4年ぶりの帰還──芳醇なるオーストラリア・シーンからザ・テンパー・トラップがひさびさの新作
ここ数年、さまざまなタイプのロック・バンドを世界レベルで輩出し、シーンの芳醇な底力が垣間見えるオーストラリアのシーン。そんなシーンの動きを予見すべく、オーストラリアはメルボルンから、2009年に世界デビュー。1st『コンデションズ』を伴って飛び出したザ・テンパー・トラップ。英米を中心に高い評価を経て、ここ日本でも同年のサマーソニック、そして東京、大阪の単独公演を成功させるなどファンをつかんだ彼ら。さらに2009年の映画『(500)日のサマー』でも彼らの「Sweet Disposition」が使用され、こちらもシングルとしてヒットしさらなる人気を集めた。2012年の2nd『ザ・テンパー・トラップ』を経て、そんな彼らが4年ぶりに新作『シック・アズ・シーヴス』をリリースする。ギタリストのロレンゾの脱退などの苦難を経て、ついに彼らが動きだしたのだ。さらに、8月8日(月)には〈梅田クラブクアトロ〉と8月9日(火)に〈リキッドルーム〉での来日公演も控えている。
The Temper Trap / Thick As Thieves (Deluxe Version)
【Track List】
01. Thick As Thieves
02. So Much Sky
03. Burn
04. Lost
05. Fall Together
06. Alive
07. Riverina
08. Summer's Almost Gone
09. Tombstone
10. What If I'm Wrong
11. Ordinary World
12. Providence
13. On The Run
14. Closer
【配信形態 / 価格】
16bit/44.1kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC / MP3
単曲 205円(税込) / アルバム 1,851円(税込)
The Temper Trap / Thick As Thieves
【Track List】
01. Thick As Thieves
02. So Much Sky
03. Burn
04. Lost
05. Fall Together
06. Alive
07. Riverina
08. Summer's Almost Gone
09. Tombstone
10. What If I'm Wrong
11. Ordinary World
【配信形態 / 価格】
16bit/44.1kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC / MP3
単曲 205円(税込) / アルバム 1,543円(税込)
INTERVIEW : The Temper Trap
OTOTOYでは、本作を配信するとともに、先日アコースティク・ライヴ・イベント&プロモーションにて来日した彼らに、ライターの渡辺裕也が、新作について、オーストリア・シーンについて訊いた。渡辺裕也の道案内の下、このインタヴューでの発言とともに、ザ・テンパー・トラップの新作『Thick As Thieves』を紹介しよう。
インタヴュー・文 : 渡辺裕也
現在のオーストラリア・シーンは役者揃い
いまギター・バンドが一番アツい地域はどこか。言うまでもなく、それはオーストラリア。勿論、モーンやハインズなどを輩出したスペインや、アイスエイジに象徴されるデンマークのコペンハーゲン周辺も注目すべきところだが、単純なバンドの数や、海外に向けたアピールの度合いでいけば、やはりここ最近のオーストラリア諸地域の充実ぶりには、圧倒的なものがある。
現在のオーストラリアを代表するバンドとして、まず真っ先に思い浮かぶのが、テーム・インパラ。いや、もはやこのバンドはオーストラリアどころか、現時点における世界最強のアリーナ・バンドといっても、過言ではないだろう。その他にも、たとえばレフト・ハンドのギターを抱える佇まいがカート・コバーンを思わせるコートニー・バーネット。オアシスやダイナソーJr.といった90年代初頭のサウンドを現代にアップデートされたDMA'Sなど、ここ数年で話題となったオーストラリアのロック・アクトを挙げていくと、それこそ枚挙に暇がない。それでいて、少し前に来日したマイ・ディスコのようなバンドもあいかわらずアンチ・ポップな姿勢を貫いており、アンダーグラウンドの状況もかなり安定しているようだ。
そんな“オーストラリア全盛の時代”ともいえる現在のシーンにおいて、その先陣を切ったバンド=ザ・テンパー・トラップが、およそ4年ぶりに新しいアルバム『シック・アズ・シーヴス』を完成させた。2009年の1stアルバム『コンディションズ』が英米でチャート入りを果たし、代表曲“スウィート・ディスポジション”が映画「(500)日のサマー」の主題歌に起用されるなど、地元メルボルンを拠点としながらもいちはやくワールド・ワイドな成功を勝ち取ったのが、なにを隠そうこのテンパー・トラップなのだ。そんな彼らも、ここ数年のオーストラリアを取り巻く状況には大きな手応えを感じているという。フロントマンのダギー・マンダギはこう語る(以下、発言は先日のプロモーション来日時に筆者が行ったインタヴューからの抜粋)。
「たしかに、今はオーストラリアの黄金時代と呼んでもいいのかもしれないね。それこそテーム・インパラもそうだし、他にもフルームやシーアといった、国際的に活躍しているアーティストが、ここ数年は続々と現れている。でもね、元々オーストラリアには充実した音楽シーンがずっとあったんだよ。そもそもオーストラリアはAC/DCやビー・ジーズを生んだ国だし、それ以外にも素晴らしいバンドは常にたくさんいたんだ。ただ、それが島国の距離的な問題もあって、そのほとんどがなかなか外に届かなかった。で、それが今はインターネットによって海外まで伝わるようになったっていう。単純にそういうことなんじゃないかなって、僕は思ってるんだけどね」
実際、テンパー・トラップの音楽もその充実した環境下で育まれたものであり、それこそ地元メルボルンのサポートがなければ、今の状況はありえなかったと彼らはいう。
「メルボルンは、街自体が僕らのようなミュージシャンや絵描きといったアーティストの活動を支援してくれるんだ。それにライヴ会場もいいところがたくさんあるしね。そう、僕の父もギター・プレイヤーなんだよ。それに家族みんな音楽が大好きで、僕も親戚の指揮とオルガンに合わせて、小さい頃から教会のクワイヤとかでよく歌ってた。従兄弟とウィーザーのカヴァー・バンドも組んだりしてたね。とにかく僕は小さい頃からずっと音楽に囲まれていたんだ。そういう環境に身を置いてたことは、今にしてみればすごく大きかったね」(ダギー)
「まあ、僕はダギーみたいな音楽一家ではなかったんだけどさ(笑)。いま思えば、“ぼくもニルヴァーナみたいにクールなバンドがやりたい!”と思ったときがミュージシャン人生のはじまりだったね。で、現在もそれにトライしている最中なんだ(笑)」(ジョセフ・グリーア/ギター、キーボード)
3rdアルバム『シック・アズ・シーヴス』とは
2013年にはギタリストのロレンゾが脱退。U2のエッジを彷彿させるディレイ奏法が得意な彼の不在によって、アンサンブルの再構築を余儀なくされた4人は、ここでジャスティン・パーカーやパスカル・ガブリエル、ダミアン・テイラーといった様々なコラボレーターとの共作を敢行。その結果、サード・アルバム『シック・アズ・シーヴス』は過去最高にソングライティングの振り幅を感じさせる作品となった。一方、その演奏においては、ギター、ベース、ドラムによる、いわゆるオーソドックスなバンド・アレンジが主体となっており、リズム自体もエイト・ビートを基調とした非常にシンプルなものが目立つ。セルフ・タイトルの前作と比べると、エレクトロニックな要素もかなり控えめな印象だ。
「うん、今回はギター・サウンドにフォーカスしたものを作りたかったんだ。4人編成となった僕らがまた進化を遂げる上で、それは絶対に必要なステップだったと思う」(ジョセフ)
「ロレンゾがいなくなったことによって、おのずと僕とジョセフの演奏するパートも増えて、よりまとまったサウンドになった気がしているよ」(ダギー)
そして、新作『シック・アズ・シーヴス』においてもっとも特筆すべきは、ほぼすべての楽曲にビッグなコーラス・パートが用意されていることだろう。このわかりやすいフックに満ちた一連の曲調は、たとえば00年代以降に登場したニューヨーク周辺のアカデミックなインディ・ロックに馴染んだ耳だと、あまりにもベタすぎるように聞こえるかもしれない。しかし、彼らは勿論そこについても自覚的だ。
「言ってることはよくわかるよ。たしかにここ数年は知的な感じの音楽がたくさん出てきたよね。で、僕らはそうじゃないっていう(笑)。まあ、それは冗談としても、僕らにとっては、オーディエンスと一体化できることが何よりも重要だからさ。実際、自分たちが幼い頃に好きだった音楽はみんなそうだった。つまり、僕らはストーリーの一部になれたり、つながりを感じられるような音楽をつくりたいんだ」(ジョセフ)
「もっと言えば、音楽には自分の内面を正直に落とし込むべきだよね。それはプリンスやデヴィッド・ボウイ、ボブ・マーリーだって、きっとみんなそうしていたはず。つまり、まずは自分とつながりを感じられる音楽をつくること。で、そこに共感してもらえたり、お互いの過去を取り払ってひとつになれるってことが、僕は音楽の素晴らしさだと思うからさ」
そう、ここには成熟しきった英米のバンド音楽シーンからはなかなか聴こえてこなくなった、人々をつなぐアンセミックな歌がある。今年8月には7年ぶりの来日公演も決定。オーストラリアが世界のポップ・シーンを徐々に席巻しつつある今、その時代を切り開いたバンド、ザ・テンパー・トラップの新作『シック・アズ・シーヴス』を聴き逃す手はないだろう。
LIVE INFORMATION
THE TEMPER TRAP JAPAN TOUR
2016年8月8日(月)@梅田クラブクアトロ
2016年8月9日(火)@LIQUIDROOM
PROFILE
The Temper Trap
ダギー・マンダギ(Vo, Gt)、ジョニー・エイハーン(Ba, backing Vo)、トビー・ダンダス(Dr, backing Vo)、ジョセフ・グリーア(Key, Gt, backing Vo)。オーストラリアはメルボルン出身。05年に結成。06年にオーストラリアでEPデビュー。精力的にライヴを重ね、その評判を確固たるものにすると、世界デビュー前から英BBCの注目新人リスト「Sound of 2009」やNME「Hottest Bands of 2009」に選ばれるなど、熱い注目を集める中、09年彼らのために復活した伝説のレーベル〈Infectious〉再開第1弾バンドとして契約。英米そして日本のメディアでも最大級の注目を浴び、世界デビュー作『コンディションズ』をリリース。同年夏にはサマーソニック09出演のために初来日。そして秋には東京と大阪での単独公演を行なうため再来日。ライヴは各方面で絶賛を浴び、日本での人気を確固たるものにした。12年、かねてよりサポート・ギターを務めてきたジョセフ・グリーアが正式メンバーとして加入し、新たに5人組となって制作されたセカンド・アルバム『ザ・テンパー・トラップ』をリリース。その後ギタリストのロレンゾの脱退を経て16年、4年ぶりとなる新作『シック・アズ・シーヴズ』を完成させた。同年8月には7年ぶりとなるジャパン・ツアーも決定している。