アナ、円熟味を増したポップ・ミュージックのマエストロ──5年ぶりの作品『時間旅行』をリリース

大内篤、大久保潤也による音楽ユニット、アナが新作『時間旅行』をリリースした。5年ぶりの新作となる。インタヴューにあるように彼らの現在の代表曲とも言える「必要になったら電話をかけて」を含めた6曲(1曲はAvec Avecによる「必要になったら電話をかけて」のリアレンジ版)。この5年の間、大久保は、lyrical schoolへ楽曲提供、TSUTCHIE(SHAKKAZOMBIE)の楽曲にもラップ参加するなど、アナ以外にも制作の場を広げている。そんな彼らが、すでに20年以上のキャリアを持つ彼らがたどり着いたのは、まさにギミックなし、ストレートな軽やかなポップ・サウンドだ。
5年ぶりの新作、配信中!
INTERVIEW : アナ
〈セカンド・ロイヤル〉移籍後、さまざまなゲストを呼び込んだバンド・サウンドを響かせていたが、ここにきて彼らは原点に戻りつつあるようだ。本作はベーシスト、右田眞(ayutthaya / nenem)をのぞいては、ほぼすべて結成当初のふたり(エンジニア&共同プロデュースに上田修平)によって作られている。ごくごくシンプルにアレンジされた楽曲は、そのメロディにグッと引き込まれるポップ・ミュージックの核心をつくようなサウンドだ。その豊富な経験値を経て、たどり付いたそのサウンドはある種の円熟味すら感じることもできる、そんな感覚すらもある。
インタヴュー&文 : 河村祐介
写真 : 作永裕範
もう10年過ぎたらもう何でもよくなりますね(笑)

──そろそろ20年ですよね?
大久保潤也(以下、大久保) : 高校生の結成からだったらもう20年すぎてますよね。ちゃんとしたデビューからは15年とか? もう10年過ぎたらもう何でもよくなりますね(笑)。色んなバンドの10何周年とか見ながら「こんなにやってんだ〜」って思うけど、実際俺らも同じぐらいやってる(笑)。
──2010年代以降はマイペースに活動するというモードだと思うんですけど、とはいえ5年って結構間が空いてるじゃないですか。逆に5年も経っていると、踏み出すのが難しかったりすると思うんですけど、このタイミングで作品を出したのは何かあるんですか?
大久保 : 今回は「よし、作ろう!」と作り出した形じゃなくて。ライヴ会場限定とか、配信だけで出していた曲がたまってきて。あとは世の中的に配信中心で「よし、パッケージ1枚を作るぞ」っていうスタンスじゃなくなったというのもあって。現状でできていた曲に新曲2曲ぐらい追加して、ひとつのパッケージに仕上げたみたいな流れですね。「必要になったら電話をかけて」っていう曲が、もともとはデビュー10周年記念で2016年に出した曲で。SoundCloudに上がっているだけで正式リリースがない曲なんですよ。でも会った人に「電話の曲の人ですね」って言われるくらい代表曲になっていて。そこまで広がってるならちゃんとリリースしたいなと思って。僕の中でも数年歌ってきてかなり大切な曲になってたんで、これをちゃんとした形でリリースするというのが今回のミニ・アルバム・リリースの最初の目的ですね。
──5年ってかなりゆっくり…… たとえば1年に2曲作っても、きっちりしたフル・アルバムが出てもおかしくない時間だと思うんですが、いまはもっと気負いなくやっているという感じなんですか?
大久保 : そうですね。前作を出して以降2人とも仕事を始めたり、ここ2年くらいはリリスク(lyrical school)っていうヒップホップ・アイドル・グループのプロデュースのお手伝いを結構がっつりやってて。ソロ・アルバムも制作してたり休んでるつもりは全然なかったです。
──気づいたら5年経ってた?
大久保 : そうですね(笑)。前のアルバムが結構「バンド」であることこだわってたんで、メンバーよりサポートの方が多い状態が続いて。特に昨年とかは、ライヴをやるってなったときに、少なくても5人ぐらいの編成だったので、ライヴをやるときにもなかなかスケジュールが調整できなかったり。
──やるとしたらもうちょっとコンパクトに、ふたりで作れるみたいなものが今回作品としてあるんですか?
大久保 : そうですね。レコーディングもバンドで入るとなると、それでまた一苦労するので。ここ数年僕がプロデュースとか楽曲提供とかをしてきたものが、バンドじゃなくて打ち込みが多かったので、その感じでアナもやっちゃおうよっていうスタンスになってできた。最近のそういうスタイルになってからは、ほぼ僕とエンジニアで作って。レコーディングの段階で直前に大内にギターを弾かせてという体制ですね。
──大久保さんがアナ全体に関してもプロデュースって感じになっている?
大久保 : その意識はすごいありますね。前とかはアナは「バンド」っていうイメージで、大内と大久保の2人で50 / 50な関係性を理想に思ってたんですけど。それよりもやれる人はやることやって、作品自体をアナでプロデュースするみたいな感じですかね。
──今回のやり方はどうですか?
大内篤(以下、大内) : でも最初に作り出したときも、そんな感じですからね。なんかはじめに戻ったなって。前作のバンドっぽいやりかたも楽しかったですけど。よく考えたら、みんなでスタジオ入ってアレンジを仕上げていってというバンドっぽいことをやってた、あれが逆に特別だったなと(笑)。アナってそんなのじゃなかったよな、そういえばって。
大久保 : もともと宅録からはじまってて。前作は、僕らも30代になってはじめて制作した音源で。もう若手じゃないし説得力のある、演奏力の高いやつをやんなきゃって思ってたんですよね。ソウルっぽさが欲しいってのもあっていろんなプレイヤーを呼んだりして作りあげたんです。今回はまた宅録の感覚に戻ったという感じですね。
あの娘たちが歌うとリリスク、俺がギター弾くとアナになるって感じ(笑)
──キー・パーソンをあげるとするとベースの右田(眞)さん(ayutthaya / nenemu)と、前回に引き続きエンジニアと、アナと共同プロデュース名義になっている上田(修平)さん。この2人はAvec Avecの曲(「必要になったら電話をかけて 2019ver.(arranged by Avec Avec)」)以外は、全曲に関わっているという制作スタイルじゃないですか。まず、右田さんはどういう役割でおふたりと一緒にやってるんですか?
大内 : 実は、右田も中学校の同級生なんです(笑)。中学高校時代は特に一緒に音楽はやってなかったんですけど、東京で久しぶりに再会して。nenemuとかすごい変わったことをやってて、すごいおもしろいやつになったなあと思って。ぜひ一緒にやらしてっていう(笑)。
──今回はじめてちゃんと声をかけて一緒にやるって感じですか?
大久保 : いや、前作リリース後のツアーが終わった後、ライヴをするときに、何人かにベースのサポートをお願いしてて。その中のひとりとして声をかけてて。それからライヴを中心に手伝ってもらいつつ「必要になったら電話をかけて」ではじめて録音してもらって。それが、すごく信頼できたのでそこから主に頼んでるって感じですね。
──なるほど。もうひとりの上田さんは、何作かのキー・パーソンではあると思うんですけど、改めて今回関わり方が変わった部分っていうのはあったりしますか?
大久保 : いままでは上田さんがサウンド・プロデュースという感じで全編のプロデュースをお願いしてたんですけど。今回初めて共同プロデュースというか、「アナ&上田修平」というプロデュース・クレジットになっていて。逆に僕らはいわゆるプロデュースにクレジットとして入ったのははじめてで。前作では僕は作詞と作曲に心血注いで、アレンジは上田さんに頼るって感じだったんですが、上田さんとは、去年リリスクを数曲共同で制作していて。それがすごくいいプロデュース・ワークになったので比較的、そのリリスクの制作スタイルのままアナも共同プロデュースという形になりました。

──いわゆるエンジニアリングはずっと上田さんがとりつつ全部進めるみたいな。大久保さんと上田さんがある程度作って、それを投げると。あとは右田さんに入れてもらったりが今回のルーティンって感じなんですかね。
大久保 : ほぼそうですかね、そうやってそれぞれ役割が決まっていて。上田さんとはリリスクの制作をやる中で、今聴いてる音楽の共有も常にできていて。あと今回は特にヒップホップやダンス・ミュージックの要素をうまく取り入れるってのが重要だったので、なんかベースのグルーヴの超重要だよねということでベースは右田に頼み。
──そこに大内さんのギターはいつもどおりやってもらうとアナになると。
大内 : そうですね。ずっとここ何年か、上田さんと大久保でやってるリリスクのデモとかを聴かせてもらったりもしてるんで、どういうことをやっているのかわかっているので。リリスクも、上田さんと大久保っぽい音でやっている。なのでアナの曲の場合は、俺のギターでアナらしさが出るように作っているというか。あの娘たちが歌うとリリスク、俺がギター弾くとアナになるって感じです(笑)。
──そんな簡単でいいんですか(笑)。でもそのぐらいニュートラルにアナっていう存在に対して接している感じなんでしょうね。気負ってやんなきゃ! っていうよりも、本人達がおもしろがって“アナ”って名前が付けられてふたりでできればいいなぐらいの感じなんですね。
大久保 : そうですね。気負いは本当になくなりましたね。
──ダンス・ミュージック的な要素でいうと、シンセベースでもいいわけじゃないですか。ここにベーシストを入れたっていうのは何かあるんですか? ドラマーは入れないけどベーシストは入れるっていう。
大内 : 昔はベースがいなくてドラムがいたのに(笑)。
──逆ですよね(笑)。
大久保 : 僕が生ベースが好きなんですよね(笑)。打ち込みのベースだとどうしてもグルーヴが出せなくて。
──さっきダンス・ミュージックの影響がという話でベースがあった方がうれしいと言ってましたけど、そういうときに聴いてたものとか、おもしろがってたものって何かあるんですか?
大久保 : 制作の期間が長いですけど、聴いてたり影響受けてるのはマック・ミラーとかアンダーソン・パークとかジ・インターネットとか。ヒップホップ文脈の比較的ポップな仕上がりのものですね。そういう音を研究はしたけど、あくまでヒップホップがやりたいわけじゃなく、ちゃんとアナらしく昇華するとこうだよねって作業を上田さんとやってました。そのアナらしさのひとつとしてベースを生にするみたいなところがあるんですけど。
──逆にAvec Avecのアレンジ・ヴァージョンはいまっぽいベースの鳴り方してて、下の方でぶんぶん鳴ってるみたいな。その辺が要素として欲しくてお誘いしたんですか?
大久保 : Avec Avecがプロデュースしてる、唾奇さんの「Soda Water」って曲を2017年でいちばん聴いてて、それがすごく良くて。アレンジをしなおそうってなったときに、「誰に頼みたいか」ってなっていちばんに名前が上がってきました。
──それで今回頼んでみたという。
大久保 : そうですね。今回入ってる中では「必要になったら電話かけて」が一番古いんですけど。いままでは、最初に最高のものをリリースして、リリースしたらもうそれが完璧って主義だったんですけど、1曲に対する思いがいい意味で軽くなって、「新しく出すなら次のアレンジにしよう」とか、「どんどん手を加えていくのがいまっぽいな」って思うようになって。今回も最新のアレンジで出そうと。「Boys Don’t Cry」と「恋は」も会場限定シングルで2017年に一度発表してるんですが、今回アレンジを変えたり、一部だけ録り直したりしてます。
「良いポップな曲をなにがなんでも作らないと」っていう感じでもなくて、逆に「良い曲しかかけない」
──ここ10年ぐらいの音の変化としては、昔のサンプリング的なところも後退して、さらにバンドではなくもっとミニマルな編成になって、いまはシンプルにシンプルに、良いポップな曲を書くみたいなストレートなところに変化しているのかなと。
大久保 : 「良いポップな曲をなにがなんでも作らないと」っていう感じでもなくて、逆に「良い曲しかかけない」ですね。
──うわ、大きく出ますね(笑)。
大久保 : すごい実験的な曲とか、変な構成の曲とかなかなか書けなくなりましたね。普通に書くと良い曲になってしまうっていう。

──いちばんポップスの作り手で影響を受けているのって誰になるの?
大久保 : (少し考えて)やっぱり、小沢健二さんになると思うんですけど。前作までは、ちょうど活動再開のタイミングもあって、結構聴いてた時期だったんです。でも今回は、とくに日本のポップスみたいなものは聴いてなくて、とにかくヒップホップとかラップを聴いてて。だからそういうポップスの感覚というのは自然に血肉になっていて出てきたという感じですかね。
大内 : 「オザケンみたいだな」っていうのがやっとなくなったと思う(笑)。言葉の入れ方とかガラッと変わって、やっと新しいアナができたなと思って。
──ふたりで歌詞とかを直したりすることってあるんですか?
大内 : 歌詞の内容ではないですけど、歌入れをしてみたときに「歌えてないな」みたいなこととが気になると、変えてみない? っていうのはあります。ちゃんとリスナーが「聞き取れるか」とか。
──作詞とか自分のところ以外で仕事として作った歌詞の作り方に、逆に影響受けるみたいなのはあるんですか?
大久保 : 今回はめちゃめちゃありますね。リリスクとかコピーライターの仕事とかいろいろやってるんですが、去年tsutchieさんの曲のフィーチャリングで、ラップの曲を出したのがデカかったですね。長年、スチャダラパーが憧れで、でも自分たちはヒップホップではないから、「ラップは絶対にやっちゃダメだ」っていう縛りがあったんですけど。tsutchieさんがリリスクの作詞とかを見てくれていて、「大久保くんも自分でラップやってよ」ってお願いされたら断るって選択肢はなくて(笑)。それが、転機になってそこから歌のフローとかも変わってまさにいま影響受けているヒップホップとかもとり入れられるようになったり。それによって言葉数が増えたりとか、ヒップホップの影響をポップにうまく昇華できるようになってきた。
大内 : あれ聴いて「ラップ解禁したんだ」と思って。「これならいろいろできるやん」ってすぐに言いましたけどね。
大久保 : アイドルのプロデュースとかは、自分の思いを入れるということでもなくて。でもそれ故に客観的に見てかけるようになったと思う。あと細かいところで言うと英語とかもなるべく使わないようにしてたんですけど。
大内 : 歌詞がいちばん変化したなって一緒にやってて思いますね。なんかいままでだと現実的にあったエピソードがなんとなく浮かぶような歌詞だったのが、今回からはついに知らない大久保の世界観が出てきて(笑)。背景がわからないから、今回は楽しかったですね。いままでは「あの子と…… あの場所で……」というのがなんとなくわかって(笑)。いままでは気になっちゃうところがあったけど、いまは逆に大久保の歌詞にあるのは知らない世界観だから楽しい。
大久保 : 結構「アナの作品として10年後も聴ける作品にしたい」とか肩に力が入りすぎた感覚で書いてて、それ故に行き詰まったりしてたところはあって。でも、今回はやっぱり他の人の歌詞を書いた経験もあってもうちょっと客観的なアウトプットの仕方ができるようになったと思う。
──ミニ・アルバムではありますが、今後のアナ史としては重要作になりそうですね。
大久保 : そう、なるんじゃないかなと思っています。作り方とか変わりましたね。

──『時間旅行』というタイトルは?
大久保 : 今回1枚を通してまとまった制作期間があったわけじゃなくて、もっとバラバラにできた作品で。そんななかで1枚の作品としてどうまとめて出すのかというところで、自分たちもその曲を作っている過去の風景にたどり付くとか、聴いた人も聴いたときに主に過去なんですけど、そういった風景にたどり付くとか、そういう意味合いで作りましたね。
大内 : あとは僕らがずっと「A, B, C, D…… とアルバムとかまとまった作品の頭文字がアルファベット順にしていて、ついに「J」まで来たという話で(笑)。いままで英字だったのが、ついに縛りがとけてローマ字の「J」に。
──うわ、まだちゃんと続いてたんだ! それ思い出した。
大久保 : いらない縛りがそこもちょっと解けたという。
──ここからまたアナが活発に動くとこはないんですか?
大久保 : 「ここからスピードあげてやってくぞ」というアクセルかける気はないんですが、それよりも、新しいスタイルができたのでこのやり方だったら5年とか開けずにやっていけるかなって感じてます。その気楽さはすごい変わりましたね。過去2作ぐらいの制作は本当に苦しかったんで、いまがいちばん楽しいというか。
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〈京音 -KYOTO- 大阪編〉
2019年4月18日(木)@梅田シャングリラ
時間 : OPEN 19:00 / START 19:30
出演 : アナ / NABOWA / 蔡忠浩(bonobos)
チケット : adv¥3,500 / door¥4,000 (+1drink ¥600)
【詳しいライヴ情報はこちら】
http://www.a-naweb.net/live
PROFILE
アナ

福岡で結成され、現在は東京を拠点に活動する大内篤・大久保潤也による音楽ユニット。
2人が中学生の時に結成。2005年にアルバム『CYPRESS』で〈ソニーミュージック〉からデビュー。
2010年に京都発インディーズ・レーベル〈SECOND ROYAL RECORDS〉に移籍。
デビュー当時から変わらない、過ぎ去ったものへの美しい眼差しを表現したセンチメンタルな日本語詞。
2人の織りなすキャッチーで耳に残るメロディやギター・フレーズを、バンド・サウンドやクラブ・ミュージック、様々なフォーマットで作品にし、いままでに5枚のアルバムをリリース。
最近ではヒップホップ・アイドル、lyrical school への楽曲提供や、大久保が作詞したシングルが連続でオリコン・チャート1位を獲得するなど新たな活躍をしている。
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