OTOTOY的〈FUJI ROCK FESTIVAL 2025〉レポート──編集部が見たベストアクトはこれだ!

今年も無事閉幕した〈FUJI ROCK FESTIVAL 2025〉。3日通し券、土曜1日券は売り切れ、前夜祭から延べ4日間で122,000人と、コロナ禍以降では最多来場者を更新。会場では2日目の26日(土)の午後にフジロックらしい大粒の雨が降りしきる場面もありつつ、暑さこそ厳しい時間帯があったものの、天候にも恵まれました。OTOTOYではこの3日間を振り返り、メイン・ステージから〈ROOKIE A GO-GO〉まで、全200組を超える出演者のなかから編集部が見たベストアクト8組のレポートを中心に、その他出演アーティストたちの当日の熱気を収めた写真を多数公開。これを見るまで今年のフジロックは終われませんよ!
FUJI ROCK FESTIVAL ’25
開催日 : 2025年 7月25日(金)26日(土)27日(日)
会場 : 新潟県 湯沢町 苗場スキー場
詳細 :https://www.fujirockfestival.com (オフィシャル・サイト)
来場者数
7月24日(木)16,000人(前夜祭)
7月25日(金)33,000人
7月26日(土)39,000人
7月27日(日)34,000人
延べ来場者数 122,000人
OTOTOY編集部が見た! ベストアクト8組!
写真 : 大橋祐希 (クレジット記載のものを除く)
Mdou Moctar 【25日(金)WHITE STAGE 15:50~16:50】

初日の午後、まだまだ強く日差しが照るWHITE STAGEに出演したのは、西アフリカはニジェール共和国からやってきたバンド、Mdou Moctar。"砂漠のジミ・ヘンドリックス"というキャッチコピーだけをチェックし、全く予習なく見たのですが、これが想像を超えてくる強烈なライブ!このときばかりは強烈な暑さも彼らのステージ演出のひとつと言いたくなるような、ギラギラとしたギターの応酬とそれを支えるリズム隊の強靭さに、気が付くと体が前のめりに。そのキャッチコピーの偽りなし、やはり目で追ってしまうのはサイケデリックかつ土着的でありながら、70年代のクラシカルなロックも感じさせる、体がダイレクトに反応してしまうそのギター。その奔放なフレーズをリズム隊がどっしりと受け止め、反復と変化を繰り返しながら、徐々にトランス的に上がっていく展開も見事。中盤と後半にはステージを飛び出しフロアの目の前まで降りてギターを弾く姿もあり、観客を突き放すことなくコミュニケーションを取るのも上手い。こういうのはやっぱりアガっちゃいますよねという。やはりこうして予備知識なく強烈な体験ができるのもフジロックならではでしょう、終演後は気が付くと始まる前よりも汗が滴っていました。


Parlor Greens 【25日(金)FIELD OF HEAVEN 17:10~18:10】
現行ソウル、ファンクを語る上で外せないレーベル〈Colemine〉から昨年デビュー作をリリースしたディープ・ファンク、オルガン・トリオであるParlor Greensが初日の夕方に登場。個人的にも近年〈Colemine〉をはじめ、〈Big Crown〉、〈Daptone〉などのレーベルのリリースは常に注目していたこともあり、ラインナップが発表された段階から絶対に見逃せないと思っていたアクトだっただけに、その期待を上回る素晴らしいライブを体験することができた。前日の前夜祭でもすでに演奏をしていたこともあってか、ステージ上の仕上がり具合はバッチリ。音源からはもっと渋めな印象を持っていたが、実際のライブは良い意味で予想を裏切る熱量の高さ。ギタリストのジミー・ジェイムスがぐいぐいと全体を引っ張っていき、グルーヴ全開。「顔で弾く」ギタリストが大好物な自分からすると、もう最高以外の言葉なし!ビートルズ、ブラック・サバス、AC/DC、ニルヴァーナ、ホワイト・ストライプス…などなど、名曲のギターリフを次々と繰り出す遊び心満載のパートもあり、思わずニヤリ。秋には単独公演も決定しているので、これは"おかわり"確定。来年も大いにナイスなソウル、ファンク枠に期待したいです!

キセル 【26日(土)ORANGE ECHO 12:25~13:05】

2日目、新たに設けられたステージである、ORANGE ECHOのトップバッターとして登場したのは、フジロックには通算7回目の出演となるキセル。直前、隣のステージのFIELD OF HEAVENでのライブが同じ〈カクバリズム〉のレーベルメイトであるmei eharaだったということもあり、ヘブンから流れる人々も多数。最近の辻村兄弟と野村卓史によるミニマルな3人編成でのライブ、そして今年リリースされたばかりの最新作『観天望気』本当に素晴らしく…。そんないまのキセルを、もっと多くの人に知ってほしい!と、大きな声で伝えたくなるようなライブでした。この日もその最新編成でのパフォーマンス。兄、豪文はドラムやギターを自在に行き来し、弟、友晴はベースに加えて、竹を使った手作り楽器を駆使。それらを野村卓史がキーボードで柔らかく支えながら、新譜からの楽曲を中心に、"ベガ"や"ハナレバナレ"といった大名曲たちも織り交ぜていく構成。ラストの兄弟讃歌"縁歌"でその幕が閉じるまで、真夏の太陽が容赦なく照りつけるなか、ミニマルで幻想的なサウンドが空気をゆっくりと包み込んでいく、そのひとときは、まるで白昼夢のような幸福な時間。これはフジロックの最奥、ORANGE ECHOだからこそ体感できた、かけがえのない瞬間だったに違いない。


Faye Webster 【26日(土)WHITE STAGE 15:50~16:50】

2日目の午後、WHITE STAGEに登場したのは、アトランタ出身のシンガー・ソングライター、Faye Webster。今回が初来日ということもあり、注目度の高いステージだったが、出演の約1時間前から「これぞフジの洗礼」と言いたくなるような大雨が。私自身も雨対策が甘く、かなりびしょ濡れに……。その影響もあり、残念ながら現地で見逃してしまった人も多かったのでは。ライブは直近の2作品の楽曲を中心に披露。メロウでフォーキーな芯を持ちながら、リズムやアレンジの妙で単調にならず、観る者をスッと引き込んでしまう巧さに驚かされた。あとはスティール・ギターの効果的な使いかたと、ドラム&ベースのリズム隊の安定感。その心地よさは格別で、サウンド全体の柔らかさをしっかり支えていた。Fayeの歌声もまた素晴らしく、バンドの音に埋もれることなく、音源と変わらぬクオリティで客席へとスッと届いてきたのが印象的だった。さらに、北米ツアーも回ったmei eharaとの共演も!彼女のパートでFayeがそっと肩に寄り添うシーンがあり、クールな印象のステージ中にも、Fayeの人懐っこさが垣間見えて、とても印象に残った。ライブ後には雨も無事に上がり、結果的にあの時間帯だけが雨に包まれた一幕に。雨に濡れながら観たライブというシチュエーションも含めて、まさに"フジロックらしい"忘れがたい瞬間として、心に深く刻まれるステージだった。

Vulfpeck 【26日(土)GREEN STAGE 21:10~22:40】

2日目のヘッドライナーとして待望の初来日を果たした現代最高のミニマル・ファンク・バンド、Vulfpeck。ライブ前から今までポストの無かった公式Xで、「一体どこで覚えてきたの!?」思わずツッコミたくなる日本語のポストが現れ、バンド側もこのライブを心待ちにしているのかがひしひしと伝わってきていた。しかもVulfpeckが2025年にライブを行うのはなんと3回、そのうちの1回が今回のフジロックだったという事実。ヘッドライナー・クラスになるとセットや映像の演出も派手なのが付きものですが、彼らはここでもミニマル。ステージには並ぶ楽器とバックにバンドロゴのみという潔さ。SEもなく、スッと登場してサラリと演奏を始める。その瞬間に一気に心を掴まれ、気が付けばピースフルなバイブスに包まれながら、あっという間に90分が過ぎていた。派手な演出が無くとも、ステージに立つメンバーの高い演奏クオリティとキャラクターで、ここまで極上のエンターテイメント空間を創造できることの凄さ。そして、「絶対に真似できないのに、なんだか自分にもできるんじゃないか」と錯覚させてしまうあの空気感。そんな奇跡のようなライブを、フジロックのヘッドライナーとして観られた幸福。アンコール前のエリア前方からの気合いの入った"Dean Town"のベースラインの大合唱からの演奏、まさかのダブル・アンコールまで、すべてが完璧でした。またすぐ見たい!という気持ちもありつつ、次は各々のソロだったり別ユニットも魅力的なので、こちらを来年のフジで…というのはどうでしょう?


寺尾紗穂 【27日(日)ORANGE ECHO 14:25~15:05】
SNSでその様子を見た方も多いかもしれません。様々な土地に足を運び、小さな物語を拾い上げながら活動する寺尾紗穂のステージは、その場にいる人々、いない人の魂をも癒すものに。今回の参議院選で幾度となく目にすることとなったキャッチコピーに、誰かを傷つけることで仮初の一致団結を図るような言葉に、あらゆる角度からノーを示す歌たち。最後まで仲の悪かった姉の骨がなぜかピンク色だったことを歌にしてほしいと、頼まれ作った「骨の姉さん」、騙されて鉱山で働かされた男の「佐津目鉱山鉱夫」が、その背景の語りとともに歌われていきます。一人一人の生を掬い上げるような歌。そして、震える声で明確に反差別のメッセージを告げた後の「魔法みたいに」は、最も印象的な瞬間。"もしも二人が笑えるのなら〜欺く言葉に立ち向かえるよ 魔法みたいに"。不特定多数の人々が集うフジロックだからこそ、画面の先ではなく目の前にいる人を想うことを促す言葉がスッと胸に落ちます。歌は、誰かの感情の拠り所であり、美しい理想を描くものだということは、この日T字路sのステージでも同様に思ったことでした。

NOT WONK 【27日(日)苗場食堂 22:40~23:20】
演奏開始前から明らかにキャパオーバーな人数が苗場食堂前に集い、最終的にこの日おそらく初めてのモッシュを起こしたNOT WONK。“Down the Valley”のダイナミズムで早々に一発目の拳をあげさせると、“About Foreverness”、“Everything Flows”など最近ライブでやるなかでも前のめりな曲でボルテージを上げまくったあとに、ボッサナンバー“Embrace Me”を持ってくると言うところがニクいです。完全にバンドのいまのモードに引き込むと、“the place where nothing's ever born”で美しいサウンドスケープが体感5分ほど繰り広げられ、見ている側をあっちこっちへ音で引き摺り込んでいくように展開。早い、遅い、大きい、小さい、今のNOT WONKが提示する要素をみせたステージのアンコールで演られた“I Won't Cry”は、ポスト・ハードコアよろしく全パートフルテンで遅く重く始まり、ファスト・コアくらいのスピードで爆発していきました。アンコール前の「5分だけもらったから2時間分踊って帰ってね、音楽は時間芸術だから」という言葉にも導かれて、それぞれの時間軸がそこには立ち現れた。のかもしれません。「大きい音は嫌いだよ」。そんなヒントを言葉で伝えながら、苗場を自分たちの場所にしていくその有り様は凄まじかったです。脂乗りまくり。

Glans 【27日(日)ROOKIE A GO-GO 2:00~2:30】
深夜2時のROOKIE A GO-GOにあらわれたGlans。ライブごとに、毎回異なる一つの連なった流れを作り変える彼らですが、この日は昨年レーベル〈十三月〉からリリースしたアルバム『slow tree』をメインにした編成。ポスト・ロック的な音響使いをアンビエンスからトランス状態の一助にしていくような流れは、このバンドにしかできない所業だとおもいます。夜に溶け出すようなトリップを魅せたあっという間の30分でした。北海道のバンドが数多く出演したこの日。音楽性は全く一緒くたにできないけれど、いかにあの雪国が、とことん突き詰められた演奏を生み出しているか、というのを最後にみせてくれました。このバンドの素晴らしいところは、それぞれの楽器陣が枝葉を分かれていくように、個別の宇宙に飛び出しながらも、バンドとして円を描いているというところで、どこを聴いても気持ちいい。野外でそれはばっちりハマっていて、もっと大きな空間で彼らをみたいという気持ちにさせられました。

以上8組、まだまだレポートをお届けしたい素晴らしい場面がさまざまなところで起こっておりましたが、皆様のベストアクトは一体どの瞬間だったでしょうか? 2026年は7月24日(金)、25日(土)、27日(日)に開催、ヘッドライナーをはじめとした来年のラインナップにすでに期待を抱きつつ、来年も苗場の地に集合しましょう!
