KAGEROとILYOSSを手がける、白水悠───対照的なふたつのバンドの軌跡と可能性を語る
ジャズ・パンク・バンド、KAGEROの中心人物である、白水悠へインタビュー。これまでリリースしてきた全70曲を再録音し、2022年4月1日から1日1曲ずつ配信するという、驚異的な企画を実施中のKAGERO。“REBUILD”をテーマに掲げ、同年6月9日に終着する本企画は、なぜ始動したのか。またメンバーとの関係の変化や、これまでリリースされてきた楽曲にまつわる話などをたっぷりとききました。記事の後半には、KAGEROのサイド・プロジェクトとして白水悠が立ち上げた、I love you Orchestra Swing Style(以下、ILYOSS)の活動や、同年4月にリリースされた新作アルバムについても。KAGEROとILYOSS、対照的なふたつのバンドの過去と現在、そして未来について、白水悠が赤裸々に語ります。
KAGEROのREBUILD版、1日1曲ずつ配信中!
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INTERVIEW : 白水悠 ( KAGERO / I love you Orchestra Swing Style )
今年結成17年目となるKAGEROが、“REBUILD”をテーマにこれまでリリースしてきた全70曲のオリジナル曲を再構築して2022年4月1日おうより毎日配信リリースしている(OTOTOYは1曲につきハイレゾ、ロスレスの2種類の音源を配信中)。一方、I love you Orchestra Swing Styleが4枚目のアルバム『Fantastic Daybreak』を4月20日にリリース。タイトル、カラフルなジャケット、“アジアコラボ3部作“と銘打ったヴォーカル曲を含むポップで洒落た楽曲たちで、明日への希望をポジティヴに表現している。この対照的なふたつのバンドを牽引している中心人物が、両バンドのリーダーを務めるベーシストの白水悠だ。日常の不安と停滞感に誰もが心を翻弄されてしまう世の中で、迷うことなく彼を創作意欲へと掻き立てるものはいったいなんなのか? 自らディレクターを務めるライヴハウス・吉祥寺NEPOを訪ねて話をきいた。
インタヴュー・文 : 岡本貴之
写真 : 大橋祐希
傷跡を骨にまで刻みたかった
──最近、傍から見ていると創作意欲がすごく湧き出ているように思うんだけど、実際どうですか。
白水悠 (以下、白水) : うーん、けどまあ、メンタル的にはここ最近ずっと変わらないといえば変わらないですよ。ただ、前みたいに遠征とか海外に行けなくなった分、必然的に創作に使える時間がめちゃ増えたってのはありますよね。
──2020年~2021年は菊池智恵子(Pf)さんとのクラシック×ノイズ融合ユニットSRMZCEKで頻繁に作品を発表したり、ソロ名義のI love you Aloneでもリリースをしたり、メインのバンド以外にも本当にいろんな表現方法で作品を発表していますよね。ある程度計画を立てて活動しているんですか。
白水 : そうですね、まぁ計画的だったり無計画だったり(笑)。KAGEROとI love you Orchestra Swing Style(以下・ILYOSS)はかなり丁寧に、計画的に実行してる感じ、それ以外のことはまぁ超突発的で。コロナのこともそうだけど、状況ってのはいつだって細かく変わっていくしね、創作の形態とか計画の変更には大してこだわらないっていうのは、昔からそんなに変わらないかもですね。
KAGEROについて
─そんななかで活動の2本柱といえるのが、KAGEROとILYOSS。まず、KAGEROは2022年3月31日(木)吉祥寺NEPOで約2年ぶりの有観客ワンマン・ライヴ〈KAGERO Blue Selection〉を行いました。やってみていかがでした?
白水 : そうですね、いちばんの感想は、「ライヴって怖っ!」ですね(笑)。
──怖い?
白水 : うん、あれは本当、麻薬だよね。あまりにも楽しすぎますね。音楽で生きてるとさ、ライヴだけやってりゃいいわけじゃ全然なくて、やっぱ作品を創ることが超大事ってここ数年すごく感じてて、それでも一瞬「もう、ライヴだけやってりゃいっか!」って気がしちゃったぐらい、ちょっと楽しすぎましたね(笑)。
──17年やってきたなかでも感じたことがない興奮があったんだ?
白水 : KAGEROとI love you Orchestra(以下・ilyo)のライヴを2年間やってなかっただけにねぇ…。ライヴをすることって、やっぱすごいことなんだなぁって改めて。お客さんも嬉しそうだったしね。
──それって、ライヴをやってる最中にステージで思ってたということ?
白水 : そうだね、やってる最中からずっと思ってましたね。
──自分は配信で観てましたけど、ライヴに没頭していながらも客観的に自分の状態を冷静に見てるところがおもしろい(笑)。
白水 : ははははは(笑)。どうなんだろ、わりと色んなことをちょっと俯瞰で見ちゃうのかもしれないですね。結構普段からちゃんと冷静ですよ(笑)。
──そういう自分をかなぐり捨てて、1ミュージシャンとしてステージに没頭する、という感覚なのかと思ってましたけど。
白水 : う~ん、ライヴ中にその感覚が一切ないわけじゃないけど、没頭っていうなら、なにかを創ったりとかレコーディングしてるときの方が没頭してるかな。
──ライヴはお客さんがいて、パーティー的なところがある?
白水 : いや、KAGEROのライヴはそんなにアゲアゲな気分なわけじゃないけど(笑)。でもやっぱり、自分達が演奏して、目の前でダイレクトに楽しんでくれる人がいる、っていうのは単純に幸せな事だなぁって。配信も全然好きなんですけどね。あのワンマンの直前にI love you Orchestra本体のライヴもあったんだけど(3月21日(月祝) NEPO 3周年イベントでのLAGITAGIDAとの2マン)、そのときも全く同じ事を思いましたね。
──その「楽しすぎて怖い」という感覚って、他のメンバーはどうだったんでしょう?
白水 : どうなんだろう?なにか話したかな……でもあのワンマンの夜から、70⽇連続リリースの「KAGERO REBUILD」がはじまったから、みんなそっちの方で頭がいっぱいだよね(笑)。
──「KAGERO REBUILD」は2022年4月1日からはじまって、70曲を毎日配信リリースして、着地するのが同年6月9日。
白水 : いや、6月9日ってのは完全に偶然なんだけどね(笑)。
──“ロックの日“に着地するって、なんからしくないことするなって思ったんだけど。
白水 : そうでしょ!? 改めて数えてみたら全部で70曲で、「これ “ロックの日“に終わっちゃうじゃん。ちょっと恥ずかしいじゃん。」って (笑)。1月1日からやろうかっていう話もあったんだけど、それだと全然間に合わなくて。じゃあ4月1日からにしようってやったら、“ロックの日“が最後になっちゃった(笑)。
──なるほど(笑)。2020年に予定されていた結成15周年記念で“アルバム縛りワンマン7連発“が『KAGERO Ⅲ』でいったん延期になったわけですが、その時点では、後々全部録りなおそうと思っていたんですか? それともライヴだけで終わらせるつもりだった?
白水 : 『KAGERO』から『KAGERO Ⅲ』までの3本のライヴをやったときに、そのアルバムごとに3曲ずつくらい再録したものを会場限定で出してたんですよ。で、それを集めたものを1枚にして『KAGERO ZERO』(萩原朋学/Drが正式加入した2012年に出した全曲新録ベストアルバム)みたいなものを『KAGERO ZERO Ⅱ』とかってタイトルでリリースして、その後に7枚目のアルバム創ろうか、みたいに考えてたんだよね。で、まぁ緊急事態宣言になって『KAGERO IV』以降のライブが一旦出来なくなっちゃったから、したらアタマ切り替えて、よりおもしろいことをって考えた結果、「全部録り直しちゃおう」ってなった感じですね。
──この取材は、ちょうど『KAGERO ZERO』に収録された当時の新曲「Pyro Hippo Ride」が配信されたタイミングなんだけど、10年前のインタビューを読み返してみたんですよ。そのときは、ちょっと前まで新曲が全然書けなくて煮詰まってたみたいなことを言っていて。
白水 : ああ~、そうだったんだ? まぁあの頃は確かにそうだったかもねぇ…(笑)。
──でもいま、こうやって70曲録り直してリリースしているって聞いても、全然苦労しながらやってる感じがしないというか。
白水 : ははははは! (爆笑)。
──もちろん制作の苦労はあるとは思いますけど、神経すり減らして辛いみたいな感じじゃなくて、単純にすごく楽しそうにやってるように見えるんですよ。だって、過去作を録り直すって、ミュージシャンにとってすごく大変なことでしょ?
白水 : いやいやいや、楽しんではやれたけど、もちろんめっちゃくちゃ神経は使ったよ?(笑)。でも、メンバーに「全部録り直したい」って話したときに、3人(佐々木“RUPPA”瑠(SAX) 、菊池、萩原)が「やろう、やろう!」って即答だったしねぇ。言い出しっぺがケツまくってらんないですからね。
──そもそも、なんで録り直そうと思ったんですか。
白水 : 他の3人の感覚はわからないけど、僕個人としては、“傷跡を骨にまで刻みたかった“って感じかな。
──“傷跡“ってどういうこと?
白水 : いや、『アルバム』って言葉は本当よくできてるなぁって昔から感じててさ。自分の昔の作品を聴くのって、当時の写真が貼られたアルバムを眺めている気持ちになるんですよね。後悔とかっていうより、恥ずかしかったり、照れくさかったり。懐かしさは勿論なんだけど。みんなも自分の昔のアルバム見るとそんな気持ちになると思うけどさ。そういう気持ちって、全部引っくるめて、傷痕みたいなものだと思うんだよね。ただの傷のままだったら、死んで焼かれたらなくなっちゃう。だけど、骨だけは遺るわけで。昔の曲達を、骨にまで刻みたいなって思ったんだよね。さっきの10年前の話じゃないけど、KAGEROってバンドはこれまで当たり前にたくさん悩んだし、たくさん苦しんだし、ある意味そういうものが全部、傷として残ってるんだよね。その昔の傷に触れて、痛みを感じるより、死んだ後も遺るといいなって思ったっていうかさ……。『KAGERO VI』(2018年)を創り終わった時ね、いまでも本当思うんだけど、僕が死んだら棺桶の顔の上にあのアルバム置いといてー、って思えたんだよ。だから、これまでの楽曲達も全部そうしてあげたかったんだよね。いまのKAGEROであの子達をそこまで持っていってあげよう、というのが僕個人の「KAGERO REBUILD」を創ろうと思った理由ですね。