心が動く方へ、素直に歩んでいく──tacica『YUGE』先行試聴会&公開インタヴュー
tacicaがミニ・アルバム『YUGE』を完成させた。本作は10月29日(日)からツアー会場限定でCDをリリース、また11月19日(日)からはデジタル配信もスタートしている。オトトイでは、新作をいち早く試聴できる〈tacica『YUGE』先行試聴会〉を10月24日(火)に開催。当日はアルバムの全6曲を高音質で先行試聴、また公開インタヴューもあわせて実施した。そこで語られた内容を編集したインタヴューと、先行試聴会の模様をここに掲載する。制作された順で収録曲について話をきいているので、tacicaの歩みとともに楽しんでもらいたい。
tacica『YUGE』をハイレゾで!
INTERVIEW : tacica
tacicaの猪狩翔一が書く楽曲や歌詞、小西悠太のベースラインは、話を訊けば訊くほど、新しい発見や驚きがある。決して簡単には出てこない彼らの言葉を文章として記載すると、彼らのアルバムは信じられないほど深みを増す。そのことがとても価値があるバンドだと思うので、こうやって記事にできることが嬉しい。
インタヴュー : 飯田仁一郎
文 : 梶野有希
写真 : 大橋祐希
「遊戯」という想いを込め、制作したミニ・アルバム『YUGE』
──今回のミニ・アルバム『YUGE』は、おふたりにとってどんな作品になりましたか。
小西悠太(Ba):いつも通り、いちばんいいものができたと思います。シンガー・ソング・ライターの森田くみこさんにコーラスとピアノで参加してもらった"ナニユエ"が入っていたり、いつもよりも突き詰めた作品になりました。
猪狩翔一(Vo / Gt):タイトルの「YUGE」は漢字で「遊戯」と書きますが、これは仏教用語で「自由奔放」とか「心のままに」という意味があるんです。今作を作る前からタイトルは決めていたので、作詞作曲、アレンジも言葉通り型にハマらずにできたらと思っていました。小西とふたりになったタイミングから、あらゆるものを素直に表現したいと思っていたんですけど、そのひとつの終着点のようなアルバムになりましたね。
──素直に表現したい、と思えたのはどうしてでしょう。
猪狩:再来年の2025年に結成20周年を迎えるんですけど、そこに近づくにつれて、自分たちがやりたいようにできることはすごくいいことだと思うようになったんです。うーん…….、僕自身の心境の変化が大きいかもしれないですね。ずっと聴いてくれている人は「歌詞がわかりやすくなった」と思ってくれている気がしますけど、僕自身にはそういった意識は特にないんですよ。活動初期の精神状態に近づきながら、ただ自然に、ただ心のままに進んできた結果かなと思います。だからいますごくフラットなんですよね。そういうものを感じてもらえたら嬉しいです。
──インスト曲のタイトルも"遊戯"ですね。
猪狩:タイトルや歌詞に動物が入っているtacicaの曲だけでセット・リストを組んだツアー〈三大博物館 ~動物達の遊戯~〉を昨年11月にやったんです。このツアー・タイトルにも「遊戯」が入っていますけど、今作のインスト曲はもともとこのツアーのSE用に作っていた音源だったから、そのまま"遊戯"というタイトルになってます。その頃から僕は「遊戯」という単語がやけに気に入ってたんでしょうね。
──では"遊戯"がいちばん最初にできた曲?
猪狩:ではなくて、いちばん最初は"ぼくら"なんです。コロナが始まる半年前ぐらいから弾き語りでライヴをしているんですけど、そのときからやっていた曲で。だから3年前くらいに作ったのかな? 最初はバンド・アレンジをイメージしていたんですけど、小西のベースがとにかくよかったので、もうこれがいいじゃんと思って。
──まさに"自由"な制作ですね。
猪狩:そうですね。ベースの他にはシェーカーも入ってますけど、音数が少ないからこそダイレクトにくる感じがいいと思ったんです。このシンプルなアレンジも含めて、「遊戯」という想いを込めた今作を締め括るのにふさわしい曲だと思います。
小西:弾き語りのライヴも観ていたし、僕的には「これなにもいらねえんじゃないか」と最初は思ってました。これベースすらいらなくない? って。でもふたりで完成させると決まってからは、どれだけ世界観を崩さず成立させていくかを考えましたね。今作のなかでいちばん頭を抱えました。
猪狩:転調してギターが駆け上がっていくところから、急に怪物が出てきそうなおどろおどろしい感じになるんですけど、あそこは歌っていてすごく気持ちがいいんですよ。僕自身のジレンマとあの変な音で鳴っているベースのフレーズが重なっている感覚になるというか。結構過激なことを言っているけど、僕自身がこの曲にすごく救われるというか。そういう力が"ぼくら"にはあると思いますね。
──では"ぼくら"の次にできた曲が"遊戯"なんですね。初のインスト曲ですが、聴きどころは?
猪狩:SEとして作っていたときは打ち込みだったんですけど、今作に収録するにあたって生音に置き換えているんです。もともと打ち込みで完成されていたからこそ生まれた音が入っているので、そこは聴きどころですね。
──というと?
猪狩:例えば、打ち込みのハイハットって大きいんですけど、それに寄せてレコーディングの日に中畑さんが大きいシンバルを持ってきてくれたりとか。あとは、ギターは家で大きい音を鳴らせないから普段はシュミレーターを使ってアンプからの音に寄せながら制作するんですけど、でも実際にアンプからの音を出したら物足りなくて。それならリアンプしよう、とか。そういうのって自宅のパソコンで"遊戯"が完結していたからこそ、生まれた選択肢だと思うんですよ。
──曲のはじまり方もおもしろいですよね。
猪狩:もともとの冒頭はアマゾンのジャングルの音だったんです。でも今作のCDのブックレットには北海道の森の写真がたくさんあるので、冒頭の音はその森の鳥の音に変更しています。CDの打ち合わせをしているときに、森の写真を使うのならその森の音も入れたいねってなって。だから音が聴こえるブックレットになっていますね。
──いいですね。 ブックレットと楽曲制作が同時進行って珍しいですね。
猪狩:そうですよね。通常は音ができるか間もなくできるぐらいからジャケットまわりって走りはじめると思うんですけど、今回はもうほぼ同時進行ぐらいで。UVシルクで加工しているので、YUGEの文字のところだけ素材が違うんです。