「好きなことをやり続ける感覚」──待望のニュー・アルバム『彼女の時計』完成への道筋
様々な音楽的ルーツと自らの感覚を貫き、心地いい音楽を作り出す「Lamp」が、2018年5月15日に、4年ぶりの新作『彼女の時計』をリリースした。先日開催された、LIQUIDROOMでのワンマン・ライヴのチケットも即完するなど、ますます注目を集めている中でリリースされる今作。なんとそのハイレゾ配信は、Lamp公式HPとOTOTOYのみ! そして、OTOTOYでは、複雑さと美しさが見事に調和する成熟された楽曲を多数収録した今作の魅了を存分に伝えるべく、前編・後編に分けてインタヴューを敢行!
先日公開したインタヴュー前編では、彼らの運営するレーベル〈ボタニカル・ハウス〉のことやブラジル音楽などをルーツとしたLampの音楽性の根幹をなすものについて。そして今回の掲載するインタヴュー後編では、今作の制作のヒントや、彼らが影響を受けてきたもの、こだわり抜いて作られるLampのサウンドについて語ってくれた。ぜひアルバム『彼女の時計を』と合わせてお楽しみください!
4年ぶりの新作!!
Lamp / 彼女の時計
【配信形態・価格】
ALAC、FLAC、WAV(24bit/48kHz) : アルバム 1,944円(税込) / 単曲 270円(税込)
>>> ハイレゾとは?
AAC : アルバム 1,512円(税込) / 単曲 216円(税込)
【収録曲】
1. 夜会にて
2. ラブレター
3. 1998
4. スローモーション
5. 夢の国
6. 車窓
7. 誰も知らない
8. Fantasy
INTERVIEW : Lamp
ニュー・アルバム『彼女の時計』のリリースにあてたLampのインタビュー後編をお届けする。通算9作目にして、みずから主宰するレーベル〈ボタニカル・ハウス〉からは初のリリースとなる本作。「新作をつくるのがどんどん大変になってきている」とインタヴュー前編で本人たちも述べていたとおり、『彼女の時計』が完成にいたるまでにはどうやら紆余曲折もあったようだが、実際にこうして届けられたものに耳を傾けると、その80'sサウンドを彷彿させるメロウな楽曲と洗練されたプロダクションには思わず溜飲を下げずにいられない。聞けばそのとっかかりは前作『ゆめ』のラスト・トラック「さち子」にあったとのことなので、まずはそのあたりのことから、このあまりに素晴らしき最新作に迫ってみたい。
インタヴュー&文 : 渡辺裕也
「さち子」の影響下にあるようなムードの楽曲が揃った
──『彼女の時計』の収録曲は、染谷さんと永井さんがちょうど4曲ずつ書かれているんですね。
染谷 : はい。そもそも今作は当初、4曲入りの小さなバラード集にするつもりだったんですけど、こうして久々にだすものがたった4曲というのは、待ってくれていた人にもさすがに申し訳ないなと思って。
──それであらたに4曲を加えることにしたと。
染谷 : そう。つまり、当初は「スローモーション」「夢の国」「ラブレター」「誰も知らない」は入る予定じゃなかったんです。じつはこの他にもいくつか曲はあったんですけど、作品としてのまとまりを考えていくと、この8曲がベターかなと。
──曲作りは各々どのように進めているのですか。バンドに持ち込む段階でベーシックはどれくらい作り込んでおくのでしょうか?
染谷 : 僕はぜんぜんですね。ほとんど鼻歌とギターだけ。
永井 : 僕はけっこう作り込みます。最近は昔と比べて自宅の制作環境も整ったので、おのずと作業に入り込んじゃうというか。
──そういう意味では、永井さんの作り方は〈ボタニカル・ハウス〉のソロ・アーティストたちと感覚的にも近い?
永井 : そうですね。とはいえ、あくまでも僕の場合はメンバーに助言をもらいながらやってますからね。新川忠さんやKIDSAREDEADはあれだけの音楽をたったひとりで作ってるわけで、そこはもう憧れの目で見ています。今作の「Fantasy」という曲には、新川さんの3rdアルバムの影響がけっこうあって。新川さんが好きだということで聴いてみたプリファブ・ストラウトもすごくよかったので、そこで受け取ったエッセンスを、もともと自分のなかにあったものと掛け合わせてみたっていう、そういう道筋も今作にはありました。
──聞いたところによると、『彼女の時計』は前作『ゆめ』に収録されていた「さち子」が制作のヒントになったんだとか。具体的にいうと、これはどういう意味なのでしょうか。
染谷 : 「さち子」から音楽的なヒントを得ることによって、次の作品に収録する楽曲の半分ぐらいはつくれるんじゃないかなっていう考えが漠然とあったんです。で、結果的には「さち子」の影響下にあるようなムードの楽曲が揃ったというか。
──そのヒントというのは?
染谷 : 僕のつくる曲って、初期はものすごく転調が多かったんですよ。それこそ当時はブラジルのイヴァン・リンスとかジャヴァンみたいな転調の多い音楽が大好きだったんですけど、それが2005年あたりからミナス系のトニーニョ・オルタとかロー・ボルジェスなんかを聴くようになって。そのあたりの音楽って、よく聴いてみると転調があまりないんですよね。むしろ、おなじ調のなかでいかに豊かな表現をするか、みたいなところがある。そこにハッとして、これはどういうことなんだろうと。そこで自分なりに気づいたことをフィードバックしてみたら、「さち子」でうまくいった感じがしたというか。
永井 : でも、実際は僕も染谷さんもそこまで狙ってやってる感じではないんですよ。そもそも僕らはそんなに器用じゃないし。
染谷 : スキがなさそうだとよく言われるけどね。
榊原 : なんか私たちって、ちゃんとしてるバンドだと思われがちなんですよね(笑)。だからか、ライヴを観ると驚かれる方も多いみたいで。
永井 : ときどきシティポップと言われることもあるんですけど、自分たちとしてはそう呼ばれるようなことは全然出来ていないと思ってて。ああいう音楽って、ある程度のスキルがないとできないものですからね。僕らにはそのスキルがない。
良い音楽はどんなにしょぼいラジカセで聴いても良いんですよね
──永井さんがいま仰っているシティ・ポップとは、たとえばどういうものを指していますか。
永井 : 佐藤博の「awakening」とかユーミンが80年代に作り上げたポップスとか。あれはまさにプロの仕事であって、ずっと素人的な感覚でつくってきた僕らの音楽とはまったくの別物だと思ってます。最近の若い人たちだと、たとえばブルー・ペパーズはいわゆるAOR的な音楽を自分のモノとして構築していて、ホントすごいなと思いますね。僕らにはまず出来ないことだなと。
──実際のところ、Lampの皆さんに日本のポップス / 歌謡曲の影響はどの程度あるのでしょうか?
染谷 : どうだろう。バンドを結成した頃にはっぴいえんどとかシュガー・ベイブは聴いていたんですけど、それ以降で影響をうけたような日本のアーティストっていうと、正直あまり思い浮かばないかもしれません。とはいえ、僕らはこうして日本語の歌詞でやってますし、影響をまったく受けていないというわけでは勿論なくて。そもそも僕らは古いものが好きですからね。なにか古い雑誌を手に取ったり、古い映画を観たり、古いサウンドに触れるとグッとくる。だからこそ、僕らはいつ作品をだしてもいまの時代のものとは違った雰囲気になるというか。
──たしかに。いっぽうで先ほど「昔とおなじことをそのままやるのはイヤ」とも仰っていましたよね?
染谷 : 昔と同じではダメだと思っているのは、とりあえず僕に関しては自己顕示欲でしょうね。どうせやるなら違うものがやりたいし、それが自分のやる意味になっているというか。(永井と榊原にむかって)どう? そういうことってあまり考えない?
榊原 : どうなんだろう。音楽を聴いてから「こういう感じにしたい」と思って、実際にそういう音楽をつくる人もいますからね。
永井 : でも、俺らの場合はそうしようとしても、まずそうはならないからさ。
──じゃあ、いまの時代性を踏まえてモダナイズさせたいと思うことは?
染谷 : あ、それはないですね。でも、昔と同じなのもイヤだっていう(笑)。それが自分のなかでは両立しているというか。
永井 : 僕も「いまの時代に対してこういうことをやろう」みたいなことを意識したことはほぼないですね。それよりも、個人的に好きなことをやり続けているっていう感覚がずっとある。
染谷 : そこについては僕も考えていたことがあって。というのは、たとえばなにかしらのサウンドが3秒でも鳴っていると、その瞬間にすぐ飛ばしたくなっちゃうような“自分にとってのつまらない音”があるんですよね。だから、自分がつくるものは絶対それにしちゃいけないなと。そういう意識が僕のなかには常にあって。
永井 : パソコン上のソフト音源だけで作った音楽と、ハードを通してつくった音楽との差はすごく感じてますね。
染谷 : ただ、ここでひとつ難しいところがあって。つまらないサウンドのものでも、良い音楽はあるんですよ。 極論をいうと、良い音楽はどんなにしょぼいラジカセで聴いても良いんですよね。そういう観点でいうと、最悪サウンドがつまらなくてもいいんですけど、こうして自分が作る以上はやっぱりおもしろいサウンドにしたいというか。
──そこまでサウンドにこだわっていくと、やはりアナログ機材を手に取ることも多いのでしょうか?
染谷 : そうですね。でも、僕はわざとらしいヴィンテージ感みたいなもの全般が実はけっこう苦手で。それよりも自分なりにいいと思う方法をとってみて、感覚的にいいと思えるかどうかを大切にしてます。今回のアルバムだったら、80年代後半にブラジルでリリースされたアルバムのクレジットを見て「あぁ、こういうものを使ってたのか」みたいなところからシンセサイザーを購入してみたりすることはあったんですけど、実際にそのシンセを手にしたら、あとはもうその音と向き合う作業に入っていくので、そこからまた元のブラジル音楽を聴き返したりすることはあまりないんですよね。
永井 : そもそも僕らの活動って、「これが好き」っていう感覚の積み重ねでしかないと思うんですよ。自分たちが好きだと感じているものをずっとやり続けている。それ以外の何物でもないというか。
染谷 : なので、機材どうこうということではなく、音そのものを感覚的に聴いてもらいたいなという気持ちはありますね。
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【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(24bit/48kHz) / AAC
【配信価格】
単曲 216円(税込) / アルバム 1,512円(税込)
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古 → 新
【過去の特集ページ】
>>> 『東京ユウトピア通信』 レヴュー
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あらかじめ決められた恋人たちへ / あらかじめ決められた恋人たちへ- 20th BEST -
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LIVE SCHEDULE
〈The Bilinda Butchers Japan Tour 2018〉東京公演
2018年5月29日(火)@TSUTAYA O-NEST
時間 : OPEN 18:30 / START 19:30
チケット料金 : 前売り 4,500円(+1drink) / 当日 5,000円(+1drink)
出演者 : The Bilinda Butchers、Lamp
Lamp アジア・ツアー2018〈A Distant Shore〉開催決定!!
2018年8月3日@北京 YUGONG YISHAN
2018年8月4日@上海 BANDAI NAMCO SHANGHAI BASE (FUTURE HOUSE)
2018年8月5日@武漢 VOX LIVEHOUSE
2018年8月7日@広州 T:UNION
2018年8月9日@深圳 B10 LIVE
2018年8月10日@香港 TTN
2018年8月11日@台湾 The Wall
2018年8月18日@仙台 enn 2nd
2018年8月24日@福岡 Rooms
2018年8月26日@大阪 Pangea
2018年9月08日@ソウル サンサンマダン
2018年9月28日@東京 キネマ倶楽部
全てワンマン・ライヴ、フル・バンド7名でのステージを予定。
>>> 国内公演の詳細はこちら
PROFILE
Lamp
染谷大陽、永井祐介、榊原香保里 の3人により2000年に結成。これまでに7枚のアルバムと1枚の音源集をリリース。
>>> Lamp 公式HP
>>> 染谷大陽 Twitter