ダブ・テクノ入門──その誕生から現在の展開まで

ダブ・テクノ、ときにミニマル・ダブと呼ばれることもあるテクノのサブ・ジャンルがある。身も蓋もないいいかたをすれば、1970年代、ジャマイカのレゲエから生まれたダブの音響処理、これを施したテクノということになる。すでに成立から30年以上経つが、人気のあるサブ・ジャンルで、新たなアーティスト、レーベルたちが現れ続けている。そんなジャンルにおいて世代を超えたトップ・アーティスト3組(もちろん彼らの表現はダブ・テクノに限ったことではないが)が一堂に会するイベントが10月30日(木)に渋谷〈WWW〉で行われる。まさにその源流の流れに属するレーベル〈Chain Reaction〉から2001年にデビューし、その後、長い沈黙の後に2010年代後半に突如復活を果たした後に、現在はコンスタントに作品をリリースしているアーティスト、跡部進一。彼がそのセルフ・レーベルとして今夏に立ち上げた〈Plastic & Sounds〉ローンチを記念して開催される〈"Plastic & Sounds" label launch party〉である。
同じく2000年代より活躍するドイツのデッドビート(Deadbeat)による「Ark Welders Guild」なるプロジェクト、そして2010年代より、フエアコ・S(Huerco S.)としても活躍しているブライアン・リーズによるテクノ・プロジェクト、ロイディス(Loidis)のライブも行われる。DJにはムードマン。パイオニアから現在の新鋭まで登場する、ハイ・クオリティの(ダブ)テクノのライブを体感できるまたとないチャンスとなるはずだ。
本稿ではそんなイベントを楽しむために、昨年監修本『DUB入門』を刊行した、OTOTOY編集部河村がダブ・テクノの歴史を振りかえりつつ、そして後半のコラムでは、現場のDJたちも信頼をよせ、足繁く通う老舗ダンス・ミュージック専門レコード・ショップ〈Lighthouse Records〉(さきほど渋谷からお茶の水へと引っ越した)にて、テクノなどのバイヤーを務める西村公輝に登場願い、最新のミニマル・ダブ事情をお届けする(ご存知のようにDJとしてはドクター・ニシムラ、そして悪魔の沼のひとりとして知られる)。
また記事に即した「ダブ・テクノ入門」+西村推薦の最新楽曲なプレイリストと、跡部、ロイディス・セレクトのダブ・テクノ・トラックも含むプレイリストも公開する。
跡部新一、1月9日リリースの自主レーベル〈Plastic & Sounds〉からのセカンド・シングルから先行カット
ハイレゾ版
ロスレス版
すでにリリースの第一弾シングル『Whispers Into The Void / Fleeting_637』
ハイレゾ版に配信中
ロスレス版
日独米のベテランから新鋭まで、ダブ・テクノの3アーティストがライヴ
"Plastic & Sounds" label launch party
2025年10月30日(木)@渋谷WWW
OPEN/START18:00 / 19:00
ADV./DOOR¥4,500 / ¥5,000 / U25:¥2,500(税込 / スタンディング / ドリンク代別)
LINE UP
Shinichi Atobe
Loidis [US]
Deadbeat presents Ark Welders Guild [DE]
DJ:MOODMAN
TICKETなどの詳細は以下、WWWの公式ページにて。
https://www-shibuya.jp/schedule/019207.php
『ダブ・テクノ入門』プレイリスト
■主な内訳■
1. Atobe Shinchi、1月9日リリースのEPより先行カット「SynthScale」
2〜3. Atobe Shinchi 「Whispers Into The Void / Fleeting_637」
4. Atobe Shinchiが選ぶダブ・テクノ、この1曲
→Luomo“Tessio”
5. Loidis / Brian Leedsが選ぶダブ・テクノこの1曲
→Bandulu“Vital Sense”
6〜58. ダブ・テクノ入門──歴史とその展開 選 : 河村祐介
59〜66. レコード・バイヤーから見た最新ダブ・テクノ選 選 : 西村公輝(Lighthouse Recordsバイヤー)
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Spotify プレイリスト
ダブ・テクノ入門 : ダブ・テクノの創設者、ベーシック・チャンネルとは?
文 : 河村祐介
ダブ・テクノのフォーマットは、ベルリンのモーリッツ・フォン・オズワルドとマーク・エルネスタスのふたりによるプロジェクト / レーベル〈Basic Channel〉(以下BC、レーベルの場合は〈BC〉と表記)の1993年のスタートからクローズまで、約2年間に彼らが出した9枚の12インチ・シングルのプロセスを通じて完成したと言っていいだろう。
その活動は徹底的な匿名性を当時から貫き。それこそ初期の〈BC〉のリリースなどは、レコードのレーベル面のアーティスト名や曲名ですら、ほぼ判読不能なものも多い。そして、いま現在においても本人たちが当時のことを語ったインタヴューは恐らく存在しない(RAに周辺人物たちによる証言集はある)。そのため、その実際のサウンドや周辺人脈からの推測を通して書くことしかできないがディスコグラフィを元にその歴史を追っていこう。
モーリッツは1980年代中盤より、ドイツのニューウェイヴ(いわゆるノイエ・ドイッチェヴェレ)のバンド、パレ・シャンブルグに後期から参加し、1990年代末になるとそのドラマー、ラルフ・ヘルトヴィヒとともにダンス・プロジェクト、マランソンやタイム・アンリミテッドといったプロジェクトで数枚シングルをリリース。当時のリミックスやリリースなどは、同じくパレ・シャンブルグの先輩格とも言えるトーマス・フェルマンを通じて、ジ・オーブ周辺人脈との関係性が垣間見える。その後はドイツの老舗テクノ・レーベル〈Tresor〉で、トーマスとタッグを組み(3MB名義)、エディー・フォークス、その後はホアン・アトキンスなどデトロイト・テクノのアーティストとコラボ、関係を深めていく。
かたやマーク・エルネスタスは1989年にベルリンにてレコード店〈Hard Wax〉を運営、ダンス・ミュージックの聖地となり、同時におそらく彼の趣向であろう、レゲエなども取り扱うレコードショップとなる。また買い付けでいち早く、デトロイトを訪れ、デトロイト・テクノとのコネクションを気付いたベルリナーでもある。
モーリッツが1990年代にやっていたバリアリック・ビートなユニットのシングル
ベルリンのテクノ・コミニティで出会ったであろう彼らは、1992年にマウリツィオ(Måuriziö)なる名義で「Ploy」を自主レーベルにてリリースする(このレーベルは後に後述の通称〈M〉シリーズに発展)。当時のベルリンのテクノの特徴でもあるが、そのサウンドはデトロイトのURの初期のハードなテクノ・サウンドに強い影響をうけた比較的に派手なサウンドで、実際にURのリミックスも収録している。とはいえ併録の「Eeley」なる曲はその後の徹底して無駄をそぎ落としたミニマルなBCのサウンドの萌芽を感じる作品でもある。
ダブ・テクノ誕生
ここからはプレイリスト6~19あたりの話
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このプレ~初期BC期となる1993年に関しては、URを脱退し、ハード・ミニマル・テクノへとひた走るジェフ・ミルズと音楽性を共鳴させていた。次に彼らがリリースし、リミックスも手がけた彼らの弟分とも言えるヴァンクールの〈M〉からの作品「Lyot」もそうした路線の作品と言えるだろう。レーベルとしての〈Basic Channel〉の立ち上げとなる、レーベル1番、1993年のサイラス(Cyrus)名義の「Enforcement」も徹底したハード・ミニマル・テクノだ(ミルズのリミックスも収録)。しかし、レーベルのBC-02番となる「Phylyps Trak」から、ハード・テクノながら徐々にその音楽性にダブのエコー感が追加されていく。リリースごとに徐々にサウンドを変化させ、ミニマル・ダブの完成形となったのはBC-06番としてリリースされた1994年「Quadrant Dub」だろう。メロディなどを廃したミニマルな構造、カセット・テープを通したようなヒズ・ノイズと淡く空気に輪郭が溶けていくエコー・サウンド、ディープ・ハウス調のミニマルなベースライン、その上を名曲『E2-E4』を思わせる電子音が15分に揺らめいていく。その音像はダブ・テクノのひとつのひな型と言って良いだろう。
もちろん前作となる「Q 1.1」も、それ以前のハード・ミニマル・テクノのBPM140を優に超える直線的なグルーヴから、いわゆるハウス的なBPM125程度のグルーヴへとビートダウンし、それによって音楽的にもベースラインが重要な要素となっていくことでも重要だし、同時期にカール・クレイグの〈Planet E〉からリリースされたクアドラント名義「Infinition」もやはり同様のリズムのアプローチが見られる抑制の効いた楽曲でダブ・テクノのプロト・タイプとも言えるだろう。また同時期の3MBとしてのデトロイト・テクノのオリジネイター、ホアン・アトキンス(Infiniti名義)とのコラボにもこうしたダブの英知は受け継がれている。














































































































































































































