すべてを終わらせ新しいステージへ進むための遺書ーー女性SSW玉手初美、オータコージへのインタヴューが実現

椎名林檎、大森靖子、BiS、後藤まり子のやばさを全部持ち合わせた、東京都江戸川区出身の女性シンガー・ソングライター、ロックンローラー、玉手初美。OTOTOYでは、いち早く彼女のシングルを配信し、ライヴ・レポートを掲載してきた。そして、熱烈なオファーによって玉手本人へのインタヴューが実現した。ドラム演奏及び、プロデュースを担当するドラマー、オータコージ(曽我部恵一BAND、L.E.D.、OishiiOishii、□□□(クチロロサポート) etc.) とともに、玉手初美という才能について迫った。マーシャル直結のフェンダー・ムスタングでかきならす刃物のようなギター音、そして、耳の奥で直接叫んでいるかのようなしゃがれたヴォーカル、まるで10代とは思えない行方知れずのエネルギーが詰め込まれた初のミニ・アルバム『遺書』とともに、その才能に触れてみていただきたい。
狂気の新人の初ミニ・アルバムを配信開始
玉手初美 / 遺書
【配信価格】
ALAC、FLAC、WAV、mp3 / 単曲のみ 216円 まとめ価格 1,620円
1. 偽善者 / 2. 論文 / 3. 純情 / 4. 17才
5. 日記小説家 / 6. 姉妹ゲンカ / 7. 高校 / 8. 狂
玉手初美 : 作詞、作曲、歌唱、ギター演奏
オータコージ : サウンドプロデュース、ドラム演奏
松江潤 : ギター演奏(M-6,8)
横山裕章 : キーボード演奏(M-5)
池内亮 : 録音、ミックス
鎌田裕明(aLIVE) : 録音
中村宗一郎(ピースミュージック) : マスタリング
狂気の新人のシングル限定バージョンを独占配信
玉手初美 / 狂(SINGLE VER.)
【配信価格】
ALAC、FLAC、WAV(16bit/48kHz) / 単曲のみ 162円
衝撃の新人デビュー。6月11日先行、6月25日全国発売となるミニ・アルバム『遺書』にも収録される「狂」のシングル限定バージョンをオトトイ独占配信。圧倒的な表現力。破壊力。制御不能。全身から溢れ出るパワー、パンク・スピリット。オータコージによるフル・スイング・ドラミングとの2人だけの演奏。生温いシーンに対して宣戦布告。
>>シングル・リリース時の特集はこちら
INTERVIEW : 玉手初美 × オータコージ
レーベルから玉手初美の感想を求められた時、返したコメントは、以下。
椎名林檎のやばさと、
大森靖子のやばさと、
BiSのやばさと、
後藤まり子のやばさを持っている。
だから、正直未知すぎます!
その感想は、今も変わっていない。聴いてみて、見てみて、皆さんで感じで欲しい。彼女のやばさを。
インタヴュー&文 : 飯田仁一郎
余計な成分があるなっていうのはすごく感じていました
ーーおふたりの出会いから訊かせてください。
オータコージ(以下、オータ) : 彼女が働いていたライヴ・ハウスで知り合いました。
玉手初美(以下、玉手) : 小岩にあるライヴ・ハウスで働いていたんです。
オータ : 元々僕はそのお店のブッキングマネージャーと知り合いで、住まいもあっちのほうだし、あの辺りは渋くて雑多で居心地が良いのでしょっちゅう飲みに行っていたんです。そしたらある日彼から「すごい歌を歌う子がいるから一回聴いてみてほしい」と言われて。
ーーどうでした?
オータ : なんかね… まずシチュエーションがおかしくて(笑)。そのブッキングマネージャーの彼から「今聴いてください!」って言われたんですよ。そこには僕以外にもいろんなミュージシャンがいたんだけど、「皆に聴かせたい。上のスタジオにいるから、今行って歌を聴いてくれ」って言うの。で、行ってみたら、彼女が真ん中に座ってひとりでアコギを持って、見ず知らずの大人の前で歌わされるっていう(笑)。
ーーその時は何を歌ったんですか?
玉手 : 今作には入っていないですけど、オリジナルをやりました。その時、オータさんが微妙な笑顔でこっちをみていたのは覚えていますね(笑)。酔っぱらってたのかわからないですけど、ちょっと怖かったです。
オータ : だって状況がおかしいですからね(笑)。大人3~4人がいきなりスタジオに詰め込まれて、女の子がいきなり知らない大人の前で歌わされるっていうシチュエーションが。「今おもしろいこと言ってよ!」って言われてるようなもので、そんな状況の中でおもしろいことを言えるわけないじゃないですか。でもその中で彼女は1曲歌いきったんですよね。状況に臆することなく、本気で歌いきったことにすげえ! と思いました。
玉手 : あんまり覚えてないんですけどね(笑)。

ーーその後すぐに一緒にやることになったんですか?
オータ : いや、具体的にどうこうしようって話にはならなくて。その後、そのブッキングマネージャーの彼のはからいで玉手初美バンドを組むことになりました。
玉手 : それが去年の9月頃です。その頃は音楽塾に通っていたし、ライヴ・ハウスで働いていることもあって、周りの人にアドバイスをもらっていたんですけど、すべて正しいと思っていたんですよね。
ーーなんか含みが…。
オータ : (笑)。先輩とか仕事場の人とか、学校で教わっている様子とかを聴くと、彼女の歌にすごいコンプがかかっているような感じがしたんですよね。「売れる為にはこういう曲を研究して、こういう歌い方をしないと駄目だよ」とか「もっとピッチをしっかり」とか、重要な要素ではあると思うんですけど、その表層的な部分に押さえ込まれていて。歌のエネルギー自体はその時も今も変わらないんですけど、歌が表現として表に出るまでの間にフィルターがあるというか、余計な成分があるなっていうのはすごく感じていましたね。
一回ふたりでそぎ落とした状態でやってみようかって
ーー玉手さんはいつ頃から曲を作るようになったんですか?
玉手 : うろ覚えなんですけど、小学生の頃から鼻歌が大好きで、よく何か言ってましたね。歌詞を書いて、適当に頭のなかで作っていた気がします。
ーーギターはいつから?
玉手 : ギターは小6のときにはじめました。映画「たいようのうた」で、女の子がアコギを持って駅前や講演で路上ライヴをするのをみて、ギターをやってみたいと思ったんです。それからアコギを買ってもらって。もっとしっかり曲を作るようになったのは中2のときですね。ライヴ・ハウスで格好良いシンガーを観て、私もミュージシャンになりたいと思うようになったんです。
オータ : バンドでプリプロに入ったときに、彼女が古い音楽を好むことがわかったんです。これはオールド・ロックな曲にしたいって話をしたときに、バンドメンバーはいわゆるオールド・ロックの手法というか、ちょっと古いサウンドをやろうと努力するんですけど、それで出てきた音に関して「サウンドが新しい」って言うんですよ。
ーー僕らからしたらその感覚は刺激的ですよね。
オータ : そうそう。皆からしたらオールド・ロックの手法で演奏しているんだから新しいわけないよって言うんだけど、彼女一人だけ「いや、サウンドが新しい。音が分離していて、音が全然混ざってない」って言うんですよね。すげえ耳がいいなと。感覚がいい。彼女は知識や経験、手法や語法に頼っていない分、変な先入観にとらわれていないんですよね。音楽塾の人とか職場の人とか、経験を積んだ人が当たり前に知っていることを彼女は経験していないから、説明できる言葉がないだけなんだなって。

ーーフィルターを通しているって部分に関しては、玉手さん自身は当時どう考えていたんでしょう?
玉手 : セオリーが体に染み付いている時期だったから、「ここでキメがあって、ここで何をして…」っていうのが形になっているような音楽を作っていたと思います。バンドのアレンジに関しては、コロコロ変わっていっちゃうのが嫌でしたね。「ここ別にキメなくてもいいんじゃない?」っていうようなのが結構あって。「え、でも…」と思いながらも、それがいいのか悪いのかわからなくて「じゃあそれで」って進めちゃう感じでした。それが去年の10月くらいです。
オータ : バンドじゃ当たり前のことなんですけど、アレンジしたり、洗練していくとなると、彼女から出てきたものからかけ離れていくジレンマがありましたね。それは彼女本人もだし、僕も端から見ていて疑問があって。その頃から二人で対話をするようになって、練習の帰りにファミレスにいってお茶をしながら話したりしていました。どんな音楽が好きなの? ってところからはじまって、サウンドの話をするようになって。その中で今のバンドのサウンドは違うんじゃないかなって話になって、一回ふたりでそぎ落とした状態でやってみようかってことになりました。やっぱりベースもギターもいる状態だと、彼らの意見が入ってきて、よくも悪くも真っ当なアレンジになっていくから、どうしても彼女のイメージからかけ離れていってしまうんですよね。そういうのを一回フラットにして、彼女のやりたいこと、表現したいことをミニマムな編成でやってみようと。
「あ、叫んでいいんだ!」と思って。
ーーなるほど。それなら自分の表現することができると思いましたか?
玉手 : はい。あの、はじめてバンドでスタジオに入ったとき、オータさんがめちゃくちゃ素敵で。
ーー… なんかちょっと照れますね(笑)。
オータ : (笑)。
玉手 : 叩く姿がすごく素敵だったんですよね。あと、貸してくれる音楽もすごくよかったし、自分の中にあるモワーっとした想いを感覚的に伝えても「あ、そういう感じね」ってわかってくれるというか… 説明しづらいことも理解してくれる感覚があったんですよね。色々とお話しやすかったですし。
ーー玉手さんには、やりたい音楽があったんですかね?
玉手 : 明確なものはなかったんですけど… そのときはいつも一人でやっていたので、一回ドラムとあわせてみたら楽しいんじゃないかなと思って、よかったら一緒にやりませんかって誘いました。
オータ : 二人でやると自由度が段違いにあるんですよね。バンドだとまずはアンサンブルに目がいくけど、彼女の曲は押し引きが激しかったり、ここでテンポを落としてサビでいきなりあがる、みたいな落差がすごくあるから、ちょっとでも彼女の歌の波を感じとれない人がいると、そこでとたんにアンサンブルが崩れてしまう。今の編成では僕が反応すれば済むだけだから、自由度が高いかなと思います。彼女自身も、ふたりでやりはじめてから「音楽ってこんなに自由なんですね」と言うようになって。
ーー今はどんな音楽をやろうと思っていますか?
玉手 : おもしろければいいかなと思っています。今回のアルバムを作る上では、全部書こうと思っていました。バンドのこととか、塾のこととか、お客さんのこととか。音楽の活動に関して色々とあって、全部嫌になっちゃって。で、もういいやって思って最初に作ったのが「狂」で。
ーーああいうギターの奏法とか、叫ぶような歌とか、誰かの影響があるんでしょうか?
玉手 : 以前、オータさんがミドリを貸してくれて。
ーーへえ!
玉手 : 「あ、叫んでいいんだ!」と思って。
一同 : (笑)。
玉手 : あれはすごくよかったですね。
前の自分が大嫌いで、死にたいなと思っていて
ーー1年前くらいにオータさんに借りた音楽に刺激をうけて「狂」を作って、そこから一気に今作のようなバラエティに富んだ曲をつくり上げたんですか?
玉手 : レコーディングが1月だから、3ヶ月くらいですね。
オータ : 堰を切ったようにね(笑)。素養があるってことなんでしょうね。自由に歌いたいとか、時には叫んだりリズムを崩したい、っていうのが本人の中で強かったし、狙ってやっていることではないところが魅力だと思うんです。彼女にとっては自然な行為で、フィルターがはずれてそれをどんどん解放していけたんじゃないですかね。
玉手 : オータさんには他にもいろんな音楽を教えてもらったんですけど、曽我部恵一BANDも大好きだし、口ロロもすごくよくて。あとfresh! とかもすごく格好良くて楽しくて。
オータ : 貸したものに対して「おもしろいですね!」って返ってくるから、僕も段々処方箋を書いている人みたいになってきちゃって(笑)。
ーー(笑)。
オータ : 「じゃあこれはどう? これは? 」って。ダムドとかストゥージズとか灰汁とかもいいねって言っていて。
ーー歌詞も強烈な世界がありますよね。これは自分の体験ですか?
玉手 : 自分の体験だったり、色々ですね。
ーー「遺書」ってタイトルをつけたのは?
玉手 : 前の自分が大嫌いで、死にたいなと思っていて。でもCDを作れるってお話になって、音楽には決まりがないこともわかって、もう機会とかなさそうだし、この際全部出しちゃおうと思ったんです。今まで思っていたこととか、たまっていたものとか、イライラだとか、そういうものを出して。もう学校も塾もライヴ・ハウスも辞めてたから、この機会に全部終わらせようと思ってました。そこからまた新しいことをと思って「遺書」って言葉を選びました。
ーーこの作品を作ったことで、前の自分とはおさらばして新たな自分として今はスタートできていますか?
玉手 : そうですね。うん、これを作って発売してライヴをしていると、あせらなくていいんだなって思いますね。
ーー今作は前の自分に対しての感情を書いているじゃないですか。今はポジティブなものが出てきていたりするのでしょうか?
玉手 : そうですね、あります。
オータ : 今回の曲たちが完全に自分の殻に閉じこもっているものだとしたら、最近リハで聴かせてもらった曲たちはちょっとだけ開いた印象がありますね。柱の影から「向こうはどうなってんのかな?」ってちょっとみんなを覗き見だした感じ。世の中にはいろんな音楽があってよくて、自分を完全に作り上げたエンターテインメントな世界もあるじゃないですか。でも、彼女は自然体で自分を出したほうがいいものができると思っていて。1枚目で全部吐き出して、2枚目で心が開けてくる。3枚目はまた閉じてもいいと思うし、更に開けていってもいい。それは誰に強制されることでもないから、この先も彼女の表現が自然であってほしいと思いますね。自然に出てきた物が一番美しいから。
大勢の人の前でやれる環境にいきたい
ーーライヴはどんな感じですか?
玉手 : ライヴは好きです。記憶でも傷でも音でも何でもいいんですけど、お客さんに何か残せたらいいなって思っています。
ーーオータさんはどうサポートしようと思っていますか?
オータ : そうだなあ… なんでもいいと思ってるんですけど、音源の話の延長なのかな。その日に表現したいことっていうのがあるはずだから、それに忠実になっていれば何でもありかなと。ふたりしかいないし、リハと違うようなことが起こっても全然いい。その日の100%を出せるものであればいいと思います。
玉手 : そうですね。
オータ : 自然体のものを出すって言葉では簡単に言えるけど難しくて。わりとそこは苦労しますね。ライヴのステージに上がっているときより、ステージに上がるまでにいかに自然体でいるか、って事前作業のほうが気を使うかもな。あまり緩くなりすぎないとか。本番前にがんがん酒飲んだりしないとか。
玉手 : それは当たり前だよ(笑)。
一同 : (笑)。
オータ : ボクサーとか格闘技の人が本番前にコンディションを作るような感覚に近いかもしれないですね。
ーーライヴのテイクを聴かせてもらいましたけど、緊張感がすごいなと思ったんですよね。
オータ : これをやろうって決め込まないようにしています。リハとかでもやってるうちに固まっちゃうことがあるんだけど、それが自然体からかけ離れてきたらやりたくないと思うんですよね。その辺りのジャッジは難しくもありますけど。
ーー今後はどういう活動をしていきたいですか?
オータ : ライヴをしつつ、音源を作っていければと。あと、いろんな人に聴いてほしいっていうのはあるので、どんどん広がっていけばいいなと思いますね。こういう音楽ってアンダーグラウンドに捉えられがちというか、あんまり大勢には受け入れられないイメージがあると思うんですけど、そこを打破したいと思ってますね。小さいハコが嫌だとかではないけど、大勢の人の前でやれる環境にいけたらいいなと思ってます。
玉手 : うん、そうだね。
ーーそれこそ、椎名林檎さんなんかも出てきたときは「何だ?!」ってなってたし、玉手さんにも打破してほしいですね。
オータ : ね。彼女の作る曲はメロディもいいし、歌も純粋に上手いから、アンダーグラウンドな音楽としては捉えてほしくないと思ってますね。
RECOMMEND
大森靖子 / 大森靖子 at 富士見丘教会(DSD 5.6MHz+HQD ver.)
ギター一本で、あらゆるライヴ・ハウスに行き、時にはアイドル・シーンにも切り込んで、やわらかな歌声で歌ったかと思えば、突き飛ばすようにギターをかきむしる。激情的なようで非常に冷静にも見える。簡単に理解できないからこそ心奪われるシンガー・ソング・ライター、大森靖子。そんな彼女と下北沢、富士見丘教会にてDSDネイティヴ・レコーディングを行った。蝉の声が鳴り止まない夏の日、教会のやわらかな反響。収録されたのは、まだ音源化されていない曲を含めた全8曲。そのなかには、この日、この場所にて即興でつくられた曲も入っている。ライヴとはまたちがう彼女の生々しさと溢れ出る才能。あなたの耳でたったひとり、じっくりと彼女と直面してほしい。
L.E.D. / in motion(24bit/48kHz)
オータコージも所属するバンドL.E.D.による3枚目のフル・アルバム『in motion』! 今作には、ゲスト・ボーカルにSalyu、作詞には漫画家のタナカカツキを迎え、壮大なスケールを持った新曲「空水になる feat.Salyu」が収録されている。そして孤高の詩人、志人を迎えた楽曲では、歪でファンタジーなトラックの世界観を、変幻自在のフロウで畳み掛ける圧巻の楽曲となっている。OTOTOYでは、この大作を24bit/48kHzの高音質WAV音源で配信!
PROFILE
玉手初美
東京都江戸川区出身。
地元での路上ライヴや東東京エリアでの弾き語りライヴ活動を行ってるなか、 昨年、ドラマー、オータコージ(曽我部恵一BAND、L.E.D.、OishiiOishii、□□□(クチロロサポート) etc.) と出会う。 玉手初美本人による作詞作曲、歌とギター演奏。 ドラム演奏及び、プロデュースをオータコージが担当。 いまの時代の退屈さや、不条理さを10代という若さならではの感性でぶった切ります。 フェンダームスタングをマーシャルに直結してドライヴさせながら絶唱する突き抜け感 のなかにも、メロディ・メーカーとしての才能も光る、いまの音楽シーンでは希有なグル ーヴ感、本物感を味わって頂けるはず。