ピュアに挑み続ける絶妙なアンバランス──“福岡の雄”folk enough、新アルバムをハイレゾ配信開始!!
福岡のジャンク・ブルース・バンド、folk enoughが3年ぶりの新アルバム『Lover ball』をハイレゾ・リリース! フォーク・ソングのエッセンスを持ちながら鳴らされる爽快感のある歪んだ轟音、まさしく絶妙なバランス感覚で練り上げられたオルタナティヴな実験。詳しくはインタヴューのなかでも語っているが、今作はレコーディングでも独自のこだわりでもって制作されたという。21年の活動を経てもなお新たなことに挑戦し、音楽に対してピュアに向き合ってきた彼らの姿が映し出された『Lover ball』を、インタヴューとともにお楽しみください。
3年ぶりの新アルバム、ハイレゾ・リリース!
INTERVIEW : 井上周一(folk enough)
folk enoughの最新作『Lover Ball』には、オルタナティヴ・ミュージックの原始的な部分だけがゴロゴロと無造作に並んでいる。端的にいうと、それはノイズとフォークだ。まるでワシントンD.C.の地下から発掘されたブートレグ音源のような、剥き出しのクリッピング・ノイズ。そして古ぼけたカセット・レコーダーでガチャ録りした、無加工のヘロヘロなフォーク・トラック。『Lover Ball』の荒削りな録音に耳を傾けていると、これが2019年に生まれた作品だってことが俄に信じられなくなってくる。そこで早速リーダーの井上周一に話を聞いてみると、彼が明かしたのは「初期衝動の再利用」ともいうべき、あまりにもアクロバティックな制作工程だった。まったく、このバンドの新作に驚かされるのはこれが何度目だろう。結成から20年と少し。いつまで経ってもfolk enoughには敵わない。
インタヴュー&文 : 渡辺裕也
『Lover Ball』は原点回帰
──『Lover Ball』、聴きました。とにかく音が良いですね。
ははは(笑)。酷い音でしょ?
──ええ(笑)。たしかにこれは酷い音とも言えますよね。割れまくってるし、デモ音源でもここまで粗い録音は最近なかなかないと思います。
まあ、僕らはどんどん劣化してますからね(笑)。特に今回のアルバムは極端に振った感じなので。
──今作はどういうやり方でレコーディングしたんですか? 恐らくほぼ宅録だとは思うんですが。
そうですね。folk enoughはこの20年間、ほぼすべての作品を宅録でつくってきて、その機材も時期によってヴァージョン・アップしてきたんです。そこで『Lover Ball』は原点回帰といったらアレですけど、僕がこのバンドを組む前に4トラックMTRでつくった宅録音源なんかも素材にしてて。
──じつはレア・トラック集でもあるってことですか?
いや、もちろん半分以上は新録なんですけどね。たとえば1曲目の「K」は、バンド初期のライヴを撮影したビデオテープが基になってるんですよ。つまり、ビデオテープのライヴ音源をパソコンにぶち込んで、そこにちょっと手を加えたっていう。
──すごい手法! そりゃ割れてるわけだ。
「割れてる」というより「割れちゃってる」って感じですよね。要は、昔はテープで録音するしかなかったので、どうしたって音が割れちゃうんですよ。で、それが正解だなと。最近はこういう粗悪な音源を作りたがる人がけっこういますけど、ハイファイな環境でわざと音を悪くさせるっていうのはやっぱりダサいことなんで。だったら当時の音源をそのまま出せば、それはいまの音としてもアリなんじゃないかなと思ったんです。
──なるほど。
あと、いまってハイレゾとかあるじゃないですか? 要はあれって、悪い音もぜんぶ聴こえるってことでしょ?
──たしかにそういう面もありますね。
ということは、本当に初期の大した機材もないときに録った音もいまなら伝わるだろうし、そういう音のほうが意外と時代にも合ってるのかなって。
僕はずっと厨二病なんで(笑)
──このラフな音像は時代性を意識したアプローチでもあるんですね。
まあ、そこまで深い意味はないんですけどね。あと、今回ここまで極端にやろうと思った理由はもうひとつあって。あの、スーパーオーガニズムっていう人達がいるじゃないですか? 知り合いの車で彼らのアルバムを聴いたら、CDを巻き戻しする音のサンプルが入ってて。それでなんとなく昔のレコーディングを思い出したんですよね。「ああ、いまこういう音楽をやってる人達がいるんだ。自分と発想が一緒だな」って。
──かつての自分と重なるものがあったと。
そうですね。それこそ僕もよくカセットテープの巻き戻し音をミックスしてたし。多分この人達には初期衝動というか、普通はダサくてやらないことを平気でやっちゃう感覚があるんだろうなと(笑)。だったら自分がいまこういうことをやってみるのもアリなのかなと思って、ノイローゼだった20代前半に宅録したテープのマスター音源とかを聴き返したら、これはイケるなと思ったんです。で、なかにはその音源を当時のヴォーカルも含めてそのまま使ったのもあるんですけど、さすがに下手さが気になるところもあるので、そこをいまの俺がフォローしてあげてるって感じですね。
──今作には1分に満たないトラックも多いし、なかにはぶつ切りのラフなエディットが施されている曲もありますよね。これも昔のテープ録音の名残ですか?
そうですね。当時はカセットMTRしかないから、歌の気に食わないところを切るのもぜんぶ手作業だったんで。あと、今作に関しては1990年代初期のベックとか、プッシー・ガロアとか、そのあたりのオマージュみたいなところも多分あるんじゃないかな。自分がいちばん初々しい頃に影響されたものが、今作には表れてると思います。
──そういう初々しい時期の音源って、本人からするとけっこう照れくさかったりしないものですか?
たしかに昔の下手くそな音源なんて、普通は聴かせたくないですよね(笑)。でも、多分いまの僕はあの当時の自分がかっこいいと思ってるんだろうな。まあ、完全にイカれてたんですけどね。聴き返してみても思いましたよ。なんでこいつはこの程度のものでこんなに自信満々だったんだろうって(笑)。
──でも、根拠のない自信で満ちていた頃の自分に惹かれるというのは、なんとなくわかる気がします。
まあ、僕はずっと厨二病なんで(笑)。とはいえ、新録した曲はまたアプローチが違うんですけどね。「SUNFLOWER」とか「GOAST」とか、わりとまともっぽい曲は最近つくったやつです(笑)。
──「SUNFLOWER」のMVは猫のアニメで。そういえば、「GOAST」にも猫の鳴き声が入ってましたね。
あ、気づきました? じつは今回のアルバム、猫へのトリビュートでもあるんですよ。
──猫へのトリビュート?
17年飼ってた猫が去年に亡くなってね。それから半年くらい経って、また2匹飼いはじめたんです。その猫の鳴き声を僕のガラケーで録音したのが「GOAST」に入ってるやつですね。なので、新録の曲に関してはけっこうパーソナルなことを歌ってるんですよ。
──あの鳴き声はガラケーで録音してるんだ(笑)。「METALAIRA」という弾き語りの曲も、おそらく新録ですよね?
「METALAIRA」の歌詞は柴田(剛 / ベース)が書いてるんですよ。これがまあ、ダサい歌詞でね(笑)。渡されてから何年も採用せずにとっておいたやつなんですけど、今作はかっこ悪いところを見せるっていうのもコンセプトのひとつだったんで、これは使えるなと。
──ちなみに、「METALAIRA」って何なんですか?
わからないでしょ(笑)。これは僕がガラケーでハマってるゲームで、最近ようやく引いたレアなカードの名前ですね。課金してやっとそのカードをゲットできたんで。
──またしてもガラケーが(笑)。10曲目の「ON FIRE」というタイトルは、やっぱりセバドーの代表曲に由来してるんですか?
そうですね。まあ、セバドーとは何の関連もない曲なんですけど。今回の制作は「ON FIRE」の編集がいちばん気持ちよかったな。最後までぐちゃぐちゃなまま終わるっていうね。普通ならバンドで演奏したときに盛り上がるようなサウンドにするんだろうけど。
──「ON FIRE」の焦らされたまま終わっちゃう感じ、堪らなかったです。
やっぱり宅録の魅力ってそういうところだと思うんですよ。特に自分の場合は4トラックのMTRで宅録をはじめたので、とにかく音を絞らなきゃいけない。それこそ音数を増やすと割れちゃうんで、常に引き算で考えるんです。で、そうなると盛り上がるサウンドにはならないんですけど、僕はその引き算がもはや習性になっちゃってるんでね。
とにかく毎回ちがうことをやり続けたい
──最新の機材やテクノロジーとかにはあまり関心がないんですか?
いや、むしろ関心ものすごくありますよ。それこそエンジニアをやってもらってる安在雅彦くんの家には新しい機材がたくさんあるので、そこにあるものはどんどん試してて。でも、結局そういうのはボツにしちゃってるんですよね。まあ、そのうちまたネタがなくなったらそこから引き出していこうかなと(笑)。
──ここまでのお話だと、どうやら今回の制作もほぼ井上さんとエンジニアの安在さんのふたりで行われたようですね。
僕らの作品は1枚目からずっとそうですね。どの楽器の演奏もだいたい僕がひとりでオーバーダブしてるし、folk enoughの場合はメンバーが集まって「せーの」で録音することってほとんどないんで。
──これは失礼な言い方かもしれないけど、録音作品に関しては「folk enough=井上周一」といっても過言ではないのでしょうか?
もちろんそうですよ。他のやつらはおまけですから(笑)。とか言いつつ、実際はfolk enoughってドラムの佐藤(香織)さんのバンドなんですよ。このバンドでいちばん強いのはドラムですから。
──というのは?
あいつ、本当に何もしないんですよ。練習もしないし、音楽も聴かない。メンバー4人でいうと、僕がいちばん勉強家好きの凡人で、ベースもけっこう頑張るタイプ。で、ドラムの佐藤とギターの笠原大輔は昔からまったく練習しないんです。でも、やれちゃうんですよね。特に佐藤は天才なんだと思う。
──どういうところに佐藤さんの天才ぶりを感じてますか。
folk enoughって、あいつの叩くドラムの揺らぎに僕らが一生懸命合わせてるだけなんですよ。でも、その揺らぎに合わせるのがものすごく楽しいんですよね。実際にその揺らぎから生まれた曲がたくさんありますし。
──大概のバンドはつづけていくなかで洗練に向かっていくと思うんですけど、folk enoughのキャリアはある意味それと真逆というか。特にここ数作は音質もどんどん粗くなってるし、曲の構成なんかも素っ気なくなってきてますよね。そこにものすごくそそられます。
自分たちで演奏しているものは、常にはじめて聴く音楽であってほしいんですよ。どんな曲だろうと「こういう感じで演奏すればそれでいい」なんてことは絶対にないし、おなじ曲をずっと同じように演奏してると、メンバーがお互いの音をちゃんと聴かなくなるからね。そうなると耳が死んじゃうんで、それだけは絶対にイヤなんです。とにかく僕は毎回ちがうことをやり続けたいんですよね。それにバンド・サウンドはアンバランスな方がいい。俺はそういう音のほうが好きなんですよ。
──今作の収録曲はライヴでも演奏するんですか?
もちろんやりますよ。多分どの曲もアルバムに入ってるやつとはぜんぜん違う曲になってますけどね。
編集 : 鈴木雄希
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LIVE SCHEDULE
folk enough ニュー・アルバム『lover ball』発売記念ツアー
2019年7月14日(日)@神戸helluva lounge
時間 : OPEN 18:30 / START 19:00
出演 : folk enough / après-guerre na・poto / Billyboy and the rich women / kasuppa
2019年7月15日(月・祝)@京都livehouse nano
時間 : OPEN 12:30 / START 13:00
出演 : folk enough / Strobolights / NYAI / K-19 / atuiso / メシアと人人 / Ribet towns / beethoven frieze / my letter / and more……
2019年9月14日(土)@下北沢THREE
出演 : folk enough / and more……
PROFILE
folk enough
1998年福岡県飯塚市で結成。井上周一の宅録からはじまった彼らの音楽は、60年代以降各年代のさまざまなポップ・カルチャーを消化し、アメリカン・オルタナティヴを色濃く反映したトリオ・サウンドになる。ビクター傘下の〈colla disk〉などからの音源作品のリリースやメジャー、インディ問わず多くのミュージシャンとの共演、交流。海外のアーティスト(sebadoh、deerhoof等々)を地元福岡に招聘するなど、まさにD.I.Y.な活動を続ける。
2009年、前任のベース・プレイヤー大村宗照(井上のいとこ)の卒業。同じくらいの身長の柴田剛がベースプレイヤーとして加入し鉄壁のスリー・ピースがまた進化をとげた。
2012年、バンド初のツイン・ギターでのライブを行うなど果敢な楽曲変化をはかり、2013年より笠原大輔がギターで正式加入。4ピースでのライブを日々実験している。盟友(飯田仁一郎/Limited Express (has gone?),ボロフェスタ)の主宰する〈junk lab records〉よりA面2曲、B面2曲のクラブユース・アナログ12インチや、リミックス、アコウスティックを織り交ぜた23トラックにも及ぶコンセプト・アルバムのリリース。
2016年6月24日には同じく〈junk lab records〉よりまさにジャンクでライトな7インチシングルをリリース。そして遂に、福岡で育まれたニュー・アルバム『Lover ball』が完成!
【公式ツイッター】
https://twitter.com/folkenough