“ソロ・プロジェクト”から“バンド”へ──JYOCHO、新作『綺麗な三角、朝日にんげん』で切り開く第2章

宇宙コンビニのリーダー、だいじろーにより、2016年から始動したソロ・プロジェクトJYOCHO。当初は流動的であったメンバーも、作品やライヴを重ねるごとに固定化されていき、今では「ソロ・プロジェクト」から「バンド」へとその形を変貌させている。そんな彼らが、2019年10月に2nd EP『綺麗な三角、朝日にんげん』をリリースした。1stアルバム『美しい終末サイクル』で「当初描いていたJYOCHOでやりたいことは出し切れた」と語るだいじろーが、「JYOCHOの第2章の幕開けを告げる作品」と銘打った今作。本作に収録された4曲を振り返りながら、だいじろーがバンドという形態に込めた思いを語ってもらった。
JYOCHO、第2章の幕開け!
INTERVIEW : だいじろー(JYOCHO)
EP『綺麗な三角、朝日にんげん』は、JYOCHO第2章の幕開けとなる作品である。だいじろーによるプロジェクトとしてはじまったJYOCHO。活動当初はだいじろーだけだったアーティスト写真も、いまでは他の4人のメンバーとともにバンドとしてひとつの完成形を見せた写真となっている。プログレッシヴ〜ポップスなど様々なジャンルを通過した音楽性に、テクニカルなトラック、温かみ、激情をふんだんに盛り込んだ情緒溢れる彼らの第2章。本作に収録された4曲についてを中心に、バンドであることを選んだだいじろーの胸の内に迫った。
インタヴュー&文 : 西澤裕郎
写真 : 大橋祐希
JYOCHOの第2章の幕開けを告げる作品
──2018年12月の1stフル・アルバム『美しい終末サイクル』、2019年5月のだいじろーさんのソロ・アルバム『in my opinion』を経て、JYOCHOの2nd EP『綺麗な三角、朝日にんげん』がリリースされます。コンスタントに作品制作をされてきていますが、本作はどれくらいの期間で制作されたんでしょう。
このEP自体は結構ぎゅっと短期間で作りましたね。今回はデモ出しの期限を決めて6日間ぐらいで1回デモ出しをして、そこからレコーディングに向けて微調整していったんです。
──ソロ作品を作られたことの影響みたいなものはありましたか?
影響があるとすれば、ソロ・アルバムは自分の中で“ポップ心”を全力で出し切ったので、その反動が来ている可能性はありますね。“プログレッシヴ心”を取り戻した感はあるというか。
ソロ・アルバム『in my opinion』に関してのインタヴュー
https://ototoy.jp/feature/2019052902
──本作は、JYOCHOの第2章の幕開けを告げる作品と銘打たれています。『美しい終末サイクル』までで表現したい世界観を体現したと公表していますが、今作で次へ踏み出す一歩の作品という意識はあったんでしょうか。
『美しい終末サイクル』を出して、当初描いていたJYOCHOでやりたいことは出し切れたんじゃないかなと思っていて。それはアイデアが尽きたとかではなくて、当初描いていた「ここまでJYOCHOとして表現したい」というベースが1章としてできた感じがしますね。
──JYOCHOをはじめたときのアー写は、だいじろーさん1人だったじゃないですか。こうやってメンバーが増えていくことは、想定の中にあったんですか?
もともとバンド形態ではやりたいと思っていたんです。ヴォーカル、ベース、ギター、ドラムというイメージはある程度できていて、ギター以外にも主旋律の作れる楽器、二胡か尺八なんかが欲しいと思っていた。それでTwitterで募集をしたときに、フルートのはちさんがTwitterで連絡をくれて。もともと知り合いだったんですけど、フルートをやっていることはぜんぜん知らなくて。音がすごくよかったので、1stミニ・アルバムから一緒にやらせてもらって、その次の2ndミニ・アルバムからはメンバーは動いていないですね。猫田(ねたこ)さんは鍵盤ができたので、これも絶対やってもらった方がいいと思ってという感じで弾いてもらっています。

──JYOCHOの作品しか聴いたことのない人からすると、メンバー間の温度感ってぜんぜんわからないと思うんですよ。話を聞くと結構仲がよくて、賑やかなんですよね? 実際メンバー間の雰囲気ってどんな感じなんでしょう。
僕たちは、話し合ったりするときは結構話し合うんですよ。音楽に関係ないことも、最近のニュースどう思う? とか。僕が1番年下というのもあると思うんですけど、基本的にアイデアは頼ってくれていて。バンドでアンサンブルをしていると悩みごとが結構出てくるので、そこは本当に相談させてもらって、すり合わせていっています。良くも悪くも、基本的に衝突にしない。僕が出した基盤を、ひたすらメンバーで鋭くしていってもらうというイメージですね。
──最初のインタヴューで、JYOCHOらしさの核になる部分は企業秘密と言われていたんですけど、その部分が純化されたということなんですかね。
純化はされていっていると思いますね。ただ、そこは意図的に極めていくというわけではなくて、「あまり変わらなかったらいいよね」くらいのスタンスでやっていて。JYOCHOのコンセプトでもあるので、そこはめちゃくちゃ極まっているというわけではなくて、変わらずできているかなというイメージですね。
今回はいままでの自分がやってきたことを150%ぐらい出して
──そしてスタートするJYOCHOの第2章としての作品『綺麗な三角、朝日にんげん』。言語感覚というのも独特ですよね。絵本だったり詩集のタイトルのような。
たしかに。
──1曲目の「綺麗な三角、朝日にんげん」は、歌詞が8行しかない言葉の少ない曲ですが、サウンド面でいうとすごく情報量の多い曲ですよね。JYOCHOとしても変わった曲だと思ったんですけど、どういう意図で作られたんですか?
1stフル・アルバムを出したとき、自分の中でたくさんの人に聴いてもらいたいと思ったんですよね。みんなだったらどういう風に聴くかなとか、そういうのを考えるのも好きなので、客観性も大事にして作ったんです。でも今回は、それをぶち壊した感がありますね。とりあえず1回めちゃくちゃやってみようかと思ってリミッターの外し方を変えました。毎回、やったことのない領域に踏み入れてやっていくようにしているんですけど、今回はいままでの自分がやってきたことを150%ぐらい出してみようかなと。そりゃあ、情報量は多くなりますよね(笑)。そこが僕の特性だし、JYOCHOは基本的にやりたいことを詰め込んじゃうようにしているんです。やりたいことに不必要なことはないと思っているので、足し算で好きがいっぱいというテーマでやっています。
──ひとつひとつの楽器が過剰なくらい手数が多いというのは、まさにそれぞれのパートで150%が発揮されているということなんでしょうか。
それぞれのパートで修行感を出せたと思っていたんです。(この取材の)2日前に全員でスタジオに入ったらえげつないくらいボロボロだったんですよ。これだけボロボロな状態は体験したこともなくて。でも、全員テンションが上がっていて、逆にやったろうやみたいな。最終的にライヴまでには、ぜんぜんいけるやろうみたいな感じに燃えています。そういう意味で、この曲は逆に作ってよかったなと思っています。
──これ、ライヴで再現できるのかなと思いながら聴いていました。
できます(笑)。やります!
──だいじろーさんのギター・プレイでいくと、150%というのは、どういう部分で強化しているんですか?
シンプルにフィジカリーになっています。指がつるくらい、いままでで1番音数が多いし、速いしですね。ただ、どちらかと言うとリミットを外したというのは作曲面の方が大きいかも。メンバーそれぞれに、「ここ無理やろうな」ぐらいのレベルでフレーズを課してみている。これまで作品を短期間で出してきて、メンバーのできるできないであったりとか、癖とかがそれぞれ見えてきたので。それは意識しながら、フレージングしたりとかは極力作っていますね。
──言ってみれば、これから先のJYOCHOをよりパワー・アップさせるための一手という意味合いもあるわけですよね。
毎回それは意識しているんですけど、今回フィジカル面で格段にパワー・アップする目的もありましたし。シンプルにこういう曲も作ってみたかったんです。
──たとえば、ZAZEN BOYSみたいにセッションで楽曲を作っていくようなバンドもいると思うんですけど、JYOCHOの場合はだいじろーさんがほぼほぼパートまで全部作曲されているというのがおもしろいところですよね。
僕もZAZEN BOYS、めっちゃ好きなんですけど、あの人たちは僕たちと手法がおそらくぜんぜん違くて。楽曲を聴いたら分かるんですけど、縦をすごく大事にしている。それはメンバー間のアンサンブルで作った方が早いと思うんです。逆に僕の場合はセッションでは作れなくて。というのも、全部のパートが合っていないときがあるんですよ。
たとえば、「綺麗な三角、朝日にんげん」で言うと、スネアだけギターと合っているとか、キックとベースが合っているとか、他パートはずっとポリリズムしているとか。分解していくと、ちぐはぐなんですよね。全体で辻褄を合わせるというやり方をしているので、スタジオで作るのは難しいと思うんです。今回は特にかなり数学感があるので。曲によっては、全員で作っても成立する曲はもちろんあるんですけど、1曲目に関しては、スタジオではおそらくできないし、全く別の曲になると思います。

──2曲目の「いつか一人で」は、これまでのJYOCHOを継いだような曲というか。どういうことを想定して作っているんですか?
2曲目はいままで作っていたJYOCHOとしての顔というか、そういうものをいまの自分たちでアウトプットしたようなところはあります。今作は、4曲とも全部イメージというか色は違うものになっていると思って。おっしゃる通り、普段通りにいくと2曲目みたいな楽曲は自然な流れかなと思っています。客観的には、1曲目が不自然かなと思いますね。
──6日間の中で、作った順番みたいなものってあるんですか? それとも並行して作ったんでしょうか。
僕は1曲ずつ仕上げていかないとダメで、曲が完成するまで寝れないんですよね。一回寝かせて、また作るという作業が嫌で。過去、3、4日くらい寝ずに作ったこともあって。1回ベッドで横になってみても、やっぱり作ろうってなるんですよ。結局作るまで寝れないし、納得いくレベルで完成形が見えたら僕の一旦のゴールなんです。後の微調整は、そこまで作曲のインスピレーションは関係なくなってくるので。作曲のインスピレーションが落ち着くまでは、結構ガッと作っちゃう。制作の順番で言うと、「いつか一人で」が1番目で、2番目が「綺麗な三角、朝日にんげん」。3曲目が「遠回りのアイディア」、4曲目が「Atlas」ですね。
──3曲目「遠回りのアイディア」はどれくらい時間をかけたんですか?
この曲は本当に一瞬でしたね。最初はもっとプログレッシヴというかテクニカルで。ベースのsindeeさんから「これキックの位置、ちょっとやばいわ。もうちょっとシンプルにしたい」って言われたので、「なるほど」と思って。他の曲でそれをやっているから、「遠回りのアイディア」自体はもっとシンプルな白玉多めじゃないですけど、そういう楽曲にしてもいいかなと思って。リアレンジしてsindeeさんに投げて、そのままレコーディングまで任せてという感じで作りましたね。
──「キックの位置やばいわ」というのは、テクニカル過ぎるということですか?
「細かい」とか「テクニカル」ってことですね。僕はキックとベースをバチバチに合わせることを意識したフレーズが多くて。今回それがやりすぎやわという感じまでいってしまったので。僕はその楽曲に対して、どちらかと言うと、聴きやすい、心地が良いという感じに作りたかったので、「そうしましょうか」という流れになりました。
やっぱりJYOCHOはバンドなんですよ
──ぶっちゃけ、いまって作ろうと思えば打ち込みでかなり精密なバンド・サウンドが作れるじゃないですか。つまり、人間のフィジカルでできないようなフレーズも再現できると思うんですけど、そこに興味はないですか?
興味はありますね。プログラミングだけで完結させるソロ作品も出したいとは思っていて。だけど、バンドでやるというのは、そことは科学的に違うと思っていて。事実上やっぱりバンドでやる違いは存在しているんですよね。プログラミングでやるメリットとデメリット、バンドでやるメリットとデメリットがそれぞれ存在していて。そこの棲み分けができていて制作できるのであれば、やってみたいと思いますね。ただ、やっぱりJYOCHOはバンドなんですよ。

──数値化できないかもしれないけど、バンドでやることによって生まれる何かをすごく信じて、大切にしてらっしゃると。
確信はしています。おそらくプログラミングでも、人肌のあるグルーヴというのは作れるかもしれないんです。本当に音符を突き詰めて32分とか64分とか細かく割っていくと、グルーヴの正体がわかるというか。これはいろいろ議論されていますけど、正直、僕は音楽も科学やと思っていて。その後にエモーショナルさとか、視覚的な情報であったりがあると思うんです。揺れとかって音符のズレだから、そういう事実や真実を突き詰めていくと、プログラミングでも再現できるかもしれない。でも、それってバンドでやった方が早いし、そもそも人の特性やから、それをプログラミングに置き換えること自体がピュアなアウトプットではない。だったら、バンドでやった方が早いし、楽しい。
さっき言ったようにグルーヴの正体って視覚的な情報に頼っていることも多いと確信しているので、それぞれ好きな人とやるのが1番早いですよね。グルーヴを感じる情報って主観に頼りすぎているから、初心者の人が観たらグルーヴがあると感じるものでも、プロから観たらグルーヴがないって感じる可能性もあって。だから、あまりグルーヴというのは、正直意識していなくて。好きなものをやるというか、それだけですね。
──だいじろーさんがJYOCHOをやっている理由が垣間見えてうれしいです。
そうですね。バンドやっている理由のひとつですね。これは。
──4曲目の「Atlas」は1番最後に作られた曲ということですが、どういうことを意識して制作された曲なんでしょう。
この楽曲は引き算をしたくて。ちょっと大人になりたかったんです。いままで言ってこなかったんですけど、引き算ってすごく美学とされているけど、成功していないと意味がないんですよね。世間的には音数を減らすということが引き算と言われているんですけど、音数を減らしてもよくなかったら意味がないし、それやった減らさん方がいいやと思って。逆に増し増しで好きなことをやった方がかっこいいやんという考えなので。今回、引き算見せたろかいという想いで作っています。
──世の中には引き算と言いつつ、ただ音を減らしているだけの楽曲もあって、それは果たして引き算なのかみたいなことを感じることもあると。
もちろん、めちゃめちゃすばらしい引き算もあると思うんです。くるりさんとかすばらしいなと思っていて。「Atlas」は、ハイハットの足し引きであったり、キックの位置であったりとか、意義のある減らし方をしている楽曲なんじゃないかなと思います。もちろん、これはJYOCHOの中の引き算という話であって、世間的に言うと音数は多いと思うんです。ただ、キックの位置であったりとか、ベースの位置であったりとか、とても意味のあるものをしている。そういう楽曲になったかなと思っていますね。

──これを皮切りにJYOCHOの第2章がはじまるわけですが、現時点で表現していきたいものは構想されているんでしょうか。
イメージは薄くはありますね。もう少しJYOCHOの企業秘密を出していくという部分と、そろそろ抽象的じゃなくてもいいのかなというのもありますね。それと、海外にツアー行ってみて、すごく手応えがあったんです。僕は日本で生まれたし日本が好きなので、引き続きしっかり日本で活動をしていきたいんですけど、海外を意識した楽曲作りもしていきたいですよね。日本の方が好きな楽曲だけではなくて、世界でも聴いてもらえるような楽曲を作りつつ、やりたいことをやっていこうかなと思っています。
編集 : 鈴木雄希、武政りお
『綺麗な三角、朝日にんげん』のご購入はこちらから
過去作もチェック!
新→古
過去の特集ページ
JYOCHO
Daijiro Nakagawa
LIVE SCHEDULE
JYOCHO Tour 2019 "綺麗な三角、朝日にんげん"
2019年12月07日(土)@愛知 名古屋・新栄APOLLO BASE
時間 : OPEN 17:30 / START 18:00
出演 : JYOCHO 、+1Band
2019年12月08日(日)@大阪 梅田Shangri-La
時間 : OPEN 17:30 / START 18:00
出演 : JYOCHO 、+1Band
2019年12月21日(土)@東京 渋谷WWW X
時間 : OPEN 17:00 / START 18:00
出演 : JYOCHO 、+1Band
【詳しいライヴ情報はこちら】
http://jyocho.com/schedule/
PROFILE
JYOCHO(じょうちょ)

左から、だいじろー(Gt / Cho)、はち(Fl)、猫田ねたこ(Vo / Key)、sindee (Ba.)、hatch(Dr)
2016年、京都にて始動。
超絶テクニックを誇るギタリスト・だいじろー(ex.宇宙コンビニ)が始動したプロジェクト“JYOCHO”(じょうちょ)。
プログレッシヴ〜マスロック〜ポップスなど様々なジャンルを通過した音楽性に、テクニカルなトラック、温かみ、激情をふんだんに盛り込んだ、まさに情緒感たっぷりな、JYOCHOにしかできない独自の世界観を構築する。
【公式HP】
http://jyocho.com/
【公式ツイッター】
https://twitter.com/JYOCHO_jp