苗場の感動をあなたに!!! OTOTOYフジロック・レポート2015
今年も苗場はアツかった!! フジロックを終えて“フジロック・ロス”に陥っているかたや、行きたかったけどやむなく行けなかったというかた。 そんなみなさまに、フジロックの3日間を追体験できるレポートをお届けします! ついついお酒が進んじゃって見逃したあのシンガー、やっと生で見られたあのグループ、そんな数々の出会いをライターの渡辺裕也のレポートとともに振り返り、またアツくなりましょう! 今年は、オレンジコートがなくなってしまったり、国内のメジャー・アーティストの名前が目立ったりと、例年とは少し違ったおもむきではありますが、そちらもこのレポートでご体感ください!!
FUJI ROCK FESTIVAL '15
2014年7月24日(金)、25日(土)、26日(日) @新潟県 湯沢町 苗場スキー場
出演 国内外約200アーティスト
詳細 http://www.fujirockfestival.com/ (オフィシャル・サイト)
渡辺裕也と一緒に今年のフジロックをおさらいしよう
2015年のフジロック・フェスティバルも無事に終了しました。「さすがに2年連続で雨なしってことはないよねー」と高をくくっていたのに、いざ蓋を開けたら今年も初日から最終日まで見事に晴天つづき。直撃が危ぶまれていた台風もうまい具合に逸れてくれたみたいで、雨具が活躍する時間もなく、とにかく今年は暑かった! 開催直前にアナウンスされたCatfish and the Bottlemenの出演キャンセルは残念だったけど、それ以外は特に大きなアクシデントも見当たらなかったし、「今回のフジロック、結局どうだったの?」と聞かれたら、やっぱり答えはいつもと同じになるんですよね。「めっちゃくちゃ楽しかった!」。
同時に、今年のフジロックからはいくつかの変化も見受けられました。もちろんその象徴となるのが、2003年に創設されて以来、フジロック最奥地のステージとして親しまれてきた〈オレンジ・コート〉がなくなったこと。そして出演アーティストのラインナップにおいても、今年は開催前からさまざまな物議を醸していました。さて、そんなオレンジ・コートの不在と今回のラインナップは、今年で開催19回目となったフジロックにどんな影響を及ぼすのか。あるいはそれ以外にもフェス全体としてはどんな変化があったのか。このレポートではそんなところにも触れていければと思います。
さあ、それでは3日間の足取りをざっと振り返ってみましょう! いつも僕ひとりが回った範囲しかお伝えできなくて非常に心もとないんですが、しばしお付き合いください。
文 : 渡辺裕也
写真 : 大橋祐希
1日目 : 観たいライヴは尽きない
入場後、まずは場内のグッズ売り場を覗きに行くと、案の定すさまじい行列。並ぼうかとすこし悩んだ挙句、ここはTHE VACCINESをしっかり見ておこうとグリーン・ステージへ。開幕したばかりとあって、オーディエンスの集まり具合はまずまずといったところだけど、本国イギリスではすでにアリーナ・クラスの会場をまわる人気バンドなだけに、そのステージングは広大なグリーンに相応しい、じつに堂々としたものでした。前夜祭につづいて2日間連続の出場となったThe Districtsは、今年デビュー作を発表したばかりの新人ながら、その演奏力の高さは各海外フェスでも実証済み。ブルーズ色の滲む荒くれたロックンロールでレッド・マーキーをガンガン沸かせていました。
英米のギター・バンドが続いたところで、お次は今年でデビュー20周年を迎えた日本の3ピースへ。2011年以来、4年ぶりにホワイト・ステージに登場したサニーデイ・サービスは、「baby blue」「恋におちたら」「スロウライダー」「サマーソルジャー」と、まさに鉄壁のセットリストを披露。イントロが鳴るたびに何度も上がる大きな歓声が気持ちよかった。再びレッドに戻って、今度はイギリスの兄弟バンド、Drenge。こちらはサポートのベーシストを加えた3人編成によるグランジ直系のヘヴィな演奏もさることながら、「オナラシヨウトオモッタラ、ウンコデチャッタ!」などのおバカなMCがとても微笑ましい。
そのDrengeを途中で切り上げて、Joey Bada$$を観るためにまたホワイトにダッシュ。今年のフジはヒップホップ系のアーティストが少なめとあって、アウェイ感は否めなかったかな。とはいえ、彼のオールド・スクールなヒップホップは一見さんも魅了するものだったはず。個人的にも初日で最も楽しみにしていたアーティストの一人だったし、Joeyが率いるヒップホップ・クルー〈Pro Era〉のメンバーでもあるニック・コーションのサポートにも痺れました。そしてまた大急ぎで移動。するとフィールド・オブ・ヘブンは後方までお客さんがびっちり。4月にも来日公演を行っていた3兄弟バンドのKitty, Daisy & Lewis、いまや日本でも大人気ですね。マスタリング・エンジニアでもある父のクレーム・ダーラム。そしてレインコーツの元メンバーとしても知られる母のイングリッド・ウェイスを加えた家族編成の演奏はもちろん、それぞれ金と銀のジャンプスーツを身に纏ったキティーとデイジーの格好もド迫力でした。
さて、せっかくヘブンにきたところで、オレンジ・コートがあった場所は今どうなっているのかを確認するべく、恐る恐る奥地に移動。すると、そこにはやっぱりステージも装飾もなくて、オレンジ・コートの不在をついに実感させられることに。そこではサッカーに興じている人なんかもいたし、さらにその奥に進めばカフェ・ド・パリもあるんだけど、それでも毎年ライヴが繰り広げられていたはずの場所がほぼ空き地状態になっているのは、やっぱり切なかった。
とはいいつつ、それでも観たいライヴは尽きないわけで。今度はMotorheadの高速ブルーズにひたすら悶絶。というか、3ピースでこの音圧って、一体どうなってんの!? 曲間で酒瓶を煽る御大レミー・キルミスターの佇まいも含めて、完璧。僕の隣にいたThe BirthdayのTシャツを着た小学生くらいの男の子も、何度も「すげぇー!」と声を上げてました。辺りも暗くなってきたところで、ここからはひたすらラウドなロックが続きます。Motorheadもすごかったけど、Royal Bloodのベース+ドラムだけで繰り出される音の厚みと重さも圧巻。終盤では客席にダイヴしたり、ブラック・サバスの「アイアン・マン」をカヴァーしたりと、観るものを飽きさせないステージングに関心。音響のいいホワイトには、やっぱりこういう重くてメタリックな爆音がハマりますね。
そしていよいよ初日のヘッドライナー、 Foo Fightersが登場。まるで映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』に出てきそうな特注の椅子に腰掛けたデイヴ・グロール、見事にかましてくれました。「見てのとおり、足が折れちゃったんだ。で、そんときの映像がこれ」と、自分がステージから転落して骨折した経緯をVTR付きで解説するデイヴ。その骨折した足のギブスにギターの弦を擦り付けるデイヴ。アメリカン・ロックの王道をいくバンドのパフォーマンスはもちろん、彼の終始一貫したエンターテイナーっぷりには、本当に頭が下がるばかり。そういえば、台風に見舞われた第1回以来、Foo Fightersがフジロックに出演すると必ず雨が降ってたんだけど、そんなジンクスも今回でめでたく打ち破られましたね。
さあ、ヘッドライナーが終わったあとも苗場の夜はまだまだ続きます。特にJam Cityは見逃せないってことで、その時間帯に備えてオアシス広場で休憩… のつもりが、疲労困憊で食した海老油そばが効きすぎたのか、そのままレッド・マーキー前で意識を失い、Jam Cityのライヴを見逃すという体たらく…。どうやらDJセットだったようですね。ライヴを見た友人達から口々に「凄かった!」と言われ、非常に落ち込んだところで、渡辺のフジロック初日は終了。なんか、すみません。
2日目 : 5年間の活動休止期間を経たライヴ・バンドに感動
初日深夜の失態を取り戻すべく、2日目も早起きしてスタート。というか、この日は朝から日照りが半端じゃなくて、テント泊の自分は半ば強引に起こされるような感じだったんですが。そこで早速向かったのはキセルが出演するフィールド・オブ・ヘブン。ちなみに彼らはこれが6度目のフジロック出演とのことですが、この日のようなシチュエーションにも、キセルの音楽はよくはまりますね。ビーカン晴れのヘブンで彼らのゆるやかな演奏に身を任せていると、うだるような暑さも少しだけ和らぎます。しかし、その後に向かったレッド・マーキーは一気にサウナ状態。ロサンゼルスのポップ・デュオ、Holychildがステージに登場すると、セクシーなビキニ姿で腰をくねらせるリズ・ニスティコ嬢をもっと近くで拝もうと前方に駆け込む男達。サポート・ドラマーを加えた演奏も、エレクトロなサウンドが際立つ音源よりもぐっとパワフルな感じでよかった。
それにしても、暑すぎる…。そこでふと思い立って、上空で涼んでこようと久々にドラゴンドラに乗ってみることに(7年ぶりでした)。するとゴンドラの上は思いのほか大勢の人で埋め尽くされてる。「いつもこんな感じなの?」と一緒に行ったフジロック参加16回目の友人に訊くと、彼いわく「こんなに人が集まってるとこ、初めて見たわー」とのこと。そういえば、今年のタイム・テーブルは上空のエリア「DAY DREAMING and SILENT BREEZE」の出演者が記載されてないのも気になってたんだけど、フジロックの過ごし方として、こういうゆるい時間を選ぶ人があんなにたくさんいたってのは、今年ならではの傾向だったんだろうか。ちなみに帰りのゴンドラは約40分待ちでした。
ゴンドラを下ると、ちょうどゲスの極み乙女のライヴが始まろうとしている時間で、レッド・マーキーはすでに会場の外まで人が溢れかえってる。ちょっと覗いてみようかなと思ったものの、あまりにも大勢の人が詰め掛けてきたため、あえなく撤退。ゲスの人気っぷりにはじかれたあとは、バルセロナの大所帯バンド、TXARANGOのライヴを覗きに奥地のカフェ・ド・パリへ。するとこっちも会場となるテント内はパンパン。場内から漏れてくるエキゾチックなリズムに外で身体を揺らしつつ、チャランゴは3日目の朝にガッツリ見ようと決意し、ここはSuper Furry Animalsを見にホワイトまで移動することに。
およそ5年間の活動休止期間を経てフジロックにやってきたファーリーズ。しかし彼らの佇まいは相変わらずで、フルウェイスのヘルメットを被ったまま歌い、日本語で「拍手」などと書かれたパネルを見せるグリフ・リースのパフォーマンスは、オーディエンスの笑いを何度も誘っていました。それにしても、次々と繰り出される楽曲の素晴らしさには改めて感動したなー。ボコーダーを使ったものからノイジーなギター・アンサンブル、あるいはシンセ主体の演奏まで、このバンドの出す音はとにかく裾野が広いし、その時々の実験的な試みが反映されていて、それゆえにファーリーズの音楽はいつ聴いても新鮮な驚きを与えてくれる。ライヴ終了と見せかけて、最後にはメンバー全員が毛むくじゃらのぬいぐるみを着て再登場。ファーリーズやっぱ最高!
すこしずつ日も落ちてきたところで、今度はPhilip Sayceの超絶ギター・プレイを拝みにヘブンへ。ベースとドラムを従え、汗を飛び散らせながらストラトキャスターを弾き倒すフィリップは、まさにギター・ヒーロー然とした雰囲気。古典的なブルース・ロックのかっこよさを改めて見せつけるようなライヴでした。そこからは通りがけにみたクラムボンとdeadmau5に後ろ髪を引かれつつ、Happy Mondaysを頭から見ようと急いで移動。アロハシャツ姿で陽気に踊る(だけの)ベズ、やっぱり笑えたわー。女性コーラスを含む大所帯編成の演奏は思いの他(といったら失礼だけど)タイトでファンキー。でもその間に挟まれるMCが妙にダラダラしているところもまたマンデーズらしく、超満員のレッドを揺らしまくってました。
まだまだ踊り足りない。今度はGALACTIC featuring MACY GRAYを見にヘブンへ。長尺のジャムを繰り広げるギャラクティックのグルーヴィーな演奏は過去のフジロックで体感した方も少なくないだろうけど、今回はそこにメイシーのドスが効いたハスキー・ヴォイスが加わるわけで、これはもうすごいに決まってるでしょう! 各演奏者のソロまわしも見応えたっぷりで、こちらもひたすら腰を動かさずにはいられない。マンデーズとの被りで後半1時間しか見れなかったけど、これはフルで見たかったなー。そのメイシーのソウルフルな歌声に感動した勢いで、2日目深夜はBLOODEST SAXOPHONE feat. JEWEL BROWNから始めようと〈パレス・オブ・ワンダー〉へ。ブラサキのスリンギンな演奏と硬派な佇まいに痺れつつ、なによりも御年77歳(!)のジュエルが聴かせる張りのある歌声が圧倒的。その後は友人らと乾杯しつつ、同じくパレスでウィルコ・ジョンソンを観るつもりが、パレス前はウィルコ待ちでものすごい行列。ここでつい力尽きてしまい、渡辺の2日目終了。
3日目 : オレンジ・コートがなくなった影響
さあ、最終日も照りつけるような日差しに飛び起きてスタートです。まずはじめに駆けつけたのが、昨年の〈ルーキー・ア・ゴーゴー〉から出演枠を勝ち取った台湾のバンド、Manic Sheep。シューゲイザーの影響をうかがわせるノイジーな演奏は、クリス(とてもかわいい)の歌声が加わるとぐっと爽やかに響くし、歌メロも抜群。この一年のあいだに女性ベーシストが加わり、クリスがセンター・ポジションで歌う形態に変わったことで、アンサンブルの厚みと安定感もぐっと増しているように感じました。そしてお次は前日のカフェ・ド・パリで少ししか見れなかったチャランゴを改めてがっつり楽しもうとホワイトへ。初日は深夜のパレス、2日目はカフェ・ド・パリを賑わせてきた彼らはこの広いホワイト・ステージでも本領発揮。サルサやレゲエのリズムを盛り込んだ豪快なミクスチャー・サウンドでオーディエンスのハートをがっつりと掴み、最後にはTシャツや CDを客席にばらまくという大盤振る舞いも。何度でもフジロックのやってきてほしいバンドが、ここにまたひとつ増えました。
「こんにちは。ガマン汁です」。そんなひどすぎるMCも鮮烈だったのが、ヘブンのJim O' Rourke と Gaman Gilberto。新バンドのガマン・ジルベルトは、蓋を開けてみれば石橋英子(鍵盤)、須藤俊明(ベース)、山本達久(ドラム)、波多野敦子(ヴァイオリン)というおなじみの面々でした。それだけにバンド・アンサンブルは申し分ない仕上がりで、今年リリースされた13年ぶりのヴォーカル・アルバム『シンプル・ソングス』の1曲目「Friends With Benefits」から幕を開けたライヴは、抑え気味の前半から徐々に演奏の熱を上げていく流れが圧巻だった。
そしてお待ちかね。2011年のルーキー・ア・ゴー・ゴーに出演し、その翌年にはヘブンのステージにも立ったceroが、今年は大きなスケール・アップを遂げてホワイト・ステージに登場です。あれからバンド編成も大きく変わり、最新作『Obscure Ride』ではコンテンポラリーなブラック・ミュージックへの接近を果たした彼らだけあって、やはりこの日のライヴは新作の楽曲が核になるだろうと思ってたんだけど、それよりも1〜2作目収録曲のリアレンジ・ヴァージョンにはとにかく度肝を抜かれた。なかでも「Exotic Penguin Night」終盤のビートが一気に加速していく展開にはアガったわー。堂々たるパフォーマンスでバンドの成長を見せつけながら、同時に今も彼らが音楽的な進化を遂げていることを示した、まさに会心のライヴだったと思います。
ちなみにこの日は同じく2012年のルーキー・ア・ゴー・ゴーに出演した思い出野郎Aチームも、夜の苗場食堂でフジロック再出演を果たしていましたね。泣く泣く僕はそのステージを見逃してしまったんだけど、この日のレッドに登場したマニック・シープにしても、こうやってかつてルーキー・ステージに出場したバンドが成長した姿を再びこの苗場で見れる瞬間って、ホント最高なんですよ。今年のラインナップは日本人アーティストの多さが目立っていたけど、個人的には彼らのようなルーキー出演歴のあるバンドが国内勢の主軸になればいいなと思ってるし、それは集客のことを踏まえても決して難しいことじゃないと今年は改めて感じました。実際、ルーキーのラインナップって毎年すごくセンスいいと思うし、ざっとここ4〜5年のルーキーの出場バンドを振り返るだけでも、あれから大きな飛躍を遂げたバンド、当時とは一味違った路線を開拓したバンドってたくさんいる。フジロックの会場にはそうした各バンドの音楽性や成長度合いに対応したステージがたくさん用意されてるし、ここはぜひ来年以降のラインナップにどんどん反映させていってほしい。
話が逸れた。再び3日目の動きを振り返ります。ceroのあとは昨晩のパレスでのステージが素晴らしかったブラッデスト・サキソフォンfeat.ジュウェル・ブラウンがまた観たくなってヘブンへ移動。笠置シヅ子「買い物ブギ」の日本語カヴァー、やっぱ最高。炎天下にこだまするジュウェルのパワフルな声にまたしてもケツを蹴り上げられました。おそらく今年のフジロックで最も大きな波紋を呼んだライヴは間違いなくこれでしょう。黒人DJと女性ダンサー2人に囲まれて歌い踊るTodd Rundgrenの衝撃たるや…。2013年のアルバム『STATE』でEDMへの関心を示していたとはいえ、まさかライヴ・パフォーマンスもこれほど踏み込んだものになるとは。御年67歳にしてこの大胆な挑戦。すごすぎる。
Todd Rundgrenの衝撃をうけてなかば放心状態のまま移動していると、ちょうどグリーンではJohnny Marrのライヴが始まったばかり。って、あれ? この曲「Stop Me If You Think You've Heard This One Before」じゃん! その後も「Big Mouth Strikes Again」「There is a Light That Never Goes Out」と、ザ・スミスの楽曲がつづく展開に思わず歓喜。ジョニーの歌い方がモリッシーそっくりなことにも驚いたわー。そのままレッド・マーキーに向かい、Jenny Lewisをなるべく近くで観ようとステージ前方へ。最新作『The Voyager』のアートワークに倣ってパステル調の模様が飾られたステージ上に、短パン姿のジェニーが登場すると、フロア各所からは「かわいい〜!」の声が。アコースティックを基調としたバンド編成で、新作からはもちろん、かつて所属していたカイロ・ライリーのスタイリッシュなカントリー・ナンバーも次々と披露され、まだまだ暑い苗場に爽やかな歌声を響かせていました。
ジェニーのライヴが終了すると、レッド・マーキーのステージ上には規格外に巨大なフェンダーのアンプが設置され、早くも前列を確保しようとする人々が集まり始める。そう、今回のフジロックにおける最大の目玉のひとつ、ライアン・アダムスがいよいよステージに立つのだ。まもなくスタートというとき、場内ではこんなアナウンスが。「お願いです。フラッシュは絶対に焚かないでください。ライアンが倒れてしまいます! 本当です!」。ライヴ途中でステージから去ってしまった10年前のこともあって、フロアに異様な緊張感が立ち込める中、ついにライアン・アダムス登場。そしてその最初の一音がギターから放たれた瞬間からは、もうパーフェクトの一言。ギターから放たれるフレーズの一つひとつ、そして彼のしゃがれた歌声に歓喜の声をあげ、中には涙を流している人もちらほら。ライアンがステージから去ったあとも延々とつづいた拍手とアンコールを求める声が、あのライヴのすべてを物語っていたと思います。
このあとの時間帯は、今年のタイムテーブルでも選択がいちばん難しかったところかも。ライド、ベンジャミン・ブッカー、レーヴェン、思い出野郎Aチームに後ろ髪を引かれつつ、自分はHudson Mohawkeを見にホワイトへ。ドラマーとシンセ担当のサポート・メンバー2人を加えた3人編成のパフォーマンスは、空間をねじるような重低音と、目まぐるしい楽曲展開がとにかく耳に刺激的だった。ライアン・アダムスの凄まじいライヴを観た後だったのもあって、途中で集中力を切らしてしまったのが、ちょっと悔しい。
そしていよいよ最終日ホワイトのヘッドライナー、FKA twigsが登場。ひたすら細かく刻まれた変幻自在のビートに呼応しながら、しなやかにステージ上を舞う、FKAツイッグスことターリア・バーネット。あのダンスと透き通るような声の美しさは、ちょっと筆舌に尽くした難いものがありますね。バンド・メンバーによる緻密で奇怪なビート・プロダクションにもひたすら圧倒されたのと同時に、彼女が体現しているのは音楽を含めたトータル・アートなのだなということも痛感させられる、衝撃的なパフォーマンスでした。あと、終盤のMCで見せた笑顔が最高にキュートだったな。あのギャップはやばい。
さあ、いよいよ今年のフジロックも終盤。FKAツイッグスのライヴを堪能した帰り、グリーンの方向から「Don't Look Back in Anger」が聴こえてきたときは、まさに大団円って感じでした。残念ながらノエルのステージには間に合わなかったけど、ホワイトからグリーンへの道を大勢で合唱しながら歩くってのも、今年の締めくくりとしては悪くない時間だった。
2015年のフジロック、3日間のライヴ・レポートはここまで。例年ならこのあともレッドかパレスで朝まで遊ぶところなんだけど、今年は連日の強烈な暑さにすっかり体力を持っていかれてしまいました。雨対策はもちろんだけど、この暑さへの対応も来年以降はもう少し考えていかねばと思った次第です。
冒頭の繰り返しになるけど、総じて今年もフジロックはめちゃくちゃ楽しかったです。というか、来ちゃえばほぼ間違いなく楽いんですよ、フジロックって。で、それを知っているのが、いわゆるフジロッカーと呼ばれる人たちなんだと思うし、かくいう僕も他の音楽フェスとはまったくの別物としてこのフェスをとらえているからこそ、毎年こうして苗場に来てる。
ただ、大方の音楽好きがその年のフジロックに参加するかどうかを決めるのは、当然ながら出演者のラインナップになるわけで。そういう意味では今年のラインナップがインパクトと新鮮味に欠けていたのは、やはり事実だと思う。フジロックのラインナップにはポップ・シーンの「今」が常に反映されていてほしいんだけど、その点でいうとやはり今年はすこし弱かった。あと、フジロックってそうした欧米のポップ・ミュージックとはまた違ったスタイルの音楽が楽しめる場所でもありますよね。でも、今年はアフリカや中東あたりから来た出演アーティストが非常に少なくて、毎年そうした地域の音楽と出会えることを楽しみにしてきた者としては、ちょっと物足りなさもあったかな。
あと、今年はフィールド・オブ・ヘブンが常に混み合っていたことも印象に残りました。やっぱりこれはオレンジ・コートがなくなったことの影響なんだろうな。「この時間は見に行きたいライヴがひとつもないなー」なんてことはさすがにあまりなかったけど、各時間帯で見にいけるライヴ選択肢がひとつ減ったことの大きさは、やっぱり3日間を通じて常に感じました。いろんな意見や事情はあるにせよ、やっぱりあそこにはステージがあるべきだと思う。それがオレンジ・コートがなくなっていたことに対する、僕の率直な感想です。
一方で、現地では「今年がフジロック初参加」という友人にも何名か会うことができました。そんな彼らに参加を決めた理由を聞くと、答えはほぼみんな「今年は知ってるアーティストが多かったから」。普段は比較的メジャーな国内アーティストを主に聴いているようなリスナーからすれば、今年のラインナップは足を運びやすいメンツでもあったのかもしれないし、今回はそうしたリスナーにフジロックを体感してもらえるいい機会にもなっていたと思う。でも、願わくはフジロックにはそういう「邦楽 / 洋楽」みたいな垣根を感じさせない場所であってほしいんだよなー。世界中のさまざまな音楽が、この広大な会場内に集まっていて、そこを歩き回っていると、今までに聴いたことがなかったような素晴らしい音楽が必ず見つかる。フジロックの素晴らしさって、僕はやっぱりそこだと思うんです。だから、これからもフジロックには他のフェスでは楽しめないような音楽がたくさん鳴っている場所であってほしい。そう強く願いつつ、今から次回の開催を楽しみに待ってます。さあ、来年はいよいよフジロックフェスティバル20周年!
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