7/29-31 FUJIROCK FESTIVAL'11
帰路に就くと途端にやってきた強烈な眠気と疲労。なんで苗場にいる間はあんなに元気なのか自分でも不思議だが、それにしても3日間よく歩き回った。今年も大雨に見舞われたフジロック。とはいえ、開催期間中に新潟県が記録的豪雨による被害に遭ったことを考えると、3日間ほぼ滞りなくフェスが敢行できたのは奇跡的なことだったようにも思えてくる。開催中は県内であんなに大きな被害が出ているとはまったく気づきもせず、初日こそほぼまる一日降りっ放しだったものの、二日目の夜には満天の星空が広がっていたし、最終日には天候もすっかり落ち着いていた。去年と比べてもそれほどひどかったようには感じなかった。
つまり、言ってしまえばいつものフジロックだったんだけど、だからこそ今年は思うこともたくさんあった。大地震と原発事故による甚大な被害が日本を襲ったこの2011年だからこそ、このフェスティバルが掲げてきたテーマやメッセージ性をよりダイレクトに感じた人は多かったはず。前夜祭の段階で一気にぬかるんだ地面。ほぼ途切れることのないトイレの大行列。このフェスにおいて毎度不便だと指摘されるところは基本的にここまでほとんど変わっていない。それでもフジロックに通い続ける人は後を絶たないし、その中にはここを「楽園」と呼ぶ人さえいる。しかしそれは、例えば都市型フェスで求められるような「快適」な空間とは全く違うものだ。当然ながら苗場の環境は人間の都合がいいようにはならない。しかしそれをしっかりと受け入れた人にはあの場所でしか得ることのできない自由と感動がやってくる。フジロックでの体験は非日常的とも言われるけど、その我々の日常はというと、ひたすらに利便性を重視した結果として、原発事故という形でつい最近大きな犠牲を被ったばかりだ。
そういうこともあって、やはり今年のフジからは全体的にアンチ原発のムードが色濃く出ていたように思う。もともとフジは一部のステージで使用する電力をバイオディーゼルや太陽光発電でまかなう等、自然エネルギーのアピールに率先して取り組んできたフェスティバルだが、今年はそれに加えて、ジプシー・アバロンで「アトミック・カフェ・フェスティバル」が催されていた。これは1984年に始まった反核と脱原発を訴えるイベントで、この度の福島原発の事故を受けてフジロックでの復活が決まったものだ。呼びかけ人である加藤登紀子はもちろん、グリーン・ステージへの出演を直前に控えたYellow Magic Orchestraも登場するなど、集まった大勢の人々は彼らのトークに真摯に耳を傾けているようだった。脱原発から新エネルギーへのシフトをフジロックで訴えかけるというのは非常に説得力があったと思う。
ステージからそうした声を発するミュージシャンも多かった。「アトミック・カフェ」にも出演した斉藤和義は、その後のホワイト・ステージでも「ずっとウソだった」や、これまた東京電力を糾弾する新曲「猿の惑星」などを歌って、パンパンに膨れ上がった会場を沸かせていた。自分はその場にいなかったが、COLDPLAYのクリス・マーティンもMCで原発事故の話題に触れていたようだ。そしてとにかく強烈だったのが、ATARI TEENAGE RIOT。彼らのパフォーマンスやひとつひとつの発言に対するオーディエンスからのリアクションは常軌を逸したもので、正直フジのライヴであれほど身の危険を感じたのは初めてのことだ。もしかするといまこの国で最も求められている音楽は、彼らがやっているような極めてシンプルな主張でリスナーを扇動できるものなんじゃないかとすら思えたほど、壮絶な光景がレッド・マーキーで繰り広げられた。
もちろん他にもたくさんの素晴らしいパフォーマンスを楽しんだ。マーク・リーボウによる思いのほか情熱的なギター・プレイには(偽キューバ人だけど)内なるラテンの血が騒いだし、新作を控えたWilcoはとにかくメンバー全員のプレイアビリティがあまりに高すぎて終始圧倒された。今年の個人的な目玉でもあったHanggaiは、楽曲のアレンジが音源とはまた違ったバンド仕様で、とにかく聴衆を沸かせるのがうまい。メンバー全員の歌唱力の高さにも驚いたし、今回のフジで最も大きなインパクトを残したバンドと言っていいと思う。そして日本でのラスト・ステージとなったThe Musicのパフォーマンスにはやはり泣かされた。他にも挙げれば切りがないが、国内外からこれだけ多くのアーティストが集い、素晴らしい演奏を聴かせてくれるということを今年ほどありがたく感じたことはなかった。また来年苗場に来る頃には今の日本の情勢が少しでも好転していてほしい。そんなことを思いつつ、今から1年後のフジに向けて少しずつ積み立てておかなきゃと例年の如く思うのだった。(text by 渡辺裕也)
FUJIROCK FESTIVAL'11
開催日 : 7月29日(金) 30日(土) 31日(日)
開催地 : 新潟県湯沢町苗場スキー場
出演者 : COLDPLAY、THE CHEMICAL BROTHERS、THE FACES、ARCTIC MONKEYS、東京スカパラダイスオーケストラ、YELLOW MAGIC ORCHESTRA、KAISER CHIEFS、clammbon、BATTLES、MOGWAI、ATARI TEENAGE RIOT、くるり、THE KILLS…and more!
主催 : SMASH Corporation
企画・制作 : SMASH / HOT STUFF PROMOTION / DOOBIE,Inc.
>>オフィシャルサイト
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