90年代R&Bの体現者、注目の新星デヴィン・モリソンとは? ──「パンチライン・オブ・ザ・マンス」 第28回

フロリダ出身で現在はLAを拠点に活動するシンガー・ソングライターのデヴィン・モリソン。これまでの活動としては様々なR&Bアーティストとのコラボや、日本在住時に実現したKOJOEら日本のラップシーンとのコラボ等をしてきた彼が今年4月に自身初のソロアルバム『BUSSIN’』をリリースした。甘く、落ち着いたクラシックな香り漂う名盤として各所で話題になっている今作はどのように制作されたのか、彼の音楽的ルーツはどこにあるのか、それらに迫るべくOTOTOYではインタビューを敢行した。
INTERVIEW : デヴィン・モリソン
タイムレスな音楽が聴きたい。時代が変わっても、変わらずに煌めく曲に出会いたい。そんな欲求を、逆に特定の時代を喚起させる音楽が満たしてくれます。 今回インタビューをしたデヴィン・モリソンはフロリダ出身で、日本滞在を経て、現在はLAに住む歌手です。昨年末リリースした「AYAKO」は、スラムダンクの宮城リョータ目線のというユニークな視点の曲で親日ぶりを感じさせますが、特筆すべきはそのサウンド。優雅な90年代的R&Bに仕上げているのです。しかしながら僕は、ヴェイパーウェイブ以降らしいアニメを使ったビデオと曲の短さから、バズを狙ったリリースと軽く流してしまっていました。 その考えを改めるきっかけがデヴィンのファースト・アルバム『Bussin’』。全曲一貫してノスタルジックなR&Bに仕上げながらも、懐古主義な湿っぽさが無い。作風が終始一貫しているにもかかわらず、全11曲を一曲も少しもブレずに仕上げてるいて、思わずリリース日を再確認した程。ここまで拘って仕上げた1枚だからこそ、デヴィンがこのノスタルジックなR&Bを心から愛している事が強く伝わってきます。この真摯な心が時代やスタイルの括りを超え、音楽ファンに響いている事を折に触れて感じインタビューに至りました。 何に影響を受けて今のスタイルへと至ったのか。 そもそも90年代的と評される事を本人はどう感じているのか。訊いてみました。リリースは少し前でも、この夏にも合うクールな1枚になるって、絶対。
インタヴュー&文&翻訳 : 斎井直史
質問協力 : DJ 1an、DJ KIYO、VOLO、Big Sum
『Bussin’』はストレート・アップなR&B
──最初にあなたの曲、「AYAKO」を聴いた時、正直ジョークなのかと思ったんです。後日、『Bussin’』を皆が勧めているのでアルバムを聴いてみて驚きました。
僕は自分のスタイルとは違うタイプの音楽から沢山のインスピレーションを受けてきた。ジャズ、ゴスペル、R&B…ジョージ・デューク、横倉裕、コミッションドに、ディアンジェロと沢山だね。とにかくジャンルの縛りから外れた音楽を作りたかった。あぁ「AYAKO」についてだよね(笑)。「AYAKO」についてはドリーミーな曲にしたかったんだ。そして『Bussin’』はストレート・アップなR&Bなのさ。
── 実はあなたはSoundCloudには、同じようにチルなヴァイブスでも、今作のようなR&Bではなくビートを多数アップロードしていますね。『Bussin’』は、特別にクラシカルなR&Bサウンドをテーマにしたアルバムなのでしょうか。
その通りだね。知っての通り、『Bussin’』っていうのはフロリダではデリシャスみたいな意味で、スウィートなアルバムが作りたかったんだ。
── あなたはお父さんがギタリストで、お兄さんがヴォーカリストと、いかにも音楽一家の出身ですが、アルバムにはギャングスタ・ラップ界の重鎮が招かれていたりします。ティーン・エイジャーの時は、どんな音楽に夢中だったんですか?
(笑)。小さい頃はゴスペルがずっと流れている家庭だった。少し大きくなった頃には、R&Bもかかってたかな。家族は敬虔なクリスチャンでも、兄はヒップホップ・ヘッズで、7,8歳の頃からスラム・ヴィレッジ、ギャングスターとかをよく聴いたよ。ティーン・エイジャーの頃は、もっと掘り下げてジャズやケアレス・ワン、ビッグ・ダディ・ケイン、メイン・ソースなんかを聴くようになった。時々ハウス・ミュージックも聴いてたね。10代の頃は色々な音楽を探検したよ。
── ちなみにお父さんとお兄さんがアルバムに加わった経緯は?
単に頼んだだけだよ(笑)。それに、兄は僕より歌が上手いからね。
── お兄さんの歌声と聴き分けが難しいのですが、どの曲がお兄さんがコーラスで参加してる曲なんですか?
「Fairly Tale」だよ。
── そうなんですか! あの曲はイントロから終始使われる、印象的なギターが一瞬入るじゃないですか。あの音がすごい大好きで、あれはお父さんが弾いたギターなのかなって質問しようとおもってたんです。
(爆笑しながら)あれはキーボードで弾いたギターなんだ(笑)。父、Dah-viのギターは1曲目「It’s Time」だね。
矢野顕子は最高に好き
── 驚いたのが、インスタグラムで矢野顕子を影響を受けたアーティストの名前に挙げてましたね。どうに彼女にたどり着いたのか覚えてます?
矢野顕子は最高に好きなアーティストの1人。彼女の全作品を持ってるよ(笑)。大学生の頃、ジャズ・ピアニストの上原ひろみを通して知ったんだ。学生の時に沢山の音楽に触れたけど、彼女は大きな影響を与えてくれたアーティストの1人だね。セレブに会ったりしても俺は泣いたりしないけど、顕子さんに会えたら涙が出ちゃうかもしれない(笑)。
── 逆に、あなたのファンであるアーティストからの質問です。あなたに影響を与えたアルバムを5枚教えてほしい、と。
オーケー。縛りなしだよね。コミッションド『Matters of the Heart』、ディアンジェロ『Voodoo』、スラム・ヴィレッジ『Fantastic Vol.2』後は…うーん…難しい(笑)。モカ・オンリー『Crickets』もドープだね。うーん、矢野顕子『Love Life』!
── ちなみに、皆があなたのアルバムを90年代風と表現しますね。それを本人としてはどう感じますか?
うーん、まぁいいんじゃない(笑)? 『Bussin’』製作中には90年代のR&Bをよく聴いていたし、友人であるFitz Ambor$eも沢山の90’s R&Bを聴いてた。自分と彼、そしてONRAで90’s R&Bをディグする事もあったし。
──もしかしたら、90年代風と常に表現されるのは良い気分はしないのかなって危惧していたんです。
90’sと表現する人は、その人のノスタルジックな想いがそうさせているんだと思ってるし、それはクールだよ。僕も90’sが好きさ。聴いてくれる人にはそれ以上のものを感じてもらえればなと思うけど、特に何と表現されても構わないよ。
── その「90年代風」を筆頭に、甘美な、とかスムースな、とこのアルバムを皆が表現しますが、本人が『Bussin’』を言葉で表現するならば?
プレミアム・バター。本物ってことさ。
リリースの経緯
── では、このアルバムを出そうと思ったキッカケと、その経緯を教えてください。
『Bussin’』の前にアルバムの制作をしていたけど、ビザが理由で日本を出なきゃいけなくなって、発つ直前にCDを出したんだ。それはパーティーで売ったり、Jazzy Sportにも置かせてもらったのかな。そしてアメリカに帰国する前から、また何か作りたいなというアイデアはあった。そもそも『Bussin’』だって、既にできていた曲を整えて出すくらいのものだったんだ。背中を押してくれたONRAにシャウト・アウトを送るよ。
── 今回ONRAのレーベルであるNBNからリリースに至った経緯は?
彼が連絡を取り続けてくれていたんだ。Fitz Ambor$eがONRAとの共通の友人で、ONRAとも数年前から知り合っていたからね。「AYAKO」を聴いた彼から興奮ぎみに連絡があったんだ。それで『Bussin’』以前のものも聴いてもらって、プロジェクトがスタートした。(『Bussin’』リリースの後に)USとヨーロッパのツアーも一緒に回ったよ。
──では更に質問ですが、80年代・90年代のR&Bアルバムからあなたのお気に入りを5枚挙げるならば?という質問も届いてます。
あぁ〜…挙げられるかな(笑)。フェイス・エヴァンスのファースト・アルバム(『Faith』)。言うの嫌だなぁ(笑)。イマチュアの『We Got It』。後は〜…ディアンジェロ『Brown Suger』、あとは…ああ! SWV『New Beginning』を忘れてた! ブランディのファースト(『Brandy』)もいいよね。
── ちなみに最近のR&Bやラップも聴いたりしますか?
イエス。友人でもあるJoyce Wrice。Lucky Dayeもいいね。あと、Mac Ayers。そうだ、Alex Isleyも!彼女は素晴らしいね。それと、僕は実は韓国のR&Bの大ファンなんだ。KIRIN X SUMINの『club 33』はよく聴いている。
── そしてこれは日本のキーボーディストの方からの質問です。キーボードをプレイする上で意識するコード・ワークなどはありますか?
思うままに弾く時もあれば、もっと自分の感情の良い表現ができるよう練習する時もある。横倉裕氏の音楽をずっと聴いてきたけど、彼のコード進行がベスト。でも常に意識するのは自分のベストだけどね。
一番好きなアニメはスラムダンク
── ちなみに日本に住んでいた時期もあるんですよね?
1年と数ヶ月ね。
── 5lackとの共作もあると日本の紹介文には書かれてましたが、そうなんですか?
多分Kojoeのアルバムに参加した事だね。(Kojoe『2nd Childhood』収録「6秒ルール feat.5lack」)だけど、5lackとの曲もいくつかやってみたいけどね。
──あなたの曲で5lackがラップをする、という事も?
いずれね、いずれ(笑)。
Devin MorrisonはM7に参加
── (笑)楽しみにしてます。最後に日本で気に入った日本食は?
うどん! あと、ラーメンは塩派かな。寿司、すき焼きも好きだけどね。
── 日本のアニメもお好きですよね。
あぁ。ブリーチ、ワンパンマン、進撃の巨人、刃牙…あとゴールデンボーイが大好きだ! でもスラムダンクが一番好きかな。
── スラムダンクは日本では知らない人はいませんが、アメリカではそれほど有名じゃないですよね?
確かにこっちでは有名ではないねぇ〜! けど、僕は大好きだよ。Toonamiっていうカートゥーン・ネットワークで放送してて知ったんだよ。
── 最後に、次のアルバムの予定は?
決まってるよ。まだ公表できないけど、準備はできてる。
──ここだけの話、一緒に制作したいアーティストを挙げるなら?
難しいとは思うけど、リトル・ドラゴンのユキミ・ナガノ。あと韓国のスミンがドープだ。その2人が真っ先に思い浮かんだね。
── ちなみにアルバムは今年中に?
…たぶんね(笑)。
編集:高木理太、鎭目悠太
PROFILE
Devin Morrisonは共にミュージシャンであった両親の三男としてフロリダ州オーランドに生まれる。祖母の願いから、5歳でピアノを始め、18歳になる2004年には自身のオリジナル曲の作曲を始める。その後2009年にGelnn Feitと共にデジタルオーディオプロダクションを本格的に学び始め、その後オークウッド大学で作曲家兼レコーディングアーティストのAdriana Pereraの元で、音楽の研究を深めていく。 オークウッド大学在学中の2012年には、Encore Festival of Compositionにおいて第1位を受賞し、同校の合唱団であるThe Aeolians of Oakwood Universityと共演。卒業年の最後の1年間は、プロのコンポーザーとして合唱団とオーケストラのための作曲を手がける。 2016年には作曲とレコーディングの学士号を取得。 翌年2017年には東京に移住し、プロデューサーとしてKojoe, Fitz Ambro$e, Budamunk, 5lackなど数名のアーティストとコラボレーションを果たしている。また同時に、”Dream”, “Surrealism”, “Nostalgia”という三つのインスピレーションの融合から創り出される彼の独自ジャンルである”Dream Soul”の制作も始まる。 CommissionedやTake6は明らかに彼のスタイルであり、彼の作曲スタイルはDonal Fagenやを矢野顕子を彷彿とさせるが、実際のところの音楽性は多彩な才能を持つ彼の家族、”Morrisons”と、やはり90年代初頭にDah-Viの名を冠してリリースしたレコーディングアーティストである父親の影響が強いといえる。Devinは現在カリフォルニア州ロサンゼルスに拠点を移し、様々なアーティストやプロジェクトのプロデュースに携わっている。
【公式インスタグラム】:https://www.instagram.com/devinjmorrison
斎井がSpotifyにて公開中のプレイリスト「下書きオブ・ザ・マンス」はこちら
過去連載「INTERSECTION」バック・ナンバー
Vol.6 哀愁あるラップ、東京下町・北千住のムードメーカーpiz?
https://ototoy.jp/feature/2015090208
Vol.5 千葉県柏市出身の2MCのHIPHOPデュオ、GAMEBOYS
https://ototoy.jp/feature/2015073000
Vol.4 LA在住のフューチャー・ソウルなトラックメイカー、starRo
https://ototoy.jp/feature/20150628
Vol.3 東京の湿っぽい地下室がよく似合う突然変異、ZOMG
https://ototoy.jp/feature/2015022605
Vol.2 ロサンゼルスの新鋭レーベル、Soulection
https://ototoy.jp/feature/2014121306
Vol.1 ガチンコ連載「Intersection」始動!! 第1弾特集アーティストは、MUTA
https://ototoy.jp/feature/20140413