北の大地、人口5千人の街を音で耕す2人組──JOKEMIC、新作『Local & Local』ハイレゾ配信

北海道は千歳からほど近い人口5千人の街、由仁町。JOKEMICはフッドであるこの街でそれぞれ仕事をしながら由仁町をレップし活動しているラップ・ユニットだ。地元でのパーティーも主催するなど様々な面で根を張った活動をしている彼らが2ndアルバム『Local & Local』をリリースした。今作はアイヌの伝統楽器を取り込むなどリリックのみならずサウンド面でもローカルに対し真摯に向き合う彼らの姿勢が感じられるアルバムとなっている。OTOTOYではそんな彼らの制作過程から地元への想いの丈に至るまで様々な面に光をあてるインタヴューを敢行した。
5年ぶりの2ndアルバムをハイレゾ配信!
maoii / JOKEMIC (prod.Shizuka Kanata)maoii / JOKEMIC (prod.Shizuka Kanata)
INTERVIEW : JOKEMIC
インターネット、DTM、サブスクリプション... そんな便利な時代だからこそ、東京一極集中ではなく、地方で活動してるアーティストをフックアップしていけるメディアでありたいとオトトイは考えている。売れる売れない、若者至上主義などの旧体制をそろそろ見限って、人口5千人の街、由仁町で活躍するJOKEMICを聴いてみようじゃないか! 憑き物がどんどん落ちていくよ。
インタヴュー : 飯田仁一郎
編集 : 鎭目悠太
田舎でも楽しく生きていけることを体現する
──JOKEMICはどんな流れで結成されたんですか?
Yokoii(以下、Y) : もともと僕は札幌でずっと一人でラップしてました。
Daijun(以下、D) : 僕は大学が東京だったんですけど、当時友人とパーティーをやっていてその流れでラップを始めました。
Y : そこから5、6年経ってDaijunが地元に戻ってきて。僕らの住む由仁町は小さな田舎町なので、音楽やっている人も少ないから必然的に一緒に遊び始めてそこからですね。
──JOKEMICという名前に関しても知りたいです。
D : その東京でやってたパーティーが〈JOKE〉って名前だったんで、それを頭につけました。決めたのはYokoiiくんなんですけど。
──Daijunさんがやっていたパーティーが起源になっているということですね。結成した2011年から今まではどういう活動をしていたのか教えてください。
Y : 2011年から2015年ぐらいまでは基本札幌でライブ活動してました。パーティーも多いときは月に5、6本とか札幌でやっていたんですけど、だんだん厳しくなってきて。
D : 普通に朝から仕事なんで、朝までパーティーで遊ぶっていうのがだんだん難しくなってきたんですよね。
Y : それもあるし、僕らはレペゼン札幌じゃないので札幌でやっていてもアウェイ感がある。だから「ちょっと違うね」ってなり始めてきて、2016年ぐらいから地元の由仁町でパーティーを打つようになりました。
──それからの手応えはどうですか?
Y : 毎年自分が運営してるカフェで〈焼肉大会〉っていうパーティーをやっていて、それが今年で8回目なんですけど今年はFNCYとB.I.G. JOEに出演していただき、過去最多のお客さんが来てくれました。
D : ラップでは僕らの地元みたいな田舎にいてもしっかり楽しんで生きていけるよねっていうことも提示したくて。最近は地元の別の場所でも音楽のパーティーが少しずつですけど増えてきて嬉しいですね。

──なるほど。今日本の人口の減り具合っていうのは結構な社会問題として存在していますけど、やはり自分たちがローカルでパーティーを開催したりとか音楽をしたりっていうことに関して何か思いみたいなものはありますか?
D : 若い頃の方がもっとこうしたいとかああしたいっていう気持ちが強かったと思うんですけど、最近は力が抜けてきたというか、歳を重ねてきて「人が」じゃなくて「自分が」っていうのが大事だなってすごく思ったんですよね。例えば自分たちが楽しいパーティーをしていたらもしかしたらそこでカップルができて子供ができて…人口も増えちゃった!じゃないですけど。まず自分が楽しんで、それによって提供できる楽しい場が地元に増えていけばいいなと思います。
──なるほど。アルバムについても伺っていきたいんですけど、今回は〈Chameleon Label〉と出会ったっていうのがアルバムを出すきっかけになったんですか?
Y : はい。木村さんという某大手CDショップの元店長が知り合いで、その方がレーベルを紹介してくれて。そこからら一緒に何曲か作って、せっかくだからアルバムにしようってことで作り始めたんですよね。
──いざアルバムにしようっていうきっかけはなんだったんですか?
Y : アルバムに入ってる1曲目の“maoii”がきっかけです。アイヌのトンコリという楽器を使っているんですけど、トンコリの製作者で演奏者でもある二宮さんという方が由仁町の隣の長沼町ってとこに住んでいて、僕のお店でライブしてもらったんですよね。その時にDaijunとこれでラップやったらかっこいいって話をしていて、2人で二宮さんに一緒にやってくださいって頼んだら快諾してくれて。じゃあこれはShizuka Kanataさん(今作のトラック制作、レコーディング、ミックスなどを担当。)も交えたらもっとかっこよくなるんじゃないかってことで、そこからアルバムに向けての動きが始まったっていう感じですね。
D : 最初はトンコリ一本とベースだけを入れたトラックにラップを乗せてなかなかいいなと思っていたんですけど、その後のShizuka Kanataさんのアレンジがとんでもなくて(笑)。
今作のプロデューサーShizuka Kanataのソロ作
──つまりJOKEMICにおいてはトンコリっていうのはきっかけの楽器だったということですね。でもトンコリが全曲に入っているわけではないじゃないですか。サウンド・プロデュースの軸みたいなのは何かあったんですか?
D : この曲はトンコリが入ってますけど、それ以外の曲は基本Shizuka Kanataさんが軸ですね。彼が送ってきたものに対して、こういう音が欲しいですって返事をしながら進めていきました。
──ラップが先ですか?
D : 先にラフのトラックがきて、そこにラップを入れて送り返すやりとりが普通でした。
──ラフのトラックの時にすでに展開みたいなのがあるんですか。
Y : インストでも聞けるようなめちゃめちゃ完成されているラフがくるんですよね。
──そこにどうやってラップを乗せるんですか?
Y : 曲のイメージだったり、いろんなトピックを2人で出し合うみたいなところから書き始めますね。もともとあった曲をShizuka Kanataさんに「これちょっと作ってくださいよ」って感じでこっちから投げた曲もあります。
──ちなみにそれはどの曲ですか?
Y : 2曲目の“sipirika”と6曲目の“ANSWER”って曲ですね。
──ちょっと気になったんですけど、この1曲目の“maoii”っていうのはどういう意味なんですか?
D : 地元の馬追山のことですね。この山を越えたあたりに二宮さんの住んでいる街があって、山を挟んで僕らが住んでいるみたいな感じなんです。
Y : 制作の架け橋が馬追山だったので“maoii”っていうタイトルにしました。
──Yokoiiさんのリリックにある「ウィアーイアパナ」とか「カラマイアパナ」っていうのはどういう意味なんですか?
Y : ハワイ語なんですよ。カラマっていうのは光っていう意味で、イアパナっていうのは日本とか日本人っていう意味なんですよね。トンコリなどのアイヌ文化も由仁町っていうローカルな感じも、こじつけになっちゃうかもしれないですけどすごくハワイに似てるなと思っていて。僕もそれでハワイアン・カフェやっているんですけど。
D : “maoii”のiが2つあるのも、ハワイを英語で書くとHawaiiで、iが2つあるからなんです。iをふたつにするとハワイっぽいですよね(笑)?
──なるほど。“maoii”はアルバムでも象徴的な曲だと思うんですが、リリックはどういう内容をイメージして書いたんでしょうか?
D : さっき田舎でも楽しめるんだよっていうのを提示したいって言ったんですけど、やっぱり何もない街なので毎日がルーティン化してきてつまんないなって思っちゃったりするんですよね。でもふと足を伸ばして隣町に行ったら二宮さんみたいにトンコリをやっている人がいて、自然にすごい敬意を示しているような生活をしていて。それで改めて自然ってすごくいいんだよなって思わされたんです。割と前半のリリックとかは悩んでる描写が出てきたりするんですけど、そうやってこんな曲ができたよっていうのをリリック以上に僕ら自身が体感してますね。

地元で生きていくということの「答え」
──2曲目の“sipirika”はどういう意味なんでしょうか? 少し単語を調べてみたんですが分からなかったので。
Y : アイヌ語で「最も美しい」という意味です。これは地元の良さを伝えようというか、地元をドライブしていろんな観光地とかを僕らで紹介した歌があったらいいねっていうことで結成して2、3年経ってから作り始めたなんです。
──なるほど。だからリリックにハーブ園や野球場などが出てくるんですね。
D : そうなんですよ。日本一デカいハーブ・ガーデンっていうのが地元にあって。
──このリリックの最初に出てくる「常福寺」っていうのは…?
D : それは僕が副住職を務めているお寺です。この場所をスタートに、暗闇でライトを照らしている姿が黄色く線を描くように山道を通っていくイメージですね。Yokoiiとラップを交代する時に「ブラック・ダイアモンド」って言っているんですけど、それは「ユン二の湯」っていう黒い温泉があってそこが結構な観光ポイントなんですよね。で、そのすぐ横にハーブ・ガーデンがあると。
──なるほど。だから湯けむりって出てくるんですね。「あけぼの」は何の関係があるんですか?
Y : 蕎麦屋です。3ヴァース目はご飯屋さん巡りですね。
──「アレキサンドラ」とかもですか?
Y : そうですね。大王っていう焼肉屋さんがあるんですけど、それが「アレキサンドラ」です(笑)。「シルクロード」っていうスナックがあったりとか。
──「マンモス」はどういうことですか?
D : 由仁町はマンモスが発掘された町で、マンモス亭っていう仕出し屋さんがあるんですよ。要はあんまり伝える気がない観光案内の曲ですね(笑)。
──いやいや(笑)。Hookの「ジギジギジギジギジガジガ」とか「わらなしヤンボ」みたいなのは?
D : これは後から出来たやつなんですよね。元々作ったトラックでは別のサビがあったんですけど、新しいトラックになって遊んだ感じです。意味は全くないです。

──そうなんですね(笑)。そして“ANSWER”は推し曲とのことなんですが、これは何かお二人にとっての思いみたいなものがあったりするんですか?
Y : これは、地元に住んでいて日々生きる中で正解がなくても皆答えを求めて何かをしたりするんですけど、「答えなんて出るわけがないよね」っていう答えが出ましたっていう曲です。
D : 曲を作っているときに悩んだりしているけど、こうして続けているっていう状態がまさに今この瞬間の答えっていうか。自分が良い悪いとかをどう思っているかではなくてこれが1つの正解だよなっていう。だからやり続けようっていうのをすごい感じたんですよね。
Y : 過去も未来もその時その時で歩き続けていれば、それが答えかなっていう。
──なるほど。じゃあ結構自分たちの決意表明みたいなところでもあったりするんですね。JOKEMICとしてはこれからどういう活動をしていきたいと思っていますか?
Y : やっぱり僕らは仕事もあるし、家族も持っているので、ペースは遅くなってもいいからやり続けるっていうスタンスは崩したくないですね。音源制作とかについては〈Chameleon Label〉とタッグを組んでやっているんですけど、JOKEMICの活動としては地元の仲間たちが少しずつ増えていっているなという印象があります。
──つまり由仁町に住んでいる同世代の人たちとか若い子達が増えているということですよね。
Y : まだほんとに数えるほどではあるんですけどね。
──最後になりますが今はどういったところに目標を置いているのですか?
Y : 地元の人々にもっと僕たちの音楽を受け入れてもらいたいですね。地元の人に活動を理解してもらうっていうのはなかなか難しくて。都市に住んでいる人よりも難しいんじゃないかなって思います。
D : 今回のアルバムは特に地元の人にも聴いてほしいですね。このアルバムでは地元に住んでいて感じた事ばっかり歌っているので。同じ景色を見ている人にはやっぱり聴いて欲しいですね。
──ですよね。それこそ札幌にはTHA BLUE HERBみたいな大きな存在がいますけど、そういった大きな成功を目指したりとかはないんですか?
Y : BOSSさんは札幌を地方として捉えた上で、そこでもできるっていう気持ちでやっている人だと思うんです。だから僕らが由仁町でやることも一緒だと思っていて。札幌とかよりも難しさはあるかもしれないですけど、由仁町でやることが僕らのすべてなので。だから自分たちのこのスタンスのままで、地元を起点に浸透していけばいいなと思ってます。根底は地元、というか。
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PROFILE
JOKEMIC
Yokoii(ヨコイ)とDaijun(ダイジュン)、2011年結成のRAPユニット。北海道由仁町出身で在住、それぞれの家業に邁進しつつ、幼少期から育んできた阿吽の呼吸を今なお継続中。音楽の好みはHIP HOPを主食とするも、ジャンルを問わず雑多に食す。2014年、トラックメーカーBOOTBEATのプロデュースにより1stアルバム『OUT&ABOUT』をリリース。その後、配信や客演を重ね、2019年6月に札幌chameleon labelより「maoii / maturii」をアルバムに先行して配信。また、地元開催にこだわり、ひと癖あるパーティをいくつも主催、老若男女を巻き込み、盛り上げ中。その一つ【焼肉大会】(2019年)では、FNCY(ZEN-RA-ROCK、G.RINA、鎮座DOPENESS)、B.I.G. JOEらが出演し、大きな話題を呼んだ。過去には、英心 & The Meditationalies、TICO from little tempo、The Cynical Store、コロリダス、BEAT SUNSETなどが出演している。
家業が落ち着く、2019年11月以降、インストア含めたライヴプロモーションを実施。
Twitter : https://twitter.com/jokemic