部分しか語れないと思うんです。でも、「言葉」という枠にはめさえしなければ、その全部をそのまま届られるんじゃないかなって。それも1つの挑戦というか、言葉になるよりも前の感覚を声で表現できたら良いなって思っています。例えば、お母さんに抱っこされているとして、そのときに自分に触れているお母さんの肌の感覚を、言葉で表現なんて出来ないじゃないですか? でも確かにそこに存在している。それを言葉にしてしまわずに、表現したいんですよね。
––そうやって表現した曲にタイトルをつけるのって…
そうなんですよ! それが1番ツラい(笑)。唯一自分の中で葛藤があるとすればそれですね。タイトルをどうしてもつけなければいけないという。なんとなく、自分の中で言葉にできないものを作りつつもある方向性みたいなものを感じている、その単語を毎回タイトルにつけるんですけど。できる限り限定しすぎない言葉にしたいと思っています。言葉にすればするほど減っていくというか、言葉になってしまうと、そこに表現されきれなかった背景の部分が全部切り捨てられてしまう気がして。
––「Angelus Novus」なんかもそうですけど、前作でも一見すぐには意味を捉えづらい曲名が多い気がしますが、それは意図的なんですか?
そうですね、できるだけ煙に巻きたいというか(笑)。ある方向性の言葉をそのままつけるときもあるし、わざとまったく違うものをつけたりして、撹乱させたいみたいなことをしているときもたまにあります。
––ハチスさんが声を使って突き詰めていくところ、理想とか目指すところってどんなものでしょうか。
純粋に声が好きなんですよ。声の持っている響きとか色とか温度とか、ほかの楽器には絶対ないような雄弁さだと思うんです。声って言葉を語っていなかったとしても、色んな情報がそこに乗っていると思うんですよね。その中でもここにはこういう声、ここにはこういう声、というのをどんどん自分のフィルターを通してペタペタ貼っていくように、音楽を作っていきたいです。理想形とかここがゴールとかはなくて、とにかく声で何ができるだろうというのがすごくありますね。
––ハイレゾ配信されることについてはいかがですか?
歌の伸びやかさとか、余韻も楽しんでいただければ。私、声も含めて、“人間が口から出してる音”のフェチなんです(笑)。吐息とか、舌や喉がなる音にめっちゃこだわったり。だから制作中も晴さんに「ここ吐息が途切れてるんですけど、切っちゃってませんか? 探してきてくださいー!」とか言ってたんです(笑)。本当、フェチなんですよ。
田中晴久 : 通常のエンジニアリングだと消すものを、残したがるんですよ。すごく耳が良いんですよね。入れちゃいけないノイズだと思って消したら、それはそのためにわざと鳴らした音だっていうんですよ。
喉が「ウゥッ」て喉が鳴る音とか、舌が当たる音とか、全部わざと鳴らしてたりしていて。それをすごく気を使って綺麗に取ってくれるんですけど、「ここのブレスは絶対いります、ここがないと破たんします」とか、「何分何秒のここが切れているから戻してください」みたいな感じで毎回やっているんですよ(笑)。そういうニュアンスはハイレゾだとより鮮明に聴けるんじゃないでしょうか。すごく耳を澄まして聴いてみてください。
過去作
ハチスノイト、初のソロ・アルバム。クラシカル、民俗音楽、ウィスパー、ポエトリーリーディング等を昇華した独自の歌唱解釈で確立された荘厳で圧倒的な歌世界。 聴くものに恐ろしいほどの感動を伝える「異端の賛美歌集」。深層心理療法家の顔を持つハチスノイトの今作の作曲方法は、メロディー・ささやき・吐息・舌音などありとあらゆる「声」を録音、さらに縦横無尽で自由なエレクトロニクス処理を駆使することによって 彼女の故郷・知床を思わせる圧倒的に美しい自然や神聖なアニミズム的世界の音楽を作り上げる。
RECOMMEND
アメリカにはフライング・ロータス、ロバート・グラスパー、イギリスにはジェイムス・ブレイク、日本にはUN.aがいる。UN.aの1stアルバム『Intersecting』はジャズ、クラシックを経由、ローの効いた粘りある心地よい電子音ビート、美しくも力強いピアノの旋律、縦横無尽に疾走するサックス、そして洗練された女性ボーカルが華を添え、脇をギター、バイオリン、チェロ、コントラバス等豪華ゲスト・アーティストがサポート。情報量の多い楽曲を驚くほどエレガントに、実験的要素もありながら極上ポップに仕上げ、ジャズ、電子音楽の枠に留まらず、幅広く音楽ファンに聴いてほしい1枚。
LIVE INFORMATION
おやすみホログラムepisode0〜小川晃一生誕祭〜
2015年12月9日(水)@新宿LOFT
出演 : おやすみホログラム(バンド編成)、小川晃一ソロ、ハチスノイト、Have a Nice Day!
TOMY WEALTH presents 『MASKED MANSION 5』
2016年1月9日(土)@渋谷 EGGMAN
出演 : TOMY WEALTH、DJ BAKU、nego、VMO、ハチスノイト
PROFILE
ハチスノイト
北海道・知床出身の女性ヴォーカリスト。バレエ、演劇、雅楽、民謡などの経験を経て、現在は東京を拠点に活動。 フューネラル・クラシカル・バンド「夢中夢」(world's end girlfriend主宰Virgin Babylon Records)にヴォーカリストとして在籍。
2014年、自身の声のみで作られた初のソロ・アルバム『Universal Quiet』をリリース。クラシカル、民俗音楽、ウィスパー、ポエトリー・リーディング等を昇華した独自の歌唱解釈で荘厳な歌世界を確立し、東京・ルーテル小石川教会にて行われたリリース・パーティーでは発売3日でチケットがソールドアウトするなど話題となる。
アート、アパレル、演劇とのコラボレートなど多方面でも高く評価され、瀬戸内国際芸術祭、東京都現代美術館10周年記念公演『FLUXUS in JAPAN』、大館・北秋田芸術祭2014、LIQUID ROOM恒例カウントダウン・イベント『HOUSE OF LIQUIDOMMUNE2015』、『Christian Dada S/S 2016 Collection』など国内の大型アート・カルチャー・音楽イベントに参加。2015年、東京都現代美術館での『山口小夜子 未来を着る人』展では宇川直宏(DOMMUNE)とコラボ共演し、動画配信時には1晩で8万ビューを超え話題を呼ぶ。
近年の共作・共演にはMATMOS(アメリカ)、YAGYA(アイスランド)、灰野敬二、Tujiko Norikoなど。
>>ハチスノイト Official HP
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