「これは2020年に出すべきアルバム」──polly、人間愛を歌う新作『Four For Fourteen』
シューゲイザー、ドリームポップ、ポストパンク、ニューウェイヴなどから影響を受けた美しいサウンドに、儚くもメロディアスなメロディを奏でる宇都宮発のロック・バンド、polly(ポーリー)が新アルバム『Four For Fourteen』をリリース。彼らが設立した自主レーベル〈14HOUSE.〉からの第1弾リリースとなる今作は、「人間愛」をテーマに、美しさとポップさが共存するpollyの世界を存分に感じることができる傑作だ。今回は、“狂おしい”をはじめ、バンド初期に発表した4曲のリアレンジ・ヴァージョンも収録。前作『FLOWERS』を経て変化したバンドの「いまの音」が詰まった『Four For Fourteen』について語ってもらったインタヴューをお届けしよう。
自主レーベルからの第1弾作品
INTERVIEW : polly
pollyがセカンド・アルバム『Four For Fourteen』を発表した。2015年のデビューから〈UKプロジェクト〉でリリースを重ねてきた彼らは、このたび自主レーベル〈14HOUSE.〉を設立。その門出を飾る今作は、pollyがこれまでの活動で培ってきた経験と技術をすべてつぎ込んだ、まさにこれまでの集大成となる1枚だ。
そんなニュー・アルバムのリリースにあてて、今回はメンバー全員そろってのインタヴューを実施。ちなみに越雲以外の3人がインタヴューに応えるのがこれが初ということで、まずは越雲いわく「バンドのターニング・ポイントになった作品」だという前作『FLOWERS』をメンバー全員で振り返るところから対話をはじめたい。THE NOVEMBERSの小林祐介をプロデューサーとして迎え、「和製4AD」をキーワードに作り上げた前作から、わずか一年足らず。pollyはいかにして最高傑作『Four For Fourteen』に到達したのか。その足跡を本人たちと振り返りながら、今作についてうかがった。
インタヴュー&文 : 渡辺裕也
写真 : 石間秀耶
前作『FLOWERS』を経て起こった、バンドとしての変化
──今作はバンドのセルフ・プロデュースですか?
越雲龍馬(Vo&Gt&Pg / 越雲) : そうですね。もともと僕は自分の作品に第三者が関与することをあまり良しとしてこなかったんですけど、前作『FLOWERS』に関してはTHE NOVEMBERSの小林さんが携わってくださるということで、そこはぜひお願いしますと。それを踏まえて、今回ははじめて自分たちのレーベル〈14HOUSE.〉から出すことになったので、ここは自分たちの意思ですべてを決めたかったんです。
──サウンド・アプローチとしては、今作は『FLOWERS』を踏襲しているように感じました。あの作品でみなさんが得たものはやはり大きかったのでしょうか?
須藤研太(Ba / 以下、須藤) : そうですね。『FLOWERS』のレコーディング中、小林さんは「1音目に対して2音目をどう鳴らすのかが音楽だから、そこは自由にやっていいんだよ」と僕に言ってくれて、その言葉はいまもすごく印象に残ってるんです。今回も行き詰まったときはその言葉を思い出して、それまでとは違うアプローチを試してみたり、以前よりも柔軟な対応ができるようになった感じはあります。曲が求めるニュアンスを汲み取れるようになってきたというか。
飯村悠介(Gt&Syn / 以下、飯村) : 『FLOWERS』の制作は「ソング」として強いものを作ろうという意識で臨んで、実際に越雲さんのつくるメロディのよさを引き出すことができたんです。今回さらに歌を際立たせるようなギターが弾けたのは、『FLOWERS』があったおかげだと思います。
高岩栄紀(Dr / 以下、高岩) : 作品に対して自分がやるべきことを具体的に考えられるようになったのは、前作があったおかげだと思います。それこそ視野がひろがったというか。
──前作を経て、メンバーの関係性にはどんな変化がありましたか?
越雲 : ベースの須藤が2017年に加入してから2018年くらいまでは、独裁国家みたいな感じ…… と言ったらアレですけど(笑)。僕が用意したデモを忠実に再現してもらうようなやり方だったんです。でも、それではバンドが続かなくなってしまうので、最近は彼らにもデモをいじってもらったり、それぞれのクセも取り入れて、彼らの熱量と作品のテーマや僕のヴィジョンをうまく組み合わせるようになりました。実際、以前よりもコミュニケーションをとるようになったよね?
須藤 : そうですね。
──越雲さん以外のみなさんは、主にどんな音楽的バックグラウンドを持っているんですか?
須藤 : 自分はパンク / ガレージ系かな。根本にあるのはザ・クラッシュとかダムドとか、あのへんですね。あとはエンヤが好きです。
飯村 : 自分がよく聴くのはシックとか、いわゆるファンクですね。あとは銀杏BOYZ。
高岩 : 最初に好きになったバンドはマキシマム ザ ホルモンですね。あとはシガレッツ・アフター・セックスとかシガー・ロスにすごく影響を受けてます。
──いい感じでバラけてますね(笑)。
越雲 : そうなんですよ。この3人のクセを活かしつつ作品のヴィジョンを保つのって、けっこう大変で。正直、バンドのコンポーザーとしてはかなり面倒くさいんですけど。
一同 : (笑)。
越雲 : でも、彼らのクセや発想って、僕にはまったくないものだから、やっぱりそこは大事にしたいし、そのほうが音楽としての純度は高まるような気もするので、最近は僕も「きっと彼らならこう弾くだろうな」みたいなことを考えながらデモを作ってるんです。で、それを聴いたメンバーがさらに良いフレーズを提案してくれたら、もちろんそっちを採用するし、逆に僕が用意したデモのほうがよかった場合は、それはそれでうれしいっていう(笑)。
須藤 : 実際、デモを聴くとけっこうわかるんですよ。「たぶんこのフレーズは俺のクセを意識したんだろうな」とか、「ここは絶対に譲れないところなんだろうな」とか、そういうことが口で説明されなくても伝わってくるというか。
「人間愛」をテーマに完成された新作
──今作に既発曲のリテイク・ヴァージョンを4曲収録したのは、そんなバンドの成長を端的に伝えたかったから?
越雲 : そうですね。『FLOWERS』で得た知識と技量をもって、既存曲をもういちど録ったら、楽曲の良さをもっと引き出せるような気がしたし、新作に既発曲のリアレンジが加わることで、いまのバンドの状態がより明確に伝わるんじゃないかなと思って。
須藤 : “言葉は風船”は僕が加入する前にリリースされた曲なので、自分のベースで再録できてうれしかったですね。それこそ『Crean Crean Crean』は独裁国家的な体制で作った作品だったので(笑)、自分の頭で考えながらリアレンジできたのは単純に楽しかったです。
飯村 : 今回のリアレンジに関しては「なるべくリヴァーブを使わない」というのもテーマのひとつで。特に“狂おしい”のギターは以前のテイクと比べると、リヴァーブはかなり減ってるんです。
──“狂おしい”はもともとポストパンク的な鋭いサウンドでしたけど、今回のリテイク版はビートが硬質でインダストリアルな質感になってますね。
高岩 : ドラムに関しては、引き算を意識してました。リズムのパターン自体は原曲とほとんど同じなんですけど、歌がより際立つようにオカズをだいぶ少なくしたり。
越雲 : ドラムの音数は少ないほうがグルーヴはでるんですよね。たとえばスネアのリヴァーブがまだ鳴っているところにオカズが入ってくると、現実に引き戻されてしまったりするので、そうした差し引きを今回はしっかり見直したいなと。聴いてる人が歌にもっと集中できるように、演奏のそういう細かいニュアンスを徹底したかったんです。
──再録するにあたって、今回の4曲を選んだことにはどんな理由があるのでしょう?
越雲 : そこに関してはリリックがいちばん大きいですね。今作は「人間愛」がテーマだったんですけど、そこに通じるものが4曲の歌詞にはあったんです。
──なるほど。「人間愛」というテーマについて、もう少し詳しく教えていただけますか?
越雲 : なんていうか、そこは2020年という時代のムードに左右されてしまったところも正直あるんですよね。個人的にも昨年から今年にかけて身近な人たちが亡くなったりして、人間が生きることや死ぬことについて、どうしても考えずにいられなかったというか。それを自分の音楽として昇華できたことは、誇らしくも感じてるんですけど。
音楽への気持ちを枯らさずに
──そんなアルバムのテーマを決定付けたのは、どの曲だったのでしょうか?
越雲 : “Slow Goodby”かな。この曲は『FLOWERS』の時点ですでにデモがあったんですけど、その歌詞を今作をつくるにあたってまた書き直して。歌い出しの「なぜ僕らは失くしてしまうの / 大事なものから順に」という言葉が出てきたことによって、自分がいま思っていること、歌いたいことがより明確になったというか。
──そうしたリリックの内容は、バンドの演奏にも何かしら影響しましたか?
飯村 : 歌の喜怒哀楽にもっと寄り添いたいな、とは思ってました。あと、pollyにおけるギターの位置づけって、ちょっとシンセサイザーの役割を兼ねているようなところもあるんですよね。要はメロディとのバランスを考えながら裏メロ的なものを弾くことがわりと多くて。
越雲 : ストリングス的な役割だよね?
飯村 : そうそう。だから今後また作品をつくるにあたって、最近はもう少しクラシックとかも勉強したいなと思ってて。そこから得られるものはきっとたくさんあると思うんです。
──今作は言葉以上にサウンドで語っているような印象もうけます。“ROOM”というインタールードも、自粛期間中の越雲さんの心象を表した曲なのかなと。
越雲 : そうですね。部屋でひとり頭を抱えている感じというか。僕はつい過去ばかりを振り返ってしまうところがあるので、そのときの混沌とした気持ちをリヴァースで表してみたり。それに“ROOM”はメンバーひとりひとりが録った環境音を僕がミックスして作ったんです。言葉で語らず、楽器をひとつも使わなくとも、自分の気持ちを音で表現できるんじゃないかなって。
高岩 : 今回はコロナの時期に重なったのもあって、パソコン上でのやり取りがいままで以上に多かったんです。スタジオに入れる時間もかなり限られていたので、その影響はやっぱり大きかったんじゃないかな。
越雲 : そうだね。ただ、それは悪いことばかりでもなくて、メンバーがそれぞれ楽曲と客観的に向き合う時間をたくさんもてたのはよかったなって。それに出来上がったものをいま聴き返すと、やっぱりこれは2020年に出すべきアルバムだったと思う。
──越雲さんの歌唱スタイルにも変化を感じました。これまでの作品だとファルセットで歌う印象が強かったんですけど、今回はすこし声を張るような瞬間もあったり、発声のヴァリエーションが増えましたよね。
越雲 : 仰る通りで、今回はメンバーやチームのみんなから「ファルセットを使わずにやってみてほしい」という意見もあったので、わりと話し声と近いトーンで歌ってみたんです。正直、自分としてはけっこう抵抗もあったんですけど……(苦笑)。
須藤 : 「バンドのときも弾き語りのときみたいに歌ってよ」みたいなことは、たしかに言いましたよね?
越雲 : ふたりで飲んでるときに「てか、喋ってるときの声めちゃくちゃいいよね」とか言ってきたこともあったよ(笑)。まあ、そういうまわりからのプレッシャーもあって、今回はちょっと意識を変えてみたんですけど、個人的にはけっこう悩みました。正直、今回みたいな歌い方は自分のなかで違和感もあったので、そこに折り合いをつけるのは難しかったんです。でも、自分の声ってわかるようでわからないものだし、結果的には作品の内容に合った歌い方にできたのかなって。
──越雲さんにとって、今作のヴォーカルにはちょっとしたむず痒い気持ちもあるということ?
越雲 : 正直そうですね(笑)。『FLOWERS』のときは「よし、この曲はエリザベス・フレイザー(コクトー・ツインズ)みたいに歌ってみよう」みたいなやり方だったんですけど、今回は特にそういう感じでもなかったので。
──歌に関しては、これといったリファレンスもなかったと。
越雲 : そうですね。今回はそれよりも時代背景とか、世の中のムードから受けた影響のほうが大きいかな。好きだった芸能人の方が亡くなったり、そういうことから受けたショックが、作品の温度感を低くしたところもあると思う。実際、今回のアルバムは世の中の出来事にかなり左右されながらつくったので。
──2020年は社会の根底が覆るようなことばかりが起きてますもんね。
越雲 : そうですよね。コロナにしても、いま起きていることは誰もが避けられなかったことだし、これまでのような音楽活動がかなわないのも、当面は仕方ないと思ってます。一方でいまの時代にしかやれないこともあるはずなので、僕らとしてはここでモチヴェーションを切らさず、コンスタントに作品を出していきたいんですよね。音楽への気持ちを枯らさずにこれからもやっていきたくて。
編集 : 鈴木雄希
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LIVE SCHEDULE
polly one man「Fourteen House」
2021年01月31日(日)@渋谷WWW
時間 : OPEN 18:00 / START 19:00
チケット : 前売り 2,800円 / 当日 3,300円
【詳しいライヴ情報はこちら】
https://www.polly-jp.net/live
PROFILE
polly (ポーリー)
越雲(Vo,Gt,Pg)を中心に2012年宇都宮にて結成された4人組。海外の様々なジャンルを消化したサウンドと J-Popにも精通する耳馴染みの良いメロディを軸とし、リリース毎に変化を見せている。
■公式HP
https://www.polly-jp.net/
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