INTERVIEW : マモル、ハヤシ(nhhmbase)
2008年に解散を発表したnhhmbase(ネハンベース)。その第一期メンバーであるマモル(vocal、guitar、keyboard)によって、バンドの新たな歴史、第二期“nhhmbase”がスタート。前作から約5年ぶりとなる、2ndアルバム『31/2』をリリースする。
今回OTOTOYではリーダーであるマモル、第一期の時代からよくnhhmbaseを知るハヤシ(guitar)にインタヴューを敢行。解散、再結成、アルバムの作成秘話や、自主レーベルの設立など、初告白の新事実がポンポンと飛び出す、衝撃的な内容となった。さらに、アルバム8曲目に収録されている「牛なう」のフリー・ダウンロードを行うとともに、24bit/48kHzの高音質音源も配信開始。難解なパズルのようでありながらもポップなnhhmbaseの楽曲の世界に、高音質という入り口から足を踏み入れてみてはどうだろうか。
インタヴュー : 飯田仁一郎
文 : 岩瀬知菜美
アーティスト写真 : 田中駿伍
>>>「牛なう」のフリー・ダウンロードはこちらから(6/6〜6/13まで)
nhhmbase / 3 1/2
【価格】
HQD(24bit/48kHzのwav) 単曲 200円 / まとめ購入 1,800円
mp3 単曲 160円 / まとめ購入 1,500円
【Track List】
1. 無明の門 / 2. 廃る / 3. 春の夜の / 4. 着地早漏 / 5. 節句's / 6. 黄昏カーテンコール / 7. 一輪の花 / 8. 牛なう / 9. 三 / 10. アウトローフェードイン
第一期nhhmbase、解散の理由
ーー新作のこのアルバムが出るまでに5年もの時間がかかりましたね。2008年に一期のnhhmbaseが解散した。解散の理由は、どこかの媒体のインタヴューで話されてました?
ハヤシ(guitar) : それが実はどこにもしゃべってないんだよね。解散してからなにも取材を受けてないから。
ーーなぜ、なにもアクションを起こさなかったんですか?
マモル(vocal、guitar、keyboard) : 一期が解散してからすぐに二期のメンバーを結成したけど、やっぱり結成したてだと納得いくライヴができてなくて。前のメンバーの存在もでかかったし、ひとさまに見せられる状態じゃないから、ちゃんと練習して固めてからやっていこうって。なにかをしゃべることが言い訳になっちゃうのも嫌だったし、なにもアクションを起こさなかった。
ーー前向きな解散だったという話ですが。
マモル : もともとメンバーみんな仲良かったから、関係がぎくしゃくするのが嫌で。当時納得がいく音源も録れてなかったし、地に足が着いていないまま続けていくよりは、一旦リセットしようって。メンバーと友だちでいたかったっていうのがでかいかな。実際にいまも一期のメンバーとは仲がいいので、あのとき解散してて良かったなとは思います。
ーー決定的な解散の理由はなんですか?
マモル : 2007年くらいから、メンバーそれぞれのスタンスが違ってきてしまったというか。ライヴが盛り上がればいいというメンバーもいれば、もっと演奏をきちんと固めていこうというメンバーもいて、それぞれが別のベクトルを向いてしまっていた。収集がつかなくなっていたかな。
ーーマモルさんが一期のnhhmbaseで大事にしたいと考えていたことはなんですか?
マモル : 演奏をもっとカッチリさせて、曲の骨組みとかまで伝えたかったんだよね。テンションは高かったし良いライヴはできていたんだけど、客観的にライヴ音源を聴くと、自分の思っていることと違っていたりして。ライヴを主観的にやってる自分と、客観的にそれを見てる自分が両方いて、客観的な自分が強くなってきちゃったのかな。最初は、かっこよくて、売れて、モテればいいやって思ってたんだけど(笑)、そうではなくなってきた。
ーーストイックに、音楽を固めたかったと。解散して、まずしたことはなんですか?
マモル : まずは新しいメンバーを探して、すぐにライヴをやろうと思ったんだよね。ちょうど『波紋クロス』を出した時期だったし。運よくメンバーが見つかって、2か月くらいで状態は整った。でも練習のスケジュールを合わせるのも大変だったから、演奏技術は抜きにして、ネハンを好いてくれて、時間を費やしてくれるひとを探した。
ーーメンバーが固まったのはいつ?
マモル : 2009年の年末かな。その間はベースを探したりしていて、2010年の9月に千葉LOOKでライヴしたのがこのメンバーでははじめてかな。
ハヤシ : ツカサが入ってから丸一年ライヴはやっていないんだよね。
ーーその間はなにをしていたんですか?
マモル : ずっと練習してた。深夜練で、週に3,4回、一日5時間とか。
ーーハヤシさんがいちばん最初に第二期に加入したんですよね。
ハヤシ : 一期の解散前からみんなと仲良かったからね。マモルがやりたいことを手伝いたいなって思って、誘われてからすぐに入った。
ーーみなさん仕事は持ってますよね?
ハヤシ : うん、だからみんな大変だったと思いますよ。深夜に練習して、そのまま出社して、職場で寝袋にくるまって寝たりとか(笑)。
ーーその大変な状況でもモチヴェーションが保てたのはなぜ?
ハヤシ : それぞれ違うと思うけど、僕は単純にマモルの音楽が好きだったし、バンドも好きだった。もちろんつらかったことはあったけど、嫌にはならなかったかな。
ーー一期と二期ではマモルさんの立場はまったく違いますよね。nhhmbaseの名前を使って、マモルさんだけが新たな活動を始めるという。つまり完全なリーダーになる。
マモル : 僕とハヤシはいままでの経験があるけど、ほかの2人は若いし、ミクニくんはちゃんとバンドをやること自体が初めてだった。厳しく教えることもあったし、リーダーとして彼らの悩みを消化できてるかな、とかもいろいろ考えましたね。
ーー自主レーベルである、rpmd recordsを立ち上げた理由は?
マモル : プラスの部分がでかいかな。もちろん大変な部分はあるけど、入ってくる部分もでかいし。ちょっと試してみたいなって。
ハヤシ : もともと& recordsからリリースするまえに、自分らでやりたいって言ってたの。レーベルに所属することって、良くも悪くも自分たちが思うことができなかったりする。
ーーレーベルの運営に関しては、もう軌道には乗りましたか?
ハヤシ : まだ全然ですね。わからないことが多すぎて。& recordsの畠山さんにも手伝ってもらってるし、まだまだこれからなんだと思いますよ。今後はレーベルとか、世の中に縛られずに自由にリリースできたらいいな。
『3 1/2』は、リーダーのマモルによる純粋なソロ作品
ーー曲作りは、スタジオでアイデアを出し合って行うんですか?
マモル : それはないですね。僕が各パート全部のデータを作って持っていって、こういう曲だよって。メンバーみんなタイトに演奏する感じのプレイヤーだから、それをイメージして曲を作ったかな。今回のアルバムは俺自身が全部録音したんだよね、ドラムもベースも。俺がイメージした楽譜どおりの音が収録されている1枚になっている。
ハヤシ : だから音源に関していえば、俺は関係ないっちゃ関係ないんだよね。バンドであろうとするマモルと、ソロでのエゴとが両方ある。でもアー写は4人のものになってるし、マモルがそのへんをどう消化しているのかは、俺はわかりえないかな。
ーーマモルさんのなかで、ふたつの要素があると。全部マモルさんが録音しているっていうのは、音は打ち込みってことですか?
マモル : いや、全部俺が演奏してる。これ、たぶんどこにもしゃべってないことかも。
ーーえ!? すごいですね! バンド・メンバーの出す音をイメージして作っているのに、それをバンドで録音しなかったのはなぜ?
マモル : 自分が弾いていないものをメンバーに教えるのは説得力がないじゃないですか。「ここはこうやって演奏して。まあ俺は弾けないんだけどさ」って言って、そんなやつについていけないって思われるのが嫌で。自分で曲を咀嚼してからだったら、メンバーときちんと共有できるかなって。
ーー作品としてはマモルさんのリアルなソロ作ということですね。でもバンドとして見せたい、と。
ハヤシ : 『波紋クロス』も『3 1/2』もトータルでのコンセプトがマモルのなかでしっかりあって、言ったらコンセプト・アルバムなんだよね。
マモル : 『波紋クロス』の話をすると、やりたかったコンセプトがあったんだけど、それがくずれちゃって。自分のなかでの大きな軸がなくなっちゃったというか。
ハヤシ : だからそれがあっての、全部ひとりでやりたいっていうことなんじゃないかな。
ーー『3 1/2』のコンセプトとはなんですか?
マモル : 同じフレーズがそのまま反復して違う曲に入ってたりとか、9曲目と10曲目が対になってたりとか、これから出す曲と繋がってたりとか、いろいろトリックを仕掛けてるんだよね。モチーフ遊びをしてたかな。
ーー曲を理解するまでに時間がかかるってこと?
マモル : メンバーは大変だと思うよ。
ハヤシ : まず、疑ってかかるから(笑)。なにかあるんだろうなって思いながら譜面を見る。ここはこうなってるんだ、ってことに気づくのにも時間がかかったりとか。
作曲家、演奏家としての2面性
ーーすごい形態のバンドですね。そういうスタイルや考え方になったのは、誰かに影響を受けているんですか?
マモル : うーん…。そういうのはないかな。
ハヤシ : 僕は、単純に作曲家としてのエゴだと思う。マモルは、「演奏するのは誰でもいい、自分じゃなくても」って言うんですよ。誤解をまねく言い方かもしれないけど、マモルの曲を演奏するのはべつに僕らじゃなくてもいいんです。
ーー2面性があるんですね。
マモル : 作曲家として、演奏するのが自分じゃなくてもいいっていうのはある。でも本当に面倒くさい曲だから、やってくれるひとがいないだろうなっていうのもあるけど。
ーーどんな風に曲作りしてるんですか?
マモル : 自分のなかでメロディーとかリズムをはめて作ってる。俺は自然に作ってるつもりなんだけど、みんなに変だとか難しいって言われるから、そうなのかなって思ったり。自分のなかではポップなつもりで作ってるんだよね。バランスいい曲を作ろうって。
ーーやっぱり歌ものをやりたい?
マモル : 歌ものだね、nhhmbaseは。
ーーマモルさんの音楽ルーツはなんですか?
マモル : THE BEATLES。みんな納得できないと思うけどね(笑)。若いときはあんまり意識しないで聴いてたんだけど、自分が曲を作るようになってから凄さがわかったかな。
ーーハヤシさんから見て、マモルさんの作る音楽はどう?
ハヤシ : こんなの聴いたことないなって。とにかくすごいっていう印象だったんですよね。すごくポップで、でもどう考えてもリズムがおかしくて。普遍的な美しいメロディだけど、移り変わるリズムが魅力かな。しかも本人がそれを自覚してないってところもね。
マモル : あっちゃん(ハヤシ)が色々褒めてくれるから、自分がリーダーとしてバンドをそのままやるのもありかなって思ったんだよね。さっきも言ったように、俺は作曲家として曲を作るだけでもいいっていう感覚があって。あっちゃんの言葉がなかったらバンドを辞めていたかもしれない。
ーーもともとバンドをやりたかったんですか?
マモル : もともと作曲が好きで、でもそれをうまく伝えるためにはバンドのリーダーでいなきゃいけない。実はプロデューサー的なポジションのほうが好きだったりするんだけどね。もともとドラムをやっていたんだけど、リーダーとしてはギター/ヴォーカルがいいかなって思って始めたのがnhhmbaseで。だからヴォーカルをめちゃくちゃやりたかったわけではないんだけど、当時へたくそだったのにあっちゃんとかがほめてくれたから、続けようかなって。
ーーいまも作曲家をやりたい?
マモル : もちろん。
ーー目指している作曲家はいますか?
マモル : クラシックの作曲家とかかな、立ち位置的にね。例えばベートーヴェンの曲があって、でも演奏するオケとか指揮者によって全然違うでしょ。毎回違う要素がある。俺はそれになりたいんだよね。作曲家のマモルがいて、演奏家のマモルもいるし。そういう、何個かそれぞれ違うライヴ盤があっていいんじゃないかな。年代、年月によって解釈のしかたがちがうっていう。ひとつしかないのは、逆に答えじゃない気がする。たくさんあるなかから好みに合わせて選べるっていうのが、自分の音楽にはしかるべき状態じゃないかなって。このCDはただの楽譜で、メンバーに渡しているのもただの楽譜でしかないから、それぞれに解釈してもらって、音色とか音量とかを作ってもらったり。そのニュアンスの感じは絶対に4人で作っていくものだと思うし。俺がバンドでやりたいのはそこかな。
ライヴ盤を出すことが、バンドとしての完成形
ーーマモルさんのなかではメンバーのことを考えて曲を作っているけど、全部自分で演奏してレコーディングしている。
マモル : ベストはライヴだから、「こういう曲をやるから予習してね」って感じのCDかな。5年後くらいにベスト・テイクのライヴ盤を出せれば、それがバンドとしての完成形だし、それでいいんじゃないかなって。生のニュアンスに合わせていく感覚はバンドでしかできないんだよね。だからジャンルで言ったらクラシックみたいな要素が強いバンドだと思う。そこを詰めていきたいから、バンドでありたいなって。でもいざメンバーに曲を持っていっても、すぐにレコーディングできる状態にはならないかもしれないじゃないですか。一期のネハンのときは、ライヴはすごく良かったんだけど、いざ新曲を録るってなると破壊力が落ちてしまってた。それが『波紋クロス』のときに引っかかっていたことだったんですよね。
ーー『3 1/2』は名刺だっていうことですね。よくあるバンドの形としては、ライヴを重ねた最終形態として音源を出す、もしくは音源を出してツアーを回る。そのなかの最終形態が、マモルさんのなかではもう1枚あって、『3 1/2』のコンプリート盤ということ。その盤のなかには、メンバー個人の色って絶対に出るじゃないですか。その色が入ることは、マモルさんにとって成功?
マモル : あたたかみとか、曲の持つダイナミクスとか、生の感じ、多少のミス。そういうのを含めて、ライヴ盤なのかなって思う。みんなで、ここは気持ちいいな、とかって共有できる部分が増えれば増えるほど良くなってくると思うんだよね。その状態になるまで、ライヴ盤は出せない。絶対にいまじゃないんだよね。どうしてもやっつけ感が出ちゃうだろうし。
ーー詞に関するこだわりはありますか?
マモル : 「アウトローフェードイン」の、「夢焦がれ風光る 始まる街 苔まみれ遅れてきた 春の夜の仁王」ってところ。やっと自分たちがいまみんなと同じ土俵に立って、遅れちゃったけど進んでいこうっていう希望が含まれてる。全体的にも、そういうニュアンスの歌詞になってるかな。
ーーポジティヴですね。
マモル : そうですね、基本的にネガティヴなものはないかな。
ハヤシ : 『波紋クロス』の最後の曲の、「フライト前戯」から繋がっていたりもするんだよね。「着地早漏」なんだけど、できるだけ早く地に足をつけていきましょうって。あの時は飛べなかったかもしれないけど、しっかりやっていこうって。
ーータイトルの意図は?
マモル : 「着地早漏」にかけてみこすりはんってね。これオフレコ(笑)?
ーー結構真面目な話して、最後それって(笑) 。今後の活動ペースはどうなりそうですか?
マモル : もう、5年はかからないかな(笑)。1年に1枚くらいのペースでリリースしていけたら。
LIVE INFORMATION
nhhmbase『 3 1/2 』release tour ~3.5 inch tour~
2013年6月22日(土)@名古屋 Rock’n Roll
w/Ropes、OUTATBERO、トキノミノル(トゥラリカ/カーリーズ)、Sure!(mudy on the 昨晩/Love will tear us apart/i GO/POP-OFFICE)、eito
2013年6月29日(土)@千葉LOOK
w/TESUSABI、sultan chaka、katyusha
2013年7月6日(土)@十三ファンダンゴ
w/未定
2013年7月13日(土)@富山SVC SAY HELLO FESTIVAL 2013
w/未定
2013年7月20日(土)@金沢メロメロポッチ
w/SuiseiNoBoAz、OUTATBERO、noid、NINGEN OK、ehon
2013年7月21日(日)@京都 METRO
w/SuiseiNoBoAz、LLama
nhhmbase Archives
PROFILE
nhhmbase
マモル(vocal,guitar,keyboard)
ミクニ(bass)
ツカサ(drum)
ハヤシ(guitar)
2004年より都内を中心に活動を始める。問題作『波紋クロス』から約5年。拍点をずらし予想の斜め上を行く独特の数学的リズム解釈から生み出される唯一無二の絶妙の間と、転調を繰り返しながらもかろうじて調性を成す機能和声はさらに洗練され、nhhmbaseの構築の美学は新たな境地に達する。脱ポスト・ロック・シーンに布石を打つ大傑作を6月5日にリリース。各方面で拍が取れなくなる。