TZADIKのリリースや海外ツアーが決まって、言いようのない不安が襲ってきた時、相談に乗ってくれたのは、MONOの後藤孝顕さんだった。海外ツアーはめちゃくちゃ過酷だし、国内での自分達の状況が変わらなくてイライラした時に救ってくれたのは、彼のブログ。何度泣きそうになったことか。この人が、『夢』とか『希望』と書いても薄っぺらくならないのは、常にそれらを現実に掴んできた軌跡があるから。今回、5th Album『Hymn To The Immortal Wind』のインタビューをすることができた。何年か前にお会いした時よりも、オーラは輝きを増し、自信と希望に溢れていた。僕が最も信頼する音楽家の一人だ!
インタビュー&文 : JJ (Limited Express (has gone?) /Borofesta)
INTERVIEW
いつでも現実より夢のほうが大きかった
—結成10年目ですね。
後藤孝顕(以下G) : 10年経って、自分の思い描いた通りの活動が出来ていることに喜びを感じます。けれど、急にそうなったわけではないので。色々していたら、あっという間でした。
—MONOを始めた年齢は遅かったですよね。どういったいきさつで結成されたのですか?
G :自分はずっとギタリスト&コンポーザーでバンド・リーダー。結局シンガーを必要とした音楽をやっていた。けれど、僕のビジョンの中にシンガーを招いていたので、いつもどこかのポイントでぶつかることを繰り返してきた。それがずっと続いて、ボーカルが抜けるたびにバンド名を変えて、新しいものを作って、更にボーカルに合わせた何かを考えるっていうフォルムに疲れてしまった。その時点で、音楽を辞めるかって考えたりもしたけど、結果的に、シンガーなしで自分のビジョンのままインストゥルメンタル・バンドをやることで居場所を見つけることができた。
—初期から海外を目指していました?
G :相手にされませんでしたからね、日本のライブ・ハウスでは。対バンを探すのが難しいとかで、下北沢辺りのライブ・ハウスに出るのも一苦労。そうなると、自分の覚悟とは別に居場所が無いっていう現実問題があって。だからどの場所をスタートにしても同じだった。そして僕のビジョンに賛同してくれるメンバーがいたのが、海外での活動の始まりだった。現実的にはツテもないし、英語も話せないし、どうやったらCDがアメリカでリリースできるか、世界でちゃんとした活動ができるかわからなかった。かといって、月に一回アメリカに行ってっていう予算もないし。いつでも現実より夢のほうが大きかった。しんどいんだけどわくわくしていたから、成り立ったと思うんですよね。
—海外進出ってそう簡単なものじゃないですもんね。
G :時間はかかりますよね。でも結局一緒だと思います。ずっと東京でやっている人たちが、どうやったら九州や北海道で認知してもらえるんだろう、って考えるのと同じで、僕らはアメリカやヨーロッパだったってことです。世界の方が、やり方によっては楽だと思いましたね。
—メンバーは、後藤さんのビジョンについてきていますか?
G :ついてくるというか、僕が彼らから勇気を貰っているくらい。初期は、ドラムのTakada君がずっと運転していましたし、物販に関してはベースのTamakiが。ホテルやモーテルを毎日押さえるのはギターのYodaだったり。僕は船長かもしれないですけど、船が沈まないように、結局は全員が役割分担をすることで進んでいく。そうじゃないと回っていかなかったし、皆責任をもってやってくれた。それぞれの生活もあるし、やりたいだけではやっていけない。年間半分以上出てるわけで、どんなに夢があっても現実的には何か変化していくことが必要で、僕らはラッキーだったと思いますよ。手ごたえがあって、やればやるほど楽しくなっていったんですから。
一番最初のNYがきつかった、という話を聞いたんですが。
G :あれはファースト・ショックですよ。自分達のサウンドがどのくらいのお客さんにどういう風に響くんだろう、って思ってNYに行ったら、それ以前の問題でしたから。客がいないって。貧乏臭い話ですけど、楽器とか手持ちの金になるものをなんでも売って金を作っていくわけですよ。その時は、夢に溢れかえってるわけじゃないですか。その分落ちるんですよね。現実、この先どうするんだろうって。これを繰り返すことが健康的なのか、もしかしたらそれによってバンドがなくなるんじゃないか、自分の大切なメンバーを失うんじゃないかとか、ライブ終了後にいろんなことを考えたんです。その時にメンバーが、「こんなの九州行っても大阪行っても同じですよ」と。救われましたね。僕の夢に賛同してくれたメンバーが、もうやりたくないっていう権利もあるのに励ましてくれたのが、今に繋がっている理由だと思います。
魂の中に記憶の痕があるんじゃないか
—5枚目のアルバム『Hymn To The Immortal Wind』ですが、今回オーケストラが入っていますね。どのような環境で制作されたのでしょうか?
G :ファースト・アルバムでチェロを一本入れて、その後ワン・カルテット、ダブル・カルテットと、どのくらいのカルテットでどれ程の音になるかっていうことを、アルバムを重ねる毎に経験した。鳴っている音がリアルじゃないので、オーバー・ダビングが嫌いなんです。だからライブ録りで、人数分の音で理想とするサウンドにするにはどうするかってことを、ずっと学んできたんですね。今回は、予算等の環境が整ってきたので、フル・オーケストラを扱ってみたいと。経験があったので、スコアも書ききれるなって思いましたから。
—スコアは後藤さんが?!
G :全部。ずっと書きながら学んできました。怖いですよ。24人でも、録るのは2CHで多くとも3テイクですから。スコアにミスがあってはいけないし、プレイヤーのエモーションにも誤解があってはいけない。僕が弾けるわけじゃないんで気を使いましたけど、やりがいがあったし、納得のいくものになりました。
—トラックはアナログで?
G :アナログの2CHに落としていく。マイクを8本立てても録れてる音は2CHなんで。トラディショナルなスタイルですよ。モータウンとか、聴いていると立体的じゃないですか。弦、ドラム、シンガー達がどこにいるかわかる音像が好きなんで。そうしないとせっかく表現した感情の流れが消えていくから。
—今回のアルバムのコンセプトを教えて下さい。
G :このアルバムを出す前に、アメリカのレーベルから企画盤を出したんです。その時によりシンフォニックで、バンドとオーケストラが一切の矛盾無くキレイにはまるような曲を書いたんですよ。アレンジ感も含めて。けれどその曲は、自分達の曲なのにメンバーだけではライブが出来ないジレンマに陥った。僕が作曲したものではあるんだけど、あまりにキレイに分けすぎて。
—分けるっていうのは?
G :ストリングスのメロディがあるから、ギターがこのアレンジで弾いているっていう、全部意味のあるちゃんとした構成です。矛盾の無いきちんとした構成を音楽理論を元に書いてみたら、ライブでストリングスがいないとできない。思い描いている曲は書けたけど、バンドでやるべきものじゃないってことに気づいた。そういう反省点があったから、壮大なシンフォニックなものは書きたいんだけど、今回の曲は4人でも出来なきゃいけないって最初から決めていたんです。出来上がってみて、ひとつの完成形になったと思っています。実際にライブでも出来るし、レコードはオーケストラとあわせることで、ひとつの新しい音楽フォーマットを創れた。
—今回のタイトル『Hymn To The Immortal Wind(不死の風への讃歌)』の由来は?
G :僕たちが持っている魂の中に記憶の痕があるんじゃないかというキーワードを含んでいます。輪廻転生のようなもの。僕は目に見えないものばかりを信じていて、惹かれるんですよ。だから、奇跡とかそういうことを表現したいと思ったんです。2003年から2007年の12月まで、本当にずっとツアーを回ってきて、何かを残せたと思った。やりきった感があって、2000年から続けてきた物語に終わりが見えたんです。で、新しいスタートを切りたいと思って、去年丸々作曲の時間をもらった。今まではツアーの合間に曲を書いてきたので、新しいことにチャレンジしてみようと。今度こそベートーヴェンの第九みたいに大きな合唱/コーラスを使った曲を書いてやろうと。そう思っていた時にアメリカの脚本家Heeya Soに出会い、詞を書いてもらったんです。でもトライしたけど創り上げることはできなかった。できあがるまでには、まだまだかかるんでしょうね。死ぬまでに書ききれるのかなって思います。
—どのように今作に繋がっていったのですか?
G :その詞のテーマのみ残して、それを一つずつストーリーにしていきました。そこに曲を付けたんですが、書けども書けどもどこかで聴いたようなもの。表面上は変わっても、自分達の色に染まりきっちゃって、ときめかなかった。なので途中で作曲を放棄、キーもテンポも違うパーツ/断片をどんどん書いていったんです。で、2ヶ月位経ったときにそのパーツを並べて聴いてみたら、いびつな形で二曲が見えてきたんですよ。それがすごく嬉しくて、心が動かされて。作曲と呼んでいいのかなっていう戸惑いはありましたけど、元々自分が落としていったピースだから繋がっていくんです。この作曲方法は今の自分を越えられるんじゃないかって思いました。そこからまた脚本家とのやりとりを再会し、更にストーリーを進めていったんです。今となれば、元々完成していたパズルがバラバラになっていただけで、それを拾い集めたのかなって。だからこのアルバムは、意図的に作った感じがしないんですよね。
—MONOを聴くと、北欧の一面雪の景色が思い出されます。後藤さんの頭の中には、いつもそんな風景が流れているのですか?
G :そうかもしれないですね。ベースに、苦難を乗り越えて歓喜に到るっていうのがあるので。いつもはスタートが死なんですよ。死を意識することで生命が輝くと思っていて。でも今回は、違うんです。生から始めたいと思った。きれいな雰囲気とかじゃなくて、躍動するような作品を書きたいと思ったんですよ。音楽を圧倒的に強くて、誇り高いものにしたいんです。
—今から長いツアーが始まりますね。次のアルバムのビジョンは、既に見えているのですか?
G :今はないですね。このアルバムのツアーをやりきりたいので。最初から、今ここでダメだったら2年後もダメなんだっていう意識でやってきたから。ツアーの最終日でも最高だって思えるものを創ったと思っています。そのくらいの責任感を感じてます。
LIVE SCHEDULE
MONO World Tour 2009
- 3月11日(水)@大阪 鰻谷sunsui
- 3月14日(土)@恵比寿 LIQUID ROOM
- 3月21日〜4月24日 ヨーロッパ・ツアー
- 5月8日 10th Anniversary show @Society for Ethical Culture Concert Hall (NY)
- 5月9日 10th Anniversary show @(Le) Poisson Rouge (NY)
LINK
MONO website http://www.mono-jpn.com/j/index.html
MONO MySpace http://www.mono-jpn.com/j/index.html
MONO official blog http://blog.mono-jpn.com/
主宰レーベル Human Highway Records website http://www.humanhighwayrecords.com/index.html
MONO
アメリカ、カナダ、ヨーロッパ、オーストラリア、アジア等、全世界で圧倒的な支持を獲得している。国内においても、FUJI ROCK FESTIVAL'08を初め、ライジング・サン・ロック・フェスティバルやアラバキ・ロック・フェスにも出演。空気を切り裂くように鳴り響くギター、壁を打ち付けるかのようなビート.....甘美と凶暴、嘆きと歓喜、喪失と希望……ときに相反するものをノイズの大伽藍のなかで高らかに共鳴させながら、MONOは、人々が宗教や哲学、文学をとおして答えを見い出そうとしてきたのと同じその問い、深遠なる生への問いを投げかける。日本を皮切りに、3月からワールドツアー開始。5月には、NY Lincoln Centerにて、オーケストラを従え結成10周年記念ライブを行う。
CLOSE UP : Clare & The Reasons