THIRTY THREE RECORD presents “factorization”
#1 坂口喜咲(ex.HAPPY BIRTHDAY)
浦安にある改造スタジオ・Icecream Studio。
週末で閑散とした工場街にあるスタジオで、
毎週末、レコーディングや創作活動に励むアーティスト集団、
それが「THIRTY THREE RECORD」だ。
そんな彼らのスタジオに、1人のアーティストを招いて、
一夜限りのセッションを行なっていくシリーズがスタートした。
テーマは、factorization。
因数分解。
アーティストを構成している要素(=素数)を、
朝日が出るまでかけて理解、提示していく。
レコーディング
フォトセッション
ムーヴィー制作
インタヴュー
すべて、この一夜での出来事だ。
言ってみれば、偶然とそれぞれの才能が産み出したプライベート作品。
その要素を、1ヶ月かけて、このページで更新していく。
ここを訪れたはじめてのアーティストは…
坂口喜咲
8月8日より順次、作品を公開していく。
坂口喜咲『お花になりたい』
坂口喜咲 / お花になりたい(24bit/48kHz)
【配信形態】WAV / ALAC / FLAC / AAC
【配信価格】 まとめ価格 1,080円(税込)
【TRACK LIST】
1. 羊水
2. ダンゴムシの行進
3. かえってきて
4. ふわっふわっ
5. 屋根にのれ
6. 壊れたサマー
7. お花になりたい
8. 虫
坂口喜咲 セルフライナーノート
この世に誕生したばかり、うまれたてすっぽんぽんの
ダンゴムシになった気持ちで歌いました!
おもしろい場所で、おもしろがって音を鳴らすこと、
あの空間で揺れてた空気はピカピカフワフワで、
この感覚はずっと大切にしよう、と思いました。
THIRTY THREE RECORD ライナーノート
坂口喜咲さんは、ちっちゃな竜巻みたいで、何色なのか全然わかんない。
間にあった光る空気のボールみたいなものから、この夜に摘んだいくつかの「お花」。
これの押し花、栞としての何曲、何編か。
前後、心の裏を通ってきても嬉しく楽しく快い程の十分な余韻をもって。
ああ、でも感情って何色もあって、そもそもそういうもんでしたね!
その中や間を通って歩いてくるわけで。意思とか意識とかが。
喜咲さんがそのように挨拶をくれた時に、
ああそうか、この人はなんて正しい人なんだろう。
と、思いました。(text by Yawn)
Interaction Picture pt.1 : 坂口喜咲 × 吉田光希
吉田光希
映画監督。代表作に、「家族X」、「トーキョービッチ,アイラブユー」、「ふかくこの性を愛すべし」など。
坂口喜咲「壊れたサマー」
INTERVIEW : 坂口喜咲
本当にレコーディングが好きすぎるんです
ーーすっかり日も昇って、いまは朝7時過ぎです。Ice Cream Studioで一夜を明かした感想を聞かせてもらえますか。
坂口喜咲(以下、喜咲) : 来た瞬間から「なんて楽しい場所なんだ!」と思って「楽しもっ!」と思いました。もともと変な場所がすごく好きだから、入った瞬間に「ここはおもしろい!!」と思って、とにかく何も考えないで楽しくやろうと思いました。
ーーレコーディング・スタジオ以外の場所で録音はしたことってありますか?
喜咲 :『朝が壊れてもあいしてる』は街のスタジオで一発録りだったので、全部の音が同時に録れる環境だったんですよ。でも、こんなに音が響く環境は初めてですね。
ーー今日は、楽曲も歌詞もその場でリアルタイムに作っていきましたけど、やってみていかがでしたか。
喜咲 : 私はギターの手数が少ないというか、引き出しが少ないので、だいたい似ている曲だったり、自分の好きな曲に偏りがちなんですけど、新しいものがいっぱい見られて嬉しかったです。
ーー以前やっていた、えびのお寿司おねえさんは、わりと即興に近い感じだったのかと思うんですけど、それともまた違う感じでした?
喜咲 : えびのお寿司おねえさんのときは、適当にギターでリフだけ作って、エレキをバーッて爆音で鳴らして、おー!! って言ってるだけみたいな感じだったんです(笑)。そのときはギターが弾けなかったので、ライヴでやりながら言葉が増えていって、気がついたら曲になっていたみたいな感じが多かったですね。
ーー今日、最初に歌った「羊水」では緊張しましたか? 初めて会った10人くらいのなかで、いきなり歌うわけですから。
喜咲 : まったくしなかったです! レコーディングがとにかく大好きなので。はじめからリラックスできる感じで楽に心を開けました(笑)。
ーーたしかにマイクの前に立つとスイッチが切り替わった感じがしました。
喜咲 : 本当にレコーディングが好きすぎるんです。ブースの様子を見るだけでテンションがすごく上がるんで。ここに入ったら一番真っ直ぐになれる気がします。
ーーレコーディングが好きっていうのは、録音物が好きってことですか?
喜咲 : 作るっていう作業が好きで、絵を描く時も、曲を作るときも、少しずつできていく感じが楽しいんです。作るスピードもけっこう速いんですよ。考えてもしょうがないって思ってることもあるし。だから、1発目に録ったテイクを使うことが多いです。「朝が壊れてもあいしてる」も一発録りでクリックを聞かない状態で録っているし、そこらへんはいつも通りに近い感じでした。だいたい1回やって、これ以上できないってなるタイプなんです。ふふふ。
ーー2曲目の「ダンゴムシの行進」では、喜咲さんがリズムマシンを使ってビートを作るところからはじめましたね。
喜咲 : 鍵盤で打ち込みの音を弾いたりとか、アルバムではlogicで打ち込みをしてたんですけど、今日触ったこれ(リズム・マシン)は、感動的にいいなって思いました。あと琴みたいな音出るやつ。
ーー詩吟スイコーですね。もともとは詩吟の練習用の機器らしいんですけど、THIRTY THREE RECORDのメンバーがリサイクルショップで見つけてきて、スタジオに置いてあったという一品で。
喜咲 : あれはよかったですね。いろんな音が出るので、かなり遊びたいなと思いました。好きな音っていうのが確実にあって、それが鳴った時にこれこれこれ!!! ってなるんです。たまたま鳴ったりしたら、すごく嬉しいですね。
ーー喜咲さんの、最初から迷いがないっていう姿勢は、どこ行っても変わらないんですか?
喜咲 : いや、ほんと周りの方々の空気のおかげです。ここは自由にやっていいところだと思って。昔から高円寺の無善寺だったり、変わったとこでやることが多かったので、変わった場所は落ち着くんです。外で音を録ってみたり、子どもの声を録りたい願望があって。これまで実現できなかったことが多かったので、今日外で音を録れたのとかめちゃめちゃ嬉しくて。椅子から動いた時の「ゴッ」って音も録れるのはすごいですよね。
ーー実をいうと、朝方になると疲弊していくんじゃないかって心配していたんですけど、喜咲さんは逆にどんどん元気になっていきましたね(笑)。歌うのもそうだし、スタジオ内の機材にすごく興味を持って触ったりしていましたね。
喜咲 : HAPPY BIRTHDAYをやっていた時も、これを叩いたらどうなるんだろう? と思って、いろんなものを叩いたり、家で録音してきたものを引っ張り出して使ったりとかもしていたんです。たぶん、誰も気づかないところでポットを叩いてる音が入ってたりとかもしてました(笑)。そういうのが好きなんですよ。音を探したりするのが。
昔から、ずっとライヴは泣いてやってたんです
ーー1、2曲目はわりと遊びが多いというか、リズムマシンを使ったり、機材をいじってましたが、3曲目からは真剣モードにって感じで、Yawnさんのギターに合わせて歌ったじゃないですか。あれもすぐ歌詞は書けたんですか。
喜咲 : 「ダンゴムシの行進」もそうなんですけど、「あ、ダンゴムシっぽい!! ダンゴムシくるぞ!!」って感覚ばっかりなんで、それを元に書いています。3曲目の「かえってきて」は帰ってきてって感じだと思ったので、そのままつけました。普段は考えすぎてしまうことが多くて、私の感覚だけで作るとポップにならないかなと思って、そういう要素を減らしたりする行為が多かったんですよ。それを素直に出せるっていうのはすごい楽しかったです。
ーー同じフレーズのループから展開していっても、即興でメロディをつけて歌っていましたよね。
喜咲 : 計画性がないんですよ。本当に行き当たりばったり。とりあえず、やってみてっていうのが好きなので、あんまり考えずに感覚でやっています。むしろ、ここでこうしてって言われても分からないんですよね。構成がこうでって言われても、えーわからないからやりましょうーって言っちゃう。
ーーサウンド・プロデュースをしてくれたYawnさんのことはどう思いました?
喜咲 : 会った瞬間から「なんて優しいフレンドリーな方なんだ」って思いました。ほんとに壁のない方だなって。
ーーYawnさんのギターで歌を作るセッションはどうでした?
喜咲 : すごく勉強になるなと思いました。私はカヴァーとかあんまりしたことないから、どうやって歌っているのか分からないところもあって。好きだけど分からない感じの曲を初めて歌って、「はー!! こうやんのか!」ってなって、家で練習しようと思いました。
ーーどこが自分と違うと思いました?
喜咲 : 私の言葉の載せ方って、癖で全部一緒になっちゃうんですよ。それが違うのが新鮮だったので、これは真似したいです。もしかしたら、そっくりな曲作ってたりして(笑)。
ーー(笑)。「屋根にのれ」はYawnさん節炸裂というか、THIRTY THREE RECORDを象徴するような曲だと思うんですよ。すごくメロウでロマンティックな感じで、ドリーミーな曲です。
喜咲 : 私はメロディをかっちり決めすぎるんですよ。それは自分のよくないところでもあるなと思っていて。メロディがちょっと乱れていてもいいじゃないですか? それなのに、かっちり決まっていないと歌えないんです。その感じがつまらないなと思っていたので、そこが壊れてニュアンスで歌えるのがいいなって思いました。
ーー実際、リズムの録り方とか挑戦しようとしている感じで、全部楽しそうでした。新しいことやれて意欲的な感じに満ちているというか。
喜咲 : そうです! 自分にない録り方でした。音楽の糧になるものだったら全部、楽しいです。
ーーあと、室内と室外で映像も撮りましたよね。どちらもワンカットで一発撮りでした。
喜咲 : 監督が自分をそのままみたいに出してって言ってくださったので、とにかく解放しようと思って。神経質なところもそうだし、適当なところもそうだし、汚いところも、全部出ればいいなと思って何も考えないでやったんです。変な人って言われるから辞めようとか、ダサいから辞めようって思ってることが多いんで、あまり気にせずに、道の葉っぱが綺麗だったから、楽しいなと思ってやりました。
ーー外での撮影では途中涙が見えましたが、吉田監督からは、どういうことを言われたんですか?
喜咲 : そのまんまでいいですみたいに言ってくれましたよね?
吉田 : でも、感情が爆発してましたね。
喜咲 : 昔から、ずっとライヴは泣いてやってたんです。音楽を始めた頃から泣いて歌っていて、『朝が壊れてもあいしてる』も全部泣きながら作ったし。それが一番素だなって思ったんで、別に我慢しなかった感じです。
ーー泣くっていうのはどういう感情なんですか? 悲しいとか嬉しいとかじゃない?
喜咲 : 不思議なんですよー。わーって大きい声を出すと涙が出るんですよ。楽しくなっちゃうんですよね。普段思ってること言えないから、歌詞で言えちゃうんでしょうね、全部。あ、言ってしまった! みたいな感じで(笑)。
ーー歌詞とかメロディとかもその場でつけましたからね。
喜咲 : はい! だからめっちゃグダグダだと思います。語彙が貧困なので、同じようなことにはなるけど、言葉が達者じゃない感じもそのまんまでいいかなと思って。
ーー今日録った曲のラフのラフを作っている間、スタジオの前でシルクスクリーンの手作りTシャツを作ったり、スケボーの練習もしたりしていて、あっという間でしたね。
喜咲 : 全部自分たちでできるのっていいですよね。好きです。ふふふ。
ちょっと大げさな話だけど、こことかって、本当に世の中の片隅でしょ?
ーー今回「factorization」という企画をはじめるにあたって、THIRTY THREE RECORDのメンバーと接点がなかった喜咲さんが混じることでどんな化学反応が起こるか楽しみだったので、すごくよかったです。
喜咲 : 私は普段、自分の作った曲でしか、自分を解放する場所がないので、他の切り口からそれができて嬉しかったです。全然違うスイッチの入り方がして、懐かしい感じにもなりました。
ーーいろいろと特殊な場所ですしね。リフトでカメラを上げて、アー写撮影するとかなかなか個人レベルではないですから。
喜咲 : こんな高い位置にドラム・セットがあるのか!? っていう驚きがあって、来た瞬間からわー! ってなりました。高いところ登るのが好きなんですよ。わくわくするじゃないですか? 二段ベッドとかで、わー!! のれんだ!! みたいな。なんかそんなわくわくがありますね。
ーーそんなレコーディングを、ここでは毎週やってますからね。
喜咲 : いい遊び場ですよね、本当に。作ろうと思っても作れないですもんね。私も工場に住みたいですもん。高いところ乗り放題ですから(笑)。
ーーあははは。
喜咲 : この場所では、どのくらいやってるんですか?
Yawn : ここ自体は、10年前くらいから自分たちのバンドだけで使ってたんですよ。遊びたいねってなって開放したのは、ここ2年くらいですね。
ーー遊び場みたいな印象は受けました?
喜咲 : そうですね! 楽しくて好きで集まってる場所っていう感じが、すごくほっとしました。落ち着く場所だなって。
ーー実際、今録ったラフのラフが流れていますけど、今日作った作品を聴いてみて、どうですか?
喜咲 : あ、好きです! 今までだと出せなかった引き出しのところとか、そういうところが、わっと出たかなって感じがします。ふとした時に考えてない、そのままが出たかなって。
ーーこの後、Yawnさんがmixして完成に向かっていきます。
Yawn : でも、あんまりいじるところないですよね? いじると弱くなっちゃいそうだから。
ーーこの時間の中で録ったものを、なるべくそのまま活かす感じですもんね。Yawnさんからみて、今日のレコーディングはどうでした?
Yawn : 楽しかったですね。すごいなーと思いました。ここにいる人、みんなミュージシャンだし、触発されるところもあったと思います。1曲目がたぶんそうだと思うんですけど、互いの共鳴部分を探して、そこに反響を返すっていうのが上手くいってよかったなって。それは感動を伴うことだと思うんですよ。そこに居合わせることができて、本当にいい日だった。
ーー途中で、Yawnさん、喜咲さんのこと好きになっちゃったのかと思いました(笑)。
Yawn: でも変な話、好きになってないです、っていうのはおかしくないですか(笑)?
喜咲 : たしかに、気まずいですよね、それはそれで(笑)。
Yawn: 心を開いたらやっぱり好きになると思うんです。特別な思い出になったほうがいいと思いますし。心を開くっていうのはいいですね、そこに勇気も必要だし(笑)。大げさに言うと、こうやって生きていけたらいいよねって思いました(笑)。
ーーほんとにすごいなって思いましたよ。僕はみんながいる中じゃ、周りの目気にして恥ずかしいなって思っちゃったりするんですけど、堂々としていて。
喜咲 : だってもう歌うことしかないですから(笑)。
Yawn : ちょっと大げさな話だけど、こことかって、本当に世の中の片隅でしょ? 内輪でも外輪でもなんでもいいって開き直ってると思っているんですよ。世の中それで出来ていると思うし。ブルースもジャズも。映画で言うとぐーっとズーム・アウトしてく訳ですよ。この工場の屋根から。歌が好きって言ってる人の光が見えて。だからすごく素敵だなって思いました。外で歌ってる時も横とか車が通るわけじゃないですか。そんなの関係なしに「私、歌が好き!!!!」って言ってる光景が本当に素敵でした。
ーーそれぞれのいい部分、持ち味をぶつけあった作品になりそうですね。
Yawn : たぶん、僕らもそうだけど、喜咲さんも戦ってる人でしょ。もっと華やかなところでなにかつくってみるのもいいですよねと思った。
ーー初めて来てみて、THIRTY THREE RECORDはどういう場所だと思いましたか。
喜咲 : 純粋に楽しそうだなって思いました。真剣に遊んでる感じがすごくいいなって。やる時はやる!! 遊ぶ時は遊ぶ!! 楽しむ時は楽しむ!! っていう感じが伝わって来て本当に楽しかったです。
インタヴュー&文 : 西澤裕郎
Photo Session
PROFILE
坂口喜咲
きいちゃん。
東京都出身のシンガー・ソングライター。
2人組ガールズ・バンド「HAPPY BIRTHDAY」の歌とギターとして、2011年メジャー・デビュー。2015年4月解散。2015年6月、自主レーベル「キイチャングループ」よりファースト・アルバム『朝が壊れてもあいしてる』発売。
趣味は絵を描くこと、ビーズあそび、サウナ。
好きな食べ物はグリーンカレー、タイ料理、刺激物。
好きな動物は犬、魚、ワニ。
THIRTY THREE RECORD
「不確定的、コミュニティレーベル的」